4 長瀬side 美少女はどこいった
前回長めだったので、今回短め。
長瀬視点。
目覚めると。
「ここ……、どこだ?」
視界に入って来たのは、見慣れない天井。俺はお決まりのセリフを呟くと、寝かされていたベッドからガバッと起き上がった。
「ちょっと待て、ちょっと待てよ……、これ、どういう状況?」
腕を組み、必死に記憶をまさぐる。
確か、ハンバーガーショップに行って…、その時、黒崎が自作小説を読み上げた途端、渦に吸い込まれて……。
「もしかして、もしかすると、異世界転移しちゃったパターンですか !?」
そのことに気づき、一気に気分が高揚して叫ぶ。
「異世界といえば……ッ!!そう、可愛い美少女の存在ッ!!俺のことを助けてくれた美少女はどこだッ!?」
ワクワクしながら叫び、期待に満ちた目できょろきょろと辺りを見渡して__。
「何だ、おまえかよ…」
視界にあまりにも期待外れなものが入ってきて、がっくりとうなだれる。目の中に飛び込んで来たのは、部屋の隅のソファーに座っている呆れ顔をした黒崎だった。
「悪かったな、助けたのが俺で」
そんなあからさまな俺の反応に、黒崎はふてぶてしく言う。
まさか……。こんな筈が……!
「美少女…、美少女は、どこ行った…。」
俺は虚ろに呟くと、ベッドの中に潜り込んだ。
☆
ぐぅ〜ぐおぉ〜。
お腹が空いて、目が覚める。
「飯ぃ…。」
食欲に耐えきれずに夢遊病者の様に部屋を出て、飯を求めて廊下をふらふらと歩く。と、
__ドンガラドッシーン!!
踏み出した右足を支える床がなく、文字通りでんぐり返しで転げ落ちた。
「痛っ、つう…!?」
階段の存在に気付かなかったのだ。恨めしげに顔を上げると。
「フッ…、クク…、格好悪っ……!!」
目の前に、黒崎が立っていた。黒崎は、おかしくてたまらない、というように、涙目ではあはあと荒い息を吐いている。
「悪かったな、格好悪くて」
ムッと口を尖らせた俺は、ブスっとした顔で服についた埃を払いながら、立ち上がる。
「それで、ここは異世界のどこなんだ?」
寝たことによって、高揚は大分収まった俺は、やっとのことで笑いがおさまったらしい黒崎に尋ねてみた。
「宿屋だ。まあ…、色々あって、な」
黒崎は、言葉を濁しながら答える。
……一体、何があったんだ。
「まあ、ちょうどいい。おまえに用があったんだ」
「用って、何だ?」
「ちょっと、肉を狩ってこい、って言われたからな。という訳で、これを持て」
黒崎がちょうどいいというように手を叩いたので、何だよと聞き返すと、木の枝らしき物を手渡して来た。
「肉ぅ?何で俺達が?」
ええーと、不満気な声を出す。肉なんて、普通の人生を送ってきた俺は狩ったこと無えぞ。異世界らしいといえばそうだけど…。
「この宿の女将さんに頼まれたんだ。ほら、何しろ俺達はタダで泊まらせてもらってるから。これくらいは当たり前だろ、って言われたんだ」
「で、こんな弱っちそうな棒切れで、どうしろと。」
俺は、黒崎に手渡された棒切れを、恨めしげに見つめる。カッコイイ剣ならともかく、この棒切れだと風が吹くだけで折れる気しかしない。
「知るか。俺だって困ってるんだ」
「ええ……。」
「まあ、旅館の人も付いて来てくれるらしいけどな……」
「それなら、大丈夫だな」
黒崎の言葉に、俺はあっけらかんと言う。その「旅館の人」とやらに任せればいいや、という見事なまでの楽観思考。
「じゃあ、とりあえず外に出るか。旅館の人、待たせちゃってるしな」
そう言うと黒崎は、俺のパーカーのフードをガシッと掴んだ。
「えぇ……、飯ぃ……。」
と、力なく呟く俺を、黒崎はズルズルと引っ張って行った。
次回は長瀬side。