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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
68/77

第67話 サバゲー大会 ブレイクタイム 過去その2

 ベニートがこっそり家を抜け出しクラブに向かったその日から、クラブチームの体験練習生として、毎日夜中抜け出し通って1ヶ月が過ぎ父親にサッカーをやっている事がバレてしまった。

 バレた理由はハウスキーパーの女性がバラしたのではなく、クラブチームとしても1ヶ月以上はさすがに体験練習生としてベニートをクラブに置いておくわけには行かず、かと言って他のチームでまた体験練習生として取られるわけにもいかず、両親に相談するという話になったらしい。

 まだこの時、ベニートは父親に自分がやりたい事を真剣に心から訴えれば通じると考えていた。

 しかし現実はそこまで甘くなく、クラブ関係者の話を聞いた父親は激怒。


 「サッカーだと?!野蛮なスポーツがベニートに似合うわけがないだろ!!こいつは俺なんだ。俺自身なんだ。誰にも渡すものか!!」


 クラブ関係者を追い払い、部屋に軟禁状態に閉じ込められたと言う。

 さらに追い打ちをかけるように、見張りも出来ないのかと長年雇っていたハウスキーパーの女性を解雇した。

 母のぬくもりを知らないベニートにとって唯一わがままを言えた存在といえる。

 この時初めて知ったがこっそりベニートが家を抜け出していた事をハウスキーパーは知っていたという。

 あれほど、父親に惚れていた彼女がなぜ告げ口をしなかったのか。

 父親に言った彼女の最後の言葉が本心だったと思われる。


 「どんな形であれ・・・私はベニートの母親になりたかった」


 気がつけば、ただサッカーがやりたいと言っただけのベニートはどんどん父親からいろんな物を奪われていった。

 時間、ハウスキーパー、サッカー、自由。

 数えればきりがなく、だからと言って父親を攻めはしなかった。

 自分の運命はこの家生まれた時から決まっていると、12歳の少年はどこか諦めた所があった。

 ハウスキーパーの代わりに自分を見張りに来たのは妹のクリスティーナだった。

 部屋の端に座りただベニートを見ていたと言う。

 兄妹二人で油臭い部屋でただ絵の具を付けた筆がキャンパスに流れる音だけが聞こえていた。

 部屋を出てお腹が空いたと言うと、小さなクリスティーナが料理を作ったと言う。

 ハウスキーパーが作ってくれていたものと違い、決して美味しくはないのだが肉親が作ってくれた料理はどこか暖かった。

 そうやってどれだけの時が流れたのかわからないが、家の玄関で何やら騒いでいる声が聞こえてきた。


 「お帰りを。話をする事はない」

 「ふむ。では・・・・・はこれっきりという話でいいのですかな?」

 「そ、それは・・・」


 どうやら父親の静止を聞かずに、2階のこの部屋に上がってくる人物がいるらしい。

 扉が開くとそこに立ってたのは、見たことのない白髪混じりの異国の老人だった。

 しかし、眼力が老いた老人には似つかわしくない力強さを放っており、長身もあって顔のしわ以外彼が老人だと気づく事ができる要素がなかった。


 「初めまして。ベニート・ミロ。そこにいるレディはクリスティーナ・ミロでいいですね?私の名前は戸田橋こだはしと言うもので、貴方の祖父の・・。そうですな親友と言うことにしておきましょうか」


 戸田橋こだはしと名乗る老人が、自分たちを迎えに来たと言った。

 

 「あなた方の祖父のミロはとても気が難しい人だったようですが、どうも私とは初めから気が合いましてね。生前頼まれていた事があったんです。息子は大成する器ではないが、孫はもしかしたら大器を持つかもしれない。その時は貴方達の面倒を私に任せたいという話がありましてね」


 そう言うと戸田橋こだはしは右ポケットから手紙を取り出し、油で汚れたベニートの右手を取り、しっかり手渡す。

 綺麗なスーツを着ているのにまるで汚れるのを気にしないといったように。

 逆に大切な手紙だと思ったベニートは、一度手紙を机に置き、綺麗に手を拭いてから手紙の封を開ける。

 

 ”まだ見ぬ。私の孫へ”

 

 と書かれた表題から始まり、今父親の事で苦労していると思われている事と、息子をそう育ててしまった自分に対する反省が書かれていた。

 そして自分がまだ見ぬ孫を愛している事と、自分が孫達にしてあげられるのは未来を自分で作る手伝いをしてあげる事だと書かれていた。

 己が希望した未来を見て幸せになってほしいと。

 後、戸田橋こだはしに自分の遺産の一部を預けている話と、同封されている親権委譲書にサインすれば法的にベニートの父親から開放される事が書かれていた。

 ベニートが手紙を読み終わり机の上に置くと戸田橋こだはしがタイミングを見計らって声をかけてきた。

 

 「さぁどうされますか?」

 「”僕達”に自由が手に入るの?」

 「君がいう”自由”は無限に広がる荒れた海のようなものです。そこへ航海する勇気が君にあるなら私がお手伝いいたしましょう」

  

 戸田橋こだはしの言っている意味はなぞかけのようだがよくわかった。

 父親にこのまま動物のように飼われれていれば、将来きっと安泰するだろう。

 お金に困る事なく自由はないが、苦労をする事はない。

 しかし、戸田橋こだはしの言う自由を手に入れたならば、無限にある選択肢を自分で決めて進んでいかなければならない。

 時には間違えて挫折することもあるだろう。

 

 「僕達は自由を手に入れたい。・・・。だけど父親とも縁を切る事はできない。唯一のパパだから」

 「だそうだよ。ロビィ」


 戸田橋こだはしの後ろには、ベニートの話を黙って下を向き聞いていた父親が立っていた。

 何か感情を押し殺しているのか、少し顔を斜め下に向けながらロビィの震える声がベニートの耳に届く。


 「私は弱い人間だ。今私から離れなければ一生このような暮らしをする事になる。そこにある委譲書にサインをしなさい。ベニート。クリスティーナ。私はお前たちを愛してはいない。ただそこにあふれる才能だけがほしかったのだ。こんな父を持ってはいけない」


 突き放すように語るロビィの言葉が嘘だと思いたかったが、クリスティーナがペンを取り委譲書にサインをする。


 「お兄様。私は自由がほしいです」

 

 10歳のクリスティーナの瞳からは自由を求めるなんとも言えない感情が映し出されていた。

 サインを書き終えたペンを小さな手で手渡される。

 

 「そして俺は今ここにいるわけだ」


 一通り話を終えるとベニートの目が遠くを見てるようだった。

 さすがの彼我もどう答えていいのかわからない。

 ちゃかすわけではなかったが、その話と自分がどう関係するのか聞いてみた。


 「確かにベニートの過去はわかったが、それと俺にどう関係あるんだ?」

 「鈍いやつだ。彼我お前は俺に”選ばれた”んだ。誇りに思え」

 「ん?う~ん。ちょっと待ってくれ。まだ掴めないんだが」


 ”選ばれた”と言われても彼我としてはベニートが自分に対する思いはただの友達としか考えていなかった。

 少し仲の良い友達程度だった。

 彼我の考えている事を顔から読み取ったようにため息を吐くとベニートが真剣な顔で彼我の目を見て気持ちを伝える。


 「一度しか言わないからよく聞け。俺が何かを決断する時は、常に真剣なんだ。お前を”親友”として選択した。これは父親から抜けたあのサインを書いた事に匹敵する選択だと言っていいだろう。これでわかったか?」

 「それってかなり重いじゃねーかよ!!なんで俺なんかを・・・」

 「日本語で”親友”とはどう書くのか見ればわかるだろう。親に友と書く。肉親に限りなく近い友を選択した事になるのだ。決して軽々しい物ではないだろう」


 彼我は絶句した。

 確かに漢字で書くとそうだが、友達の間で日本では”俺たち親友な”って軽々しく使うものである。

 彼我は文化の違いがこれほど大きいものとは想像出来ていなかった。

 いや文化というかベニートの考えが、かなり偏っているというか。

 嫌か嬉しいかで聞かれれば嬉しいと答えるだろう。

 人一人が真剣に考えて答える言葉の重さは、現代の日本人にはそれ以上に重く感じるかもしれないが、彼我はそれだけの重さを受け止める柔軟性があった。

 

 「ありがとう。まぁなんだ。今はそう言っておくわ。俺にはまだベニートが考えるほどの真剣さは足りねーかもしれないが、頭には入れておく」

 「そのうち、お前には決断する日が来る」

 「なんの決断だよ?」

 「まぁそれ楽しみにしておけ」


 意味深な笑みを浮かべるベニートの顔が、今まで見てきた中でかなり活き活きとしており、逆に彼我はそれが怖かった。

 

 「しかし、本題に戻すがアビラが抜けた事でこのままだとチームが棄権になるんだがどうする?」

 「中町と決着をつけるまで敗北はありえない」

 (そうは言うが、ベニートの要求は高いからな〜)

 

 ベニートの構想にはかなり高いポテンシャルが求められる。

 アビラはそれが実現できる一人なのだが、そのアビラに変わるチームメイトをほかのチームから引っ張ってくるとなると主力を引く抜くと同義になる。

 人数合わせなら、今ならまだチーム編成に迷っている何人かに声をかける事ができそうだった。

 

 (いっそう中町と組んでくれると俺としては助かるんだけど、まぁありえないわな)


 そんな考えが過ぎった時だった。


 「彼我」

 「ダイスケ」


 全く同じタイミングで、彼我が声をかけられ後ろを振り向くと、アルビアルと荒川が立っていた。

 

 「こ、困っているようだからよ。俺がお前のチームに入ってやってもいいぜ」


 まずは荒川が先に話をふってきた。


 「アラカワ。ダイスケのチームに入るのは俺だ。お前は自分のチームに帰れ。俺のチームは2人共に棄権したので問題はない」


 アルビアルと荒川が互いに視線を外さずまるで睨み合い、最終彼我の判断に任せるという事になった。

 さっきのエキシビジョンマッチを見ている限り、どちらも戦力としては申し分ない。

 嬉しい申し出のはずなのだが、彼我の顔が引きつるのは仕方のない事だった。

 荒川の申し出を断れば、またその断った事を理由に坊主になる可能性がある。

 アルビアルは最近よくつるむ仲間で意思の疎通と連携を考えればアルビアルのほうがいいだろう。

 

 「何してんねん自分(お前)ら」

 

 横から倉石が入って来た。

 彼我が説明すると、はぁ?そんな事かいな。と倉石がオーバーなゼスチャで場を和ませたと思ったら、爆弾発言を落としていく。


 「それなら、自分(俺)やろ、ベニートと彼我でチーム申込書書いて出しておいたわ。これで問題解決やな!」

 「「はぁ!?」」


 右手の親指を立ててニヤニヤする倉石に誰もが突っ込んだのは当たり前だった。

更新が遅くなり申し訳ございません。


告知:

youtubeにてFIFA17を使って

監獄のクラブチームの選手達が活躍する実況動画をアップしております。


各選手達の容姿もそこで見れるので良かったら見てやってください。



FIFA 17 in 監獄のクラブチーム Jリーグ編 選手紹介 その1

 https://youtu.be/Zil63r8BsUE


FIFA 17 in 監獄のクラブチーム Jリーグ編 選手紹介 その2

 https://youtu.be/_u6t5X9XO6s

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