第65話 サバゲー大会 エキシビションマッチ その6
『残り時間5分』
施設内にアナウンスされるタイムリミット。
キルされたメンバーは中央に備え付けられた大型モニターに映る残り人数を確認できるが、フィールドにいるプレイヤーにはその情報を見る事、知る方法がない。
実はこの時点で10か所に設置された鍵のうち6か所しかまだ捜索出来ておらず5本がダミーで、ダミーの鍵はチョコレートで出来ていた。手に入れた瞬間に力を込めたプレイヤーが鍵を折って仲間から責められるハプニングもあったりして大型モニターを見ていたやられたプレイヤー達を楽しませていた。
そんな中、6本目の鍵はBチームのベレンゲル・ニッセンが手に入れ、銅で出来ており、本物だと思われた。
ベレンゲルはアルバート・ロペス、合田 憲次と共に4階の宝箱が設置されている部屋へと向かう。しかし道中でAチームの迎撃部隊と遭遇してしまい、何とかベレンゲルだけ逃げる事が出来た。
「はぁはぁ。ここまで来れば・・」
相手は通路が薄暗かった事もあり何人いたかわからない。
アルバートと合田に鍵を持っていたベレンゲルはお前は逃げろ!と言われ、どうするか1秒ほど迷いがあったが自分がやられて鍵を奪われるのは得策ではないと敵がいる方向とは逆に走った。
ずいぶん走った気がする。
もう銃声も聞こえてこない。呼吸を整えて辺りを見渡す。
(なんて事だ。ジグザグに走って逃げる事で敵から飛んでくる弾が避けられると思ったのが裏目に出たな)
むしろそれは初めから理解していた。
ジグザグに逃げると道に迷うかもしれないと。わかった上で走ったわけだが結果が自分の思っていた事と違い、あえて自分に嘘をつき気持ちを納得させる。
入り組んでいるだけで、本当はそう大きくないフィールドでまさか自分が迷うとは考えてなかったのである。
ベレンゲルの感覚を鈍らせたのは”薄暗い”迷路のようなフィールドの作りにあった。
同じような曲がり角が何本もあり、一度方向感覚を鈍らせると立ち直るまでに時間がかかるような作りになっていたのだ。
ベレンゲルは後悔しても仕方ないと、出来るだけ音を立てないようにゆっくり歩いて移動を開始する。
ベレンゲルだけではなく、ほかのプレイヤー達も同じような迷路に迷った現象が起こっており、敵プレイヤーに遭遇する事がなく時間だけが過ぎているのが現状だった。
そんな中で敵に遭遇すればフラストレーションを解消するように銃の撃ち合いになり、弾だけが思っている以上に消費されていた。
休憩室では、キルを取られて帰ってきたプレイヤーが中央モニターを眺めていた。
その中に、彼我達と行動し目立とうとして何もできず、キルされてしまった大河の姿はない
トイレの個室でこもって、鼻をすすりあげていた。
(なんで俺はいつも空回りしてしまうんだ。いつもこんなんばっかりだ)
サッカーでは空回りしてプレイをミスする事はほとんどない。
ただ、対人関係に対しては空回りプレイを連発している自覚はあったが、大河は涙が出た事で思考が少し前向きな気分になった。
まだ完全に立ち直るまでには時間がかかるが、トイレにずっと閉じこもっているわけにも行かず、一旦トイレから出て肩を落としながらショボーンとなって休憩室に帰ってきた所を面倒見がいいと言われているチームメイトの青木 撤兵に捕まり励まされていた。
「どうしたんだよ?大河。いつもの明るさがなくなってるぜ」
「聞いてくれよ。青木!俺はちょっと目立ちたかっただけなんだよ。彼我ばっかり目立って、あいつは何もしてないのに。いつも俺と皆口がいるに中町もあいつの事ばっかり話するし。みんなにその事を話ししたらそれは俺の影が薄いからっていうんだ。俺、結構中町と一緒にいる時間多いはずなんだ・・・。友達なんだぜ!もっと仲良くなりたいんだよ。だから目立っていい所を・・・」
今にも泣きだしそうな大河の肩を抱きながら、そうだな。うんうん。と話しを聞いているような聞いていないような返事をする青木が慰めの声をかける。
「大丈夫だ。影の薄さでは俺も負けてない。それに今回の事である意味、中町の中で印象に残ったと思うぞ」
「それ本当か?!」
「あぁ(たぶん違う意味で目立ってしまっただろうけどな)」
聞き様によってはディスられているように聞こえるが、大河は青木の励ましに素直に聞き入れていた。
青木は心の中でぷぅと笑いがこみ上げるが表情には出さない。
だましていると言うより、子供みたいで可愛いなと大河に対して思ってしまったんだ。
青木の家は5人兄弟で一番上という事もあり、下の弟達の面倒を見る事が多く16歳という年齢にしては父性愛のような感情を持っていたこともある。
そんな二人がふとモニターに目を向けると、センターにベレンゲルが迷いながら進んでいく状況を映すメイン画面とメイン画面を挟んで左にAチームのメンバー表、右にBチームのメンバー表が表示されている。
”俺達野郎Aチーム” 赤メッシュベスト
ベニート・ミロ
花形 智明キル(死亡)(3階で最初の彼我襲撃時に銃からガスが噴き出て中町に撃たれて死亡)
倉見市 俊治キル(死亡)(3階でキルを取って油断していた所でアルビアルにキルされて死亡 話には出てこない)
シジネイ・ルシオキル(死亡)(4階で大河を後ろからキルするが、その後中町にキルされる)
川上 雅士キル(死亡)(4階で単独で偵察に出た所を中町にキルされる)
カミロ・アビラ
水八 陽一キル(死亡)(4階でシジネイ部隊にいたが中町にキルされる)
セルディア・バジョキル(死亡)(檀乃 琴伴と撃ち合いで相打ちになり死亡 話には出てこない)
マルニャ・アバスカルキル(死亡)(4階でシジネイ部隊にいたが中町にキルされる)
林 茉耶キル(死亡)(4階でシジネイ部隊にいたが中町にキルされる)
倉石 登キル(死亡)(4階でシジネイ部隊にいたが中町にキルされる)
下塚 騰児
片磐 重道
下市 庄司
重林 大成
御津島 修三
Aチーム 全16人
Aチーム 残り7人
”カレーが大好きBチーム” 黄メッシュベスト
中町 葉柄
アルバート・ロペスキル(死亡)(4階で重林の迎撃部隊と交戦し死亡)
ベレンゲル・ニッセン
大河 智治キル(死亡)(4階でシジネイ率いる部隊に見つかってシジネイに後ろから撃たれて死亡)
彼我 大輔
箕河 春樹
セサル・ノゲイラ
アーロン・オルネラスキル(死亡)(3階で倉見市にキルされて死亡 話には出てこない)
青木 撤兵キル(死亡)(3階で倉見市にキルされて死亡 話には出てこない)
佐藤 雅
アルビアル・ベルグラーノ
皆口 雄介
ディオニシオ・モタキル(死亡)(単独行動のセルディア・バジョに撃たれて死亡 話には出てこない)
池華 益雄キル(死亡)(単独行動のセルディア・バジョに撃たれて死亡 話には出てこない)
檀乃 琴伴キル(死亡)(単独行動のセルディア・バジョと撃ち合いで相打ちになり死亡 話には出てこない)
合田 憲次キル(死亡)(4階で重林の迎撃部隊と交戦し死亡)
荒川 修司
Bチーム 全17人
Bチーム 残り9人
(がんばれ中町)
大河はメインモニターに映る中町に心の中でエールを送る。
「しかし、キルのよこに括弧で書かれた死亡ってやめてほしいよな」
「なんかこみ上げてくるものがあるよな」
大河と青木は微妙な顔をしてモニターを見ていた。
残り時間が5分を切り、ここで残り人数も勝敗に大きく左右されるが、残弾の管理も大きい勝敗の要素になる。
Aチームは宝箱死守メンバーと迎撃部隊に分けて行動していた。
死守メンバーは4人。ベニートはここにいた。
手持ちの残弾は全員で24発だった。一人6発ほど。リボルバーのシリンダーに入っている弾の数だけである。
宝箱部屋に入る前に、Bチームのメンバーと撃ち合いになったが、キルを獲った様子はなく無駄弾を使わされただけだった。
ここでタイムアウトまで待ってBチームとやりあうのは性に合わないと、重林が迎撃部隊を作って4階のフィールドを見回る事になった。
ベニートも自分はそっちに加わるといったのだが、それだとアビラもついてくる事になりこの場所が手薄になった所で宝箱を奪われるのは、どうかという話でベニートには残ってもらう事になった。
重林達迎撃部隊はベレンゲル達と遭遇し、無傷でアルバートと合田を仕留めた。
ただベレンゲルに逃げられてしまい、追うかどうか迷って一旦残弾の確認をする事になった。
リーダーの重林が自分たちの残弾確認をするために、壁に背を預けて中腰になり、ポケットとリボルバーのシリンダーを確認する。
残弾はシリンダーに残っている分しかなかった。
「残弾0だ」
「俺は後3発」
「俺も3発だ」
重林の左右にいる下塚、片磐がそれぞれ悔しそうに声を出す。
重林は1発ずつ下塚と片磐から受け取り、それぞれ2発持っている事になった。
「くそ!Bチームは後何人残っているんだよ!」
「あまり大きな声を出すなって」
「それより中町が残っていると思われる事が脅威だな。ベニートにあいつを抑えられるかわからん」
「そうだな。弾さえあれば中町とやりあえたかもしれないけどな」
3人はそれぞれいらだちや、今後の動きが不透明な部分に気が少散漫になっていた。
パス!
片磐の頭が赤く染まる。
ヘッドショット。
撃たれた片磐が真っ赤になった頭を右手でなぞって叫び声をあげる。
「お、俺の頭、俺の頭が!!」
「落ち着け!実弾じゃない。片磐大丈夫だ!!」
片磐の肩に手を置き重林は大丈夫だと言い聞かせる。
サバゲーでは極度の緊張感の中、急な変化に驚くプレイヤーは多い。特に油断していた所に赤ペイント弾は実弾で撃たれた事で、本当に自分の頭から血が出ていると錯覚してもおかしくなく、ちょっとしたパニックになる事もある。
重林に肩を抑えられて、深呼吸を促され片磐の気持ちが少し落ち着く。
「片磐はヒットと叫んでフィールドを出ろ。重林!お前も撃たれる。こっちに来て隠れるんだ」
重林は下塚の声に反応して体を転がしながら、片磐が撃たれた方向とは逆の方向に隠れる。
隠れた先で片磐の様子を確認する。
そぉっと立ち上がり、小声でヒットと言いながらふらふらと移動を開始する。
(片磐よかった。あの分だと何とか帰れそうだな。しかし追撃が来ない・・・相手も残弾が少ないのか?)
『残り時間3分』
フィールドに流れる残り時間3分に、重林は舌打ちする。
ここで、出て行くのは危険な気がする。
しかし、3分間ここで隠れて待つのもいいが、やはり今まで一緒に戦ってきた仲間の事を思うと前に行く事のほうが正しいように思えるし、自分から迎撃部隊を買って出たのだ。何かしないといけないという気持ちが強くなる。
「下塚。お前はどうしたい?」
「聞くなよ。そんな事。迷っているに決まっているだろ」
「けど、このままここにいてもな」
「重林。それはもう決まってるっていうんだよ」
ふふと笑う下塚に、つられて重林も笑う。
「じゃあ行くか!」
レイジングブルを構えて二人はゆっくりと移動を開始する。
彼我たちは、移動を開始した重林達の後ろをゆっくりと足音に合わせてついて歩く。
彼我、中町、皆口はの3人はまだ宝箱のある部屋には踏み込んでいない。
宝箱がある部屋の場所は近くまで行って確認して、地形も頭に入れている。
肉眼でAチームの何人かがその部屋のほうへ入っていくのを確認しており、敵が何人いるのか把握するのに時間をかけながら、残り時間を気にして4階フィールドを巡回していたのだ。
宝箱部屋から偵察に出てきたAチームの1人(川上)をキルしてからは、さっき中町がヘッドショットをした敵(片磐)をキルしただけだった。
互いに顔に防護マスクをしている為、ベストの色でしか判別出来ていない。
ここで後ろから忍び寄って自分たちに気づいていない重林達をキルしてもいいが、こちらも残弾が少ない。
無駄弾を撃つわけには行かず、まだ宝箱部屋に残っているAチームメンバーもいるはずと、彼我たちは重林達を泳がせていた。
都合がいい事に、重林達は宝箱部屋のほうへと向かっている。
前を歩いていた重林達がBチームのほかのメンバーと遭遇したようで、撃ち合いを始めた。
「ようへい。俺が撃つぞ」
「任せるよ」
床に寝そべり、じっくり狙いを付けて彼我は引き金を引く。
立って撃つより反動が少なく、狙いもつけやすい。
パス!・・・。パス!
前しか見てなかった重林の背中に何か当たった衝撃が走る。
「くそ!どこからか撃たれた?!」
「俺も!」
彼我が見事に2発で一人ずつ仕留め、重林達はヒットと両手を上げながらフィールドを後にする。
『残り時間2分』
重林達と撃ち合っていたメンバーは荒川、箕河、佐藤、セサル・ノゲイラだった。
彼我達は荒川達と合流し、互いの意見を確認し合う。
「残り2分。いけるぞ!たぶん俺の感覚だともうAチームのメンバーも少ないと思う」
荒川の言葉に否定するメンバーはいない。
ここで荒川の考えが間違いであっても、後2分で宝箱を開けないと結局はドローで終わってしまう。
勝利を掴むには宝箱部屋に入るしか選択肢はなかった。
ちょうどそこへ、ようやく方向感覚を取り戻したベレンゲルが姿を現す。
「それって鍵じゃねーか」
「もうこれで宝箱開けるしかねーって」
ベレンゲルが取り出した鍵をメンバー見せてた事で、方向性は確定した。
「もう行くしかねーよな!!」
最終決戦に向けて、舞台が整った所で高まった気持ちは一気に打ち砕かれる。
パスパスパス!!
「うぉりゃーーーー!!アニキーーーーーーばんざーーーーいーーーー!!」
Bチームの固まっているメンバーに銃を乱射するアビラの特攻で箕河、佐藤の2人がキルを取られる。
アビラの特攻に気が付いたセサル・ノゲイラは、素早く行動しアビラと刺し違えて、リタイヤする。
このアビラの特攻でBチームは3人失う。
その場に残ったメンバーは彼我、中町、皆口、荒川、ベレンゲルだった。
「中町お願いがあるだ」
「ようへい!って呼んでって言ってる。もうこれ何度目?」
「あ、はい。すみません。ようへいお願いがあるんだけど」
「だけど、だいすけのそのお願いは聞きたくない」
中町は彼我のお願いの内容をわかって先に断りを入れる。
「頼む。勝ちたいんだ」
「だいすけは僕を守るって言ってくれた。それは最後まで一緒にいるってことだよ。じゃないと僕を守れないじゃないか」
「中町。ここは俺からも頼む」
皆口が珍しく中町に頼み事をしている。
あまり、自分から中町に対して意見を言ったことが実は皆口にはない。
中町達の事を見ているだけで楽しかったからだ。
だが、今の襲撃を見て自分は何もできなかった事に皆口の中で、悔しさが湧き上がっていた。
誰かを頼るのは間違っているかもしれない。自分で行動を起こす方が正しいだろう。
しかし、勝率はそんな精神論からでは、なかなか掴む事はできない。
ここは勝率を上げる方法に全力を尽くすほうがいいと考えたのだ。
ぷぅうと顔を膨らませるが中町の顔がもとに戻る。
「わかったよ。ミー君。僕も勝ちたい。本気出すけどいいよね?」
「ミー君いうなし」
皆口のあだ名を初めて聞いた彼我がぷぷっと笑いが漏れる。
それをにらみ一括で黙らせ、真剣な顔になった彼我が宣言する。
「ようへいは俺が”守る”よ」
彼我はシリンダーから弾を取り出し、中町に手渡す。
それとアルビアルから預かっている弾も。
(アル。4階で会えなかったな・・・約束守れなくてすまん)
けど彼我の顔に後悔はない。
絶対に中町がなんとかしてくれると確信しているからだった。
「中町これ俺の分だ」
皆口も中町に弾を手渡す。
「彼我だけに任せるのは違う気がする。俺も覚悟を決めるわ」
「ミー君・・・」
「ちょっとまて俺とベレンゲルを置いて勝手に盛り上がるな。お前らの死は無駄にしない。俺達は中町の援護をするからな」
荒川の宣言に頼むぜと、彼我と皆口は声をそろえる。
二人は中町の為に肉の壁になるために、中町に弾を手渡したのだ。
勝率を上げるために自らを犠牲にする。
これは、この戦いが始まる前に彼我が考えていた最終手段だった。
「じゃあ今度こそいくか」
まずは部屋の入口前で中を荒川が確認する。
弾は飛んでこない。
荒川とベレンゲルは素早く部屋に入り、左右に分かれる。そこから二人に向けられる銃弾。
姿勢を低くしている事もあり、二人に当たった気配はない。
中央を皆口、彼我、中町の順に入っていく。
入って突っ込んだ瞬間に皆口の肩が撃たれ真っ赤に染まる。
「彼我後は頼んだぞ」
彼我は両手いっぱいに手を広げて体を大きく広げる。後ろにいる中町が目の前にいる敵を仕留めていく。
弾を撃ち尽くしリロードをする中町。
その前に仁王立ちのように立ちふさがる彼我。
気が付くと、荒川もベレンゲルも二人ともヒットと言いながらフィールドを後にする。
(二人ともやられたのか・・・)
彼我が去っていく二人から前に目を移すと、前に一人の敵プレイヤーが立っていた。
「ベニート・・・」
マスクはしているが、BDUでわかる。間違いなくベニートだ。
リロードをちょうど終えた中町は彼我の横に立つ。
「ふん。中町。彼我を盾にし俺が撃てない事を知っていて、その臆病な態度。見損なったぞ」
「それはち、ちが」
彼我が否定しようとした所で、中町が彼我の肩を掴み自分の後ろに下げる。
「よ、ようへい?」
「そうだね。僕は臆病者かもしれない。けどベニート勘違いしているよ。好きな人の望みを叶える為に互いの気持ちを確認して、僕はそれに全力で答えようとしてるだけだよ」
「それは、親友を犠牲にしてでもすることなのか?」
「・・・。それがだいすけの望みだから」≪僕だって本当はそんな事望んでないんだよ!≫
「そうか。俺は絶対に”親友”を手放さない。友と一緒に掴めない勝利に意味はない。鍵はさっきベレンゲルを倒して手に入れた。これがほしければ俺を倒して”奪ってみろ”!!」
そのベニートの”奪ってみろ”と言う言葉に色々な思いが含まれている事に中町は気が付いた。
「そのつもりだよ!」
互いの気持ちが乗り移ったように、レイジングブルがうなりを上げる。
まるで本物の硝煙のように銃口から煙を拭きながら連射で撃ちあう。
(ようへいは、ベニートにあの現象が起こることを待っているのか?)
あの現象とはさっき、気圧で銃が使い物にならなくなった現象だった。
互いに4発撃ち、まだヒットがない。右回りで行われる銃撃戦を彼我は見ていた。
モノ音が聞こえた気がして、彼我は後ろを振り返る。
銃口を向けるプレイヤーが立っていた。
「死ね彼我」
パン!!
銃口を向けていたプレイヤーの頭が赤く染まり、気を失ったように倒れる。
「ダイスケ!!」
「アル?」
走って駆け寄ってくるアルビアルに呆けた顔で迎える彼我。
「ダイスケ大丈夫か?」
「あぁ・・・。アル。それより生きていたのか?」
「約束しただろう?4階で会おうって。けど今の一発で残弾は使い果たした」
「すまない。預かった弾は中町に預けた」
「それは正解だな」
気絶しているプレイヤーの安否を確認し、目の前で繰り広げられる銃撃戦に食い入るように見る彼我とアルビアル。
右回りの円はだんだん近くなっていき最後に互いに至近距離で、同時に銃口を向け合い引き金を引く。
パス。パス。
シリンダーにはもう残弾が残されていなかった。
中町、ベニートの二人は手元の弾入れも確認するが何の手ごたえもなかった。
「どうやらこれまでのようだな」
「それは違うよ。これが僕たち二人の答えだ」
中町が腰に隠していた最後に彼我から弾と一緒に受け取ったレイジングブルをベニートに向ける。
「僕とだいすけの絆のほうが強かったみたいだね。これでチェックメイトだ。ベニート」
マスクの下でベニートが悔しそうに顔をゆがめる。
1発だけ込められたレイジングブルの引き金を中町が引く。
プシューーーーー!!ポロッ。
銃口から弾がこぼれ落ちる。
その瞬間にフィールド内にアナウンスが流れる。
『タイムアウト試合終了!!』
「ふ。神はどうやら今はまだ決着の時ではないと言っておられるようだな」
ベニートの言葉に今度は中町が悔しそうな顔をする。
「次のチーム戦でこの決着はつける。いいな中町」
「絶対に次こそは・・・」
にらみ合う二人に、とりあえずこれで一旦はよかったかもと思う彼我であった。