プロローグ 長瀬side 第一印象
ファンタジー連載、始めました!
是非とも宜しくです!
今回は長瀬視点。
「こんにちは!!長瀬拓斗です」
「こんにちは、黒崎宙です」
俺が少し頭を下げて自己紹介すると、同じように挨拶を返して来たのは、朝シャンでもしたかのような整った黒髪に三白眼の男。左目の下にある泣きぼくろが印象的である。格好は、白いドレスシャツにループタイと、クラシックな雰囲気だ。
「そ、れにしてもっ…、なんだよその格好!引きニートの癖にっ…。何格好つけてんのっ……、片腹痛っ!!」
俺は、腹筋を押さえながら、なりふり構わず思いっきり笑う。 今時こんな服装している奴がいたんだ、という驚きを隠し切れない。
……やばい、笑い過ぎて、涙で視界がぼやけてきた。こんなに笑ったの、久々過ぎる……などと考える。
「うるっ…さいな……。俺は引きニートじゃなくて、ネット小説家だし。一応、本だって出てるし。」
「売れてないけどな」
黒崎の必死の抵抗にすかさず突っ込むと、黒崎はムッとした表情をつくる。
「そんなことを言うなら、おまえだって引きニートだろっ!?そのよれよれのTシャツにパーカー、ジーンズという格好。いかにもそんなオーラかもし出してるじゃないかっ!!」
黒崎は、びしっと俺を指差してきた。言ってやったとでもいうような、得意げな顔。
だが、俺はそんなことには怯まない。
「ふっ…、確かに、俺は家に引きこもっているのかもしれない。だけどな、俺にはちゃーんと職があるんだ」
「へえ、どんな?」
黒崎の余裕ぶった表情での質問に、俺も余裕の笑みで、
「家の守り人」
「ぶっ!!」
俺が堂々と宣言すると、黒崎は思いっきり吹き出しやがった。何がおかしいんだ?「家の守り人」ってのは、命懸けで家を守るっていう、れっきとした職だぞ?
「それにしても、初対面の奴とこんなに喋ったの、初めてだな……。」
黒崎は、笑い涙を拭いながらそう呟く。
こんなに叫んでて、周りからは仲良し同士に見えるだろうけど、実は俺達、初対面である。
とはいえ、全く喋ったことがないといえば嘘になる。ネット上でよく会話していた。
俺達が出会ったきっかけは、ネット小説サイト。黒崎は実は書籍化までされてるネット小説家で、俺はその小説のファン、という形だった。
そしてその小説について作者様と語っている内に仲良くなり、ノリで会おうということになったのだ。
それで今、このターミナル駅で待ち合わせていた、という訳だ。
「それにしても、おまえの第一印象は、『目つきが悪い』だな」
こいつに声をかけると、三白眼で睨みつけるように見てきたので、思わず後ずさりしそうになった。
少しばかり暗めの小説書いてるし、それも当然か__、などと思ったものだ。まあ、その印象は今の大爆笑する姿からして、すでに覆されたのだが。
「それなら、おまえの第一印象は『変人オーラ醸し出してんな〜、いかにも引きニートだな〜』だな。そしてその痛バッグがさらに__」
「じ、じゃあ!とりあえず昼飯食おーぜ!!腹減ったし!!」
黒崎の散々な評価をそれ以上聞きたくなくなった俺は、勢いよく拳を振り上げる。ちょうど、俺の腹がぐうと鳴った。
黒崎は、呆れたように溜息を吐いた。
「よし、行こう、黒崎!!」
俺は、黒崎の手をがしっと掴むと、走り出した。
「な、ちょっと待てよ!?」
☆
「腹一杯〜〜」
そう満足げに呟くと、ジュースをズズーッと最後の一滴まで飲み干す。
「太りたいのか、おまえは」
黒崎は、呆れた顔で見てくる。
まあ、当然の反応だろう。俺の前には、いくつものハンバーガー、ポテトの包み紙が散らばっている。
それに比べ、黒崎の前には、小さく四角に折り畳まれたハンバーガーの包み紙しかない。
「まあ、俺は、ゲームするのに頭使ってるからな。それより、おまえの新しい小説、どんな感じなんだ?今、考案中なんだろ?」
「無駄なことに頭使ってんな……」
黒崎はツッコミつつ、高そうな黒い革のバッグの中から赤いノートとペンを取り出した。
「どんな小説なんだ?」
「まあ、一言で言うと、異世界ファンタジーだな」
黒崎は説明しながら、手際良くゴミをサッと端に寄せる。
「ふうん……、ちょっと読んでみろよ」
「分かった……、じゃあ、一話目からな」
黒崎は、ノートの一ページ目を開き、情感たっぷりに読み上げ始めた。
「……『その時だった。俺達の前に、大きな渦が現れた。その渦は、俺等を巻き込み__。』」
小説の一話目も中盤に差し掛かり、俺がゴクリと唾を飲み込んだ、その時だった。
__ビュオオオオオオオオオ
向かい合って座る俺と黒崎の間に、大きな渦が現れた。その渦はだんだんと大きくなって、俺等の眼前に迫ってくる。
「「は?」」
何だこれ?ここ、都心のファーストフード店の中だぞ?余りのことに、完全に思考が停止する。
黒崎の方を見ると、目をカッと見開いている。
何だこれ?これは、まるで_。
__その渦は俺等を巻き込み__。
まるで黒崎の小説、そのまんまではないか。
虹色にゆらめく空間の中で、意識が遠くなっていく。黒崎が、ガクッと前に倒れていくのがぼんやりと見える。
俺は、意識を失った。
次回は黒崎side。