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ALICE-MAGICA  作者: 三島屋水那
プロローグ 見取の魔法と黒髪黒目
2/101

第二話 魔法と言って信じられるか



「あんた、卯夜じゃない!!なんで、よりによって、こんな所にいる訳!?」

「え、えぇと……」


 卯夜は思わず後ずさりした。桜木院葉月。卯夜の通う学校、聖アリス学園で次期生徒会長と噂されている人物である(まぁ、もっと深いところでは彼女は誰かの代わりに生徒会長に任命される予定との噂もあるが……)。卯夜と彼女とは相性が良いのか悪いのか、いつも「お前って本当に桜餅好きだよな。それ以外のおやつ食ってるとこ見たことないぞ」「悪いわね。桜餅の美味しさは他の何にも負けないわ。ひっくり返したいならもっと美味しいお菓子を持ってきなさい」「は?何だよその物言いは」といった風に言い合いする相手でもある。

 見取は苦笑いをしつつ、


「まぁまぁ、事情はゆっくり説明させてもらうさ。紅茶飲むかい?」

「緑茶っていつも言っているでしょう。あんた、それでも私が常連してあげてる店の店主なわけ?」

「分かった分かった、分かったから刀をテレポートで取り出して斬りかかろうとするのはやめてくれお嬢様」


 不穏な一言に卯夜はそっちを見ると、葉月は虚空から刀を取り出して今まさに見取に斬りかかるところだった。……怖い。




「とまぁ、そういう訳なんだ。これで不可抗力だったのは分かっただろう?」

「……悪いな。俺のせいで」

「ふん。まぁ、しょうがないと言えばしょうがないわね。それでもあんた、見取の過失であるのは覆す気はないけど」


 葉月は足を組んだままソファの中心にでんと座って卯夜を端に追いやっていた。ちなみに服装は卯夜とお揃いの女子制服である。スカートがあまり長くないせいで中が見えそうであった。

 とにかく、葉月はリクエストした緑茶を、お上品とは程遠く酒呑みのように一気に煽っていた。お代わりを要求される度機嫌を伺いながら急須を傾ける見取が不憫でならない。


「さて、今回注文したアレは?」

「ああ、ちょうど卯夜君が来る直前に最終調整が終わったんだ。今取りに行ってくるから待っていてくれ」


 見取は一旦奥に引っ込むと、また戻ってきた。その手に持ったハンガーには、ふわふわのパニエ。桜色に刺繍が施されており、知り合いのコスプレイヤーの苦労を知る卯夜は思わず「すげぇ」と漏らしてしまう。とにかく葉月はそれを受け取った。


「服飾系は最終調整のために着てもらう必要があるからね。着替えてもらっていいかい?」

「ふん、しょうがないわね」

「ぶぇっ!?」


 卯夜は思わず紅茶を吹き出しそうになった。まさかこいつら、男である俺の存在を忘れているんじゃないか、と思ったが、


「……ふん。まぁ、出来はいいんじゃないの」

「そうか、ええと……うん。これなら最終調整はすっ飛ばしても使えるな。まぁ念のためするけども」

「面倒ね」


 着替えが終わるまで目をそらしておこうと思いつつもまさか本気で着替えるつもりかと一瞬振り返った、それまでのたった二秒で葉月はそのパニエを着用していた。どころか、服のすべてが別のものに変わっている。


「えっ?えっ……は、早着替え?」

「「違う」」


 卯夜は早着替えかと思ったが二人揃って否定。じゃあ何なのだ、と思ったが最終調整とやらに入っているようなので遠い目をしつつ紅茶に口をつける。

 最終調整とやらが終わったらしく制服姿にこれまたいつの間にか戻っていた葉月は、またどかんとソファの真ん中に座った。しかも今度は卯夜の方をガン見してくる。


「ねぇ、あんた……ちょっと、この後いいかしら?」

「え?えっ……、い、一応一回家に帰りたいんだけど」

「なら家でいいわ。とにかくついていくから。――それじゃお代。見取、あんた今度からは気をつけなさいよ」


 葉月の強引さに巻き込まれつつ卯夜は半ば首根っこ掴まれて引きずられているかのように見取の店を出た。見取は、「また被害者が増えた」とでも言いたげな顔をして手を振っていた。




 卯夜が徒歩で自宅付近まで戻ると、自宅の前でちょうど警察がインターホンを押そうとしていた。


「あっ、あの」

「ああ、時計卯夜さんですか?」

「はい。鞄、ありがとうございます。あの、ナイフの男って」


 卯夜は鞄を受け取ると、ナイフの男について訊く。

 と、衝撃的な答えが帰ってきた。


「ああ、女だったよ。彼女はただの通り魔だった。人を殺すのが好きらしいね。もう捕まえたから安心して」

「お、女……!?っつか、なんで俺だけを執拗に?」

「それは今後の捜査で明らかにします」


 そうですか、としか答えられなかった。葉月が「通り魔、ね……」と意味深に呟いていたが、卯夜は聞かなかったことにした。気の所為にできるほど小さな声だったからだ。

 捜査に協力してほしいとのことで、事情聴取のため家に上がることになったが、大した情報は卯夜にはなく、警察はすぐに帰っていった。


「ふん。警察、ね。いけ好かない連中だわ。本当に頭の固いお役所仕事よね。嫌いよ、ああいうの」

「お前って何でも正直にずばずば言うよな」

「悪い?」

「ま、どう取るかは人それぞれだろ」


 卯夜はそう言うと、来た理由について訊く。葉月は、その前にお茶くらい出しなさいと言い出した。しょうがなく卯夜はキッチンで緑茶を淹れる。桜餅はないが、ひとまずこれで話くらいはしてくれるのではないだろうか。


「そうね、あんたの淹れるお茶は悪くはないわよ。……こんな評価してあげることなんてめったにないんだから、感謝なさい」

「そうか。で、お前は何を話したいんだ」

「さっきのお店がただのアンティークショップじゃないことくらいは見当がついているでしょう?その正体について話がしたいのよ。あんたにも縁のないことじゃないもの」


 葉月は相も変わらずそんな態度である。暑がりの彼女は勝手に冷房クーラーを強で入れたくせにブランケットを要求するので腹立たしいことこの上ないが、言っても何も変わらないので寒がりの卯夜は卯夜で床暖房を入れて対抗する。が、葉月はソファの上にあぐらをかいて涼しい顔。泣きそうになりながら卯夜は制服の上からパーカーを羽織った。


「まずはそうね、魔法と言って信じられるかしら。まぁ信じてもらえないと困るのだけれど……。まあ、実証したほうが早いわね」


 そう言うと、卯夜が言葉を返す暇もなく葉月は指先にマッチ程度の火を灯した。卯夜は驚いて消そうとするが、葉月はその火の付いた左手でそれを制する。


「まあ、こういった具合に。魔力というものを使って世界に変化を起こすもの。それが魔法。といっても、もちろんだれにでも使えるわけじゃないわ。魔力を多く持つものだけが使えるものよ」

「……その話を俺にする理由は」

「そうね、あんたにその魔力が、妬ましいほど大量にあるからかしら。きっかけが欲しかったのよ、これを話すきっかけがね」


 それから、卯夜は長々と葉月に魔法に関する話をされた。魔法は火、地、闇、時の陰の属性、水、風、光、命の陽の属性の全てで八種類の属性があること、それぞれの属性が使えるかどうかは多く持っている魔力次第であること、魔法陣というものがあってそれを利用することで魔法に使う魔力を減らせること、当然ながら大きな魔法ほど魔力消費が多いこと、特別な魔法は特別な手順が必要だったり特別な人間だけが使えたりすること。その間何度も緑茶のお代わりを要求され、キッチンに置いてある緑茶の茶葉はもうほとんどなくなっていた。

 とにかく荒唐無稽であると切り捨てるには辻褄が合いすぎていて、そもそもの魔力という概念さえあるのであれば筋が通っているその話は、完全記憶能力のおかげで全てを覚えられる卯夜でなければ混乱して半分以上、いやほとんど頭から抜けていただろう。


「はあ……そんなの、信じられないけどな……。そんな魔法なんて、使った記憶も使われた記憶もないし。眠ってる間だったりしなきゃな」

「それが普通の人間の感覚よ。私は生まれたときから魔法のある環境が当たり前だったから違和感を覚えないけど、あんたは事情が違うから当然でしょうね」


 魔法を使えるのは大概家系が決まっていて、その家系は基本的に代々栄えているのだそう。言われてみれば葉月は聖アリス学園星陽本校の学園長である桜木院美月みづきの娘であり、やはりお嬢様であった。卯夜は自分の家系について詮索したことが一切ないし、教えてもらったこともなく普通にただの一般の住宅街で暮らしているから知らないが、遡ってみれば案外どこかの名家だったりするのかもしれなかった。


「まあ、今日は時間も遅いし帰ってあげる。明日の放課後またあんたの家に来るから、逃げるんじゃないわよ。もし逃げる気なら腕組んで一緒に帰ってやるんだから」

「やめてくれよ……。ただでさえ俺有名なんだから、カメラ担いだ馬鹿に追われるような案件を増やさないでくれ」


 卯夜は心底うんざりした様子で言う。葉月は特に気にしている様子はなく、革靴を履いて出ていってしまった。





制服の設定変更に伴い本文の制服に関する表記を変更しました。

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