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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
64/77

第63話 サバゲー大会 エキシビションマッチ その4

 リボルバーオンリー+フラッグ戦。

 休憩室の大型電光掲示板に、次の試合名称が表示される。

 ただまだ詳細な内容が表示されていない。

 どうも、急遽内容を変更したらしく係りの人が世話しなく動き回っている。

 準備を整える為、通常休憩時間を10分としていたが、45分と少し長めとなったことをアヒル口のハンドマイクを持ったBチームの武田監督からアナウンスされる。

 それだけ、準備に時間をかけると言うことはどうやらエキシビションマッチ最終戦は、前の2回とは指向がかなり違うようだった。


 「なぁアルバート?所でフラッグって何だ?」


 Bチームのリーダー的存在の荒川がフラッグ戦について、ちょうど隣に立っていたチームメイトのアルバート・ロペスに確認する。


 「知らん」

 「・・・デスヨネ」


 基本アルバートはベニートほどではないがそっけない。

 最近練習などで会話する機会が増え少しは打ち解けてきたかなと思う部分があって話をふってみたのだが、アルバートに即答されて、ちょっと涙目の荒川は助けを求めるように顔をふり、こんな時のお助けキャラの゛ヤツ゛を探す。

 そして、都合よくこっちを見ていた”ヤツ”と目が合い、気まずい雰囲気から解放された事で笑顔が自然と浮き上がり、小走りで近づいていく。


 「ちょっ!こっちを見るんじゃねー。何かあったら俺に答えを求めるのはやめろ!」

 「いいじゃねーかよ。また髪切ってやるから。な、彼我」

 「てめ~。俺の頭はまだ誰かさんのおかげで冬場なのに坊主だ!」

 「所でフラッグって何か知ってるか?」

 (こいつ都合の悪い所は省きやがった。しかもさっきアルバートに即答された内容じゃねーか。気まずくなったからって何でも俺にふって来やがって)


 彼我もサバゲーに関してほとんど知識がない。

 それは荒川も何となく分かっている。

 それでもアルバートのように、彼我に分からないと答えられても荒川的には別にいい。

 アルバートとの気まずくなった雰囲気さえ脱出出来れば良かったのだ。

 荒川の意図が分かった上で、彼我は別に答えを本当に分かっていなくても大丈夫だと゛フラッグ゛と言う言葉に自己解釈を混ぜて説明する。


 「フラッグってことは゛旗゛って事だろ?それを取り合うんじゃねーの?」

 「ほう。なるほどな。じゃそれだわ」

 「お前何しに俺のところまで来たんだよ!」

 「もぅ分かってるくせに。い・じ・わ・・・ぐはぁ」

 「気持ち悪いわ!」


 彼我にセリフの途中で脇腹に軽く肘鉄を食らい、わざとらしく痛そうに演技しながら荒川が言う。


 「ちょ、最後まで言わせろよ」


 荒川とじゃれていると彼我の隣にすぅ~と様子を伺いながら中町が寄り添う。


 「だいすけ、さっきの解釈で合ってるよ。けどたぶん一般的なフラッグ戦とは違うかも。だってリボルバーオンリーだし」

 「葉柄ようへいか。聞いてたのかよ。けどちょっと下の名前で呼び合うのは慣れてないから恥ずかしいよな?」

 「そう?僕は全然大丈夫だけどな。だいすけが気にしすぎなだけじゃない?」


 もう彼我と話せるのが楽しくて仕方ないという中町。

 二人のやり取りを見ていた荒川は驚いた表情でそこからどう表現していいのか分からず、とりあえず二人を指で指しながら、カタカタと歯をあわさながら、そのせいでしっかりとした言葉が出てこない。


 「お、お前らとうとう・・・」


 荒川が物凄い勘違いをしている事を察した彼我が弁解する。


 「何わけの分からんことを言ってるんだよ。さっき葉柄って呼んでくれって事になってだな」

 「彼我、それでは説明足りてなさすぎだぞ」


 中町の横から皆口が着て呆れたような口調で言うと、荒川の首に腕を回して捕まえると、少し離れた所で説明を開始する。

 そしてすぐに二人が戻ってくると荒川から、中町に対して何か悟ったように頷き、よかったなと祝福の言葉がかけられる。

 中町もありがとと、ちょっと照れながら返しそのやりとりに、彼我はさらに間違った解釈が入っているような気分になるが、ニヤニヤしている荒川と皆口を見て彼我が突っ込む。


 「お前らそれわざとやってるだろ?」

 「何だもうバレたのか。気がつくの早いわ。流石だいちゃん。もう少し楽しみたかったんだがな」

 「勝手にだいちゃんとかあだ名をつけんじゃーねー!」


 ちょっとしたやり取りを終えると、電光掲示板の前に大きな机が用意され、そこに黒とシルバーの2種類のリボルバーが用意される。

 リボルバーと言えば、コルト・パイソン357(シティ○ンターが使っている銃)が有名だが、どうもそれではないらしい。

 パイソンはバレル(銃身)が丸いのが特徴だが、用意されたリボルバーのバレルはシャープで全体的に近代的なイメージがある。

 そしてバレルにRAGING BULLと書かれている。


 「なにこれ?」

 「トーラス・レイジングブルか・・・・。複雑な気分だ」


 彼我の言葉に、いつの間にか隣に立っていたベニートが答える。

 いつもならウンチクを語ってくれるベニートだが、どうもこの銃には複雑な事情があるらしい。

 

 「聞いても言い話なのか?」

 「”親友”のお前に話せない話などない。いいだろ語ってやろう」

 

 と嬉しそうな顔をして語り始めるベニート。どうもさっきの試合で一皮むけたらしく、彼我の気を引くために”わざ”とちょっとした演技を披露してくれたらしい。

 うぜー!と心でいうが、そのまま何も言わず、彼我は黙ってベニートの話に耳を傾ける。

 ベニートによると、銃の名前はレイジングブルという名前らしい。トーラスは開発会社名。ベニートが初めに、複雑な気分と言ったのは開発会社がブラジルにあるからだった。

 アルゼンチンとブラジルはライバル関係にあり、あまり相手の国に対していい評価を言うのは好きではないらしい。

 しかし、このトーラス・レイジングブルに関しては熱いものがあったらしく、色々(長々ともいう)語ってくれた。

 早い話が、最先端のリボルバーという事だ。

 デザインも映画映えしそうなフォルムをしており、選手達からもカッコイイなと声が上がっている。

 ベニートの話が終わり、早速手に取ってみる。

 

 (重いな)

 

 ずしっと来る重量感。グリップもまだ使われていないだろう新品感からか手にあまりなじまない。

 しかし、圧倒的な存在感に心が惹かれる。

 

 「ここにおいてあるのは6.5inchの物だけか?」

 

 ベニートが係員に何かを確認している。すると、係員がすぐに走って行き黒い銃を持ってくる。

 それを受け取ったベニートが頷き俺はこれにするという。

 

 「ベニートそれは?」

 「8.375inchのレイジングブルだ」

 

 確かにフォルムは一緒なのだが全体的な大きさが違う。さらに重量感が増し、おとこが持つにふさわしい銃だ。

 

 「それ似合うな」

 「?!」

 

 俺の一言が気に障ったのか、ベニートはそのまま走ってどこかへ行く。

 それを追いかけるようにアビラもベニートについていくのだが、彼我のほうへ顔を向けると、これで勝ったと思うなよ!と訳のわからない捨て台詞を吐きながらあにき~~~と言い消えていく。

 

 「なんだあいつら・・・」

 「ふむふむ。そうやってBMポイントを稼ぐわけだな」

 

 彼我の隣で、何かわかったように荒川が頷いている。

 少しして、ベニートとアビラが何もなかったように戻ってくると、電光掲示板にルールが表示される。

 

 現行ルールをそのまま適応するが、一部改正。

 リボルバーについて

  1:今回の試合において、手持ちの銃は1丁だけとする。

  2:リアルカートリッジは各チームに300発を配布。各チームで割り振りを考えてカートリッジをメンバーに配布する事。

  3:ヒットした仲間の選手からリアルカートリッジの譲渡は認められない。

  4:先の試合まで銃口を向けた時点でヒット判定としていたが、今回の試合に限り、その条件は適応しない。

  5:スピードローダーは使用禁止。リロードは自身の手で行う。

 

 フラッグについて

  1:3階のどこか10か所に設置された鍵を入手し、4階の3か所に設置された宝箱からフラッグを入手したチームが勝利となる。

  2:3か所の宝箱だが2個はダミーで残り1個にフラッグは入っている。

  3:制限時間は20分。これをすぎると両チーム、生存人数に関係なくドローとなる。

  4:勝敗は相手チームの全滅か、フラッグ入手とする。

  5:残弾がなくなったとしても、ヒット扱いとはせず、そのまま行動をしても良い。


 机の上に置かれた各300発、合計600発のリボルバーに使用される弾が置かれている。


 「お、おい。これって本物なんじゃ?!」

 「違うよ。これにBB弾を詰めるんだよ」

 「そ、そうだよな~」


 彼我は用意されたリアルカートリッジを見て、驚いていたが中町に助けられる。

 彼我は中町から軽くリボルバーの扱いを受けて、シリンダーにカートリッジを一発ずつ入れていく。

 まるで恋人が寄り添うような雰囲気に、誰も近づかない。

 銃の扱いで意識を集中していた彼我が、ふと周りの雰囲気から不審な気配を感じる。一番わかりやすい所でベニートが苦虫を噛んだような顔をしてこっちを見ていた。後で何か小言を言われるんだろうなと思いながら、試し撃ちの為に射撃場に向かう。

 グリップの下についたガス注入口を上に向け、上からガス缶を差し込む。

 

 「なぁ?なかま・・。葉柄?」

 

 ついみよじで呼ぼうとしたらすごい顔で睨まれてしまい、名前で呼びなおす。

 

 「なに?」

 「これってどれぐらいガスを入れればいいんだ?」

 「そのうち注入口からガスが噴き出てくるからそれで一杯だよ」

 「これって何発ぐらい撃てるんだろ?」

 「今回支給されたカートリッジから平均して一人17発ぐらいだからそれぐらいは撃てると思うよ」

 「よく知ってるな」

 「ま、まぁ。武田監督に付き合わされてるから・・・」


 最後のほうは小さくなって何を言っているか聞こえにくかったがそのまま流す。何か嫌な事なんだろう。

 一通り試し撃ちが終わり、一旦席に戻ると荒川がBチームを集めるよう声をかける。


 「みんな集まってくれ話がある」


 荒川がBチーム全員を集めると、支給されたリアルカートリッジ300発が机の上に置かれていた。

 

 「俺たち17人で平均すると17発持つことになる。このカートリッジをさっき支給されたカートリッジBOXに入れて行動するらしい。初めに6発シリンダーに入れておいていいようなので残り11発をBOXに入れる事になるのだが、あくまで平均してカートリッジを配った場合だ。それでいいか?」

 「荒川が言いたいことは死んだ奴から弾を受け取れないから、誰かに集中で持たせたほうがいいって事か?」

 

 荒川と仲がいい箕河みがわがみんなが聞きたかった内容を代表で確認してくれる。

 

 「それを含めて聞いてるんだけどな。揉めるなら平均して配る。だけど作戦と理解してもらった上で偏った配分も考えてほしいって話だ」

 「難しい問題だけど。もし集中するなら一人1発ずつ中町に預けてほしいかな。中町お前なら弾を無駄にしなさそうだし」

 「それが妥当か」


 荒川と箕河の会話を聞きながら最終的に中町の顔の視線が集中する。


 「ぼくは受け取れないかな。最後ぐらいはみんなで楽しくサバゲーやろうよ」

 「勝ち負け関係なくか?」

 「・・・。そうだね。結果として勝利すれば最高だけど。ずっと勝ち負けばかり意識して体が硬くなっている気がするんだよ。体を軽くしてさやろうよ。けど今回はさっきの試合みたいに一方的にやられたりはしない。だから楽しくやっても勝利にはぐっと近くなると思うよ」

 「俺は勝ちに行きたいかな」


 ベレンゲル・ニッセンが中町の意見を聞き飲み込んでから発言する。


 「勝ちにこだわりたいんだ。みんなと楽しくやりたいからこそ。このメンバーだから勝利の快感を分かち合いたいんだ。それはサッカーでも同じだし、たかがサバゲーというゲームなのかもしれないけど、みんなとサッカー以外の何かを共有できている事にすごく嬉しいんだ」


 普段練習以外で全員で何かをする事はない。仲のいい奴とだけ飯を食ったり時間を共有しているが、ほかのメンバーとだって本当は共有したいと思っている。

 しかし、中々うまく行動にできず今回のような強制イベントだと”誘う”というプロセスを省いて、無条件でみんなと一緒にいることができる。

 ベレンゲルが素直な気持ちを伝えた事で、周りの数人から理解できると頷きがあった。


 「中町。俺も勝ちたい。頼ってはダメか?」


 荒川からの提案をずるいなと言いながら中町は了承する。


 「待ってくれ。葉柄だけに背負わせるのはかわいそうだ。さっきと同じメンバーを葉柄の護衛として行動するがいいか?」

 「分かってるのか?彼我?今回は少人数に分けて行動するほうがいいんだぞ?」


 さっさと鍵を入手して、フラッグを手に入れるのに大人数5人以上はいらないと荒川は言っている。


 「そうだな。それはお前らに任せるよ。俺たちはもう一つの勝利条件を目指す」

 「敵全滅をか?」

 「葉柄にみんなのカートリッジを預けるなら、そういう事だろ?」


 にやっと笑う彼我に、溜息を吐きながら荒川から任せたと言われる。


ふりがなを修正しました。

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