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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
60/77

第59話 交渉

 FCレグルス施設責任者、塚元がいる執務室の内線電話が鳴る。執務室の室内は、2つのコンセプトに基づいて作られている。執務室を入って右側は主の塚元が仕事をするスペース。左側は塚元をサポートする燕尾服を着た執事だと思われる180cmを超える男性が3人いる。

 執事達がいる場所はまるで中世ヨーロッパを思わせるアンティークな家具が並び、執事達が座る椅子も革張り、後ろにある本棚も趣向が凝らされている。

 それに対して、塚元がいるスペースは非常に簡素なものだった。

 大き目のカジュアルデスクの上にパソコンがあるだけ。椅子も深く座れる以外お金がかかっているようには見えない。

 2つの空間は、特に壁で仕切られている事もなく、真中で区切られているだけで同じ部屋に2つの異なるスペースが存在するミスマッチなイメージを受ける。

 そんな執務室に鳴る電話は、古いヨーロッパ映画に出てくる貴族達が使用しそうな黒色で握り手が細く受話器にコードが着いているタイプである。

 執事の中で一番地位の高そうなイメージを持つ少し髪に白髪が混じり始めた男がその大きな手で受話器を握る。大きな手で握られているせいか、細い受話器は今にも折れてしまいそうだが、執事は優しく受話器を耳に当てて、向こう側の相手とやり取りする。

 

 「はい。塚元の執務室です。はい。判りました。少々お待ち下さい」

 

 声だけで、女性を落とせそうな低めのイケメンボイスが心地よく室内に流れる。

 デスク上に大量の積まれた書類があり、それに目を通していた塚元の元まで、執事が電話線を引きつつ塚元の前に着くと一礼し受話器を届ける。

 

 「塚元様。U-17日本代表の多田川様よりお電話を頂いておりますが?」

 

 執事の言葉に、多田川と今日電話をするようなそんな約束はしていなかったと考えるが、日本代表召集の件で電話をかけてきていると顎をさすりながら考え、執事に礼を言って執事から受話器を受け取る。

 

 「お待たせしました。塚元です」

 「初めまして、U-17日本代表監督の多田川と申します。急なお電話申し訳ございません。以前の練習試合で、ご招待いただいたにも関わらず、ご挨拶もできず帰国してしまい申し訳ありませんでした」

 「いえいえ。こちらも多忙でしたので、あの試合の時は顔も出せずこちらこそ申し訳ない。で、用件は?」

 

 塚元はわざと少し急いでいる事を装い言葉をかける。

 意図はイニシアチブを取り、話しを優位に進めるつもりだった。塚元の中ではU-17の日本代表召集は断るつもりでいる。

 しかし、ただ単に一方的に断るだけでは、こちらの印象が悪い。一番いい形は日本代表召集が初めからなかった事に進める方向で考えているため、あえて相手の心の動揺を利用した話しの進め方をしている。

 そうする事で、冷静な判断を出来るだけさせず、こちら側話しを一方的に進める考えなのだが、多田川とて代表監督として、交渉の修羅場は潜り抜けてきている。

 塚元の仕掛けた話術は見抜いており、多田川はあえて、ゆっくりとした口調で切り返す。

 

 「本日は先日書面で送らせて頂いておりました、U-17日本代表召集について、5人のメンバーをお貸し頂けるのか話しをさせて頂こうと思いまして」

 

 ゆっくりとした口調の多田川に少し思う所があり塚元は考える。自分の仕掛けた話の流れを変えられ、印象として薄かった多田川という男に少し興味が湧いた。

 人は経験により成長する。少し長めのセリフを多田川はあえて”ゆったり”した口調を意識させる事で相手の話しの流れを変えてくる。

 自分の意見だけを押し通す為に、つい感情的になるのではなく、仕事をする上で相手との対話を円滑に進めるための必要なスキルはなかなか身につくまでに時間がかかるものである。

 そういった交渉の場面を多く経験し、今まで話をしてきたのだろうと、短い会話の中で、塚元は感じていた。そういった努力を惜しまない人間を無下にして、会話を進めるほど塚元は冷たい人間ではない。

 話し次第では代表選出は大きく損失の出る話でもない。会話を軌道修正する方向で考える。

 

 「クラブの責任者は私ですが、事務的な役目しかやっておらず、そういった直接現場に関わる事は現場監督の判断もありますので、まずはそちらから話しをされてみてはどうでしょうか?」

 「というと?」

 「現場監督で、今、お話をさせて頂けそうなのが上杉だけでして、小田と武田のほうは、別件で少し出ることができず、上杉でよろしいですか?」

 「・・・わかりました。確認なのですが上杉監督が、今回の件、首を縦に振っていただければ、責任者の塚元さんとしても今回の件、ゴーサインが出たとして考えてもよろしいのでしょうか?」

 「ええ、それでかまいませんよ」

 「わかりました。それを聞いて安心しました」

 「では上杉に繋ぎますので少しお待ちを」

 

 上杉が多田川の話しに対して首を縦に振る事がない事を塚元は確信している。もし上杉が首を縦に振っても塚元はそれに従うつもりでいた。

 自分が信頼してつれてきた監督の判断を重視しようと思ったからである。

 どちらにしても、今回の代表召集に関して上杉の考えを聞く必要があるが。安易な考えなら、上杉の監督としての立場を考える必要があるが、今までの上杉の行動からそんな事になるわけがないと思っている。

 塚元は先ほど受話器を手渡してくれた執事を呼び、受話器を渡す。

 

 「上杉君に電話を繋いでやってくれ」

 「承りました」

 

 上杉は自室にいた。間取りは3LDKで、その1室は20畳の部屋でトレーニング器具が大量に置かれ、まるでジムさながらのトレーニング器具の量に足場が狭い。

 別室に置いてある固定電話が鳴る。ベンチプレスをする為に上半身裸で、鍛え抜かれた筋肉から玉の汗が吹き出ており、下半身は黒のスパッツだけ。横になってトレーニングしていた所だったが、コール音に体を起こして、椅子にかけてあったタオルを手に汗を拭きながら部屋を移動して受話器をあげる。

 

 「はい。上杉です」

 「U-17日本代表の多田川様よりお電話が入っております」

 「わかりました。繋いでください」

 

 上杉は相手から用件は特に聞かず、電話が保留音から切り替わるのを待つ。ホテルのフロントから電話を受け取ったかのような対応だが、いつもこんな感じである。

 用件は誰かから又聞きするより自分で確認したほうが時間の無駄がないし、2度も同じ事を聴くのは、はっきり言って手間であると思っている。

 仲介者にどれだけ話しを聞いても、伝言だけの内容しかしらないはず。

 昔、むかつく奴がいて、自分は仲介のメッセンジャーだと言っているのに、それ以上の事を聞いてくる奴がいた。何を聞かれても、自分の知っている以上の事しか言えないのにも関わらず、結局こいつは何を知りたいのか?と疑問を持った事がある。内容を確認すべき人間に、聞くほうが詳しい話しも聞ける。

 むかつく相手にそう伝えると、激昂された事があった。人の行いを見て、それに学べと家訓のような教えに従い、それ以来、自分は仲介者には最低限の会話でいいと思っている。

 

 「もしもし、変わりました。上杉です」

 「多田川だ。ひさしぶりだな。上杉。試合以来になるか。帰国する時に挨拶ぐらいはしたかったのだが」

 「前置きはいい。日本代表の件か?」

 

 多田川としてはもう少し、話しを引っ張って柔らかく交渉に入りたいと思っていたが、上杉のストレートに顔を歪ませて答える。

 

 「・・・。そうだ。ぜひ5人を貸して頂きたい」

 「断る」

 

 上杉の即答に、沈黙が訪れる。

 多田川としても、断られる事を前提に考えて話しをしていたし、断られた後、切り替えして次の展開を膨らませる予定で考えていたはずだった。

 しかし、受話器から聞こえてきた上杉の重い口調の拒絶は、多田川の考えを真っ白にさせてしまうだけのインパクトがあった。

 

 「・・どうしてか聞かせてもらっていいか?」

 

 はい、そうですかとここで切ってしまうわけにはいかず、多田川は真っ白になった精神を戻す時間を稼ぐ為に何とか出てきた言葉が、上杉の拒絶した理由を聞くことだった。

 上杉とて、サッカーの指導者であり日本人だ。自分の育てた選手が日本の代表として選出されたのだ。うれしくないわけがない。と多田川は思っている。

 しかし、断った上杉にはそういった”喜”を含んだ口調ではなく、どちらかといえば”怒”。

 多田川はどこに、上杉が怒りを覚えているのか知りたかった。そして、交渉人としては、逆にその怒りの元となる要素さえ取り除けば、自分にも理はあるとわかってもらえるはずと考えていた。

 だが相手に”怒”という感情がある以上、人間冷静な気持ちで会話をするのは難しいものである。どうしても感情論で話しをしてしまい、交渉がうまくいかない場合もある。

 多田川の経験からも何人かのうち、理由を話さず、ただ否定を繰り返す人物もなかにはいる。

 しかし、上杉は理論派で、否定だけを吐く人間ではないと思っている。

 

 「わからないか。そうだな・・・。理由はあげればきりがない。まずは、選手達が経験不足という所から話をしようか」

 「経験不足・・・。確か選手達が集められたのは1年前ぐらいか」

 「そうだ。しかも、サッカーをやり始めた者か、身体的に優れたサッカーを今までやっていなかった者しか集めてもらっていない」

 「そんなチームに俺が指導するU-17は負けたんだ。じゃあ、そのチームの選手がほしいと思ってもおかしくないじゃないか?」

 「気持ちはわからないでもない。しかし、今”日本代表サッカー”に混ぜてその中で練習をさせてどうするつもりだ?」

 「どういう事だ?」

 「ここで集められた監督達は海外でサッカーを経験し、”日本”から離れたサッカーに慣れ親しんでいる。その海外仕込みのサッカー基礎を選手達に叩き込んでいる所だ」

 「・・・つまり何がいいたいんだ?」

 「今が大事な時期だとわかっているはずだと言っている。多田川」

 「・・海外がなんだというのだ!日本にも”日本サッカー”がある!!」

 「ではなぜA代表に選出されている選手は海外で活躍する選手が大勢いる?お前のいう”日本サッカー”が通用するならば、純日本サッカーで世界を目指せばいいのではないか?」

 

 確かに上杉の言う通りである。今A代表に選出されている選手の多くは海外でプレーをする選手がほとんどだ。

 そう考えると多田川は何もいえなくなった。

 これでは前回U-17が負けた気持ちが蘇ってくるではないか。

 あの時の悔しさ。たかが1年にも満たない出来立てのチームに、”日本サッカー”が負けてしまったのだ。つまりそれは、海外サッカーに日本サッカーが負けたような気分だった。

 海外でプレーすればサッカーが上手くなるのか?そんなはずはないと、それを認めたくないがゆえに”日本サッカー”ではなく”多田川サッカー”が負けたのだと気持ちを切り替えた。

 そして気がつく。では”日本サッカー”と”多田川サッカー”の違いはどこにあるのか?

 試合をしているのは日本でサッカー経験を多くつみ、日本サッカーの中で成長している選手達だ。

 あくまでも自分は”多田川が思い描くサッカー戦術”を選手達に教えたに過ぎない。彼らの中にある根底のサッカー基礎は”日本サッカー”であるのだ。

 ”監獄のクラブチーム”と試合が終わり、帰国する日の夜。多田川は悔しくて眠れなかった。体からにじみ出る、負の感情が周りにある物に向けられようとしたが、理性でどうにか押さえ込んだ。

 どうにか気持ちの整理ができた頃には、すでに夜が明けた時間だった。

 上杉と話しをしているとどうしても、閉じ込めていた黒い感情が、腹の底から蘇ってくる。

 

 (判っている。悔しいのではない。うらやましいのだ)

 

 多田川は腹の奥に沸きあがってくるドス黒い負の感情の正体を知っていた。それは帰国して何度も自問自答を繰り返し、一度冷静に自分を見直す事で見つけた回答だった。

 上杉、武田、小田が物凄くうらやましいのだ。思いっきりサッカーが出来る環境にいることに。なかなかそんな環境の中に身を置くことは難しい。日本にいれば周りの雑音がうるさい時もある。

 しかし、彼らはそんな雑音を気にする事もなく素直に自分の思うがままのチームが作れる。そして、そこから先、彼らが育てた選手達の先には世界が広がっている事に悔しさがこみ上げてくる。

 多田川にはU-17の選手達にそんな世界を見せてやる事ができていない。

 少なからず自己分析した時、そう見えた。

 彼ら”監獄のクラブチーム”には希望が、夢がたくさん詰まっているように見えるのだ。

 なぜ、神様はそのチームを作る権利を俺にくれなかったのか?運命とはこんなものかとうらやましく思ってしまった。

 

 (だめだ。こんな黒い感情の牢獄に捕らわれてはいけない。ここで感情的に話しを進めてしまっては本当に自分が潰れてしまう)

 

 多田川は冷静になるように、少しずつ自分に冷静になれと言い聞かせる。何とか気持ちを少し落ち着け、上杉の問いに切り返す。

 

 「確かに代表は海外で活躍する選手の選抜が多い。しかし、まだまだ日本にも世界と戦える選手達がいるんだ。俺は、世界で戦える日本サッカー選手を育てて生きたいと思っている」

 「ではそれを”日本サッカー”でやればいいじゃないか。お前の作るチームにうちの選手達は必要ないはずだ」

 「同じ日本人であり、チームメイトになれるなら、”日本サッカー”の中に新しい文化を取り入れる事も必要だ。日本は昔からそうして発展してきた国じゃないか。異国の文化を否定せず、少しずつ取り入れていくことで階段を少しずつ上がってきたはずだ」

 「なかなか、いい切り替えしだ。多田川が成長した見たいで少しは安心した」

 

 多田川はなぜか上杉に認められた事に、うれしさを感じてしまった。

 しかし、これから続く上杉の話はまた自分を否定するものだと確信している。

 

 「お前のいう事もありだ。しかし、今ではない。2つ目の大きな理由だ。うちの選手達にサッカー選手としての実績がない」

 「・・・。つまり、世間が認めないと」

 「そういう事だ。お前はそういった雑音の中に、うちの選手を入れて晒し者にして潰すつもりか?」

 

 多田川としては大きな壁にぶち当たった気がした。

 確かに、実績のない選手を”日本代表”に選出したとなれば、大きな問題になる。世間が認めないだろう。

 しかし、彼らの力を知っている自分としては、これから始まるアジア選手権でぜひチームに入れたいのだ。

 監督権限で強引にチームに入れる事は可能だが、結果が出なかった場合、自分だけならまだ知らずサッカー経験の少ない彼らがバッシングされるのは、選んだ自分の責任があまりに重過ぎる。選手達はどこかで思うかもしれない。

 ”サッカー初心者に代表なんて務まるものかよ”と。

 それでサッカーに対して前向きでなくなった時、クラブチームに帰った彼らの動きを保障できるものではない。

 バッシングされる事がないような処置を確約しない限り、”監獄のクラブチーム”の選手達を借りる事はできないだろう。

 そして、この話しが成立しようがしまいが、外部に漏れるのはまずい。

 実績のない選手達を代表に選出しようとしたなんてことが世間に知れれば、これからのアジア選手権にも、U-17のチーム内にも、選手達を貸してくれているクラブチームにも影響があるはずだ。

 

 (ここまでか・・・)

 

 最高のチーム作りを目指す為に、どうしても彼らの力を借りたかったのだが。

 とそこで考えが少しずつ変わってくる。

 もし彼らが実績を積んだらどうだろうと?

 

 「ではそちらの選手達が実績を積んだら、選手達を貸してくれるのか?」

 「状況次第になるが」

 「アジア選手権を勝ち抜く為には、俺はそちらの選手5人が必要だと考えている。来年5月から始める。予選を勝ち抜いて11月に決勝トーナメントが始まるのだが、そっちは7月から試合が始まるはずだ。つまり、決勝トーナメントまでの間に4ヶ月の実績が出来るはずだ」

 「そうだな。・・・わかった。U-17が予選を勝ち抜けたなら、選手達を貸すのか再考しようじゃないか」

 

 多田川は受話器を強く握り締め、よし!と心の中で叫ぶ。

 

 「だが、その前に一つ面白いイベントを開こうじゃないか」

 「イベント?」

 「それ次第では無条件で、そのアジア選手権の召集を受けよう」

 

 多田川はいやな予感がして空調が整っている部屋にいるにも関わらず額から汗が流れる。

 

 「でそのイベントとは?」

 「今日この後にサバゲーを武田主催でやるようなのだが、日本サッカー協会から出向しているあのインタビュアー、名前はなんだったかな?その男をサバゲーに参加させて、彼が優勝できれば召集に応じようじゃないか」

 「優勝できなければ?」

 「う~ん言いづらいのだが、彼がどうも、スパイ活動をしているらしくてね。俺としては日本へ早々に帰したいんだ」

 「ス、スパイ活動?!な、なんの話しだ?」

 

 多田川は知っていた。フリーのサッカーコメンテーター梯橋が日本サッカー協会から送られたスパイだと言う事に。

 送られていくる”監獄のクラブチーム”の情報は薄い内容ばかりだが、それでもないよりは正直助かっている。

 秘密主義で、情報管理もしっかり整っている”監獄のクラブチーム”の情報はどんな些細な事でも重要だ。

 そして、梯橋はスパイ活動はばれていないという話しだったはずだ。

 動揺が口から漏れてしまい、今まで、はっきりとした口調の多田川だったが、口の中でもごもごした発音になってしまう。

 

 (やばい。俺が彼の事を知っていると悟られてしまったか?)

 

 焦って次の言葉が出てこない多田川に追い討ちをかけるように上杉からの攻めが来る。

 

 「そうか。知らないのか?お前には本当の事を言ってもらいたかったんだがな。ではこれを聞いてもらっていいか?」

 

 受話器から上杉とは別の声が聞こえてくる。聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。そう自分の声。そしてこの会話の内容を思い出した時に震えが来た。

 それは梯橋が日本を飛び立つ数日前の夜、多田川と密会した時の会話であった。

 会話は”監獄のクラブチーム”の選手データの入手を綿密に行ってほしいという内容だった。それに伴い、極秘に持ち込むカメラの購入場所などを教えている自分。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁーーーーー!!ど、どうして、どこでそれを!?」

 

 恐怖で、全身の毛が立つ。思わず受話器を落としてしまった。気がつけばガクガクと体が震えているのがわかる。

 そして受話器から悪魔のような上杉の声が聞こえる。

 

 「大丈夫だ。まだ日本サッカー協会にはこの音声データは提出していない。ただ彼が帰るように協力してくれると、俺はうれしいんだが。うちの上層部の方針では、彼は機密事項で取り交わした契約を破り、イタリア当局に引き渡される話しになっている。近頃彼は自分の食べかけのパンに、この施設の写真データを挟み、ゴミ箱に捨て業者に回収させようとしたり、施設従業員に金を渡して、便宜を図ってもらえないかともちかけたりなどをしていると情報が入っている。そしてそれらの行動はすべて、映像で抑えられている。俺としては、彼が捕まってクラブチームがそういった不本意な目で注目を浴びるのは避けたい。何事もなく彼に何日本に帰国してほしいんだ。そこでお前に協力してもらい、日本サッカー協会にそれとなく彼について話しをつけてもらいたいんだが?ただ今回彼がサバゲーで優勝すれば、彼が起こした不正の話しはなかった事にしていい。がんばったご褒美ということだ。しかし、優勝できなかった時は・・・。」

 

 多田川に上杉の頼みを断れるだけの勇気はなかった。

 そして祈る。決められた運命がわかっているとしても、万が一の希望に。梯橋、優勝してくれと。

 最後に、多田川は一つミスを犯していた。焦っていた多田川はただのイベントであるサバゲーの優勝でそこまでの便宜が図られている事に疑問がわかなかった。

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