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引きニート×2の異世界物語  作者: 夏目蛍/ 橘春流
第一章
2/16

1 黒崎side 異世界転移しちゃったパターン

黒崎視点です。

  あー、これは……。

 目の中に飛び込んできた夕日を見ながら、俺はふうと溜息を吐く。


「異世界転移しちゃったパターンですね、ハイ、わかります。」


 ネット小説家の俺ならよく分かる、異世界に転移してしまったことくらい。

 大きな渦+見知らぬ場所ときたら、すでに手遅れでそこは異世界なのだ。それが「テンプレ」という奴なのだ。

 妙に納得しながら、とりあえず状況把握をしようと考える。


「イタタタ……」


 地面に手をつけ、重い体を起こす。力がなかなか出ず、頭が痛い。


 辺りには、目が眩しくなる程の大草原が広がっていた。そしてその草原には終わりが見えず、まさかモンゴルか何かに来てしまった訳じゃないだろうな、などとちょっと考えてから、そんな訳ないよねと思考を打ち切る。


 そういえば、長瀬はどこだ……?

 ふと気になった。ぼんやりとした頭で辺りを見回すと、少し先に、うつ伏せに寝転がった長瀬がいた。

呼びかけても、ピクリとも動かない。


「おい!大丈夫か!?」


 さすがに心配になって、慌てて駆け寄る。と、


「んん……、待っててね、俺の美少女達……。俺が迎えに……」


 長瀬は幸せそうな寝息を立て、夢見心地に呟いている。

 ……。そうだ、こいつは重度のオタクだったんだ!!そのことを、長瀬が大事そうに握り締めている、アニメキャラの缶バッジがやたらと貼り付けられた痛バッグが物語っている。……心配して損した、と溜息を吐く。


 俺は何も見ていないし聞いていない。いやあ、まさかあんな事を考えていたなんて__、とか思ってないし、いや、そもそもあんな事とは何なのだろうか。そうだ、俺は何も知らないんだ__。


「へへ……待ってよ……」


 ……なんか、幸せそうに寝ている長瀬を見ると、どうでもよくなってきた。というか、こっちまで眠くなってくる、などと考えながら、とりあえず長瀬を起こそうと頬をつねってみる。


 __ギュム。


 もう一回。


 __ギュウ。


 ……もう一回。


 __ギギギギ。


 ……。起きない。


 たった今俺の頭上で人生終了のお知らせが鳴り響いた。

 もしかして、いや確実に、どこぞの街まで男一人を担がなければいけない、という事案が発生したのだ。しかもその「どこぞの街」も見当たらないというのに、どこへ行けと神様は言うのだろうか。


 こいつ一人置いていくことも考えたが、眠っているところをモンスターか何かに喰われて死んだ、みたいな話を聞いたりしたら後味悪すぎる。……俺、なんて優しいんだろう!


 そして、俺は決めた。


「助けてくれる人が現れる、なんて事起こるはずが……、ある訳ないしな。よし、寝よう。」

「大丈夫ですか?」


 現れちゃったよ、助けてくれる人ッ!!

 もう全てを諦め、ふかふかの草原に寝る姿勢をとっていた俺は、突然降りかかった声に驚いて目を開ける。


 神は、まだ俺を見捨ててはいなかったようだ。

 俺に話しかけてきた良きサマリア人は、いわゆる中年オッサンという見た目で、後ろに荷台を引く馬に乗っているところから、おそらく商人なのだろうと考える。

 しかも、異世界人だというのに、言語が通じる。こんなに都合の良いことは無いだろう。神様のことを信じなくてごめんなさい、と心の中で呟いてから、そのオッサンに笑顔を向ける。


「ああ、友人が倒れて気絶しちゃったみたいなんだ」

「なるほど、うーん。それなら私の馬車で近くの街まで送りますよ」


 おお…!なんて親切な人……!!「どこぞの街」まで連れて行ってくれるというオッサンの言葉に、思わず感激しながら、


「ありがとうございます……、ところでオッサン、誰?」


 刹那、ぴりぴりとした緊張が走ったように感じて、思わず身構える。沈黙の中、目の前のそいつはゆっくりと口を開いた。


「ふはははは、我こそはかの暴虐にして冷酷の魔王__」


 オッサンの思わぬ爆弾発言に、体が硬直する。どこか都合が良すぎるとは思っていたが、まさかここでラスボス登場とは、まるで考えていなかった。

 焦る気持ちを抑えるように、ゴクリと唾を飲む。

 どこか、どこかに、この状況下から逃げ出せるような、術はないか……。

 だが、見回しても辺りには草原しかない。


「……。」


 ああ、俺の人生もここまでか、良い人生とまではいかなかったが楽しかったなあ……、と俺は覚悟を決め、


「なーんてことあるわけがないので安心してください!」


 ただのしがない商人ですよ、と目の前のそいつは、ニコッと笑って言った。

 ……要するに、魔王じゃないと、さっきのはただの演技だったと………。


「あれ、どうしましたか?」

「……腰が抜けた。」

「………あら。」



次回も黒崎sideです。

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