ひとつに
このサイトでは初です。
他のサイトで長編で書こうと失敗したやつを短編で書いただけ
あぁ、僕はこの瞬間ために生きてきたんだ。
少年は思った、目の前のバケモノを見て涙を流した。
少年の黒い瞳には人の形をしたバケモノが写っていた。しかし、少年にはそのバケモノがとても美しいものに見えていた。
ところどころに鱗が見える顔も、大きな爪に硬い筋肉を柔らかい毛で覆われた腕も、火傷のような大きな跡に剣で付けられたような傷など沢山の傷跡が残っている体も
少年にはない全ての特徴、そこに焦がれた。
周りにはもう村の大人たちが取り囲んでいる。この飢えたバケモノに自分という存在を知って欲しくて、1ヶ月間密かに通ったこの森は火の海となっていた。
目の前のバケモノはいつも飢えていた。
食べ物に、血に、愛に。
少年がバケモノのところに通った1ヶ月間、バケモノにとってはひたすら耐え続けた1ヶ月間であった。
その中で、バケモノは彼の優しさに、彼の暖かさに惹かれてしまった。
自分と同じ人型で食べ物、とても美味しそうな肉。
しかし、どんなに美味しそうでも食べることができなかった。ウサギや鹿、自分を殺そうとする人間なら簡単に食べることができた。
生きるため、死なないため、バケモノはひたすら殺していた。
少年が来るまでは…
少年は、たまたま森で迷子になり、偶然バケモノと遭遇し、一目見たその瞬間にバケモノに惹かれた。
バケモノの左目が宿す冷たさに、潰れていた右目の悲惨さに、そしてなによりバケモノを纏う寂しさに。
だから少年は通い続けた。誰にもバレないように…
しかしそれも今日で終わり、村の大人にバレ、武装した大人に森を焼かれ囲まる。
秘密の時間もこれで最後。村人が警戒しながら近づく音を聞きながら、少年は最後にバケモノに願った。それはバケモノにとってとても悲しい少年の我儘。
「どうか僕を食べてください。体力の少ない僕が君と逃げたって足手まといになるだけだ。ここで暮らしていた君には悪いことをしちゃったなぁ…
それでも僕は君と一緒に居たかった。君の事が好きだから。どうせ離れ離れになるのなら君に食べられてしまいたい。そしたら僕は君と1つになれるから。」
少年は知っていた。バケモノが空腹だったことを、彼にとってこの一ヶ月間はとても辛かっただろうことも。
少年は、そっとバケモノの右目に口付けた。
バケモノは動揺していた。1ヶ月間愛した人に食べてくれと頼まれることに。そして、今まで抑えてきた理性という名の鎖が一気に砕ける音がした。
泣きながらバケモノは少年の血に染まっていた。
気づいたら愛する人はもういない。自分の胃の中へと入ってしまった。
少年が痛みに顔を歪めたことも気づかないぐらい我を失っていた。
「あああああああああああああああああああああ」
気づいたらバケモノは叫んでいた。とても悲痛な叫び声、その叫び声を聞いた村人たちは恐怖で足を竦めた。目の前で人間を食べて見せたバケモノは次は誰を食べるのか。
ある青年が恐怖と混乱でバケモノに向けて銃をうった。その弾は見事にバケモノの心の臓に当たる。
きっと逃げんことも出来ただろうにバケモノは、わざと弾にあたったのだ。
さすがのバケモノも倒れた。
「我は…愛してる。」
倒れながら涙を流したバケモノは呟いた。
それは掠れたとても小さな声、しかし左目から涙を流すバケモノの強い強い愛の言葉。
少年へ向けたバケモノからの告白。
バケモノは自分の体を抱きしめて眠りについた。
まるで腕に誰かがいるように、危険からその誰かを守るように強く優しく抱きしめた。
そこは深い深い森の奥少年とバケモノは、そこでひとつになったとさ。
読んでくださった方々どうもありがとうございました!