2 黒崎side デュフフ
黒崎視点。
少し長め。
「……ん?」
眠たい目を擦り、入っていた寝袋から抜けて、辺りを見回す。真っ暗で、状況が読み込めない。前には、パチパチと燃える真っ赤な焚き火。
ここはどこだ?そう考えて、異世界転移してしまったことを思い出す。
「やっと、起きましたか」
突然話しかけられびくっと肩を震わせ隣を見ると、焚き火で暖まっていたらしいオッサンが、呆れた声を出す。
「……そんなに、寝てた?」
「ハイ、そりゃあもう、ぐっすりと。もう、日付が変わる頃ですよ?」
「ぐっすりと」を強調した言葉に、オッサンの荷馬車に乗ったのが夕方くらいだったかな……、なんてことを思い出す。
「大変だったんですからね?何しても起きないので、荷馬車からここまで、よいしょよいしょと運んできたんですよ?」
「すまん、ありがとう……、てか、腹減った」
「シチューならありますよ」
親切にも俺達の面倒を見てくれたらしいオッサンに感謝の言葉を言ってから、飯の配給をとりあえずお願いしてみる。するとオッサンは、焚き火の火で温めていたらしい鍋から木の器にシチューをよそり、親切にも俺にくれた。
「おお……!!」
そのシチューは、白いクリームソースにたくさんの肉やら野菜やらが入っているというもので、ほかほかと温かい湯気が出ている。現実世界の食べ物と変わらないようで、一安心した俺は試しに一口啜ってみた。
「うまっ!!」
母親が作るのよりずっとずっと美味しく、思わず感動して叫んでしまう。このオッサン、どんだけ料理上手いんだ……、と思いながら、あっという間に平らげた。
「よし、寝るか。あ、シチューありがと」
器を丁寧に返し、用事は済んだとばかりにまた寝袋に入り、寝ようとする。と、
「待って、待ってください!寝ないで!」
慌てた様子のオッサンに、揺り動かされた。
「はあ?まさか、修学旅行のノリでキャンプファイヤーだか肝試しでもしよう、って歳じゃないだろ?」
「いや、その…」
しょうがなく片目を開け、口ごもるオッサンの視線の先を追うと、寝袋に入れられ未だ寝ている長瀬がいた。
「こいつ、まだ起きてないのか?」
「はい、疲れが溜まってたんですかね……?」
俺が尋ねると、オッサンは首を傾げる。そういえば、最近全然寝てないとか、言ってた気がする。オッサンが言う通り、疲れが溜まっているのかもしれない。
隣で寝ているこいつは一向に起きる気配がなく、さっきから寝言で「デュフフ」としか言っていない。
「デュフ、待ってよ……今いくって………」
気が狂いそうだ。こいつは、一体なんの夢を見ているのだろうか。
……オッサンが俺を寝させたがらない理由が、分かった気がした。
さっきまで充分に寝たことだし、なんだかオッサンが可哀想になったので、相手をしてやることにする。
と、そんなことを思った時、ビュオッと冷たい風が吹いた。
おいおい、そういえば俺、野外で泊まったこととかねえな……。
「ここ、モンスターに襲われる心配とか、ないのか?」
「いえ、荷馬車とその周辺に結界がはたらくようにしていますから。心配は無用ですよ」
心配して尋ねると、オッサンに笑い飛ばされた。見るとなるほど、確かに近くに荷馬車がとまっていた。この荷馬車の近くにいれば安全なのかと、ズルズルと荷馬車の近くまで寝袋を引っ張る。
「おい、後どんくらいで街に着くんだ?」
「さあ……、明日、いや、もう日付が変わったので今日の昼前ですかね」
「……デュフフッデュフフフフ」
会話に割り込んでくる不快音に、俺とオッサンは黙り込む。
オッサンの、かつて限りない未来に輝かせただろうその瞳は、土砂降りの雨音の中道端に存在している泥水の如く濁っている。
「デュフフフフッ……」
沈黙が広がる。聞こえるのは長瀬の寝言、時折どちらかが吐く溜息、それと焚き火がパチパチと爆ぜる音のみだ。
そういえば、ここは何処だ?
異世界に来た事にばかり目がいっていたが、思えばここがどんな世界なのか、分かっていなかった。
「と、ところでオッサン。ここら辺の地理とか情勢って詳しいか?」
恐る恐る聞いてみる。
「え?君、まさかそんなことも知らないんですか?……何者なんですか?」
「……。」
オッサンに疑わしそうな顔をされ、口をつぐむ。そりゃそうだよな。疑われるのも最もだ。
普通、何も知らない奴なんていないだろう。少なくとも、ここがどこかくらい分かるだろう。しかし、
異世界から転移して来ました、なんて言えるかッ!!
「え、えっと…、その、ド忘れしたみたいで……、ハハ…」
「正直に言いなさい。」
「……yes,sir.」
☆
「え?君、異世界から来たんですか?」
かなり驚いた顔をされる。
まあ、予想していたことだ。俺だって、初めて会った人に突然「私はヌルハルヤル国から来ました」とか言われたら、その人の頭を疑う。その時俺がとるであろう反応からすれば、今のオッサンの反応は全然マシだ。意外にもこのオッサン、肝が座っているのかもしれない。
「信じてもらえないかもしれないけど、そうなんだ」
「ふーん……、でも、あんまり他の人には、言わない方がいいと思いますよ?」
チッチッと指を振りながら、僕だから良かったものの、とオッサンは言った。
「ほら、面倒なことになるかもしれないし。悪くて反乱分子と見なされて、処刑ですよ」
「まあ、そうだろうな」
忠告をありがたく受け取って、頷く。
何故か、このオッサンのいうことは不思議と納得出来た。こういう人に、人はついて行くんだろうな……、と思う。
「という訳で。」
「という訳で?」
「おじさんが、この世界の事をみっちり教えて差し上げたいと思います!」
次回も黒崎side。