私はモテモテ!
『いーやっふー、おーはようごーざいまーす! ……1人で挨拶するってなんかバカっぽいよね』
テンション高めの挨拶したらが周りには誰もおらず、何だかバカらしくてテンション下がっちゃった。 私は起きた時の寝転がったままだけどテンションの浮き沈みが激しいのはしょうがないことじゃないかといい訳じみたことを思ってます。お腹が突貫工事→壁ドン連鎖→食べ物を探して三千里→穴ポチャのコンボ技だったはずだがnew自然溢れる森の中フウウッ! だったのだから見逃してほしい。
穴に落ちたら普通は土の中とか思うじゃん? 寝る前の最悪の結果にはならなくてよかったけどさ、でもなんで私は外にいるんでしょうねっ。それも森の中……、森の中って言って良いのか悩むとこだけどね。だって植物の色が紫とか赤とか青とかなんだよ。目に痛いっす。
上半身を起こし、胡坐をかくと周囲を見渡す。人の気配はなく、何となく動物らしき鳴き声は聞こえたところで、とりあえずは人を探してみようかなっ。立ち上がってどっちの方向に行こうか迷ったが、ちょうど木の棒があったからそれが倒れた方向に行くか。
棒が倒れたのは右だったので右へと歩き出す。肌に伝わる空気の熱さになんか熱帯地域みたいだで、木とか植物が見たこともないような形をしている。地面に生えてる草だってなんだか強い。ちょっと葉っぱが掠っただけで私の足に傷が出来る。痛いわー、半ズボンとか止めておけばよかったと後悔しながらもひたすら足を動かし続けた。
『へへーい、私は絶賛迷子中ですよー。足が痛いよー』
歩きながらほんの少し、鉄の匂いが鼻孔をくすぐっていた。これで動物が近づいてこなきゃいいけど……、と思ってるとガサガサと草を掻き分ける音が近づいて来る。マジかー、フラグ立てちゃった系?
じりじりと後ろに後退していくと‘それ’は現れた。私よりも一回りほどの大きさに黒く、ドロドロとしたヘドロの塊のようなもの。
〈ジュルル……〉
不思議な音がした。何かを啜るような音と共に腐敗臭が急に辺りを支配する。それが通ってきた道に生えていた草はグジュグジュに溶けている。背中に汗が流れながらも頭ではこれは生き物に入るのか、と思ってしまう。思うよね? 疑問に思っちゃうのは私だけじゃねいよね。少し上の辺りに灰色の丸いものが二つあって、ギョロギョロと忙しなく動き、次第にそれが自分に一身に向けられ始めたような気がする。
それがゆっくりと自分に向かってズルズルと近づいてくる。嫌な予感がするので逃げますよー。ダッシュ! と歩いて来た方へと全力で走る。
ズルズルする音が追ってくる。なんで追ってくるんすか、一目会った瞬間に惚れちゃって、ストーカーになっちゃったんですか!? 一番良くないパティーンだよ。嬉しくないからな! 脳内でツッコミを入れながら走っていたが、あまりの不思議さに思わず後ろを振り返って叫ぶ。
『というか、お前さんは何科の生物なんですかっ。軟体生物? アメーバの一種ですか? すいませんが、哺乳類の人科の雄で好みのタイプの方としかお付き合いしてはいけませんってお母様に言われてるんで!』
と、遠回しなお断りをしてみたつもりだったが、ヘドロは聞き入れるはずもなく、むしろ追うスピードが速くなり、後ろからの耳に何か風を切る音がした。黒いものが私の2m程前の木にぶつかったかと思ったら、ジュウッと音をたててヘドロが付いた葉っぱが溶け、木の表面にも焦げ跡が残る。
……ヤバいんですけどーっ。溶けて焦げてんですけどー、匂い的に硝酸っぽいけどまじでそんなもん吐いちゃってるの。何気にハイスペックでキュン。
っと、ふざけてみたが草がより足を傷つけ、先程の比じゃないくらいの痛みを感じる。あれに捕まったら絶対によくない、それだけは分かる。だからこそ、走る足を止められない。どれくらい走ったのか、段々と鬱蒼と生い茂っていた木が少なくなって、視界が開けていく。
光が差し込む方へと走って飛び込むと、さあっと身体中に風が当たった。
『……なに、これ』
自分の乱れる呼吸音と心臓の音が大きくなり、徐々に歩みが遅くなる。私の目に飛び込んできたのは黄土色の土に少しだけ舗装された道、その道を辿っていくと大きな灰色の壁にいきついた。丘のようになっているらしい私の場所から塀の中に様子も見えた。たくさんの建物が立ち並び、人がいるのもわかる。
〈……ジュウリリュ〉
はっと意識を前から後ろに向けたがその時には遅かった。振り返り、数m先からまたヘドロが私へと何かを飛ばした。反射的に右腕を顔の前に出すと、痛み共にジュウッという音と肉が焼ける匂いがする。
『っあぁ``! いっ……ってーじゃねーかっ』
突き刺すような痛みに目の奥がチカチカと点滅する。痛みが治まらない右腕を押さえながらも足を動かし塀の方へとまた走り出す。道の方には人や馬車らしきものが見えているが巻き込むわけにはいかないとそちらにあまりよらないように塀にある門の方へと向かうがヘドロは私にしか興味が無いかのように真っ直ぐに向かっていっている。通り過ぎるたびに誰かの叫び声が響く。
目指している門に近づくと、甲冑を着て槍らしきものを持った人達がこっちを指差し、門の中へと何かを叫んでいる。
『はあっ! はあっ……』
「……い、おいもうちょっとだ。頑張れっ」
甲冑を着た1人が必死に手招きをし、叫ぶ。自分に向けられているだろう声に私は後少し、後少しだと必死に足を動かし、ついに正面から走ってきている何十人もの甲冑の人達の中へと飛び込んだ。
『はぁっ、はぁっ! ……っ、もーう無理』
「おい、大丈夫か!?」
「っ、【黒い混沌】だ! ――を呼んでくれっ。周りのものに被害が出ないように警戒するんだっ。決して近づくな」
周りがうるさい。もう走んなくていい? っても、もう走る気力なんてないよ。よろよろと数歩歩くと、地面に大きな影が映りこんできた。顔を上げてその影の持ち主を見る。……でっけー、でっかいよー。
「……森の主がなぜいる」
赤茶の短い髪に橙色の目。30代くらいだろうか、真面目そうで厳格そうな雰囲気とマッチした男らしい顔に低く重みのある声。その前に、身体が人間離れしていて、こんなにでっかい人見たことない。筋肉もめっちゃムキムキだし、腕なんて私の腕の3倍はあるんじゃないの? 男が2mはあるだろう銀の大剣を肩に担ぎ、鋭い眼光をヘドロに向けている。彼が持つ剣は厚みがあって中々の重さがありそうなのに軽々と片手で持っていた。ある意味怖い。
そんなこと思いながらも中々止まらない足で段々とある意味ヘドロよりもある意味怖い男に近づいて行ってしまう。後数歩でぶつかってしまいそうな所でヘドロから視線を移した橙色の目と視線が交わる。あまり表情は変わらなかったけどほんの少しだけ目を見開いてたから驚いたのかな。
目が合って自分の足ががくんと力が抜けた。やばいと思ったけど疲れた身体は思うように動かない。うわー顔面からとか痛そうと、来るであろう痛みに目をつぶった。地面に顔面寸前、固いものに抱きとめられる。あーよかった、もう痛いことなんてやだわ。自分を抱きとめるひと肌の暖かさとがっしりとした腕に安心を覚えた所で、瞼が接着剤でくっついてしまったかのように開かなくなった。身体も動かない。重く低い声を掛けられるが私はもう疲れちゃったんで、もう意識飛ばさせていただきます。
最後にこんな偉丈夫さんに抱きとめられるとか、ラッキーとか思った私は悪くない。
(?視点)
目の前にいる者の身体の力がふっと抜けたのを感じ、俺はそのまま地面にぶつかる前に両手で受け止める。頭から足先までじっくりと観察する。見たこともないような衣服を身につけ、ここら辺では見ない顔の造形に髪の色。少年とも少女ともいえる幼さが残るふっくらとした顔つきに、夜の海を移しだしたかのような色の髪、その夜の海に星を散らばせたかのような瞳は瞬きを許さない何かがあった。そして全体的に小さい身体、むき出しの白く滑らかな肌。足には多くの切り傷、右腕は焦げたような跡。これよりも酷い怪我を見た事があるはずなのに、なぜだか酷く痛々しく見える。
「……気絶したか?」
自分でも驚くほど低く小さな声で呟く。頬をそっと撫でてみるが、目を閉じたまますうすうと寝息をたて、撫でた指にひそかにすり寄ってきたのを見て、少しだけ自分の心臓が跳ねた。
「…ット様! ゼット様、【黒い混沌】が森に帰って行きますっ。どうしましょう」
自分に向けられた声にハッと意識を戻す。すると言葉の通り、黒い塊が森の方へと動いている。まるでもう興味がなくなったかのような【黒い混沌】の不可解さに眉をしかめたがこれはこれで幸運なのだ。俺は腕にいる身体を抱き上げ、周りに言った。
「……放っておけ。どうやらもう危害を加える気は無いらしい。下手に闘っても被害が多くなる。お前たちはもう少し道を見張っていろ」
「分かりました! ……その子はいかがしますか?」
「……セイフズに連れていく。この者には話を聞かねばならんからな」
「畏まりました。お疲れ様です!」
報告をしてくれた者に背を向け、門の方へと歩く。腕の中にいる者は未だに気付かない。軽く、柔らかい身体と抱えている自分の腕を見比べ、慎重に抱きかかえる。そして足早に足を動かした。傷の手当てを、そして自分の腕にいる者が誰なのか知りたい。久しく感じることのなかった心臓の鼓動が肌を突き破って出てきてしまうのではないかというほど大きく高鳴った。
はじめまして、異物。混沌のせかいへようこそ。(Nice to meet you,foreign matter.Welcome to the chaos of the world.)