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ALICE-MAGICA  作者: 三島屋水那
第一章 日常の変化
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第九話 面倒なやつばかり


 その日の放課後、醂は人気のない公園のブランコに腰掛けて絵に描いたように落ち込んでいた。訳は単純で、いつも一緒に帰っている義理のきょうだい、ミルクに今日は先に帰ると言われてしまったのだ。寂しくてつい気づいたらこんなところに来ていて、自分でもこれは相当精神的に来てるな、と思う。

 今日この後は用事があるから、その時だけでも取り繕わないと。

 醂は、いかにも犯罪者の巣窟ですといったふうなトイレで用を足すと、心を切り替えて歩き出した。




 その頃、卯夜はまた見取(みどり)の店に訪れていた。メールで連絡を入れたところ、客が来る予定はないのでゆっくり話せるとのことなので、また信楽を連れて何かと相談するつもりである。


「へぇ、初めての変身したんだ?」

「うん。……ただ、女の子な格好なのが不満でさ」


 卯夜はそう言うと、先ほどと同様に変身してみせる。服と自分自身の姿形のみの変身で、武器は出さない。

 やっぱり信楽の描くままのアイドルドレスで、信楽はまた写メを撮りだした。


「んー……、衣装は変えたほうがいいと思うけど、男に戻るのはやめたほうがいいと思うよ。多分、君が変身していないときとか日常でも襲ってくるようになるから……、そもそも変身する理由は魔法利用の効率化だけじゃなくて、身バレが困るMagicerが本来の姿を隠すためというのもあるんだからね」


 見取のそのアドバイスに従い、髪型と女体化した身体はそのまま、服装だけ色々変化させてみる。信楽の提案もあり水着やらベビードールやらボンテージも試す流れになってしまったが、最終的にはお嬢様的な雰囲気を漂わせるブラウスとベスト、それからふわふわのパニエに決定した。基本の色は生成り色で、見取も信楽も似合っていると親指を上に立てた。


「どう、女装してみた感想は?」

「うん……もう諦める……」


 その後は卯夜の武器についていろいろ考えて結局その場その場でちょうどいいものを使うという流れに落ち着いた。

 そして信楽のお守りが決まらず結局もらっていないそうなので、卯夜にチョイスが委ねられる。前回もあったミスリルの鍵に水属性の青い宝石がついたネックレスと、オリハルコンをベースに闇属性の黒あるいは紫の宝石がいくつもあしらわれた豪華なネックレスの他にも、ミスリルのもので小さな懐中時計の中央に虹色の宝石がつけられたものが新たにレパートリーに加わり、卯夜はその中から選ぶことになった。

 しかし卯夜は、


「この時計のやつ二つ。それと、ミスリルの鍵の方は俺用に、オリハルコンのを信楽用に買うよ」

「おや、おそろいがいいのかい?タダにしてあげてもいいけれど流石に君が嫌と言うだろうからね、四つで4200円だ」


 今つけるかい、と卯夜の財布からお金を受け取った見取は尋ねる。卯夜は自分たちでつけると言い袋に入れてもらわずに受け取ると、信楽を後ろに向かせ、オリハルコンの鍵のネックレスと懐中時計のネックレスをつけてあげる。そして自分の手も後ろに回して、懐中時計とミスリルの鍵のネックレスを同じように首につけた。


「うん。似合ってるよ、しぃ」

「えへへ。卯夜君こそ」


 似合ってはいるもののどんな場合でも手放したくないと思った二人はそれぞれ服の中にネックレスをしまいこんだ。見取がレジカウンターに頬杖をつきながらニヤニヤと二人を見つめるが、気にする様子はない。


「でも、この後暇だねー。何する?」

「ん……、特にしたいこともないな。アーケードもやること全部終わったし、家でやるゲームも夜になってからでいいし」


 退屈そうに二人揃って商談用ソファに座ると、卯夜は大あくびをした。一応手で隠そうとしても隠しきれないほどの大あくびだ。

 魔法関係で気苦労が絶えなかったのだろうか、眠れていなかったらしい卯夜はうとうとしつつ信楽によりかかる。

 数十分後目を覚ますまで、二人共お互いによりかかり合って眠っていたという。




 二人が寝ている間、醂が見取の店に訪れていた。


「やあ、いらっしゃい。連絡入れない君もそうだけど、何でMagたちは揃いも揃って面倒なやつばかりなんだ……」

「さぁね。……今日は、儀礼用の杖を新しく作ってもらおうと思って。八月六日に間に合わせようとすると、一ヶ月は余裕でかかるでしょ?」


 口調に似合わずまったりと珈琲を飲む見取。客相手は基本紅茶だが、彼女は本来珈琲派なのだ。ブラックと見せかけて砂糖が少し入っているのも含めて醂は知っている。


「まあ、そうだね。設計はいつも通り、歳の数だけ火の魔導石を使うんだよね?」

「魔導石の数はそのまま。追加で全属性の魔導石が必要になるから、とりあえず必要なポイントだけ書いたメモを渡しておくね。多分かなりデザインに変更が入ると思うから、そっちも含めて期待しておくよ」


 醂はメモを渡すとようやく卯夜たちに気づいたようで、ニヤニヤしながら近づいて二人のほっぺたを両手でつつく。醂に言わせれば相当間抜けな顔で寝ている二人は気づく様子もない。二人が手をつないだままなのに気づくと、これ以上ちょっかいを出して起こすのも悪いなと思った醂は、親が子を見るような目で見ていた見取にただ一言帰ると告げて店を出て行った。

 見取は、醂を見送ると毛布を取り出して二人にかけてあげた。二人は、お互いの首をさらにくっつけるように寄りかかりあった。




 醂は、羨望を抱いていた。

 ミルクは、以前にも増して醂を避けていた。醂は心理学は苦手だし人の考えることを読み取るのはあまり上手ではないのだが、それでもミルクの瞳には劣等感がある気がしているのだ。一応は、行き帰りとか、一緒にいてくれるけども、会話は殆ど無いし考えていることを読み取るベースが足りないのだった。両親を心配させているが、それでもなかなか腹を割って話すチャンスもなく、お互いの気持ちもわからないままだった。しかも今日なんて、先に帰る、である。避けられているのは明白だった。

 だから、恋人ですらないにも関わらず惚気ているなんて言われるほどに仲の良い卯夜と信楽が羨ましかった。

 愛とか友情とか、長年薬の中でろくに人と会うこともなかった醂には、お金で買えないそれは何より欲しいものだった。確かに東元寺家の世界一の財力を持ってすれば、金になびいて愛してくれる人はいるかもしれない。けど、貴族の社交界でそうやって手に入れた愛を没落したことで失った人の話をたくさん聞いた。そんな上辺だけの愛なんて欲しくない。醂が欲しい愛は、没落したとしても、優しく手を差し伸べてくれて、心から応援してくれて、死んだ後だって忘れないでただ一途に自分を想い続けてくれる、そんな愛だ。今も友達という言葉で表現できる相手ならたくさんいる。けど、その中には下心もたくさん混じっていた。包み隠そうという気がないやつも、上手に包み隠して心から仲良くしようとしているように見せかけてくるやつも。きっとそういうやつらは醂の家系が没落したら離れていって、友達だったことすら忘れたことにして、そうして醂を孤独な檻の中に追いやるのだ。そう思うと人混みが自分を拒絶するような気すらして、醂の足取りは重いくせに早くなる。

 使用人や家族のいる家に帰るまでには普段の自分を演じられる状態にならなきゃいけない。先程の、今考えれば言い訳を付けた八つ当たりにも近かった実戦でも、こんな気持ちはなくならなかった。この気持ちを隠す術だけはあるけれど、変える術などわからない。

 結局ひとりぼっちな心のまま、醂は歩き出す。

 いつも通りに動くという現実逃避のために。



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