8 黒崎side シアンの正体
黒崎視点。
「それで?何の用ですか、オジサマ?」
俺は、口をもごもごいわせながらパンを頬張る長瀬の代わりに、そう呟きながら立ち上がる。
俺等は、このオジサマに宿屋の外まで連行された。内心かなり苛立っているが、それを表に出さないよう笑顔を努める。
何か用があるにしろ、食べてる最中に襟首を掴むのはどうかと思った。息が一瞬止まったぞ。
「その前に、おまえ達の名前を聞いておこう。名は何だ?」
「……クロサキソラ。で、こいつの名前は、ナガセタクト。」
しょうがなく名乗り、長瀬のことも代わりに紹介しておく。
「ふむ。では、ナガセとクロサキ、一つ聞きたいのだが……、あの魔獣、アルクトスを、どうやって倒した?アレは、とても恐ろしい魔獣。世界共通危険魔獣リストのSランクものだぞ?」
「……ふぇ、ほんはにふごいはほほだっふぁんだ。(へえ、そんなにすごい魔獣だったんだ。)」
目を見張りながら尋ねるオッサンに、長瀬が口に飯が入ったままもごもごと答える。だから、ケヴィンがあんなに怖がっていたのか、と俺は頷く。
「どうやって、って……。こいつがなんか宙を飛ぶ女の子を使って、そのアルクトスをあっという間にぶっ倒したんだよ」
俺は、「こいつ」と言いながら長瀬を指差し、説明する。
「ということは、おまえは……、精霊使いか?」
「精霊……使い?」
やっと食べ物を飲み込んだらしい長瀬は、オッサンの言葉に首を傾げた。
「精霊使いとは、その名の通り、精霊を使役できる者のことをまとめて言う。使役できる精霊のレベルは、人によって様々なのだが……、おまえの使役した精霊は、何と名乗っていた?」
「えっと……、シアンだよ。金髪に青い目の、ちょ〜う可愛い精霊さん!あの目といい、あの綺麗な肌といい、あの綺麗な足といい!」
オッサンの説明に、長瀬の目は夢見る少年の様にキラキラと輝き出す。……言っている事は変態同然なんだけどな。
「__シ、シアン!?な……、なんという……」
オジサマの顔色が突然蒼白になり、そしてふらりと近くにあった木に寄りかかった。
「そんなにすごい精霊だったのか?」
夢見心地にブツブツと呟く長瀬の代わりに、先程から感極まって涙をだらだらと流しているオジサマに尋ねてみる。
「すごい、ってものじゃないぞ!!シアン様は、このリュミエール王国の大精霊だ!!」
「リュミエール王国って……、確か、この国の?」
興奮気味なオッサンの言葉に、セスタルが教えてくれたことを思い出す。
「そうだ。強大な力を持つ大精霊は、この世界に五人いる。それぞれの国ごとに存在するんだ。そしてそれぞれの国の民は、それぞれの国の大精霊を崇めている」
「え、シアンって、そんなにすごい精霊さんだったの!?」
興奮した面持ちで、長瀬はオジサマに詰め寄る。若干、オジサマも興奮している。
「ああ、そうだぞッ!……って、おまえ達、そんなことも知らないのか?」
「ああ、そりゃ、俺達は異世界てん_」
興奮していたオジサマは、突然我に返ったように疑わし気な顔をする。そんなオジサマに、長瀬が「異世界転移してきたから」と説明しようとする。
セスタルが、俺達が別世界から来たことを無闇に話してはいけない、と言っていたのを思い出した俺は、長瀬の脇腹に真顔で肘鉄を食らわした。ひぎぃ!?と言い、長瀬は地面にうずくまる。
「ええまあ、俺達は井の中の蛙でして……。」
脇腹をさすりながら立ち上がる長瀬を横目に、ハハハと笑ってごまかす。
あああ、オジサマの眉間のシワがどんどん増えていく……。絶対疑ってるよね、疑ってるの確定だよね、これ。胃が痛い……。
「イノナカノカワズ?……ふうむ、奇妙な者達だ……。興味が湧いてきた、おまえ達、俺のギルドに入らないか?」
「ギルド?」
なんとか誤魔化せたらしいことにホッとしながら、聞き返す。
「そうだ。俺はギルマスだからな」
「ギルマスぅーー!?」
あっさりと爆弾発言をするオジサマことギルマス。長瀬の叫び声を聞きながら、俺は厄介事に巻き込まれたなと、溜息をついた。
次回は長瀬side。