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私は嘘つきです!

更新遅れてすんません(泣)


 さて、この空気はいつまで続くんだ? 数分は経っただろうか、無言のまま私は答えを待ち続ける。そこまで答えにくいことなのだろうかと思ったけど、そういう設定なのかもしれない。目を反らすことなくゼットさんを見続ける。彼は何度も何度も口を開いたり噤んだりを繰り返すだけ。彼の口から理由を聞きたがったが口を開いたのはラリーさんだった。



「……あなたの言うとおり、王は神から授けられて国を治めていき、不老不死になり死ぬことは普通だったらないだろうと思うかもしれません。でも王を殺す方法がたった1つだけあります。それも簡単な方法で。……どうやら本当に記憶喪失みたいですね。あなたが聞いたのは子供から大人まで、この世界で暮らすものだったら誰でも知っている暗黙の了解なんですよ」



  記憶喪失設定が有効なのは分かった。でも言い方が気になる。死なないのに殺す方法はある、それも簡単な方法。病死とか自分で死ぬすべはないけど誰かによって殺されることは可能ってことか? その誰かってのはもしかして神様? でも自分で選んでおいて殺したりするのか、私のその疑問にラリーさんが答えてくれる。



「……国民が王を殺すのです」


『っ!? ……っ、国民が?』



 一言一言をはっきり言ったラリーさん。その言葉を何度か反芻(はんすう)してやっと何を言われたのか分かった、でも理解は出来ない。思わず目が点になる。だって会って間もないけどこの人達が国と王を大切に思っているのが分かるのに、なのに、なのにどうして王を殺すことになるんだよ。頭が混がらがってくる。


 混乱してきているのに、その原因であるラリーさんは至極無表情で、何の感情もともわない声で話し続ける。



「王が自分の欲に溺れ、国政を重んじず、圧制や悪政をしいた時、国民の不平不満がたまった時に、‘王’としての値にあらずと神が王を殺すのです。神は国民の心を読む。ある日突然王が死ぬなんてこともあるんです。王が不在の国には魔物が溢れ、食物も育たず、民の心は病んでいく……。実際に殺すのは神ですが、殺される理由は国民なのです」


「……どんな圧制にあろうとその国に住生まれた者は国を出ていきません。自分たちの国の王を失うことの方がどんなことよりも苦しく、悲しいです。王が不在でも国を出ていく人はほとんどいません。貧困にあえぎ、魔物の恐怖を受けようと誰かが王になってくれるまで耐え忍び、祈り続けるんです。でも神は……私達が王を殺してしまうんです。私はこの国の生まれでアドルズ王にはとても感謝してますが、やはり自分の種族の王がいて欲しい思ってしまいます。たとえ自国の王ではなくと……」




 リターナさんの声が懺悔にも祈りの声にも聞こえる。どんよりと場の空気が沈む。まるで葬式みたいだ。…こんな空気にしたかったわけじゃないし、悲しませたいわけでもなかったんだけどね。でも正直、なんでこんなになるのかさっぱり分かんない。だってその人が死んでもまた神が選んだ人が王になるんでしょ? ならいいじゃん。ちょっと我慢すればって思うんだけど、この人達の前で言えるわけないよなー。空気を変えるつもりで口を開く。



『……んー、私にはみんながどうしてそんなに思えるのかとか、気持ちが分かるかって言われれば正直わかんないんです。でも、それでもどんだけの想いがあるのかは分かったような気がします。みんなにとって王って親みたいなもんなんすかねっ』


「……え?」


『なんか捨てられちゃった子供みたいな顔してるんすもん。子供が親を慕うのと同じで王を慕ってるんだろうなって思いました! まだまだよく分かんねーすけど』



 設定とか抜きにそれは思う。んでもって普陽の国と海月の国も早く王さまが見つかって欲しいな。笑った私に釣られたのか、少しずつ周りの顔が明るいものに変わる。私の好奇心が暗い空気を生み出したとか罪悪感が半端なかったわ!


しかし1人だけまだ暗い空気の人がいた。どこか虚ろな目をしたゼット。気でも悪くしちゃったかと思ったけど、彼は今私のことなんて視界にも入ってないだろうし、思考にもいないんじゃないかな。何かに想いを馳せているゼットさんに彼の腕の裾を引っ張る。虚ろな目をしたまま私の顔を見る。



「……俺は」


『…私、なーんにも分かんないし、知らないっす』


「……」



 ゼットさんの言葉を遮る。まさか遮られるとは思ってなかったのか、少しだけ目を見開いた彼に片目をつぶって笑いかける。



『だから色んなこと教えてください。知りたいんです。でも頭悪いんで、少しずつにして欲しーなー。あんまり急だと頭パンクしそうっす』



 後ろ頭を叩きながら言う。正直に言えば、ゼットさんの言おうとしていただろうことをすぐにでも知りたい。でも会ったばかりの人間に自分のことをべらべら話せるかって言ったらはノーだ。今だって名前すら言ってないし、真実も語ってない。そんな私がゼットさんの話を聞いていいわけないじゃないか。


 助けてくれた恩人に親身になってくれた人に嘘をついたことの罪悪感が先程までのことでより一層酷く胸を締め付ける。必死に「ドッキリ番組だから」「設定だから」と自分に言う。それでも今はゼットの話を聞かない。でも設定だろうがなんだろうが、今私目の前にいるあんたのことが知りたい。そんな気持ちで、彼を仰ぎ見る。


 虚ろだったはずの目に、きらりと綺麗な橙色の光が灯った。ふうっと大きなため息を吐いて、ゼットさんは苦笑いする。ゆっくりと右手が差しだされる。



「俺で良ければ。…俺の名はゼット・S・レミアム。お前は?」



 やっとか、名前に行きつくまでに結構かかったね。そんな気持ちがわき出てくる。私は左手を差しだし、ぎゅっとその手を握る。そして大きな声で、自分の名前を言った。



『私は幸架です! 幸南雲 幸架。ユキナグモが名字でサチカが名前です。んでもって性別は女で20歳ですっ!』


「……む?」


「いうっ!?」


「え?」


「「「「おおっ!?」



 見事な連携だった。上からゼットさん、リターナさん、ラリーさん、その他の人が一斉に私を見て驚きの顔を見せている。にこにこしている私と裏腹に手を握ってるゼットさんが固まった。


 ちょっとばっかしシリアスシーンみたいなの入っちゃったけど忘れてませんよー、ぜーんぜーんちっともこれっぽっちも忘れていませんからねー。



 起きてすぐにゼットさんが私に向けて言った言葉がこれだ。



「……大丈夫か? 足の怪我は回復薬で治ったが、【黒い混沌】の体液を受けた右腕は回復薬では直らない。治癒魔法や解呪魔法でもしてやりたいところだが、こんな国境近くの小さい町ではそんな高等なもの使える者もいない。だが普通だったらこれだけじゃ済まない。 坊主は運が良い」




 分かるだろうか、皆さん。最後の一言にご注目ください。「坊主は運がいい」、これだ。

 坊主って言うのは子供にそれも男の子に使う名称だ。お分かりいただけただろうか、ゼットさん、私のこと子供の男の子って思っていたのだ!


 そりゃあさっ、自分でもラフな格好で出てきて半袖半ズボンだよ? でもって子供みたいなぷっくりとした顔してるって言われるし、お嬢ちゃん? それとも僕? って、聞かれることも多々あるけども、私はれっきとした大人の女なのであるっ。勘違いされたままなのは流石に傷付くよ。


 ちょっとした意趣返しでカミングアウトしてみたが、返ってきた反応は中々の物だった。周りもゼットさんのように子供の男の子って勘違いしてたみたいってことがわかって、余計に複雑だったが。



 少しだけ握る手に力を込めて、にっこりとゼットさんにほほ笑む。釣られたようにゼットさんも片方だけ口角をあげた。顔が引きつってるぞ。



『ゼットさん、こういうときってどうすればいいんですかね。中々の大人で女なのに、子供の男の子に間違えられたって。記憶喪失で分からないわー、どうすればいいんだろー。傷付いたような気もするしー、女としてのプライドがなー。アンニュイだなー』


「……っすまなかった!」



 大きな体を綺麗に上半身を90度曲げて謝罪したゼットさん。ふんっと顔を横に向け、彼の姿を見ないようにする。表情をほんの少しだけ変えて、慌てたように何度も謝ってくるゼットさんに私はくすりと気付かれないように笑った。それは自嘲的な笑みだったかもしれない。


 ゼットさんよりも私の方が言わなくてはならないことの方が多いのかもしれないのに、ごまかしてしまう私は臆病で卑怯だ。



本当のことも言えず、嘘をつくしかない臆病な私をどうか許して。

(It can not be said truth,timid no choice but to lie me whether to forgive.)


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