第57話 条件と、その先にあるもの
まだ俺の部屋に居座ろうとする、ベニートと中町を追い出し、6時起床なので、後1時間とちょっと寝れるはずなのだが、体が中途半端な状態で起きていてベットの中でうだうだしている。眠たいのだが、横になっても思考が働いてしまい、羊さんを数えても寝れそうになく、非常にモヤモヤとした気分だった。
「くそ、眠れねー。気分転換に風呂にいくか」
銭湯の用意をして、大浴場のある施設に向かうために部屋を出る。廊下の窓からは、いつもと違う景色が見えている。外は真っ暗で後1時間もすれば日が登り始めるはずだが、それでも、その少しの時間がいやに恐怖心を掻き立てる。
「オカルトとか、ホラー映画あんまり好きじゃないんだよな」
いくら警備員が巡回しているとはいえ、もと刑務所を改装して作られた施設ばかりだ。それらしいモノが出てきてもおかしくはない。
(何、自分で恐怖を煽っているんだ。そんなものいるはずないじゃないか)
気持ちを入れ替えた瞬間、後ろからトンと肩に手が置かれる。
「うぎゃーーーー!!」
ベットに中町達がいた事とはまた別の、俺が嫌うオカルト的な恐怖に飛び上がる。
飛び上がりながら、後ろを振り返るとそこにはヨーロッパなどのお伽話に出てくるノームと呼ばれる小人の妖精がかぶる白い帽子を身につけ、赤い寝間着を着た目にクマがあるアビラが立っていた。
「ヒ~ガ~兄貴がいねーんだが?」
「あに、あに、あ、兄貴?」
あまりの恐怖から、すぐに立ち直れず言葉をうまく口にすることができない。とりあえず指で、ベニートの部屋を指すと、震える唇でどうにか、聞き取りにくいと思う声であっちじゃねーかと教えてやる。それを受けてゆらゆらとした足取りで幽霊のようにアビラは廊下を消えて行った。
アビラに恥ずかしい所を見られたが、あの様子では寝ぼけていて覚えてないだろうと願う。
「まじ、今日はこんなんばっかりだな」
体験したくないオカルトの恐怖と、貞操を襲われる2大恐怖から開放されて、気が抜けた俺は口からは魂が抜け出そうになっていた。
べっとりとした汗が体にまとわりついて非常に不快な気分になっていた。部屋に戻ってシャワーだけでもいいかなと思うが、気持ちを落ち着ける為、ゆっくり露天風呂に浸かりたい。
急ぐ必要はないのだが、また邪魔されるのではと足取りは自然と早くなる。
(恐怖心からではなく、あくまでも邪魔をされたくないだけなんだから。勘違いしないでよね)
ツンデレがいいそうな事を考えながら(こんなことでも考えて歩かないと、不気味さが増してくる気がする)、特に邪魔される事もなく、施設につくと券売機で風呂の入場券を購入する。朝の一番風呂で最高の気分を味わうと、すべてがどうでも良くなってくる。
「ふぅ。いい湯だ。しかし今日は昼のチーム練習はフルポジションか」
フルポジション練習とは、その名の通り、すべてのポジションを試合形式で練習するメニューではあるのだが、すべてといったけど、10分×9試合行い監督が決めたポジションを各試合で行う。
だから監督にランダムでポジションが決められている為、どこに配置されるか今日の練習メニューで見ないとわからない。9試合も行うわけだから、ほとんどのポジションをやることにはなるのだけど、これがなかなかに大変な練習だ。
この練習GKだろうと関係ない。自分が配置されたポジションは全力で行わないと、すげー怒られるし、下手をすれば待遇面でペナルティもある。
監督からはどういう意図で、この練習を行っているとか説明がない。各自で自問自答して、この練習の意義を見つける事も課題となっている。
俺が考えているのは10分間という短い間に、どれだけチームに貢献できるかがこの練習のキモだと思っている。
与えられたポジションをチームのためにしっかりこなす事もそうだが、違うポジションだからと言って自己アピールをおろそかにすることもできない。
専門じゃないから手を抜いていいとか自分勝手な思い込み、そんなどこかに存在する無意識を取り去り、積極的に今自分が何をする時間なのかを練習するものだと俺は思っている。
風呂からあがり、腰に巻かれたタオルが激しく揺れ動き、大事な部分が見え隠れしていて、隠している意味をなしていないが、一番強く回る扇風機を前に腰に手を当て、フルーツ牛乳をあおる。
「ぷはーー!よし今日も頑張るか」
気合も入った所で、服を着てベニートとアビラが待つ朝練のグランドに向かう。
朝の練習を開始し、まずは整理運動から行い、ボールを触った1対1などの練習を30分行った所で、一旦水分補給のために休憩に入る。
(ベニートのやつ、あいつもあんまり寝てないはずなんだが、なんであんなに動けるんだ?)
ベニートは最近動きがすげー良くなってきていて、コンディションも見ていて抜群にいい。
一口の水分補給をして、休憩を終えると、俺はアビラと1対1を行っている。
アビラはこの所、少し疲れ気味になっているが、それでも試合になるとパフォーマンスを上げてくる。そういった調子を崩している時に、今の己を知りそこで何ができて、どこで全力を出すのかの見極めが非常にうまいやつだ。
今も、俺とボールの取り合い担っているが、俺がサイドから抜きにかかる瞬間だけ、うまく体に力が入り反応している。こればかりは練習からくるものか、それとも天性のものかわからないけど、相手の俺からするとかなり厄介だ。
ボールを取られて、息を切らす俺にベニートが声をかけてくる。
「彼我、お前はそれでいい」
ベニートからお褒めの言葉を頂いた。上から目線でムカつくがちょっとうれしい。
「常にお前のプレイは全力だが、それでも体力が落ちる事もなく、動きにキレがある。ディフェンスプレイヤーからすればこれほど怖いものはない。体からあたっても前へボールを進めてくるやつほど、嫌なものはないからな」
「あんまり意識したことはないな。そんな事考える余裕ねーもん」
「今はサッカーをうまくなるにはどうすればいいかと言うことでテクニックに目を向けているからだ。それも正解なのだが、テクニックには限界がいつかやってくる。そこでテクニックとは違うもっと何か特別なモノを1つでいい。身につけておくと今よりもさらに一つ上の段階の仕事ができるようになる」
「なるほどな」
珍しく饒舌なベニートに関心する。こいつが今まで、あまりアドバイスをくれたことなんてない。常に単語単位で物事の話をするベニートがここまで詳しくサッカーについてアドバイスをくれたことなんてなかったんじゃないだろうか?
「彼我ちょっと」
「どうした?アビラ」
「兄貴、寝ぼけているみたいだから今日は早めに練習を切り上げるぞ」
「寝ぼけているって?すごい口が軽いじゃないか」
「あれは夢うつつ状態で、深層心理の中で夢を見ながらお前と話をしているんだ。兄貴は理想の自分は、常に誰かの役に立ちたいと思っているらしいんだ。おいらも一度、あれですげー感動した事があるが次の日声をかけたら何も覚えてなかった」
ちょっと寂しそうに最後のフレーズのトーンが落ちるアビラをお前も大変なんだなと慰めつつ、虚ろな目をして猫みたいにうれしそうにボールにじゃれつく(俺には真似できない高度なリフティングを繰り返す)ベニートを見て、アビラの言っている事は正しいようだと、練習をいつもより早めに切り上げる。
朝から露天風呂に入ったので汗だけを流すのに自室のシャワーを浴び、朝の10時で早めの昼食を取る。
13時からチーム練習があるので、それまでに食物を摂取しておいて、エネルギーに変えておかないと腹が大きいままだと動きに影響がある。
食堂に移動し、今日の献立を確認する。まだ朝食用のメニューで軽めの献立になっているが、単品ではカツ丼など重たい食事も別途用意されている。
「う~ん肉だな」
最近できた新しい単品メニュー、厚切りフィレ丼を注文。一杯1500円。なかなかの割高感だが、最近懐が厚くなってきた俺にとってはこの程度痛くも痒くもないわ!と食券を購入。
「彼我またそんなカロリーと値段が高いのを食って」
「またって1ヶ月に1度の贅沢なんだ。いいだろ別に」
皆口からのツッコミに対応しつつ、心の中では1500円が消えたーーー!!と涙を流している。いつもは朝食セット500円。今日はこれぐらい豪勢な物を食わないと眠くて仕方ないのだ。しかし胃袋に収めた好物は最高の味で、眠気を促進してくる。
「駄目だ。ちょっとだけ横になろう」
自室に戻り、鍵をしっかりかける。現在11時。12時まで寝れるようにアラームを仕掛けておく。
数分後。
ガチャ。
鍵をかけたはずの玄関の扉が開く。開けた相手は昼間に部屋の電気が着いてないことに疑問を持ったのか声をかけてくる。
「彼我いないの?」
中町の声だ。
その前になんで扉が開くんだ。確かに閉めたし、ノブを回して動かない事を確認した。
中町がピッキング(ドアの鍵を開ける技術)をしているのか。それにしてはガチャガチャと特に何か特別な音はしなかった。
そう俺は起きていた。
横になったのはいいが、食いすぎてなかなか寝付けなかったのである。
ここは襲われる(被害妄想)前に返事するべきだろう。
「起きてるよ。どうしたんだ?」
ベットから上半身を起こし、起きてる事をしっかりアピールする。
部屋に中町が入ってきて、俺がどうかしたのか?と質問すると、もうすぐ12時だし13時から練習だから軽く運動しないかという事だった。
「そうだな。けど眠くてさ」
「じゃあ、僕が添い寝してあげようか?」
「謹んで遠慮させて頂きます」
「ぶぅ~」
「そんな顔するなよ。体を動かすのは一緒に行くから」
「それじゃぁいいよ」
可愛く返事をする中町に頭が痛くなるような思いだが、軽くやり取りが行われている事に安堵する。これで本気で、中町の機嫌が悪くなるようなら、いよいよ、”本気”な事になる。
夢でも、あの全裸で前がもろ見えの中町を見て俺はドン引きしていたわけだし、受け入れれるわけがない。
中町が”そう”でない事を祈りながら、2人で廊下に出てグランドに向かう。まだ1時間前なのにもうウォーミングアップをしている選手が何人かいる。
その選手達に交じって軽くウォーミングアップをして、気が付くと13時なっていた。体を動かすと1時間なんてあっという間だ。
試合で負けている状態で、1点を追いかけている時間は非常に流れるのが早いのに対して、1点リードで早く終われと思う時間帯は長い。
なんでこんなに状況によって時間の流れは違うものなんだろうか?
そんな事を考えていると武田監督と上杉監督がグランドに入ってきて、いよいよチーム練習が開始される。
フルポジション練習は、いつもはBチームだけで行っているのだが、今日はAチームとの合同という事で、思っていた練習形式で行われるわけではなさそうだった。
11対11の練習試合で10分×9試合は変わりないのだが、この間実質的な休憩はなく試合はずっと動きっぱなしで、10分をめどに、各チームの控え選手が一斉に入れ替わる。その際にいつも専門としているポジションではなく、監督が決めたランダムポジションにつき試合を行う。しかし前の10分で、そのまま試合に出続けている選手もいるわけで、いつ交代になるのかはそれは監督次第になる。
サッカーは普通選手が1度ベンチに下がると、もうピッチに戻ることができないが、この練習はそんな事は関係ない。
休憩時間は交代し、ベンチに下がっている時間だけ。ここでしっかり体のケアー(水分補給など)が重要になってくる。
武田監督から激が飛び、指示を受けながら、俺は結局7試合出る事になった。ベニートも同じぐらいの回数だった。中町はゾーンに対するケアーがうまくいっていないようで、4試合と少な目だ。ほかの選手も平均して5回ぐらい試合に出ている。
もちろん10分毎にピッチに出るとすべてポジションが違う為、自分が今何をするべきが困惑することもあり、そこで監督から激が飛ぶシーンもあったが、結局試合的には2対1でBチームが勝利をおさめた。
武田監督の満足そうな顔と、上杉監督の悔しそうな顔を必死で抑えているシーンが印象的だった。
練習が終わり、俺は武田監督の所まで走る。
「監督お疲れ様です」
「おぅ。お疲れ。彼我珍しいな、どうした?」
確かに練習直後に監督に会いに来た事はないなと思いつつ、今日この後空いているかと尋ねる。
「何かあったのか?」
「あのですね。俺の部屋・・・」
「ああ~~~その話か。わかった。汗を落としてから俺の部屋に来い」
「わかりました」
どうやら、多くを話しなくても知っていたようだった。これで引っ越しの件はどうにかなりそうだと、自室に戻ってシャワーを浴びる。
正直シャワーを浴びる回数は、ここに来てから増えている。浴びすぎだと言われる可能性もあるが、体につく汗が気持ち悪くて仕方ない。
体をシーブリーズ系のソープで洗うとスカッとして最高の気分になる。使われている香料も好きな香りだ。
監督たちが住んでいる通称”監督塔”へ向かう。自分たちが住んでいる場所からすぐの場所にあるのだが、ここに来て初めて行くと思われる。ただ部屋の番号とかは知っているので、すぐにわかったのだが。
武田監督のいる部屋の扉の前でなぜか緊張しているのか一息つく。
「よしいくか」
ノックの後、返事がしたので、失礼しますと部屋に入る。
爽やかな柑橘系の香りと、観葉植物の鉢植えが結構至る所にある。もっと散らかっているのかと思っていたが、すごい整理整頓されていて清潔感が漂ってくる。
「まぁ、今お茶入れてるから、その辺に座れや」
「し、失礼します」
大きめの丸いガラスのテーブルの横にある高そうな黒いソファに座ると、勝手に腰が沈んでいき一瞬バランスを崩しかける。
(マジか。こんなソファ、テレビでしか見た事ねーよ)
数分後、洒落たお盆の上にティーセット一式とクッキーが皿にのせられており、まるでカフェに来た気分になる。
「とりあえず一杯飲んでから話すか」
武田監督が進めてきたカップに口を付ける前に、すごい香りが鼻を刺激してくる。
「これすごい香りがいいですね」
「そうだろ?俺紅茶が好きでさ。このフレーバーを発売しているム○スナティーが好きでさ。今回用意したのは野いちごのフレーバーだ。味もすげーから飲んでみろって」
「じゃあ。頂きます」
口に含むとすごい香りと、お茶らしい少し渋みがある味がするのだが、香りとすごくマッチしていて、癖になる味だった。
「ミルクを入れると、少し香りは落ちるがまた違った味わいになるんだぜ」
すごいうれしそうに紅茶を解説してくれる武田監督の印象が少し変わった。普段、サッカーの監督として武田監督を知っているだけで、プライベートの彼を知らない。
そうした武田監督のイメージは、サッカーには純粋に厳しいイメージだった。
今、目の前で、自分の紅茶を振舞うことにうれしそうに笑顔を見せる”武田岳伴”を見るのは初めてだった。
「それじゃあ、本題に入るか。引っ越しの件でいいんだよな?」
武田監督から切り出してくれた事で、本来の目的を忘れかけていた俺は、首を縦にふる。
「う~ん。この話はあまり周りに話をするなよ。確定事項じゃないからな。実はな。来年、お前らの後輩を受け入れる可能性が浮上してきていてな」
「ほぉーそうなんですね」
「日本人だけの受け入れをする予定なんだが、そこでお前に寮長のような管理する役割を持ってほしいと上が言ってきてるんだ」
「それで、俺の引っ越しはなくなったって話ですか?」
「まぁそうなるわけだが」
「それなら余計に、引っ越しさせてくださいよ!」
「お前のいうことも分かるが、空けれる部屋が今はなくてな」
「監督から見て、俺は頑張れてないですか?!自分でいうのもなんですがそこそこ結果は出しているはずです」
「頑張っているか、頑張っていないかでいえば、結果を出しているわけだし、やっていると思うが、お前はそれで満足なのか?」
「どういうことですか?」
「そんなちいせい物差しで、自分を評価していいのかって話だ。”頑張っている”って言葉は本来他人が決める事だ。自分で頑張っていると決めてしまうとそこまでの自己満足人間になってしまうぞ」
「ううぅ」
「まぁ俺もお前をイジメたいわけじゃない。寮長の件を引き受けてくれれば条件次第で引っ越しの件考えてやってもいいぞ」
「ほ、本当ですか?!」
「俺は、いい加減なことを言うこともあるが、うそはつかねーよ」
「じゃあ、寮長の件、引き受けます。それで条件とは?」
「まぁ寮長の件は、適正を見てからになるが、俺に勝負で勝ったら引っ越しをさせてやるよ」
「勝負ですか?サッカーで?」
「馬鹿野郎。それじゃ俺が当たり前に勝っちまうじゃねーか。そんな面白くない勝負じゃねーよ。しかし、俺が出す条件も俺が勝っちまうからあんまり変わらんが」
ここでニヤリと、子供がいたずらをするような笑顔で武田監督がいう。
「サバゲーだ」
「なんとなく予想できてましたけど」
「3対3のリーグ戦だ。そうだな、さらに賞金も出してやるよ100万ほど」
「え?!マジですか?!」
「俺に勝つ気でいるようだが、お前この間のサバゲー覚えているのか?」
正直ボコボコにやられた記憶しかない。
「確か、改装で部屋を引っ越すなら早めに明け渡さなければならない事もあってだな。お前今日出ていけって言われたんだろ?それは俺が調整しておくから、サバゲーは明日行う。ちょうど練習休みだし。あとの手続きは勝手にこっちでやっておくから」
何も言うことなくとんとん拍子に、話が進んでいき、気が付くと武田監督の部屋を出ていた。
腕を組み歩きながら考える。
「しかしサバゲーの3対3リーグ戦ってどういうことだ?」
武田監督と戦うならリーグ戦なんて言葉が出てくるのはおかしい。考えてもわからないので、小腹がすいたから、一旦足取りは食堂に向かっている。そこで廊下に多くの選手たちが集まっていた。
何か廊下に張り出されているチラシを見ているようだが。
「どうかしたのか?」
「おい!彼我これなんだよ?!」
「はぁ?これって?」
張り出されたチラシを指さされて、確認する。
”彼我引っ越し杯 サバゲー大会”と書かれたチラシが貼ってあった。詳しくルールとサバゲーのエントリーの方法が記載されていた。
(あれ、今話をしたはずだよな?)
正直、武田監督の部屋から出て10分程度しかたっていない。ここでやられたと気が付く。完全にこうなるように仕組まれていたのだ。
そうでなければこんなに早く、チラシがここに張り出される訳がない。
「うぉーーーー!!」
悔しさのあまり、声を出す。周りの選手が俺から一歩引くがそんな事気にしていられない。
「彼我勝ちにいくぞ」
ベニートの声に振り向くと、すでにBDUを来て、顔には迷彩ペイントで、気合い入りまくりのドヤ顔のベニートがいた。(隣にはアビラも同じような恰好をしている)
「ベニートお前その恰好」
「俺たち3人で優勝だ」
「兄貴ーーー!!俺たちって!それはおいらも入っている言葉ですよね」
「そうだ。この3人でいくぞ」
「ちょっと待ったーーーー」
遠くから中町の声が聞こえる。この後のやり取りははっきりいって思い出したくない。とりあえず俺とベニート、アビラの3人で出場する事になったという事だった。
時間はさかのぼり、朝8時の話である。
武田は、施設館長の塚元に呼ばれていた。
「これはまだ早いのでは・・・」
「私も、それにクラブ上層部もそう思っている」
武田の前にテーブルの上に置かれた一通の手紙を読んでの反応だった。
内容は、日本サッカー協会から送られてきたU-17の代表招集に関する内容だった。
招集された選手は5人。
中町、花形、彼我、皆口、荒川の名前が書かれていた。
武田としては来年の受け入れの話だと思って塚元を訪ねたわけだが、内容は思っていた方向とは違い、かなり重い話である。
本来は代表招集されることは名誉なことだが、これには裏があり、喜多島をオランダ3部リーグの監督として引き抜き、現在クラブチームの内部調査に来ている梯橋の扱いについて雑だとクレームが来ていた。この代表招集の話を断るとクラブチームの選手達が今後日本代表として召集される事がなくなってしまうという嫌がらせまで付けて。
「でどうされるおつもりで?」
「まぁ色々方法は考えているが、一番いいのは協会にこの話はなかった事にしてもらうのが一番穏便にすむと思っている。一番面倒なのはマスコミにうちの事をかぎつけられる事だからね。なかった事にすれば、公にもならないだろうから」
「なるほど」
「その為に、梯橋君にはぜひ”頑張って”もらわないといけなくてね。何かいい方法はないかね?」
「う~ん。そうですね。俺の趣味で面白そうなのはサバゲーですけどね」
「ほう。なかなか面白うそうな企画だ。聞かせてもらっていいかね?」
そこから武田はサバゲーの詳細を語ると、うれしそうに塚元は笑みを浮かべる。
「わかった。それでいこうじゃないか。その賞金は私がポケットマネーから出そう」
「いいんですか?」
「ただし、ただとはいかないよ。そのサバゲーに私も参加させて頂くから」
「これは楽しそうな、戦いになりそうですね」
「まあお互いけがをしないように、しっかり遊ぼうじゃないか」
この時点で2人は顔は笑っているが目は笑ってはいなかった。