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私はヒモにはなりません!


「……セイフズって言うのは町の治安と警備を担当する部隊の名称だ。あとは難民の世話、この町は海陽の国境に近いから普人族や土人族、他種族がここになだれ込む」


『へえー、大変っすね。王と違う種族でもその国に生まれて住める。でもやっぱり他の国に住んでる人も同じ種族の王の元で住みたいとかないんですか?』


「それはある。何百年も前はそれぞれの種族だけが住んでいたらしいが、王が亡くなって国を出ていく、がどこでも繰り返されて今の形になった」



 私はゼットさんの話に相槌を打ちながら歩く。私が寝かされていたのはメリル治安部隊の本部だった。その中にある食堂で応急処置をしてくれていたらしい。今はゼットさんにメリルや生活に必要な知識を教えてくれるというので外に出て歩いている。


 私は歩きながらすれ違う人や建物を見る。1mくらいの身長にずんぐりとした体躯、もじゃもじゃの長い髪を持つ者は土人族だとゼットに言われたが、彼らは私が知る言葉だとドワーフではないかと思った。後は同じく人のように見えるがそれは普人族なのだろう、彼らが着ているのは中世の格好によく似ているもので、動きやすそうだった。


 建物は石造りが多く、中々凝った外観をしている。土人族は土いじりや物作りが得意な種族らしい。



「店には大体旗が立てられ、それで判別できる。剣の形をしているのは武器屋、盾は防具屋、瓶は薬屋、樽は酒場、フォークとスプーンは食堂、ランプは宿屋だ」


『セイフズは斜め十字でしたね』


「あぁ、聖十字は教会が使っている。後は……あれだ」



 ゼットさんが指差した方を見る。頑丈そうな大きな建物があり、長方形の旗の中には何枚か重なった札のようなものが描かれている。



「あれはカードギルド。カードを取り仕切る組合で‘カード’は何でも屋を差す。魔物退治から掃除、配達とかの雑用もあるな。住民、町、少ないが国からの依頼をまとめて管理し、カードを取り仕切る」



 カード? それってトランプかもっと違うもの? ちょっと興味ある。私はゼットさんを仰ぎ見る。



『入るには試験的なもんは必要なんですか?』


「特にはない。推薦があれば楽に入れる。あとは魔法適正やある程度の戦闘が可能か、ギルドがいれていいか判断する。……もしかして入りたいのか?」


『そうっすねー、私無一文ですし。働かないと生きてけないっす。つっても店とかで働くとなると身動き取れなさそうで嫌ですし』



 私の目標は自分の家に帰ることだ。どうやって帰ったらいいのか、いつ帰れるのか分かんない現状ではある程度自由に動ける職に就きたい。まずは衣・食・住の確保だ。どうするかと悩んでいる私にゼットさんがしゃがみ込み、顔を覗き込んでくる。キョトンっと首をかしげた私にゼットさんは至極真面目な顔をして言う。



「金なら俺が出す。住む場所を心配しているならセイフズに泊ってもいいとシュースターから言われてるだろう。……サチカがカードになるのはお勧めしない、成人しているからといっても記憶がない今、周りにいる子供よりも生き方を知らないということだ。……【黒い混沌】にやられた傷もある、しばらくは慣れることから始めるのがいい」



 それって完璧なヒモ。ゼットさんに世話になるのは簡単だが全てを任せるなんてのは正直なとこプライドが傷つく。確かに私は人に頼ったり、迷惑かけることが多いがお金関係で人を頼ったことはない。知らないことばかり、慣れないことばかりでもし1人でこの町にいたなら最悪だった。でも私にはゼットさんがいる。助けになってくれると言った彼は言葉の通り私の為に言ってくれてるのだろうということは分かる。でも……、私は目の前の肩に手を置く。



『ゼットさんにそこまでしてもらうわけにはいかないっす。それにカードになれるは分かんねーっすけど、それでも自分で頑張りたいんです。まあ、自分で出来ることなんて少ないし、無一文なんでお金ないっすけど、頑張って働いて返します。ゼットさんには迷惑かけるかもですけど、よろしくお願いしまっす!』


「……」


『よろしくお願いします!』


「……分かった。だが戦闘なんてしたことないんだろう? だとしたら魔法適正だ。調べるのは魔水があればいい、その前に生活に必要なものを買う。その金は俺が出す。それは譲らない」



 ゼットさんは深いため息を吐き、肩に置かれた手を掴んだと思ったらその手を引いて歩き出す。語気が強かったから怒っているのかな、でもとりあえずは私の意見を尊重してくれたらしいゼットさんにほっと一息をつく。だが連れて行かれた先での行動で、彼も同じく引けないことがあったのだと分かった。




数十分後、前を歩くゼットさんの両手にある袋を見て溜息を吐く。そんな私とは裏腹にゼットさんはどこか満足げだ。



『……ゼットさん、買い過ぎっすよ』


「そんなことない。むしろまだまだ買い足りなかったんだが……」


『っ!? いや、マジでこれで十分っすっ。本当にありがとうございましたぁー!』



 ゼットさんの両手にあるのは私の服や靴などの生活品。遠慮して、でも普通に選んでいたはずの私に変わり、5倍近い量をゼットさんが選び直し買ってもらい、荷物まで持って頂いてる。ゼットさんには頭が上がりませんわ。夕暮れ時になっていき、最後に寄ろうとしているのは魔法適正を判別するという魔水を売っている薬屋さん。


 なんでも、薬屋さんには回復薬などの他にも魔石や魔水も売ってるのだとゼットさんが言っていた。後、服屋で教えてもらったのがお金のことだ。パン1つが100Kカートと言っていたから多分それで100円くらいなんだと思う。服の代金が幾らだったかは聞かないで欲しい。だが中々の値段になったと言っておこう。



「ここだな。瓶のマークあるだろう、メリルでは一番の薬師がやっている店だ。爺さん、邪魔する」



 小さな一軒家にたどり着く。普通の家に見えるがゼットさんの後に続いて入ると、すぐに何とも言えない匂いと色鮮やかな液体が入った小瓶と様々な色形をした石が私たちを出迎えた。


 キラキラと光るそれらに目が釘付けになる。カウンターに近づいたゼットさんはその下を覗き込む。するとひょこっと白髪の優しそうなお爺さんが現れた。ゼットさんを見て、次に私に目を向けるとにっこりと笑った。



「いらっしゃい、ゼットさん。それに可愛いお嬢さん。今日は何をお求めかな?」


「爺さん、今日は魔水と……爺さんの助言が欲しい」



 そう言って私に手招きをする。ゼットさんの隣に立ち、お爺さんに頭を下げる。



『こんにちは、サチカと言います。よろしくお願いしますっ』


「はい、こんにちは。私はクリス・ダコタと言います。しがない薬師です。……ゼットさん、助言と言うのはこの子の右腕のことでかい?」


「話が早くて助かる。実はサチカの右腕なんだが、【黒い混沌】の体液を受けた」


「ふむ……、もしも【黒い混沌】の体液を浴びたのが本当だというなら、お嬢さんの腕はとっくに無いはずだが」



 ちょっと待ってくださーいっ。今聞き捨てならないこと言われた気がすんだけど、腕が無いはずって何よ!? 思わず包帯を巻いている右腕を掴み、背中に隠す。ゼットさんが落ちつけと言うようにこっちを見てるけど落ちつけないからね?



「よければ少し見せてくれないかい? 大丈夫、痛いことはしないよ」



 子供に言い聞かせるように優しく言われてしまったら見せるしかないじゃないっすか。おずおずと若干怖がりながら右腕を差しだす。最初は包帯の上から観察し、しばらくすると触っていいかい? と言われる。頷くとゆっくりとしわしわの手が右腕の至る所に這う。



「……痛みはあるかい?」


『んーっとですね、今はないです』


「これを受けた時と後は?」


『受けた時は超痛かったっす。ヘドロが出した黒いので木とか葉っぱが溶けたり、焦げたりしてるの見てたんでヤバいかなって思ったんですけど。んで、気絶して起きたのが右腕に感じる何かが内側に浸み込んでくるような痛みでした。状態は見てないです。ゼットさん達が応急処置してくれてたんで』



 あんまり上手く言葉で表現できない私だったがお爺さんはそうかそうかと聞いてくれる。私の言葉に引き継いでゼットさんが私の腕の状態を話し出す。



「サチカが気絶した後すぐにメリルセイフズに行って応急処置したが、その時は黒い痣のようなものが肘から手首の真中辺りに拳程度の大きさであった。回復薬に解毒薬塗ったりはしたが消えなかった。初めてのケースだが出来る限りのことはしたつもりだったがまだ出来ることがあるならしてやりたい」


「……ふむ、包帯を外しても平気かな?」


『え、うー……』



 お爺さんの問いかけにすぐに答えられない。うーん、と唸っている私にゼットさんが心配したように肩に手を置いて私の顔を覗き込む。正直言ったら見たくないんだよね。なーんか痛みが無くなった代わりに何かが右腕に‘浸透’したような……。


 でもいつかは見なくちゃいけないわけだしねぇー。


 お爺さんに頷いて自分で包帯を解いていくと、段々と肌の色が見えていくけど明らかにそれ以外の色が強い。シュルリ、と包帯がカウンターの上に落ちる。



「……おい、これはなんだっ! サチカ、本当に大丈夫なのか!? っ、爺さん」


「こ…これは」



 嫌な予感的中かよ。内心で呆れ半分、感心半分で溜息をはく。本当にこんな時の予感ってめっちゃ当たるんだよね。6つの目が引き付けるもの、それは私の右腕の黒い刺青のようなもの。とぐろを巻くかのように右肘から手首に描かれた黒い蔓。


 締め付けられたかのような痛みが一瞬走る。まるで逃がさないと言われたみたい。



あなたはどこにも逃げられない、逃がさない。

(You can not run away anywhere,so do not escape.)


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