第62話 サバゲー大会 エキシビションマッチ その3
ベニートはトイレの個室で手を組み少し、いやかなり苛立っていた。
今までサッカーの試合、私生活においてここまで気持ちがぐらついた事はない。
いや、ぐらついた事はあるのだが、いつもなら鏡に写った感情がむき出しの表に出た醜い自分の顔を見ることにより、平静を取り戻すよう自己暗示をかけいる。そうする事で自分に不都合な感情を無理やり押さえ込んで、気持ちに強制的にリセットをかけていたのだ。
暗示がかかっている間は試合中クレーバーでいられる。
しかし、その暗示でも立て直しができない事が初めてで、沸き上がるイラつきを押さえられない。
(なぜだ?どうしてこうも体の奥からドス黒い感情が生まれてくるのだ?俺はこんなに弱い人間なのか?)
今までの人生の中で、考えが及ばず他人からのプレッシャーで、精神的に追い詰められた経験がない。
どんな状況にあっても、感情をコントロールし解決の糸口を見いだしてきた。
気持ちを整理するために現状を確認する。
今は2試合目を開始するまでのインターバル。
各選手たちは、マガジン(弾倉)の残弾を確認したり、前の試合で使っている銃がしっくり来なかったのか、新しい銃を手に取り、構えて馴染み具合を確認していたり、サバゲーを楽しむように和気あいあいと各自調整を行っている。
ベニートはそんな中、自分にかかる複数の視線に気づき待機室を出て誰もいなさそうな少し離れた場所にあるトイレに向かう。
洗面前に備え付けられている鏡を見て自己暗示をかけようとするのだが、沸き上がる感情に心が揺れ動き、うまく集中する事が出来ない。
そして写し出された自分の顔は今までに見たこともないような鬼を彷彿とさせるもので、このまま待機室に戻っても視線の的になるだけだとトイレの個室で考えをまとめようとしていた所だった。
自分がこうなっている原因はシンプルだ。
中町 葉柄。
さっきの試合で中町と遭遇していないので彼のプレイスタイルは見ていないが、相当の手練れだとプラクティスを見れば分かる。
このまま、無策で次の試合を迎えれば確実に中町にチームメイトがやられてしまい結果として最終的に゛彼我゛を連れていかれてしまうかもしれない。
日本のアニメだったら、こんなとき ゛俺は勝つんだ!俺ならやれる!゛など口にして気合いを入れて話の流れを変えるのだろうが現実にそんな ゛フラグ゛があるはずもなく、この状況では負けるかもしれないそんな不確定な要素を抱えて戦う気にはなれない。
やるからには ゛必勝゛である。
闇討ち、ケガ、体調不良など、中町にそんな不幸が起こればいいと、一瞬ガラにもないことを考えてしまう。
頭をふってゆっくりと目をつぶり、心の中で10を数えると不思議と落ち着きがよみがえる。しかし、まだまだ暗示に比べればクリアーになったとは言い切れない。
(こんな考えは彼我の知るベニート・ミロではない。ベストな中町を倒す。俺は今までそうしてきたはずだ。数々の選手たちと、競いレギュラーを勝ち取ってきた。それに弱った中町を倒しても彼我が俺を認めるはずがない。むしろあいつなら俺を軽蔑するだろう)
ベニート自身気がついていないが、かなり心の中に彼我が住み着いている。
孤高。
以前だったらベニートを表す言葉を考えた時、まず思い付く言葉だった。
しかし、最近ベニートにその言葉が当てはまるかといえば首を傾げる者がいるだろう。
簡単な話でベニートの隣には彼我がいるからだ。(ベニート自身が彼我を強引に自分に関わらせているが、それを迷惑なんだろうか?など思った事はなく、親友なので当然だと思っている)最近はセット(ベニートの中でアビラは数に入れられていない)扱いされる事が多い。
そんな゛他人゛からのセット扱いは実は凄く心地が良かった。なぜか安心できるのだ。
自分の主観ではなく他人からどう見えているか?が気になる。そんな事今まで気にした事もなかった。
一人でストイックに過ごす事も嫌いではないが、夜物凄くネガティブな思いが生まれたりする。
浮き上がったネガティブな気持ちは筋トレなどをして頭が真っ白になるまで無茶をして消し飛ばす。
それがこのクラブチームに来てからほとんどなくなった。
彼我と一緒にいることで、心が弱くなり練習の質が下がったと思うことはない。むしろすべてにおいて向上している。
そう ゛全て゛においてだった。
精神の安定は気がつけば肉体的なバランスも向上させていた。
人間そうそうに ”何か満たされている”という気持ちはなかなか沸いてこない。
幼い頃の家庭事情により ゛満足゛する事に貪欲になっていたベニートはとりわけ友人については、自己判断基準が厳しい。
゛自分が友と認めて親友と呼べる゛事が条件。
気がついたらそばにいたアビラはこの定義に当てはまらない。あくまでもチームメイトなのだ。
では ゛親友゛の彼我はどうだったか?
意識し始めた時の事を思い出す。
あれは、このクラブチームに入ってチーム分けされる前に体力測定をするため、適当に分けられたグループ内での話である。
高地で空気が薄い中、100m全力ダッシュを20本続けて、他の選手たちは徐々にタイムが落ちてくる中、ベニートは疲れてはいたがタイムは落ちていなかった。その中で一人自分についてくる奴がいた。
それが彼我だった。
結局最終30本続けて、最後まで自分について来た。
ただ持久力があるだけかと思えばゴールタイムがほぼ変わらない。足も本職のスプリンターほどではないが、速いほうに分類されるだろう。
そんな彼我に
゛興味゛が湧いた。
自分でも、そんな感情が湧くことに驚きを覚えた。
本当に今まで他人に興味を持った事がなかった。女性も家族もしかり。興味が湧かない(だからといって男性に性的欲求があるわけではない)
100m全力ダッシュでついて来たからと言って興味が湧いたわけではない。
アルゼンチンで肉体的に優れた選手は何人も知っている。しかし彼らに興味が沸くことはなかった。
彼我に対してどこか脳内に引っ掛かるものがある。それが何か今の時点ではわからない。
もしかしたら、彼我は自分と同じ目線で世界が見える奴かもしれないと思った時、心が震えたのだ。
しかし、今まで友を作った事のない自分がか声をかけるには、どうやっていいのかわからないので機会を待つ事にする。
話す機会を待つ傍ら、彼我を観察していくとボールテクニックは素人同然。
運動神経もこのクラブチームでは飛び抜けた印象はない。
(俺が興味を持ったのは本当は気のせいだっのか?)
彼我を見ていて少し落胆し始めた頃だった。
「えーと、オレヒガ、ベニートだっけ?かな。ま、いいや。サッカーウマクナルホウホウヲ、オシエテホシイ」
身振り手振りを使い、片言の日本語で話しかけてきた。
まず、印象は馬鹿かこいつは?とベニートは思った。
片言で話すなら日本語ではなく、せめてラテン語で話しかけてくるものだろう。
次に話しかけてきた状況が空気を読めていない。
簡単なボールを使った基礎練習が終わり休憩していた時で話をするのには構わないと思うが、ベニートは他の選手たちとかなり距離を取って休憩を取っていた。
どうみても俺に誰も近寄るなと言っている雰囲気が漂っている。
こいつは頭が悪いのかと思うが、今まで観察してきた中ではそんな印象はない。
彼我の話は理解できた。日本語を理解する分には困っていなかったが、まだ会話出来るほど堪能ではない。
このまま、シカトしてもいいがせっかく声をかけてきたのだ。
他のアルゼンチン選手ではなく、自分を選んだ事も評価できる。
(ふ、誰が一番サッカーが上手いか理解しているではないか)
ベニートの思いとは裏腹に、彼我が声をかけたのは、この時まだ日本人のチームメイトにすら馴染めておらず、一人でいたベニートを見て゛あいつも俺と同じなんだな゛とちょっとお節介半分と、一人いることで声がかけやすそうと言う理由からだった。
ベニートはピッチの外で待機している長身で色黒の通訳にこちらに来るように手招きする。
通訳は、ベニートに初めて呼ばれて目をむき何事だと駆け寄ってくる。
(確かこいつが聞きたいのはサッカーが上手くなる方法だったな。方法は色々あるが言葉の壁で齟齬が伝わっては教えた俺の沽券に関わる)
間違った事を教えるわけにはいかないと、通訳をこちらに呼んだのだが、通訳からは何かこの日本人が無礼を働いたのか?と少ししかめっ面で聞かれる。
ベニートはアルゼンチンにとってユースでありながら英雄的な扱いを受けており、初めて通訳が呼ばれて、今までベニートに誰も近づくような気配がなかった中、目の前に日本人がいれば勘違いするのも仕方ない。
「そうじゃない。この日本人に俺の言葉を間違えず伝えてほしい」
「お、おう。わかった」
ベニートが通訳を通して彼我に教えた事はどこでも、どんな時も、出来るだけボールをさわれと言う事だった。
「どこでもって食事中もか?」
「そうだ」
二人の会話を通訳が、二人の声を真似しながら交互に伝える。
真似があんまり似ていないせいで、二人はそれに気がつく事はなかったが、ベニートの話が終わり通訳がなにも言わなくなったのを見て彼我は頷く。
「わかった。それやるわ。ラテン語で、ありがとうって確かグラシアスだっけ。ま、いいや。グラシアス!」
笑顔でお礼を言われながら右手を差し出されて、ふと右手を掴んだ。
思いのほか暖かく、時間が一瞬止まった気がした。
親ですら、ここまで暖かくはなかった気がする。
いや、もしかしたら体温は、親の方が高いのかもしれないがそういう事ではない。
゛自分が意識を向けている相手なのか?゛
それで印象が大きく変わる事をベニートはこの時知った。
(これが、人の暖かさか。思っていたより良いものだな)
そして、それを教えてくれた彼我はベニートの中で特別になった。
それから試合などで交流を重ねて現在に至るわけだが、中町と言う心の侵略者に今最大のピンチを迎えている。
(中町とやりあえるのは俺だけだ。一対一なら勝負は正直わからないが、中町には彼我と言う優秀な護衛がついているそれをどうやって潜り抜けるかだが)
「アニキー!」
思考が負のループに入ろうとしたときのトイレに複数の足音が聞こえる。
そして、アビラの呼ぶ声で意識がそちらに剃らされ負のループから向け出す。
個室から出ると、アビラとチームメイトのアルゼンチン選手全員が集まっていた。その後ろには日本人選手たちもいる。
「どうした?」
「俺達アニキの力になりたいんすよ。あいつらに勝ちたいんです。アニキならいい手を考えているんでしょ?」
アビラの言う通り作戦はある。ただそれを実行するには人数をかける必要があった。
(この戦いは俺のエゴも含まれている。さっき休憩室で和気あいあいとサバゲーを楽しむ彼らに俺のエゴを押しつけていいのか?)
ベニートの懸念が顔に出たわけではないが、チームメイトの重林がベニートに近づく。
「はっきり言ってあのチート状態の中町にタイマンで勝てるのはベニートだけだろう。なにもできず終わるのはあまりにも悔しい。頼む俺達にも勝利に貢献する機会をくれないか?」
重林の熱い訴えに ゛わかった゛と返事をする。
全員で休憩室に戻るとベニートを中心にAチームは会議を始め、Bチームは、その異様な光景にみいってしまう。
(へ~。ベニートってあんな顔も出来るんだな)
彼我は、自分以外にベニートが向ける真剣で、やる気に満ちた顔を見るのは初めてだった。それを見て嬉しくもあり、どこか寂しさを感じていた。
それを見ていた皆口がさっきの試合で一緒に行動していたメンバーに声をかける。
「なんか、あっちも盛り上がってきたな。オレらもいっちょ円陣でも組んでみるか?」
皆口のよくわからない提案を全員受け入れ肩に腕を回し円陣を組んで見る。
気がつくと円陣を組むはずのメンバーが増えており、アルゼンチン選手を含めBチームの17人全員参加での大きい円陣が出来上がる。
わけもわからず、とりあえずやってみた的な円陣なので中には ゛なぁ?これって何の円陣?゛と声がちらほら出る。
「お前らノリだけで参加するなよ」
皆口の愚痴に荒川が答える。
「いや、だって向こうはなんかベニートを中心にさ、チームとして纏まり出したしちょっとうらやましぃ。げふんげふん。あ~お前らだけで勝手に盛り上がってるから参加してみたんだけど。やってみたはいいけど、でなんかあんの?これ?」
皆口としては、中町に彼我と関わる機会を増やしてやろうとしただけなのだが、それが結局こんな変な空気を作り出す裏目に出る形となってしまった。
(こいつらノリだけで行き過ぎなんだよ)
皆口はそう頭の中で愚痴るが、自分も同じ状況なら、ノリだけで同じように空気を読むことなく流れに乗っかっていたかもしれないと人の事は言えない。
サッカーにはシビアなアルゼンチン選手たちも普段は陽気な連中ばかりで、こういった ゛日本゛の軽いノリは嫌いではない。
円陣を組んだはいいが何も始まりそうにないので荒川が提案をする。
「とりあえず円陣組んだし、なんか話題を出しあうか?」
「じゃ俺から。昨日な、鳥カラ定食がなんとサービスデーでなんと!肉が2倍だったんだよ」
「まじか?!それはヤバいな。って知ってるよ。昨日みんな一緒に食ってたじゃねーか」
選手たちの中で人気メニューの話で盛り上るが、全員これじゃない感を感じ顔を見合わせる。
「うーん。この話題じゃないな。所でお前いい香りがするな」
「あぁ。この間の給料で、柑橘系のコロンを買ってみたんだよ」
「まじか?!俺ちょっとこの香り好きかも。今度商品名教えてくれよ」
「んん!」
円陣の真ん中にいたアルバート・ロペスが脱線した話を戻すように大きめな咳払いをする。
だよねーと言う言葉が全員に浸透した所で荒川が本題に入る。
「あっちは何かベニートが作戦指示出してるようだけど、彼我何か知ってるか?」
ベニートの事はとりあえずオレなのねと思いつつ返事をする。
「いや、わかんねーな。まじで。あいつから教わったのは、サバゲーと言うよりミリタリー関連の話ばっかりでって聞いてるか?」
「やーね。奥さん ゛あいつ゛ですって。もう夫婦的な~みたいな?」
「お前らぁ~な!」
「んんん!!では、中町はどこまであの状態で戦えるのだ?」
アルバートが空気を変える大きな話題を持ち出す。
プレイスタイルを見て、中町が ゛ゾーン゛を使っていることは確かだ。あれだけの身体能力を出しつづけていたなら、ベニートを越え世界から注目される選手として扱われていただろう。
限定的な能力向上で中町と言えば ゛ゾーン゛しか思いつかない。
「そうだね。後30秒位で今日使える限界が来るかも」
「なるほど。このエキシビションマッチの後、各チームトーナメントもあるから、そこで使うとなると、この後はもうあの状態にはなれないと言うことか」
アルバートの奴やるなと、みんなが聞き耳を立てて思った。話題の振り方が自然で聞きたい事を聞けたと全員が感情が現れないようなどうにか無表情を装う。
しかし、10代の少年たちに一番感情が表に出やすい ゛喜び゛を表情から消す事はかなり難しい。ぶっちゃけ喜んでいるのがモロバレだった。
チームメイトでクラブの中で一番足が速い佐藤 雅はわざと、表情を消すために逆に一番出やすい感情の喜を笑顔でいることで消している。そのためあだ名は ゛般若の佐藤゛と呼ばれている。彼だけはそのおかげで上手く誤魔化せていた。
それはさておき、エキシビションマッチはあくまでお遊び。
100万がかかった本気の戦いは次のトーナメントにある。
そこで大きな障害は ゛中町゛だろうと誰もが簡単に導き出す事ができる。
中町の情報は収穫しておく最優先事項だ。
しかし、中町もそれをわからないほど抜けてはいない。
゛ブラフ(はったり)゛
と言う可能性もある。
この短い間に次の本命に向けて情報戦は行われていた。
その中で正確に情報を精査していたのが彼我だった。
(中町の話はブラフだな。実際はもう少し長く使えるはずだ。ただ30秒にも信憑性がないわけではないな。まだ隠している事がある気がするし)
隠された何かが凄く嫌な予感を感じさせる。
次の二回戦が後2分となった事で円陣は気合いを入れ直すだけで解散となった。
各自スタート位置である小部屋に着く。
スタートの合図と共に、Bチームは先ほどと同じように、個々が好きなように固まり移動を開始する。
彼我はフィールドに入った時点で嫌な汗が止まらない。
(なんだ?この感じ。トラップが仕掛けられた森を歩いている気分だ)
実際は、第1試合と同じ廃墟をイメージした建物の中で、トラップも仕掛ける道具はクラブ側から支給されてはいない。中町、彼我、皆口、大河、アルビアルの5人は1試合目とは違うルートを移動していた。
その時、彼我の嫌な予感が的中する。
「中町避けろ!!」
彼我の前を歩いていた中町は、彼我の叫び声の前に体を反応させて、前から飛んできた弾をよけていたが、どこから流れてきた弾を避けられず被弾してしまう。
(僕が撃たれた?!何発か確かに避けたはずなのにどこから?!)
撃たれた中町が驚きに腰を抜かして後ろに倒れている間も銃撃は止まらない。
(なんだこれ?まるで ゛フルオート゛じゃねーか!)
このサバゲーのルールとしてフルオート(連射)は禁止されている。セミオート(単発射撃)でしか撃つことが出来ないのだ。
しかし、さっきからひっきりなしに弾が飛んでくる。
しかも、直線だけではなく左右斜め方向からも。
中町は、直線の弾は確かに避けたのだが、左右からくる弾に被弾したのだ。
(ベニーート!)
この銃撃方法を考えたのは、あいつしかいないと彼我は顔を歪める。答えも大体想像出来る。
彼我たちは、やられた中町をおいて壁に隠れたおかげで被弾せずにすんだが、仲間を見捨てたようで気分が悪い。
「くそー!油断した」
「いや、してねーよ。落ち着け彼我。゛俺達゛は慎重に進んでいたさ。あそこのポイントに仕掛けられてる可能性はお前も気がついていただろう?」
銃撃を受けたのは少し開けた場所に入る時だった。
中町がどんどん進んで行くのでついていくしかなかった。そのため、皆口の ゛俺達゛とは中町以外を指している。
「お前なら中町を止められたはずなんだ。けど止めなかった。この意味を考えろ。ちゃんと答えを出さないと俺はお前を軽蔑する」
皆口の言う事が彼我には理解できた。どんな状況にせよ ゛仲間を見殺し゛にしたのだ。さっき ゛くそー゛と吠えたが実は自分に対してである。
次のトーナメント戦を意識しすぎるあまり判断が甘い。
中町を敵と認識してしまっている。
1試合で、中町にあまりに強いインパクトを与えられたせいで脳が仲間という意識を持つことが出来なくなっていたのだ。
大体Bチームの他のメンバーも彼我と同じような考えを持っており、Bチームで彼我を攻められる奴は、中町のチームメイトの皆口と大河だけだろう。
「・・・すまない。俺が間違っていた。中町は俺の ゛仲間゛だ」
「そうだ。彼我。このサバゲーでお前とあいつが仲間でいられるのは ゛今だけ゛なんだよ!そこは間違えないでやってくれ・・・。頼む」
「・・・あぁ」
この後、中町を失ったBチームはベニートが指揮するAチームの連携の前になす術がなく徐々に撃破されていく。最後まで抵抗した彼我たちも善戦虚しく撃ち取られていまう。
エキシビションマッチ1、2回戦 トータルキル数表
”俺達野郎Aチーム” 赤メッシュベスト
ベニート・ミロ キル数8
花形 智明 キル数2
倉見市 俊治 キル数2
シジネイ・ルシオ キル数2
川上 雅士 キル数0
カミロ・アビラ キル数4
水八 陽一 キル数0
セルディア・バジョ キル数1
マルニャ・アバスカル キル数1
林 茉耶 キル数1
倉石 登 キル数0
下塚 騰児 キル数1
片磐 重道 キル数1
下市 庄司 キル数1
重林 大成 キル数1
御津島 修三 キル数1
”カレーが大好きBチーム” 黄メッシュベスト
中町 葉柄 キル数9
アルバート・ロペス キル数0
ベレンゲル・ニッセン キル数1
大河 智治 キル数1
彼我 大輔 キル数1
箕河 春樹 キル数0
セサル・ノゲイラ キル数0
アーロン・オルネラス キル数0
青木 撤兵 キル数0
佐藤 雅 キル数0
アルビアル・ベルグラーノ キル数0
皆口 雄介 キル数2
ディオニシオ・モタ キル数0
池華 益雄 キル数0
檀乃 琴伴 キル数0
合田 憲次 キル数0
荒川 修司 キル数1
(このプラクティスを見る限り、ベニートはエゴを捨ててチームを指揮して勝利に導いていた。今この時を楽しみ、後の事は後の話で気持ちを切り替えている。それに比べて俺は・・・なんて弱いんだ)
彼我の中には自分がどれだけ小さな人間かと言う事を認識してしまい、落ち込んでいた。
「彼我・・・」
うつむいていた彼我が顔をあげると中町が立っていた。
「反省しているようだし、僕の事これからは名前で呼んでくれたら許してあげるよ。そのかわり僕も彼我の事 ゛だいすけ゛って呼ぶからいい?」
皆口にでも事情を聞いたのだろう。
中町からの提案を心の中でありがとうとお礼をいい、そんな事ならお安いご用だと返事する。
第二試合は中町をベニートの作戦で見事撃ち取りAチームが勝利して第3試合へともつれ込む。