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私はお勉強中です!


「……何をしているんです、ゼット様」


「見たら分かるだろう、食べさせている」


「……」



 ちょいちょい、そこで無言で頭抱えるのはやめましょうーぜ、眼鏡に茶色の髪の優しそうな中年のおっさん。出て行った緑の女性、リターナさんと一緒に来たってことはこの人が隊長さんか。もっとごっつい人が来るのかなって思ったけど予想が外れちゃったなー、なんか苦労してそう。


 ゼットさんから差しだされた果物を口いっぱいに頬張っている私はもきゅもきゅという音をさせながら三者を見る。リターナは少しそわそわしながらこっちをみてるけど、羨ましいのか? だがこの食べ物は私のものだ!!


 

 眼鏡隊長が呆れたように溜息を吐くが、ゼットさんは気にせずに私の汚れているらしい口を拭いてくれている。中々の面倒見の良さだ。ついついされるがままになってしまう。

どうやら眼鏡隊長はゼットさんのことは諦めたようで今度は私に目を向けていた。



「どうも、元気そうでよかったです。私はこのメリル治安部隊(セイフズ)の隊長をしています、ラリー・シュースターです」


『メリルにセイフズ?』



 メリルはこの町のことかな? 右手を出そうとして痛みを感じ、慌てて左手を出し握手する。なんだか右腕めっちゃ見られてんだけど何かなー? ヘドロに当てられた直後からは包帯巻かれてるし見てない、見るのちょっと怖す。んでもってそろそろ、手離してくれませんかね?


 

 中々離さない手になんだろうと思い始めたが、横からゼットさんがラリーさんの手を掴んで引き離したためにやっと手が解放された。私が口を開く前にゼットさんがラリーさんとの間に割り込んできた。



「シュースターよ、この者どうやら記憶がないようだ。自分の名前以外何にも分からず、セイフズが何かここがどこだかも分からない。……下手すれば常識も何にも知らないかもしれぬし、……魔毒の森(ポイゼスト)に捨てられたのかもしれない」



 深刻そうなゼットさんの声色。え、何言っちゃってんすか? 私捨てられたって一言もそんなこと言ってないよねっ。あれれ、なんだか実際の状況と全く関係ない方向に向かってるけど番組の設定がそういうことなの? ……ゼットさん、そんな簡単に人信じちゃダメでしょっ。ちょっと罪悪感が……。罪悪感で目が定まっていない私を置いて勝手に話が進む。



「見ればわかるがここら辺では、いやこの7の国では珍しい顔立ちだ。奴隷商人が森を抜ける時にこの者を餌にして逃げたという可能性が高い」


「…それは、しかし。……ゼット様の言うように、それならあり得るかもしれません。その奴隷商人は?」


「どこなんて言うまでもないだろう。ふん、好き勝手しおってよ。いくら王が不在だからとこのままでは、あの国はいつまで経っても変われはしない。どこまで堕ちることになるのか…」



 一瞬、ゼットさんの顔が歪む。悲しそうでやり切れなさを伴ったその顔にラリーさんやリターナさんが心配そうにしていた。なんだか私場違いっぽいんですけどー、それに脳内大変なことになってますよー。だってゼットさんの話信じちゃったみたいだけど、一言いいだろうか。……私奴隷じゃないよ!? 餌にされてないよ!? 周りの憐みの目が痛かった。


 どうしよっかなー、もうこのままでいいっか。食べ物貰っちゃったし、怪我の手当てしてもらったしと面倒くさいからこのまま設定は放置と言うことでいこうと決めた時、ラリーさんが話しかけてきた。



「記憶がある所まででいいので、辛いかもしれませんけど話していただけませんか?」



 やっと私の出番ですかー。注目浴びちゃってちょっと緊張。話す内容はまあ、設定を大事に行こう。



『えーとですね、目が覚めたら目に悪い森の中、人を探して歩いたらヘドロに遭遇、求愛される、逃げる、熱烈な体液アタック。イケメーンのゼットさんに抱きとめられ、真っ暗。起きたらご飯旨すー! って、ところですかね』



 端的にまとめてみましたよ。偉い偉いという風にゼットさんが頭を撫でてくる。ラリーさんは引きつりながらも何度か私の話に相槌をついていた。



「そうですね、どうやら怪我以上に大変な目にあっていたようですね。ここは土人族ロン・アドルズ王が治める土月の国にあるメリルという町です。ここまでで何か質問は?」



 質問だと? 全てだ! 最初っから説明してくれない? それかカンペくださーい。

 私の表情を見てラリーさんはリターナさんに紙をと言った。すぐに紙とペンが用意されていいですかという風にラリーさんが顔を覗き込んできた。それに頷き、その手元を見る。おそらく描かれているのは地図らしいが、見たこともないような形だった。


 真中に十字、そこから東西南北に書かれた太陽のような形が4つ、北東・東南・南西・西北と三日月の形が同じく4つが描かれる。北の方から時計周りに数字が書かれる。12345678とそれぞれに割り振られる。 なるほど、7っていうのはこのことか。というか、数字が国名ってどうよ。もうちょっと考えてあげよーよ。

 ラリーさんが7の書かれた場所を叩く。



「ここが7の国です。メリルはちょうど8の国境近くですかね。7.8って呼び方は大雑把に言ってますが、その他には1は竜陽の国、2は空月の国、3は森陽の国、4は鬼月の国、5は普陽の国、6は獣月の国、7は土陽の国、8を海月の国とも呼んでますね。」


「数字で言うのは面倒だからというのがある。例えば竜月の国は竜人族が治める国の略称だ」


『ほーお、なるほど。7は土月の国で、治めてるのは土人族のなんとかさんっすね。それぞれの種族だけが住んでるんとかはないんですか?』


「いいえ? 確かにその種族が多く住んでますが、他種族も勿論生まれますし、移住は可能です。でも、よっぽどのことがない限り移住しません。生まれた国に愛着が強いですから。種族は竜の力を宿らせた強靭な竜人(ドラコニアン)族。翼を持った自由な空人(スカイアン)族。森の狩人で気高い森人(フォレ二アン)族。魔の力を引く凶暴な鬼人(デイモニアン)族。全ての魔法の適正を持つ真面目な普人(ワイダリアン)族。獣の血を引く強大な獣人(ビースティニアン)族。大地と共に生きる器用な土人(ソイリアン)族。海と共に生きる希少な海人(シーニアン)族。計8つの種族がいます」



 なんか思ってたのと違うな。普通ならその種族だけが住むんじゃないのか? だって種族で生活とか文化って違いそうじゃん。価値観も違いそうだけど、何とかなるもんなのかと疑問には思う。種族に関しては分かるのは獣人と竜人だけかな。あとは想像で色々なのが浮かんできて頭がごちゃごちゃになってしまう。一度リセットーっ!

 とりあえずここにいる人達はただの人っぽいし。8つの国に8つの種族。分かりやすいっちゃー分かりやすいけど。



(キング)って言ってましたけど、その国の王って国名にある種族の者しかなれないんすか?』


「はい。この国で言えば、今代のアドルズ王は465年と治めています」


『ふぁっ? 465年って凄くないっすか。長生きな種族なんですね』



 凄いわーっと感心していると3人が首をかしげる。あれ、違うの? 世襲制で代々アドルズさんっていう人が治めてるとかそういうのでその年数とか? と思っていたのに衝撃的な言葉がラリーさんから出てきた。



「土人族の種族の寿命は大体200歳くらいですかね。そもそも種族と関係なく、王は王になった時点で不老不死になるので」


『はっ?』



 なんじゃそりゃっ。王は不老不死って何? 不老不死なんてなれるもんなの? 何当たり前みたいに言っちゃってくれてんすかっ。ヤバいぞー、全然設定が知ってる異世界もんと違くて困るんですけど、ハードだわぁー。



『王さまになるとみんなそうなるんですか?』


「ええ、王とは神から神命を受けてなるものです。そもそも国を治めるのに寿命で何度も変わるなんてしたら大変でしょう? まあ、王の他にも不老不死になれる存在もいますけど」


「今、王がいないのは5と8だけだ。海人族は100年くらい王がいなく、普人族の王は…20年程その座についていない。そうでなくとも普人族の王は他の種族の王よりも代替わりが激しい。ここ何代かは3年持てば良い方だからな」



 マジでー、なんかすっげーな。それなら1人で465年は治められるか。でも私だったらそんなに務めるなんて面倒くさそう、疲れそう、大変そうの3拍子だから絶対無理だな。ん、あれ? それじゃあ……、と疑問に思ったことを素直に口に出す。



『でも、王は神さんが決めて、でもって不老不死にしてくれるんっすよね。……じゃあ、‘なんで国に王がいない’なんてことがあるんですか?』



 ピシリと場の空気が固まったのがすぐに分かった。ラリーさんは笑顔のまま固まり、リターナさんはあわあわと慌て、ゼットさんの顔がさっきの比じゃないくらい悲痛なものに変わった。3人の他にもその場にいた全員が何とも言えない表情をしている。どうやら自分は地雷を踏んでしまったようだと悟る。


 今までの会話の内容と様子から見て、この国、いやこの世界にとって、‘国と王’ってのはすっごく大切で重要なんじゃないかな?聞かない方が良かったのか、それとも話を反らすか。


 だが私は両方ともしない。少なからずゼットさんに恩を感じており、その恩人が気にしていることを知りたいっていう興味となぜか知らなくてはいけないんじゃないのかという気持ちが出てきたからだ。



知らないということは罪だ。だから教えて、全てを。(That I do not know’s sin.So tell me,everything.)



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