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お口がチャックな私


『中々おっきいっすねー』



レンガ造りで高校の体育館と同じくらいの大きさの建物の屋根に重ねられたカード旗が風に揺られる。中から聞こえる声と密かに香るお酒の匂い。門のような木の扉にさっきから入ったり出たりしている人たちは武装してて体格もいい人が多いね。



「……サチカ、さっき俺が言ったことは覚えてるな」


『はい!』



 腕を組んだゼットさんに敬礼してカードギルドに着くまでに言われた注意事項を言っていく。



「1つ」


『1ーつ、ゼットさんの傍から絶対に離れないことー』


「2つ」


『2-つ、ゼットさんが話していいと言った人以外と話さないことー』


「3つ」


『3-つ、自分の情報を話さないことー』


「4つ」


『4ーつ、何を言われようと気にしないことー』


「……よし、ちゃんと守れるな。俺から離れるな」


『はいっ! ゼットさんの後ろにピッタリくっついてます』



 ゼットさんは約束した4ヶ条を言い終わった私に満足げに笑った。何度も何度も言われちゃったから覚えてますよー。心配し過ぎかなって所もあるけど、ゼットさんが言うんだから守った方がいいんだろうなーって思う。カードの人達はセイフズの皆と違うから彼らと同じように接しちゃダメだとまで言われた。カードになる人達はお金の為、自分の力を見せつける又は力の発散の為だったりして、ギルドで管理もしてるんだけど基本は自由だから粗暴で荒くれ者が集まるんだって。中にはまともな人もいるけど。



 訳ありや犯罪者だろうと登録は可能だからって聞いた時はちょっと怖かった。セイフズの皆は統制や規律も取れてて、人として良い人ばっかだからなー。ゼットさんは真面目だからそういうのも登録させるカードギルドが好きじゃないんじゃないのかなって話を聞いてて思った。



 それにカードに登録したばかりの初心者を勧誘して身ぐるみ剥がしたり、置いてっちゃったりするなんていう酷い人達もいて、特に女の子は1人になったらと思うと……。と言ってから私と目が合い、そのことを想像したのかめっちゃ目が怖くなってたよ。



 だからゼットさんは自分から絶対に離れるなっていうことでこんな注意事項を決めたの。

 私もそれを聞かされたら怖くなっちゃうよ、ゼットさんの背中にぴったりと重なっちゃうのも仕方ないことだよ。ゼットさんの大きな体で私を隠して下さい。私は今からゼットさんの影になるっ。



「くく、……しっかりくっついてるんだぞ」


『はーい、レッツゴー』




 ゼットさんが門みたいな木の扉を開く。ほのかだった声や香りがぶわっと襲いかかってくる。こつんっとゼットさんの靴音が大きく響く。さっきまで話し声がしてたのに今は全くないからだ。気になってゼットさんの背中から周りを見渡す。ギルドの中は木で出来ていて、丸テーブルが幾つか置かれてる側で色んな風貌の人達が樽ジョッキを持ってたり、テーブルの上にある食べ物を食べてたり、立って話してたりとかしてるけど今は一様にある行為で統一されてる。


 ゼットさんがゆっくり真っ直ぐと進む中、それと同じくゼットさんを見つめる目も動く。ちょー注目されてるんですけどー、めっちゃ見られてるんだけどー。でも視線を浴びてる本人は全く意に介せずなんだよね。



 ゼットさんが止まったんでわきの下に潜り込んで前を見るとカウンターテーブルに茶色のショートカットに谷間が見えてるエプロン型のワンピースを着た可愛い女の人が引きつった顔で笑う。



「い、いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうかっ」


「……カードに登録したい」


「えっ!? 本当ですかっ……!!」



 お姉さんの驚きの声と一瞬遅れて起こった喧騒にびくりと身を引き攣らせる。さっきまで静かだったじゃんっ、そんなに一斉に声出さなくても。思わずギュッとゼットさんの背中にしがみ付くと上からこっちに視線を向けてくる。


 目が合うと密かに細められる。視線だけでゼットさんが大丈夫か? と問いかけてきたのが分かった。それに苦笑いで返すと、眉間を寄せて顔をぐるっと周りに向けた。



「……うるさい、黙れ」



 また静寂。聞いたこともないような低い声にはありありと怒気を込め、目も冷たい光で爛々としている。周りの引き攣ったような顔と反らされた目に驚きっ。非難するような目を最初に驚きの声を上げたお姉さんに向けてるけど怯えちゃってるから、やめましょっ。



 背中の服を引っ張ってゼットさんを向けさせようとする。すぐにこちらに向けられた目はお姉さんに向けられた目と全然違くていつものゼットさんだ。



『ゼットさん、平気っすから話し進めましょうよ。ね?』


「そうだな。……登録するのは俺とここにいる者だ」


「かっ、かしこまりました。先程は申し訳ありません、すぐに担当の者を呼んできます」



 はっとお辞儀したお姉さんは奥の扉にと消えていく。お姉さんがやってくれるんじゃないの? ゼットさんはため息を吐いて私を前に出してカウンターに供えられた椅子に座らせると自分は私のすぐ後ろに立ったまま。小声でこっそりと話す。



『ゼットさん、座らなくていいんすか?』


「大丈夫だからサチカは座ってろ。……さっきは驚いたか?」


『……うっす、ちょいというか大分驚きました。ゼットさんって本当にカードに入って良いんですか? もしなら私だけでも……』


「ダメだ」



 間髪いれずにダメが出ました。見上げたままの私に指先でちょんっと優しく鼻を摘む。



『むむっ』


「……気付いてると思うが、俺はある程度名を知られてる。理由は多々あるが、カードになるとは思われてないことからあの驚きだったのだろう。……小さいな」



 ゼットさん、まずは鼻から手をどかしてくれません? 後、小声だけど小さいって言ったのもろ聞こえたからね? 摘むだけだった指先が鼻先を伸ばすように摩っていく。心なしか楽しそうなので止めずにいると奥から扉が開く音がした。そちらを2人で見るとさっきのお姉さんと私と1mくらいしか身長ないのにボッキュンボンのダイナマイトボディをお持ちになっている女性。



「これはこれはレミアス様、ようこそカードギルドに。歓迎いたしますわ」


「……ふん」



 ウィンクした女性にゼットさんは嫌そうに顰める。すっげーな、こんなダイナマイトボディの美人さんにウィンクされてんのに嫌そうにするなんて。周りの人達はもう目がハートになってんのに。というかこの人、普人族? でも身長的には土人族の人?



 主に胸に視線を注ぐ私にやっと気付いた女性はじろじろ私を値踏みするように見た後、鼻で笑った。うわー、鼻で笑っちゃいます? でもこんだけの美人じゃ仕方ないか。



「本日はカードに登録していただけるとのことですが、こちらのお嬢さんもですか?」



 私の前に座りながら腕を組み、胸を強調しながらゼットさんに上目づかいをする。ゼットさんが頷く。



「そうだ。早く手続きをして欲しい」


「これは申し訳ありません。ではこちらに必要事項が書かれているのでお書きして頂けますか?」



 紙と羽ペン? を渡される。名前、種族、武器、魔法と他にもいっぱい区切られた欄に書けばいいのかな? 書きこもうとして受け取ろうとしたけど、両肩の後ろからすっと手が伸びてくる。トンっと背中に何かが当たり、上を見るとゼットさんの顎が見える。後ろから私の方を通り抜けて両手をテーブルに付け、紙を読んでるらしい。



 背中から伝わるセットさんの温度、あったけー。紙に書き込みだした様子からゼットさんが私の分まで書いてくれるらしい。ゼットさんの胸にもたれながら書きこんでいく様子を見る。



ゼット・S・レミアム 普人族 剣 火

サチカ・ユキナグモ 普人族 剣 水



 そこまで書いて差しだしてしまうゼットさん。え、そんだけでいいの? 受け取ったダイナマイトボディさんも受け付けのお姉さんも笑ってるけど目は笑ってないよ、特にダイナマイトボディさんの私を見る目が痛いっ。さっき、特に私がゼットさんにもたれかかった時からだ。



「……失礼ですがレミアム様はこのまますぐにカードの方に登録可能ですが、お連れのユキナグモ様に関しては質問させていただいてもよろしいですか?」



 ダイナマイトボディさんが未だ目が笑ってない状態でほほ笑みを浮かべながら私を見てくる。



「ご紹介が遅れました、私はここメリルカードギルド支部ギルド長のマカルタ・М・マリードと言います。お見知りおきを……」


『……あ』


「前置きはいい、サチカに聞きたいこととは?」



 おっと、口を紡ぐ。こちらも挨拶しようとしたらすぐにゼットさんの声が被った。これは話すなと言うことですね、了解っす。でもダイナマイトボディ……、もう長いからマリードさんでいいやが、睨んでくるんすけどー。




黙れ。背中から感じる息遣いが聞こえないだろう。

(Shut up.I wonder not hear the breathing feel from the back.)


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