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ALICE-MAGICA  作者: 三島屋水那
第一章 日常の変化
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第八話 使いすぎには注意



「……醂。何でまた……」

「噂くらい聞いてるし、何となくここに来てることくらい予想できたからさ。ふふん、友達の悩みを聞かないほど僕は人でなしじゃないよ」


 醂はドヤ顔で卯夜を見つめる。一応挙措はお上品な方なのだが、指先を口に当てていたりして女性的でもある。髪の毛が男の子らしいショートカットと言うには長すぎるのも相まって、初見なら少年ではなく少女と勘違いしてしまいそうなものだった。


「魔法、使えるようになったんだってね」

「……それで?」

「どうなのよ、使い心地。やっぱ普通に魔法使って横着したりラクしたりしてる?」


 醂はにやにやと卯夜を見つめる。初見の印象なら天使と思ってしまうような人は数多いだろうが、こいつは小悪魔だ。悪いやつではないけど小悪魔だ。


「……まぁ、便利だとは思うけど。使いすぎには注意かなって」

「まあ、そうだろうね――てい」


 醂は適当に声を出したかと思えば、魔法で生み出したナイフ、いや短刀で信楽に肉薄する。


「びゃあっ!?」

「何を――!?」


 信楽は声を上げ、卯夜は瞬時に信楽ごと守るためのバリアを出す。前言撤回、醂は小悪魔じゃなくて悪魔だ。目の前に『世間が想像する本物』がいるが、本物の悪魔はこっちだ、と卯夜は思った。


「へぇ、なかなかの瞬発力――そうだ、今から実戦でもやってみない?これまで散々争い合ってきた結果、今からの実戦で勝ったほうが全部勝ちってことにしちゃってもいいんだよ」

「――、何が目的だ」

「目的?そうだね、強いて言えば君のため、かな。いろいろあってね、たぶん君を潰しに来るやつは結構いっぱいいると思うよ」


 だから今のうちに実戦を繰り返して、そういうのを追い払う練習をしておいたほうがいい、と醂は言う。なるほど、彼の目線であれば善人やってるつもりだろう。まあ、彼が善人かどうかはさておいて、卯夜としてはそれは間違いではないと思ったので、全力で相手することに。


(場合によっては本当の力を引き出せない場合もあるけれど。変身は、確か――基本は、魔法使い、Magicerとしての名前ををXXとすれば『XX=Magica』。特別な変身の言葉もあるにはあるし、魔力を多めに使えば省略することもできるらしいけど――とりあえずは基本通り、かな)

「どう、卯夜君。やる気出てきた?」

「もちろん」


 卯夜は答え、そして胸に手を当てて、少しの祈りとともに囁く。


「『Rabby(ラビィ)=Magica(マギカ)』」


「『Lisree(リズリ)=Star(スター)』!!」


 醂の変身の言葉もまた響く。

 卯夜はかすかな浮遊感を覚えて、そして自分の服が組み替えられていくことに気づいた。頭を回してみれば、自分とは違う長い髪がたなびく。そのロングヘアはツインテールに束ねられ、服は気づけば信楽が描いていたいつもの歌い手衣装にそっくりなアイドルドレスに変化していた。手首につけられたフリフリのお袖止めから覗く白い肌の手には、魔法少女みたい、という言葉がぴったりな装飾を加えられたマイクが握られている。

 ちなみに醂はというと、ギリギリ男物でも通じる程度の和風着物ワンピに季節感を無視した、カラーリングこそ変わっているものの新撰組の面々が羽織っていそうな羽織、足元はタイツにブーツ、頭にはおだんごがふたつという格好に変身していた。先程信楽に襲いかかった際の得物である短刀はデフォルトの武器であるらしく、羽織の上から付けられたベルトに鞘をつけてそこに納めていた。白基調にピンクや紅が加わったその衣装は、本当に醂らしいと卯夜は思った。


「へぇ、少女型かぁ。なるほどね……」

「……なに、これ。」


 卯夜は自分の格好に目を落とすと顔を赤くしてしゃがみ込み、自分の体を隠すように抱く。信楽はそんな卯夜に対してにへらにへらしつつ写メを撮りまくっていた。おそらく三分後にはホーム画面になっているだろう。醂は苦笑いしているが、特に信楽を止めたりする気も卯夜を写真に収めたりする気もないようでただ苦笑いしながら見ているだけだった。


「まぁ、うん。落ち着いたらやろうね?」

「……ごめんちょっと待って、これ変えられるの?」


 変えられないよ、と醂はニヤニヤしながら言い放った。


「ウッソぉ!?てことは変身姿は一生このまんま!?」

「嘘」

「バカッ!!!」


 醂はまだニヤニヤしているが、卯夜はゆでダコも真っ青になるくらい真っ赤になりながら急いで変身を解除、そして変身し直した。しかし今度の格好も茶髪ツインテールのままである。一応服装はそれなりに戦闘衣らしいものになり、そして卯夜の意思が反映されたのか武器(?)もマイクではなく周囲に召喚された近未来的な砲台に変化している。


「それじゃあ、始めようか」


 その言葉を引き金に、醂は短刀を抜いていきなり卯夜の首を狙って切りかかってきた。卯夜は全力で右に避けると、砲台をいくつか醂の方に追従させて発射。さらに硝煙を消して醂の頭上にテレポートすると重力を自分自身に強くかけて加速し、ドロップキック。醂はその足首をつかむが、逆に卯夜はもう片方の足を中心に醂を振り回してしまう。思わず手を離し投げ飛ばされた醂は手に炎を生み出し、かなりの高速で卯夜との距離を詰めると直接殴りかかった。卯夜は水魔法で防いだ直後、醂の襟首を片手で掴み引き寄せ、離すともう片方の手でぶん殴る。しかし醂はあきらめない。短刀を大太刀というほどに長くしてしまい、炎の紅に染め、殴り飛ばされた位置からまた卯夜の近くに寄り、首に斬りかかろうとした。

 これは首が飛んで死ぬ、と思ったその瞬間、卯夜にとある発想が思い浮かぶ。


 時属性があり、なおかつ魔力は測定不能な程度には規格外。

 なら、もしかしたら時間停止も許されるのではないか?


 一か八かで、卯夜は時間を止めようと魔力をこの場所に込めた。ぎゅうっと目を閉じて、首が飛ぶ恐怖に耐えていた瞳をまた開いてみる。

 醂は硬直していた。世界の色が失われたりということはほとんどない。――唯一動く自分の手が、見たこともない色に染まっている以外は。

 たぶん、この見たことのない、ただ言葉で表現するなら金色に似ていると言えるその色は、しかしきっと魔法以外のどんな手段を用いても決して再現できないだろう。

 そんな、美しいと言える色彩に染まった卯夜は、そっと硬直した醂の背後に立つと、巨大なバズーカを肩に担ぐ。そして、引き金を引いて――時間を動かした。




「っふ、ぅ……。やるじゃん、卯夜君。最後のはたぶんだけど、時間停止だよね?さすが聖アリス学園の頂点の頭脳の持ち主は発想の格も違うな。まさかヒント無しでそんな行動に出られるなんて」


 醂はそう惜しげもない賞賛の言葉を卯夜に送った。自分の魔法で、変身が解けたあとも乱れたままの髪や多少腫れている頬を癒やすと、何事もなかったかのように立ち上がる。


「五時間目の授業、サボっちゃったね。というわけで卯夜君、信楽ちゃん、一緒に怒られに行こうか」

「「めんどくさい……このまま逃げない?」」

「逃げない」


 同じ言葉を放つ二人の手を引いて、醂は旧校舎の屋上から降りて教室に戻る。幸いサボったこの授業は体育で、教師は何かとゆるいタイプの人間だったので軽い注意で済んだ。それぞれ別れると教室に戻って、三人共質問攻めにあったのはまた別の話である。



2018/07/08 バトル描写とかに不満があったので修正。

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