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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
61/77

第60話 サバゲー大会 エキシビションマッチ その1

 サバイバルゲーム。略してサバゲー。無人島などで己が身につけたサバイバル技術を使って、決められた期間、生き残るアウトドアゲームではなく、今回はエアーガンを使い方、撃ち合うゲーム。

 最近ではアニメなど公のメディアを使ってサバゲーに対する認識を広めているが過剰演出もあってルールを間違った知識で覚えてしまった人も多いのではないだろうか?

 BB弾とはいえ銃を人に向け会うわけで、ルールを守らないと危険である。自分勝手な行為は揉め事になる可能性があり、アニメのような強引なプレイは警告、もしくはプレイ施設出禁の対象になりかねない。

 先程からアナウンスでサバゲーのルール説明と警告が流れていた。

 そんなアナウンスを気にした様子もなく、クラブチームの選手たちの多くは、サバゲー会場となる建物前の広場に集合し、談話をしながら時間を潰している。

 参加エントリーをするための受付テントにはチーム代表者が一列に並びエントリー用紙に詳細記入をしていた。

 テント前で並んでいる参加選手たちの中には奇抜な格好をしている者が多く見受けられる。

 アニメのキャラクターをイメージしたコスプレである。比較的衣装が手に入りやすく鍛えられた肉体のスパイ○ーマンがシートに記入している姿は、なかなかに笑える。王道をわざと外してカラーはブラック。ぶっちゃけ衣装としては全身タイツなのでボディラインがくっきりとわかってしまうが、そこは鍛えられた肉体、シックスパックがタイツの上からでもわかる。下半身には中に何か仕込んであるのかもっこり感はない。彼以外にも建物前で待っている選手の中に同じ格好をしたコスプレイヤーが2人いた。他にも3人一組で同じ格好をしている選手たちが見受けられる。チームで衣装を統一しているのだろう。それでもやはり、人気は軍服を着たチームが多い。

 会場の雰囲気はサバゲー大会と言うより、イケメンが集まる男だけのコスプレ大会に近い。銃を手に持っていないおかげで殺伐とした雰囲気とは無縁に感じられる。

 エアーガンの貸し出しはエントリー終了後、施設に入ってからになっている。

 サバゲー大会がコスプレ大会になっている事にベニートは、呆れた様子だった。

 

 「ふん。俺たちほど、大会のコンセプトに合わせたチームはいない様だな」

 

 ベニートたちの衣装は緑色のオーソドックスな迷彩柄のBDUバトルドレスユニフォームであり、周りからみれば面白味にかけるが、忠犬アビラはベニートとの言葉にそうですよね。兄貴!と、しっぽの代わりに首を縦にふりながら肯定の意思を示している。対して彼我は二人に悟られない様に左の片目を瞑り、珍しく興奮しているベニートにため息をついていた。

 そんな彼我は大会に自分の名前が入っている主役なので、強制参加の為、エントリーをする必要がなく列に並んでいない。さらに言うとチームリーダーは彼我ではなくベニートで登録されている。エントリーシートは前もって提出しているのだが、チームメンバーを記載する際、ベニートから何も彼我がリーダーをする必要はないはずだと、彼我からシートを奪いとり、ボールペンで゛べにーと゛と、ひらがなでリーダー枠に自分の名前を書き込んだ。自分がリーダーでなくていいのか?と疑問に思いながら武田にエントリーシートを提出するとシートを見てお前も苦労しているんだなと慰めの声をかけられた。

 そんな訳で前もってエントリーの準備が出来ているおかげで施設に入れる時間まで彼我たちは時間をもて余していた。

 昨日の夜からベニートがひたすら銃についてなど語りを続け、ずっと作戦だの、ハンドサインはこうだ。などと聞かされ眠気もあって頭の回転が鈍い気がする。

 

 「彼我、何を眠い顔をしている。ハンドサインのおさらいをしておくぞ」

 

 心の中でため息をつきながら彼我はベニートに付き合う。夜通しハンドサインが覚えるまで寝かす気はないと23時から練習を始めどうにか寝れたのが朝の2時。おさらいのハンドサインは体が強迫観念からしっかり覚えていた。

 

 「さすがは俺が見込みだ男だ。よく短期間でマスターした」

 

 嬉しそうにするベニートに、お前が寝かせてくれないからだと言いたかったが、場を濁す必要もないかとどこか諦めた気分で゛まぁな゛と軽く返す。

 その横でアビラから兄貴の気を引くために必死なんだろ!と思ってもない事を言われるが、取り合う元気が出てこない。

 ふと彼我は疑問が沸いてきて、口から言葉が漏れる。

 

 「しかし、お前ら、徴兵はされてないんだよな?なんで、そんなハンドサインとかに詳しいんだ?」

 「アルゼンチンの徴兵制度は廃止されて、今は志願制だ。だがハンドサインなど基本常識だろ?」

 

 聞いておきながら、彼我はそんな常識あってたまるかと返そうかと悩む。

 そこへ。

 

 「常識だ(シュゴー)」

 

 と言う忍者が現れた。

 しかし、彼我の中で何かが違うと言っている。

 まず、ハンドサインが常識かそうでないかと言う以前に、忍者が着ている衣装は布で作られた物でなく、サイボーグをイメージしているような戦闘用ボディスーツと言ったほうが良いだろう。顔がフルフェイスマスクで覆われており、誰かはわからない。しかし、雰囲気から選手ではなさそうだった。

 

 「どなたですか?」

 

 丁寧な口調で尋ねる彼我にフェイスから漏れるシュゴーという空気音に混ざりながら言葉が聞こえるが、若干聞きとり難い部分もあり、どこか、そういった部分が演出臭い感じがする。

 

 「我の名は(シュゴー)不知火しらぬい。悪の(シュゴー)組織‥」

 「あの~出来ればそういう設定とか要らないので」

 「彼我!?それは違うぞ!」

 

 意気揚々と設定を語ろうとした忍者本人からの否定ではなく、ベニートからのクレームだった。

 

 「このスーツの完成度で役に入りきれない人間に、情熱的で熱いサッカーなど出来るはずがない!そうだろう上杉監督!」

 「え?」

 

 ベニートの言葉に思わず、聞き返すように短い声が漏れる。


 (今、上杉監督って言ったよな)

 

 こんな気合いの入ったコスプレ野郎があのクールなイメージの上杉監督だというのか?彼我の中でぐるぐると、混乱が起こりそうになっていた。

 しかし、疑問が先に沸いてきたおかげで、混乱は回避される。

 

 「ベニート、どうやって上杉監督だとわかったんだ?」

 「ふん。そんな事もわからないのか?」

 (分からないから聞いてるんだよ!)

 

 つい心の叫びを口にしそうになり、口が動きそうなのをぐっと我慢をしてどうにか表情に出さずに切り返す事が出来た。日頃からのベニートとの付き合いで言い返す事のむなしさをしり、培ったベニート限定のいらない技術である。

 しかし、彼我の心の叫びはもっともであり、普通の感覚の持ち主ならフルフェイスマスクをして、全身もボディスーツを着た人物の特定などできるはずがない。

 

 「我は(シュゴー)上杉などと言う名前では(シュゴー)ない。不知火‥」

 「忍びでありながら正体がばれるとは、まだまだ甘いな。則道ただみち

 

 彼我たちの後ろから武田が声をかけてくる。

 振り向くと、武田はラグビーで使うヘッドギアのような、おでこを守り顔は全開のヘッドキャップをして、肩パットが付いた筋肉ムキムキのライダースーツのような格好で現れた。

 

 「何?!AMだと(シュゴー)?!」

 

 忍者は武田の姿を見て物凄く驚いているようだが、吐き出される空気音が空気を呼んでいないおかげで、緊張感が伝わってこない。

 

 「上杉監督、AMってなんですか?」

 

 この展開にそろそろ飽き始めてきた彼我だったが隣で、物凄く眼を輝かせベニートがワクワクしているのが分かった事でこの流れが長くなると悟る。もういっそう自分もこの展開に乗っていかないと気持ちが萎えそうで強引に気分を奮い立たせ会話に乗って上杉に聞いてみたのだが。

 

 「私は上杉では(シュゴー)ないが解説して(シュゴー)やろう。AMとはアーマード(シュゴー)マッチョスーツの略だ」

 「‥もういいです。お腹一杯です」

 

 我慢出来ず呆れた声を出した彼我にベニートを含め忍者、武田も抗議してくる。

 しかし、いつもならベニートと一緒になって絡んで来そうなアビラの姿はなく、逃げるように別グループに混ざって談話をしている。

 

 (アビラ~~~!!)

 

 ゲームが始まってもいないのに、彼我のブルーな気分はピークになりつつあった。

 朝の7時半から大会エントリーが始まり、8時になった事で、施設の門が開錠される。ぞろぞろと、施設に入るとまずゲートがあり、それをくぐると、アウトドアで使用する大きめの木の机が真中の通路を挟み左右に12台ほど並べられている。

 そこには長物のライフル銃を始め、ハンドガンも置かれている。

 しかし、ライフル銃、ハンドガンにしても、形はバラバラで素人にはどれがいいのかわからない。

 ベニートは当たり前のようにお目当ての銃の前にたつと手に取りニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「さて、チームで使う銃はタボールで統一するぞ」

 「タ?ダボー?」

 「タボールだ。ふぅ~さんざん語ったはずだが」

 

 ベニートの仕方のない奴だ的なため息で、やばいと彼我の中で警告の鐘が鳴る。ベニートが銃について語り始めると物凄く長いのだ。

 案の定、ベニートの話しが長いので詳細は割愛し、耳に入ってきた文言だけを言うとタボールという銃はブルパップ方式アサルトライフルであるらしく(彼我にとってはもはや日本語ではなくよくわからない呪文のような言葉で聞こえていた)その方式についても熱く語られたが、まったく耳に入ってこなかった。

 とりあえず、彼我が見てもほかの銃よりかっこよかったので問題はない。

 

 「さて次は、ハンドガンだがジェリコ941ステン仕様を使うぞ」

 (なんだジェリコって)

 

 思わず口から出そうになる。ここで言葉にしてしまっては学習能力がなさすぎると彼我は知っているような顔をして、あぁいいぜと返してみる。

 

 「彼我おさらいだ。ジェリコはどこの国で使用されているか覚えているか?」

 「どぅぇ?!う~ん確か・・・イス、イスぅ~イスラエルだったか?」

 「うん。よく覚えていたな。ちなみに通称は?」

 

 まだ、追い討ち来る!?まじか、そんな話ししてなかったはずだぞ。と額に手を当て考える仕草がしたいが、それではわかっていないとバレバレである。仕方なく正直に答える。

 

 「分からない。しかし、そんな話をしていたか?」

 「いや、していない。知らないのであれば教えてやろう」

 (この野郎、絶対わざとこの流れにもっていくためにフリやがったな)

 

 それから、試合があるので手短にと軽く10分は語られた。

 

 「ベニートさ、お前ってミリタリーだっけ、軍用関係のオタクなのか?」

 「いや、知識としてあるだけで好きと言うほどではない」

 

 そうは言いながらも、何処かウキウキと嬉しそうに語るベニートに、あぁ絶対自分では自覚ないのだろうなと彼我は思っていた所に、広場にアナウンスが流れる。

 

 「えーでは、選手が全員参加と言う事で、サバゲー大会の各試合を開始する前に、軽く銃に慣れて頂くため、サッカーで分かれておりますAチームとBチームに分かれてのエキシビションマッチを行いたいと思います。しっかりとルールに乗っ取りスポーツマンらしい試合をお願いします」

 

 このサバゲーは、任意で参加出来るのだが結局は、100万円という優勝賞金目当てに、10代の若者が、チャレンジしないわけがなく、全員参加で優勝したらあれを買うなど夢を各チームのメンバーは語り合っていた。

 そしてアナウンス後、各自、射撃場で軽く試し撃ちを行い、また彼我はベニートから銃のホップのかかりが良いだの整備が行き届いているだの、うんちくを聞いたが、頭に入って来なかった。

 そんなベニートと彼我のやり取りをこのサバゲーに参加して、彼我に銃とか色々教えてあげるんだ。と意気込んでいた中町は寂しそうに見ていた。

 中町の横で、やれやれとため息を吐き皆口が空気を変える為に、アナウンスの内容に疑問を言う。

 

 「しかし、なんで、わざわざチームに分かれて、試合するんだろうな?」

 

 中町も、彼我を見ながらも、皆口と同じ事を考えていたようで、話に食いついてくる。

 

 「確かになんでだろうね?」

 「なんか、裏がありそうな感じがするけど。やって見ないとわからんし、とりあえずは、これで彼我がこっちにくるし、話出来るんじゃないのか?」

 「そ、そうだね」

 「何、緊張してるんだよ?」

 「だって、あんまり人に何かを教えるなんてないし、そ、それに彼我だよ?!失敗したらと思うと怖くて‥」

 「あのな、彼我がそんな事気にすると思うか?大丈夫だって」

 「うぅ」

 

 皆口は中町のヘタレっぷりにため息しか出てこない。

 

 (サッカーで前線やってる時は頼もしく見えるのに素に戻ると、頼りないよな)

 

 だが中町のヘタレっぷりはここからさらにもう一段階ある。さらにヘコむ事があると、チーム練習以外で部屋から出て来なくなるのである。練習中もあまり、周りとコミュニケーションを取ろうとせず淡々と一人の世界で練習を続けるのである。

 

 その引きこもり状態になる事から゛アマテラス゛様と呼ばれるようになったのだが、この事は彼我だけは知らない。彼我の前では中町のテンションは一定を維持出来るからである。

 彼我柄みでヘコむ事があっても2日後、彼我に顔を会わせると元気になるのである。

 皆口の推理では彼我の前では格好をつけたいのだろうと思っている。

 中町アマテラスが覚醒したら、とりあえず彼我に任せれば問題ないとみんな思っていた。

 そして、エキシビションマッチの会場となる施設3階の工場跡地をイメージした廃墟エリアに選手たちは移動を開始する。

ジェリコ941の通称は”ベビーイーグル”というらしいです。

作者はミリオタではありません。ちょっと知っているだけです。

次回のエキシビションマッチ その2でサバゲールール、試合に関する説明をしていくつもりです。

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