第一話 迷宮主にな・・れません
某日某所某中学校 三年A教室
「本当に役割をこなすか、死ぬかするとこの世界に返してくれるんですよね?」
「はい、のちに指定される役割をこなす、または死ぬか。
どちらかの条件を満たした場合に現在の世界に返すことを約束いたします」
俺は今、夢の中で異世界にスカウトされている。
その相手は整った容姿ながら無機質な雰囲気の女性だ。本人曰く彼女はプログラムで、ある程度嫌悪感がないような容姿を設定されているらしい。でも正直なところ、意思?が感じられなくて違和感が強い。
スカウト内容は、違う世界で魔物の王である迷宮主になること。強制はせず、断ることも可能と言う。
候補者は毎回プログラムにより素質が高い者の中からランダムで選ばれ、今回はたまたま俺なだけ。
俺にはほぼ関係ないが、一定以上歳をとっていると向こうに連れて行けないそうだ。
迷宮主とは自身の拠点となる迷宮を作り、主に人などの生物をおびき寄せその糧とする者。迷宮とは一蓮托生で、その命であるコアを取られると自分も死ぬ。そして、迷宮からは基本的に出れない。
また迷宮主は魔物たちの王となれる存在であり魔物を従えることが可能だ。配下となった魔物は基本的に絶対服従である。魔物は迷宮で生み出すことができ、配下となった魔物は合成や改良、進化ができる。また、配下の魔物は外で行動することも可能。自然に生まれてくる魔物もいて、そちらも条件を満たせば配下にできる。
その性質や行動から、向こうの世界では魔王と呼称されることが多い。
他の迷宮主との関係だが、味方というわけでなくコアを奪うと大きな得があるため敵対しやすいようだ。
向こうの人と呼ばれる存在は積極的に迷宮を踏破しようとする。
理由は多々有るが主に利益のためや、自分たちに害を成す存在である魔物を操るから。
その他様々な細かいところは、向こうの拠点で俺に最適化された説明がされる。
いずれこちらに帰ることになり、異世界に行った瞬間の時間に戻るため異世界に行っている間の時間経過はない。
その時に肉体的または精神的な変化があればすべて元に戻り、異世界での記憶は完全な取捨選択ができる。
現在の記憶についても保存されており、戻った時に忘れていても思い出すことが可能となる。
帰るときの条件は肉体の死亡や心神喪失などのいわゆる自己の死、またはいずれ指定される役割をこなす、この二つ。
役割はこなした後、元の世界に帰るか帰らないかを選択できる。あくまでも契約のため指定された役割をこなす意思がない場合は異世界での記憶全消去の上、即帰ることになる。
本当のことを言っている確証はないが俺にはほぼ何もデメリットはない。正直、中学三年になり夏休みも過ぎたがこんな面白そうなことはこれからもそうはないだろう。
やるかやらないかは、これからする質問の結果次第だな。
「今した話が全て本当であると証明できるのか?」
さて、この問いにどう答える?
「…証明可能、ですがあなたの知識不足により理解はできないでしょう。
このような方式をとっているという部分より判断していただくしかありません」
ははは、良いじゃないか。
確かに今どうなっているかすらわからないしな、授業中に居眠りを始めたらこんな状況になったし。
正直、夢だと思っている自分もいる。ま、理解できないんだろう。
さて、答えは決まった。
「…わかったよ、この話受けさせてもらう」
「了解しました、ありがとうございます。ではさらに詳しい契約内容の確認と準備にはいr「ビィー!ビィ!ビィー!ビィ!」
女性が話をしていると突然けたましい音が鳴り響いた。
「設定外の事態が進行……対処開始…エラー…契約者の安全確保…エラー
申し訳ありません、加藤 慎也様、本来起こりえないことが起こりました。
このプログラムとは別で、こちら側の世界より召喚が行われたようです。
とても可能性の低いことですが、あなたのいる部屋の人が対象となっています。
こちらよりも早くあなたの肉体を転送状況に移行させられ、プログラムでは対処不可能です」
早口でまくし立てられよくわからなかったけど、予想外の緊急事態が起こったらしい。
「おい!もっと簡単に説明してくれ俺はどうなるんだ」
「はい、簡単に言うと貴方はあちらからの勇者召喚に巻き込まれました。あと十秒で転送されます。」
「はぁぁぁ~!なんだよこれ」
話しているあいだにだんだんと自分の体がすけてきていることに気づく。
意識を強く保てなくなっていく…不思議な感覚だ。
おもむろに女性がこちらへと片手を向ける。
おぼろげながら、その手の内より光が溢れてこちらに向かってくるのが見えた。
「これは不測の事態が起きてしまったことのお詫びです、あちらの世界で役に立つでしょう。残り三秒…説明は自動で行われますので、それでは」
その光は俺の左手にと収束し入ってきたような気がしたが、確認する時間もなく私の意識は途切れていた。
「……ジジ、ジ、ズー…ズー……久しい想定ガ…イ…今回の場合はどウナルノデショウ?…シュゥゥー、ピキュン」
最後に何か耳障りな機械音が聞こえた気がした。