第七話 お給料の使い道 その1
移籍問題がようやく落ち着いて、香川選手本当に良かったと思っております。
「監獄のクラブチーム」はまだまだ手探りで落ち着かないですが、頑張っていきますので応援よろしくお願いします。
レギュラーチームとの対戦が2週間後となった。
本来なら入れ替え戦として試合を行う予定がなかったのだが、ベニートの希望で試合が決まって、特に俺達はレギュラーチームとの準備もしておらず2軍との試合後、レギュラーチームの試合を何度も見て研究を行っていた。
正直、2軍相手に4点取って、気の緩みからか1点取られてそれ以外は本当に、プロの試合を見ているような試合運び。
同じ16歳かと思う。
この間の試合だって俺達3軍がうまく意表をついた形で2軍と同点に持っていけたが、実力では2軍のほうが上だったと感じている。
2週間しかない状況で、急なフィジカル的なレベルアップはムリ。
では戦術面ではどうか?
策がないと、さすがにあいつらには追いつけない。
そこで、今行われている海外リーグの試合を見て研究している。
今回の試合は、バランス重視ではなく、攻撃主体か、守備主体カウンター狙いかの2択で攻める方向で話しが進んでいる。
バランス重視で進めるとレギュラーチームのうまさに手も足も出ない可能性がある。
俺は朝のシャワーを浴びながら、試合の事ばかり考えていた。
今日はオフの日。
チーム練習がない日をオフと俺達は言っている。
個人練習は勿論行う。
ここで本当に休んでも問題はない。
疲れた体をさらに酷使して怪我に繋がるのは本末転倒だし。
それでも3軍のチームメイトが休んでいるとは考えにくい。
2軍との入れ替え戦で入れ替え確定しているのは中町。
けど、入れ替え自体はレギュラーチームとの試合後となっている。
では確定している中町が今回の試合に手を抜くかと考えると、そうでもない。
逆に燃えていた。
レギュラーチームのディフェンス陣は気を抜かなければ、ほぼ完璧に仕上がっている。
そんなディフェンス陣から実力で点を取ることに中町はこだわっていた。
線が細く、モデルでも通用しそうな中町の中にある向上心は見ていて気持ちがいいものだ。
3軍から離れてしまうのが寂しくもあり、ここではそれが当たり前。
今のうちから気持ちを作っておかないと、選手が入れ替わるたびに、いつまでも寂しい気分に浸るわけにもいかない。
そういった気分をシャワーで落としながら、気持ちを高めていく為に今日も練習をがんばるかと気合を入れたところで、ふとカレンダーが目に付いた。
(あれ、今日って25日。何だっけ?何か忘れているような・・・・。おお!!給料日じゃないか!)
上に白シャツ、下は黒のハーフパンツを着て、ATMのある施設に向かう。
自分のいる施設より少しはずれに、ATM、売店、食堂、個人郵便BOX、ネットルームが入った施設があり、まずは個人郵便BOXの確認を行う。
手紙などが入っている場合があるが、確認したが何も無い。
ショボーンと顔をしかめてしまった。
家族からの手紙は許されており自分から手紙を出す場合はチェックが入ってから送る事が出来る。
携帯からの電子メールは自分から送る事ができず、携帯自体この施設の関係者が管理している。
しかし、この個人郵便BOX、青年一人が入れるぐらい広い。
なんのためにここまで広いのかと言えば、ここでネット注文した品が届くようになっている。
話に聞くと、このBOXより大きい物は直接部屋まで届けてくれることになっているらしいと噂で聞いた。
けど、そんな商品をローカルネットのショップシステムから見たことがない。
何かあるとは思うが、想像できる範囲でいうとレギュラーチームと2軍の選手が最近ほくほくした顔をしていることにある。
しかし、その中で入れ替え可能性がある2軍選手の顔がかなり落ち込んでいる。
ま、いいかと気持ちを切り替え、ATMにカードを差し込む。
まずは残高照会。
暗証番号を入力して、見た金額が、ん?と顔をモニターに近づける。
決して近眼で見えにくかったわけではない。
思っていた金額よりちょっと増えていたのだった。
なぜか挙動不審になり周りをキョロキョロと見回す。
もう一度深呼吸して、金額を確認すると確かに増えている。
目を閉じ、きつく右手を握りこみながらガッツポーズをする。
さて、残高を確認したところで、買い物に向かう。
売店で甘いものと思ったが、まずはネットショップから確認。
ネットルームに入り、個室用のブース席に腰をかけると、キーボードを操作して、暗証番号を入力する。
---ようこそ 彼我様----
という画面を確認して、左側にあるカテゴリメニューを確認する。
するとそこに今まで見られなかったNew!という文字が赤々と書かれている。
カテゴリは食品。
食品は前からあるカテゴリーでその横にNew!の文字。
ふ、孔明の罠か。
だがあえて引っかかってやろうではないか!
とクリック。
そこに表示されていたの高級牛フィレ肉350g 2000円の文字。
この施設に入る前にアンケートで好物は?という問題があった。
勿論 肉と書いた覚えがある。
しかも2000円。
・・・・350g。
迷い無くフィレを選択。
備え付けのカードリーダーにATMのカードをスライドさせるとピンポーンという音とともに、購入されましたと画面にアナウンスが流れる。
購入してから、あ、もう少し考えたほうがよかったか?と思うが購入してしまったので後の祭りである。
後アナウンスには、郵便BOXに何時に入荷されているので取りに行く事と表示される。
結構すぐに入るのでこのネットショップのサーチが終わってからいくかと、ニヤニヤ顔が止まらない。
彼我は普段あまりお金を使わないので、結構残高が残っている。
この機会にもう少し見ておくかと、ネットショップのトップページに戻る。
後いるものを考えて思いついたのが服だった。
何着か最初に支給された後は自分達の給料で購入することになっている。
すぐに練習でぼろぼろになるので、練習用と普段着用と分けて使用している。
練習用の服がぼろぼろになっていたのを思い出し、新しく購入したのを普段着用に回して使っていた普段着用を練習用に回すようにしようと、衣服カテゴリーを選択。
ここでは特にNewの文字はなく、安いものから高いものまで表示されている。
いつものように500円セットを選択。
セット内容は白シャツ、トランクス、黒のハーフパンツ。
今着ている服そのものである。
みんな同じ物を着ているため、ある選手が始めたのが油性マジックで服に文字を書いて個性を出すことだった。
これが広まり、アニメの絵や背中に”伯方の○”と書いて笑いを取ったりする奴までいる。
彼我はそんな事をしない奴だったが、最近みんなうれしそうに何か新しいものを見つけるので、少しおいてけぼりを食らったような寂しい気分になる。
(俺ってそういう新しいものを見つけるのが下手だな。)
気分を取り直す為に、ほかの服も見てみたが、正直500円セットに勝てそうにない。
リーズナブルであり、かつシンプル。
この施設でおしゃれしている奴なんているのか?と思う。
ほかに変わったものがないかと、見てみるが特に目新しいものはない。
おもちゃカテゴリに目を向ける。
そこには、ゲーム、おもちゃ、フィギュアまである。
フィギュアなんて誰が買うんだ?と思いながら、ログアウトをして席を立つ。
郵便BOXに戻り、シャツ500円セットと、高級感溢れる包装がされた物が置かれていた。
さすがに肉は自分で焼くことはできないので、食堂に持ち込む為、郵便BOXから出ようとしたところで、別の郵便BOXから出てきた誰かとぶつかる。
お互い不意だったので、腰を床につけてしまい、お互いに謝りながら、顔を見るとそこにはベニートがいた。
「お、ベニート。ひさしぶりだ・・・・。」
最後まで彼我の言葉が続かなかった。
その訳はベニートの横に転がる30cmほどの箱が2つ、目に入ったからである。
どちらも、どこかの専門のおもちゃ屋で見たことがある箱だった。
茶色の紙袋から本体が入った箱が2つとも飛び出ており、1つは確かあれはフーリッ○と呼ばれる頭が大きい15cmほどの人形だった。
もう一つは、何かのアニメの女性キャラで、かなりおっぱいの大きいキャラだったような気がする。
何事もなく立ち上がり、ベニートは袋にもう一度箱を詰めなおし、彼我を見る。
「言えば、お前の命はない。」
冷たい殺気にうんうんと頭を振る彼我を見て、何事もなく去っていくベニートだったが、耳が真っ赤に染まっているのを見てしまい、噴出しそうになるのを我慢する。
自分の荷物は大丈夫だったと、気を取り直して、食堂に向かう。
食堂で働いている料理長の三条 厳さん(さんじょう げん)60歳に、焼き加減ミディアムでとお願いする。
後、ここにくれば白ご飯と味噌汁は食べ放題なので自分でよそって、席につく。
まだ朝の9時で誰もいない。
7時に朝食をみんな基本は済ませているので、こんな時間にここに来る奴はいない。はずだった。
中町がちょっとはずれに座っていた。
しかし、よく見ないと中町だとはわからなかった。
かなりセンスのいい格好で渋谷などで見かける事がありそうだなと思ったが、何だろう違和感がある。
さっきぶつかったベニートですら、500円セットを着ていたのだ。
中町がこの時間練習していないわけがないはずなんだが、今までの経緯でう~んとうなっていると、食堂に中町を呼ぶアナウンスが流れる。
「あれ、彼我いたんだ?」
「おう。ちょっと飯を食いに。中町は?」
「ちょっとね。じゃあまた。」
と食堂から離れていった。
すごい気にはなるが、あいよ。と厳さんに出された目の前でじゅ~~じゅ~~と音を立てたフィレ肉を前にもう我慢できなかった。
30分後にはおなかをさすって満腹感いっぱいの彼我と、うれしそうなどこか満足した顔の中町がばったり廊下であい、特に会話をするわけでもなく部屋に戻っていく。
「しかし、中町の奴、いつの間にあんな服を買ったんだ?」
彼我は疑問を口にするが、答えは返ってこない。
トントンと扉がノックされる音を聞いて、返事をすると、中町の声だった。
開いてるよと返事をして、入ってきた中町は500円セットだった。
「練習しにいかないか?」
「おう。いいぜ。」
「じゃあ外で待ってるから。」
なんだろ?空気がすごく甘いんだが?と首を彼我の横で中町の上機嫌な顔は練習場につくまでしばらく続いた。