第八話 レギュラーチームとの試合 ミーティング
前話から結構アップまで時間がかかってしまいました。
少し悲しい出来事がありまして、15年間一緒に頑張ってきたPS2初期型本体が先日ご臨終になられました。
名前をプレ子(今付けた)と申します。
正直ウィイレが出来なくなり、話に出てくる試合の組み立てが難しくなりました。
どうするか今検討中でして、脳内だけで試合を創造するのはサッカー初心者の私にとってハードルが高いものであります。
が、プレ子を言い訳に負けるわけにはいかないんです。
彼女もそんな私を見て悲しむはず。
この悲しみを乗り越えて前に進む事こそ真の小説家の道だと思っております!!
ちょっと徹夜気味で興奮しておりますが、今後とも「監獄のクラブチーム」をよろしくお願いします。
明日レギュラーチームとの試合があり、3軍専用のミーティングルームで最終ミーティングが行われていた。
今回のフォーメーションについては、2軍との試合で成績を上げた4-3-3で2軍との試合後2日ほど練習したのだが、本来攻撃的な選手が3軍には少なく、トップに3人も選手を配置してもと話が出たことで、再度選手の適正の見直しを行い、意外と中盤両サイドからパスを蹴りこんでミドルシュートを狙える選手がいる事が分った。
そこでトップよりも中盤に厚みを持たせる為に、4-4-2といフォーメーションを試すことになった。
3軍 フォーメーション
CF 中町 葉柄 身長170cm 体重57kg
ST 倉見市 俊治 身長171cm 体重60kg
CMF 大河 智治 身長171cm 体重60kg
SMF(左)水八 陽一 身長173cm 体重60kg
SMF(右)青木 撤兵 身長173cm 体重62kg
DMF(中)彼我 大輔 身長169cm 体重56kg
SB(左)池華 益雄 身長175cm 体重62kg
CB(左)皆口 雄介 身長172cm 体重61kg
CB(右)片磐 重道 身長168cm 体重55kg
SB(右)倉石 登 身長172cm 体重59kg
GK 重林 大成身長176cm 体重68kg
CFの中町をワントップ気味にゴール中央に配置し、STの倉見市はゴールエリアより少し下がり気味でOMFに近いポジションでボールを受ける。
CMF 大河はセンターサークルより少し高い位置、後はDMFは彼我のみとし、中央の連携とSBと両サイドのMFがあがった時に穴のカバーを行う。
選手全員が運動量を求められる配置に練習内容もスタミナ向上メニューでトレーニングを行ってきた。
このクラブチームの基本フォーメーションは3-5-2。
CBの3人は1対1でも突破されない人材育成を目指している。
基本フォワード選手は突破力=瞬発力があり、走るのが速い。
それでも交わされないディフェンス選手の育成を目指し、守備に強いチーム作りを目指している。
守備が強固というバックボーンを作り、そこから展開されるカウンター、中央突破などの戦術を組み立てていくことで、”見せる選手”を育成し8年後のワールドカップ後の”売り”を老人達は考えていた。
だが形はどうあれ、勝たなければ意味がない。
クラブチームの方針を破ってでも勝ちに行く3軍は、自分達が思っている以上に結果を求められる形になっていた。
老人達からすれば、そこまで言うなら、結果を出せということであり、フォーメーション変更には難色を示している。
上からその話を3軍監督はされていた。
だが、まだ選手達には伝えていない。
余計なプレッシャーを与えて結果が出なければという気持ちと、大人の都合を選手達に押し付けないようにと配慮してのことだった。
しかし、今回のレギュラーチームとの試合は、結果を出すにはかなり厳しい。
ベニートに加えて、チームとしての完成度は2軍との試合を見て明らかだ。
3軍監督としても、今回の試合勝てば上にアピールになる。
彼とて、3軍監督で終わるつもりもない。
目の下に隈が出来るぐらい何度もレギュラーチームの試合を見たし、ここ最近行われているリーグ戦のサッカー試合はすべて見ている。
3軍のトレーニングマネージャーと話をして、やれることは全部やったが時間があまりに足らない。
2週間はあっという間だった。
今ミーティングで話をしているのは戦術論だったが、だんだん熱くなっていき、精神論を語っている。
彼も日本人。
困ったときに出てくるのは精神論。
もちろんフィジカル的な、部分で限界があるのは知っている。
精神論だけで勝てれば苦労はしない。
「あまり精神論は好きじゃないんだが、俺はお前達選手にかなり厳しいトレーニングを要求してそれに答えてくれた。今やれることはやったんだ。正直後は試合マネージメントをどこまでシビアにやれるかにかかっていると思っている。レギュラーチームは強い。しかし2軍に3点取れたお前達ならできると信じている」
言葉を選びながら、3軍の監督が戦術論が終わった後に出た言葉を選手達は渋い顔で聞いていた。
レギュラーチームとは練習試合で何度が試合をしている。
しかし、入れ替え戦は真剣勝負。
弱肉強食。
負ければ、ポイントが下がり、降格の可能性がある。
そんな血に飢えた獣のような、奴らと戦うには、自分達も獣になる必要がある。
3軍監督の話では、今回の入れ替え戦で勝てばポイントが大きく跳ね上がるとの話で、2軍昇格できる選手も2名までだったが、もしかしたら枠が増える可能性があるとの話だった。
ミーティングの雰囲気は、今までにない異質な感じだった。
あきらめるわけでもなく、はやってあせるわけでもない。
勝てるとは思っていないが、負けるとも思っていない。
静かに闘志だけが揺らめいているようだった。
ミーティングが終わり、彼我は3軍のグランドに向かう。
明日試合があるので体を休めないといけないのだが、どうしても体を動かしたいという欲求に駆られ、ラグビーボールを手にリフティングを始める。
皮で作られたツルっとした手触りのラグビーボールで、蹴ると硬い。
少しでも蹴る角度を間違えると、見当違いの方向へ飛んでいく。
しかし、彼我はボールを的確に蹴りこみ、まるでサーカスのピエロがお手玉をするように軽やかにリズムよくリフティングを行う。
このボールは中町から2軍との練習試合後に貸してもらったもので、彼がこの施設に来る前にクラブの先輩から記念としてもらったモノだと話してくれた。
この施設に来てからずっと、このラグビーボールを使ってリフティングを行い、そのときに音楽をかけながらリズムを取っていたので、そのリズムが他の選手と”サッカーリズムのずれを出している”のではと話をしてくれた。
そんな秘密特訓アイテムをなぜ俺に?と聞いたら少し頬を赤らめながら、「彼我と一緒に2軍にあがりたいんだ」と返事をされた。
ここで他の選手はライバルであり、友でもある。
しかしその比重はライバルの方が大きいと彼我は思っている。
チームメイトであっても、自分の武器を相手に教えるなんて、まだ1年もたっていない間で教えるものなのか?
それともそんなに俺の事を・・・。
と変な勘違いをしないでもない。
しかし、それはないと思っている。
館長から施設の案内で、”男しかいない”と触れ込みがあり、潤いがないのは分っているが、16歳で健全な青少年が男同士とは、かなりハードルが高い。
しかし、保健室にいてるドクターは女性だったはず?
それはさておき、中町が貸してくれたこのラグビーボールのリフティングを始めた頃は3回続ければいいほうだったのだが、練習を重ね3回目以降も続ける事ができるようになったのは、ここ最近の話である。
感覚的に体がついてくるようになると、一気に回数が増え、サッカーボールでのリフティングでは物足りなくなっていた。
早く回数を増やし、さらに普通ではつまらないのでアクロバティックなリフティングをしてみたいと考えて色々試していくうちに、気がつけば踊るように軽やかにステップを刻めるようになっていた。
気がつけば2時間珠のような汗が吹き出て息を切らしかけているが、それでも一度も地面に落とす事なくリフティングを続け、これ以上は明日に差し支えると自分から切り上げた。
部屋に戻りラグビーボールを丁寧に手入れを行ってから、久しぶりに大浴場に向かう。
ここがイタリアのどの当たりかは分らないが、施設内に温泉が湧いており、200円で利用できる大浴場がある。
さらにその後にマッサージまで大浴場を利用した選手はタダというおまけつき。
大浴場に着くと、3軍の選手が結構来ていた。
「おおー、彼我」
「なんだ皆口着てたのか?なんで呼んでくれねーんだよ?」
声をかけてきた皆口の下半身を見ながらふ、勝ったと思う。
「お前どこ見てるんだ?俺の方が勝ってるに決まってるだろ。」
「皆口俺の心を読むのがうまいよな。」
「お前は顔にすぐ出てわかるんだよ。試合中は必死すぎて読みにくい所があるけどな」
「うるせ」
「話は戻るが、お前の部屋に呼びにいったらいなかったからさ」
「ああ、ちょっとな」
「あまり体をいじめるなよ。さんざんこの2週間いじめぬいたんだがら、疲労の取り方間違えると、怪我するぜ」
「おう。ありがとうな。しかし湯船は最高だ」
「たまんねーよな」
16歳の少年二人が会話するにはじじい臭い内容だが本人達は特に気にするわけでもなく、湯船の気持ちよさに思わず吐息が漏れる。
そこに新たに入ってきた中町を見つける。
「彼我着てたんだ」
「・・・。」
「どうしたの?」
服の上から線が細いとは思っていたが、締まる所は締まっており、肌の色が最近日に当たっているので褐色になりつつある体のラインが、妙な気分になる。
「ほれるなよ?」
「ば、ばかいうな」
「くくく」
皆口が小声で耳打ちしてくるのであわてて返す。
中町はどうしたの?という顔でこちらを見てくるが、何でもないと返すのが精一杯だった。
変な彼我だな。と隣の湯船に浸かってくるので、心の中でお経を唱える。
「しかし、明日勝てるかな?」
「勝ち負けで判断される世界だけどさ、明日の一戦はそんな気分じゃないな」
中町と皆口の話を黙って聞いている。
続けて皆口が思いを語り始める。
「あいつらは、今すぐにこのクラブチームの顔になれる存在かもしれないけどさ。俺たちもまだまだ発展途上な気がするんだ。言葉にするのは難しいけど、チャンスはある気がする」
そこでなぜか皆口が彼我の顔を見る。
「そうだね。誰かさんを見てると可能性を感じるよね」
「だ、誰かさんって俺か?」
「さあ、わからないけどね。聞いたことある?」
「何が?」
「3軍メンバーってさ、サッカー経験が浅い選手ばかりなんだって」
「なんとなくそんな気はしてたけど、何だよ急に」
「そんなメンバーが集まって2軍と試合して同点だった。僕達は確実に伸びている」
中町の熱い話を聞いているうちに本当に体が熱くなってきたので一旦水風呂に入り、そのまま汗を流す為、シャワーで体を洗って、サウナーに入る。
中町と皆口はすでに体を洗い終わっていたので、サウナーに先に入っていた。
「さっきの話の続きだけど・・・。」
中町の熱い話を低温サウナーで30分聞き、ふらふらで水風呂に入って、かけ湯をして少し体を温めて風呂を出る。
そのまま、マッサージルームに行き、ベットに寝たところまでは覚えているが、そこからの記憶がなく、気がついたら裸で、よだれを垂らしながら寝ており、係りの人に謝ってからルームを後にする。
伸びをすると体がすごい軽くなっていることに驚き、夕飯を取って施設を少し散歩していると大きな月が周りの星に囲まれ一段と輝いていた。
「今日は満月なのか。確か満月ってパワーをくれるんだっけか?」
両手を上にかざして目を閉じていると、後ろから声がする。
「おらに元気を分けてくれ」
「おい。勝手に俺でアテレコするな」
「いや~すげー気を貯めているなと思ってさ」
皆口にからかわれながら、まだ20時だが部屋に戻り眠りに着く。