第74話 サバゲー大会 トーナメント 一回戦 その4
前回までのあらすじ:
日本代表を育てる為の秘匿クラブチーム
「監獄のクラブチーム」計画
試合を重ねてレベルアップしていく選手達
同年代ユースを圧倒的な力で粉砕
来年には自分たちと同じ目標を持つクラブチームとの戦いを控えて
後輩が入ってくるので面倒を見てほしいと頼まれる元3軍選手 彼我。
自分には無理だと監督に告げるとサバゲーを開催するからそこで優勝すれば
100万円と今回の件が免除されると言われる。
やる気になった彼我は親友の中町との対戦が決まり葛藤する。
どうする?どうする・・・?
1分半の時間は迫られる状況では、体感では非常に短く感じる。
彼我の心臓鼓動と共に刻まれていく秒針。
特攻を仕掛けるか?
相手も2人。
こちらも2人。
悩んでいる時間もない。
つい何かを求めるようにベニートの顔を見る。
フェイスカバーの先にある瞳がお前に任せると訴えてくる。
いつもは俺様ベニートが彼我の決断で決着をつけようと。
こんな時に俺かと彼我は頭を掻きむしりたくなった。
勝ちたい。
100万円は欲しいが、それ以上に勝利への欲求が高鳴っていく。
(彼我。お前に任せるのは中町への思いを断ち切るためだ。俺だけ見ろ。俺の決断ではこの先、お前は俺の意見だと誤魔化す事ができる。しかし、自分が下した判断なら嘘をつく事は出来ない。彼我これでお前は本当に誰が必要かを知るだろう)
ベニートも、この状況は簡単には決断できない。
しかし自分なら、彼我を連れて迷いなく突っ込む事を選ぶだろう。
ここで彼我に選ばせる事で、中町を自分の意志で倒す決断をさせる。
そこには逃げ場のない彼我の意識が存在し、彼は今後の人生の中で何度か今日の事を思い出すだろう。
その時、手を差し出せば必ず彼我は自分だけに本当の心を開くはず。
完璧なシナリオなはず・・・だった・・・・。
彼我とベニートの思考が油断をした。
自分たちが”攻める”という前提で物事を考えていた。
相手から突っ込んでくる可能性を軽視していたのである。
なぜなら、相手は初めから”待ち”を選んでいた。
まず突っ込んでくる事はないだろうという油断だった。
しかし相手から煙が噴き出ている何かをこちらに投げ込まれる。
なんだ?!
彼我の思考とほぼ同時に叫びながら突っ込んで来る巨体が見えた。
応戦しないといけないと机に隠れていた身体を思わず立ち上がらせてしまった。
まだサバゲー経験が浅く、咄嗟の判断と身体のシンクロ率がうまくいっていない少年達。
「彼我ーーーーー!!」
そんな彼我を見てベニートも立ち上がる。
立ち上がる寸前からトリガーを何度も引く。
彼我を守る為。
ベニートの肩に痛みが走る。
撃たれた!?
突っ込んでくる相手も自分は放ったペイント弾が、胸部に散っている。
ヒットという前にベニートは彼我のほうへと顔を向けた。
まるでアメリカ映画の兵士がカッコよく銃を構えて銃弾を撃ち込むシーンを彷彿とさせ、つい見とれてしまった。
パスゥ、パスゥ。
ガスが抜ける音が彼我の銃口から2回聞こえる。
ヒットと聞こえる。
彼我のBDUには何も痕跡がない。
中町がいるだろう方向には、顔と肩にペイントが塗られていた。
その手にはしっかりとハンドガンが握られており、彼我をロックオンしている。
その銃口からもし中町はトリガーを引いていたなら確実に彼我に当たっていた事はベニートには予想できた。
なぜ・・・。いや、トリガーを引かなかったのだろう。
引かなかった理由。
簡単な話だ。
引きたくなかったのだろう。
もし、自分が中町の立場なら彼我を撃てていたかはわからない。
またイーブンか。
彼我の心に自分を刻み込む計画は互いにイーブン。
そうだと思いたい。
ブゥーーーーと試合の終了を告げるブザー音が室内に響く。
彼我は銃を下ろし、どこか疲れたようだった。
「よくやった」
「もう、仲間内で銃撃なんてしたくねーわ」
「中町と撃ちあいたくないだけではないのか?」
「ま、まぁ。そんな事より終わったし。さっさとここから出ようぜ」
「お、おい。まだ話は終わっていないぞ」
彼我の後をベニートが追いかけるように部屋を出ていく。
「ヨカッタのか?」
「何が?」
アルビアルの質問の意図を知りながら、わざと中町は聞き直す。
真意をしっかり確認するほうが後腐れなくて良いものだが、最近日本人に触れてわざとはぐらかされるのもいいかとアルビアルは中町の肩を叩き、部屋を出るように促す。
(まだまだこれからチャンスはいくらでもあるさ。僕が撃たれたのは彼我。それでいいのさ)
もし彼我以外と撃ちあいになっていれば確実に応じていた。
彼我だから。
中町の中で自分を納得させるようにつぶやく。
彼の中でも勝敗に関する葛藤はあった。
甘いのかもしれない。
けど、これで良かった。
「ふむふむ。なかなかに面白いゲームでしたよ。しかしゴッコ遊びをしているようでは、この先生きていけますかね」
木の椅子の背もたれを使って、4本ある足のうち2本立ちでバランスを取りながらゆらゆらと身体をゆする中年オヤジ。
梯橋智明。
日本サッカー協会からスパイとして派遣され、クラブチームの内情を探るべく嗅ぎまわる犬。
出歩くことすらままならない状況で出来るだけ隠しカメラなどで施設の写真などを撮ってはいるが肝心の選手情報が手に入らない。
試合を解説する名目で観戦したが、茶番もいい所だ。
まだ1年足らずのチームはトップクラスのチーム同様と思えるほどのパフォーマンスを見せるのだ。
あり得るはずがない。
どんな練習をしても、熟成されて行くまでかなりの時間を要する。
サッカーをなめているとしか思えない。
八百長を暴いてやると意気込む中で、情報の収集に全くと言って成果が出ていない。
最近ではもう自身が追いつめられている状況だと理解している。
しかし、サッカー以外の今回のサバゲーには参加できることになり、選手達を直接見る機会ができた。
だがモニターに映し出されるのは少年達の青い青春劇。
こんな事なら、さっさとこの施設を抜け出しデッチ上げの情報で、このクラブチームをつぶしてやったほうがいいと最近思うようになり始めていた。
「俺を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるぞ。塚元」
お久しぶりです。脩由です。
かなり短めの内容ですが、少しでもストーリーを進める事にしました。
これからも出来るだけストーリーを進めるために短めの内容をできるだけ
短期間に更新していきますのでよろしくお願いします。