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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
51/77

第50話 練習試合 13対11 その5

 解説者とスタッフがいる部屋は、試合を行っているグランドから、離れた場所にあり職員達が普段仕事をしている施設の2階にある。試合は色んな角度で映る10台のモニターにて中継され、その選手達の動きを見てコメントを当てている。この施設で解説する事になったのは梯橋が来た事によるものだが、彼はその事を知らない。

 以前は、グランドに設置された解説室で4つほどのモニターと上からグランドを見下ろしてライブ状態で観戦して声を当てていた。

 今は解説室に梯橋の姿はなく、ジュンとスタッフだけ。

 後半戦に向けて、打ち合わせをしており、以前まで観戦しながら声を当てていた事に対する違いを、確認していた。

 

 「やっぱり、複数のモニターを見ながらだと、状況把握に時間がとられてなかなか難しい部分が出てきますね。その点ライブだと、全体が見渡せるので、ボールを持っていない選手達の動きも確認できてよかったと思います」

 

 ジュンの意見に、ディレクターらしき人物が頷き、今後の参考にさせてもらいますと返す。

 お互い何か言いたげな、顔をして目で確認すると、一旦解説室を出て隣の4畳ほどの自販機が置かれている部屋に移動する。

 しっかり扉が閉まったことを確認してジュンが丸い机の前に立つと、ディレクターから何か飲みますかと質問され、コーヒーを頼む。

 ブラックの缶コーヒーを持ってディレクターが手渡すと、お礼をいいそのまま蓋を開ける。ディレクターが時計に目をやり3分だけですといわれる。

 それでも気持ちを落ち着けたくて、少し時間を使い一息ついた所で本題に入る。

 ジュンから話を切り出す。

 

 「なぜ彼なんですか?」

 「優秀だからでしょ?」

 「あまりに意見が偏った発言になってますが?」

 「”日本のサッカー”を良く知ってると思ってるんでしょうね」

 「ここは日本じゃない。ナンセンスだ」

 「”日本代表のサッカー”は彼の中では”日本リーグのサッカー”なんでしょ。気持ちはわかりますが、それで世界と戦って勝てていないから海外に選手は行くわけで。彼の中では我々は異端なんでしょうね」

 「しかし、海外組みという選手枠もあるわけで」

 「あくまでも海外組みは”個人”です。我々のように”チーム”ではない。我々はここイタリアで戦う為の準備をしているんです。日本のように紳士的なサッカーではなく、ずるがしこさも必要な戦いになります。非難的な意見も日本代表と合流したときに出てくるでしょう。その予行練習だと思えと上からは言われています」

 

 ブラジル人であるジュンとしてはわかる話だった。スマートな日本の試合とは違いまるで格闘技のように体をぶつけ合いボールを取り合う海外サッカーは時には、その激しい当たりから怪我、喧嘩のようなやり取りまであり、時には非難にあう試合運びをする事もあるだろう。

 数ある海外リーグの中から、イタリアを選んだのは、サッカーのレベルも高く、比較的スマートな部分があるからだろう。

 だからといって、紳士的かといえば、やはり海外というべきか。ボディコンタクトは多い。そんなイタリアリーグ4部の”カンピオナート・プリマヴェーラ”リーグから入る予定とはいえ16~17歳の選手達がどれほど耐えれるか。そんな観点から”日本的なサッカー”をイタリアリーグに持ち込んだ所で、ワールドカップで戦える選手が育つかという話が上層部から出ていた。

 上層部の中には、すべてのスタッフは日本人で日本的なサッカーでワールドクラスの選手を育てればいいと話が出ていたが、それだと日本リーグで選手を育てているのと変わりないと、8割がNoといった事でその内容は否決されている。

 梯橋は”日本代表”と言う存在をどう考えているのだろうか?

 ジュンは彼の発言からその真意を読み取れずにいた。

 その彼はトイレの個室にいた。

 

 「ふ、ふぁははははは。まじでありえないだろ。あんな動き。たかが16~17歳のクソガキどもがあんなサッカーできるわけねーだろ」

 

 FCレグルスのサッカーレベルの高さが信じられず、暴言を吐き、自分を落ち着けようとする。しかし、落ち着けるどころか、どんどん口から気持ちがあふれ出す。

 

 「そうだ。これは俺に見せる為のシナリオが書かれたエンターテイメントなんだ。俺に見せる事で、自分達はサッカーの真似事をやってますよとアピールしているだけなんだ。どこかにカメラがあって俺を見張ってて、ここの契約書を交わした所から始まって、俺を驚かせる為のドッキリイベントで、すべて仕組まれたテレビのやらせなんだろ!?知ってるぞ。俺はわかっているぞ!!」

 

 吐き散らした言葉は、想像力豊かな妄想に取り付かれ自分に酔っていた。

 

 「中町だったか?細ッこい体の女見てーな、オカマ野郎にあんなシュートが打てるわけねーんだよ。彼我?ふざけるな何回パスミスしてるんだってーの。たまたま上手く繋がったからって調子にのんじゃねーよ。それだけパスが廻ってくるなら、他に何回チャンス作れたんだって話だよ。どうせやらせでテレビに作られた選手じゃねーか。本物のサッカー選手なめんなよ。そうだ薬、ドラッグでブーストしておかしくなってるんだよ。あいつら。ここのクラブチームの悪行を俺が全部、全部暴いてやる。アイアムジャスティス!!」

 

 息を切らしながら狂ったように叫びちらし、目が血走っている。トイレから出て水面台の前にある鏡に映る醜い人間を目の当たりにし、気が落ち着く。

 

 「必ず俺が暴いてやる」

 

 梯橋が解説室に戻ると、ジュンも戻ってきており、前半戦の話に移る。

 

 ------- 実況解説 -------

 ジュン:「ではまずは前半戦ですが、0対2。Bチームが先に得点をあげての折り返しとなったわけですが、梯橋さんどのように映りましたでしょうか?」

 梯橋:「う~ん。そうですね。30分まではAチームのほうがポゼッションも稼げてましたし、パスも良く回せていたという印象から、急に彼我選手のパスで一気に流れがBチームに傾きましたよね」

 ジュン:「あの切れのあるパスは絶妙でした」

 梯橋:「よくできていたと思いますよ。うまいですよね。」

 ジュン:「そこから繋いでの技ありシュート。足元にピタっと来るボールを出したサセル選手も非常に良かったですよね」

 梯橋:「彼の動きがあったからこそ、周りの選手も上手く合わせて、だまされてしまいましたね。私も騙されてしまいましたよ。演技派なんですね」

 ジュン:「確かにあのキレのある動きには騙されましたが、受けた中町選手も落ち着いて決めてましたよね」

 梯橋:「まるで決められた手順で、きっちり役をこなしていたように思えますね」

 ジュン:「それから前半終了間際でした。ロスタイムですよ。中町選手の見事なドライブシュート。いや~シビれましたね」

 梯橋:「過剰な演出とは思いますね。あそこまで引っ張らなくても、もう少し早い段階で決めてもよかったように思えますね」

 ジュン:「後半戦どのような動きになると予想されますでしょうか?」

 梯橋:「言っていいんですかね?Aチームが得点をあげて追い上げて、さらに演出を盛り上げてくれると思いますよ」

 ジュン:「そうですか。わかりました。選手達がフィールドに戻って着たようですね。後半戦が楽しみです」

 ------- 実況解説 終了-----


 ジュンは最後に梯橋に何かを求めるようには促さず、そのまま解説を締めくくる。

 声色から、悪意をひしひしと感じていたし、梯橋の発言から出る”演出”という言葉に何か含みがあると感じ取っていた。

 サッカーが好きで試合を盛り上げる為に自分はここにいる。

 しかし、彼からサッカーは二の次で自分の何かを満たすだけの発言になっている。その事を指摘していいが、はっきり言って空気が悪くなるだけで大人の対応ではない。

 それでも、彼らのサッカーを汚されているようで非常に不愉快である。

 ジュンは撮影機材を持ち込まないという約束で、彼らの練習を見る事を許可されている。

 赤く染まった夕焼けにえる選手達に、故郷で見ていたサッカーの練習風景などを思い出し、郷愁に襲われる事もある。

 それらを否定された気分になり、胸の中がモヤモヤする。

 

 (彼らを守らないといけない。マスコミは時には残酷なことをする。間違った認識を世間に流させるわけにはいかない)

 

 ジュンはモニターに映る選手達に誓う。

 2人の対照的な思いは、どのような形で終結を迎えるかはわからないが、この試合の終結に向けて選手達はポジションに着く。

 その姿を、松葉杖をついて観客席から中町が見ていた。

 

 (なんで、僕はあそこにいないんだろう?)

 

 センターサークルではベニートと花形が立っていた。普段口を開かないベニートが何かを花形に言っているのが見える。

 

 (珍しいな、あのベニートが彼我以外の誰かと何か話をしているなんて)

 

 しかもどこか、ベニートの顔が柔らかく見える。自分と彼我を見た時にアレだけ般若面をしていたのに。

 

 (何を話しているんだろ?)

 

 まだ開始まで1分ある。

 周りの選手も中央にいる二人を気にしていた。

 

 「どうしたベニート?何か話があるのか」

 「少し俺の体が強張っているので、緊張をほぐしておきたくてな。少したわいもない話がしたいのだがいいか?」

 (まじですか!?俺でいいんですか?!)

 

 花形の鼻息が急に荒くなる。

 実はあこがれていた選手がベニートだったりする。

 間近で彼のプレイを見て、現役のプロサッカー選手と比べても、その圧倒的なカリスマ性に引き込まれて、ベニートというサッカー選手が好きだ。

 しかも同じフォワードの選手で、そのプレイは見てるだけで勉強になる。

 しかし、なかなかその存在が花形の心の中で大きく、声をかける事もできない雲の上の存在だった。

 そんな彼が気まぐれか声をかけてくれる。

 うれしくないわけがない。

 

 (ど、どうする俺。何を話せばいいんだ?!)

 

 軽く普段何気ない話をしているように見える彼我は羨ましくもあり、尊敬の眼差しで遠くから見ていた。

 

 (あいつのように振舞えばいいのか)

 

 彼我をイメージして彼の雰囲気を真似てみる。

 きりっとした声で答えてみる。

 

 「どうすた?」

 (しまった声が裏返ってしまった?!俺のバカーーー)

 

 顔には出さないが、イケメンの顔を作り、どうどうと答えて、ドもってしまった恥ずかしさがこみ上げて顔が真っ赤になる。

 それでもベニートは特に気にした様子もなく、返事をしてくれる。

 

 「日本の少女漫画は最高だな。特に”紅茶○子”が俺は好きだ。アレからずいぶんと色々な少女漫画を見て日本語を勉強したものだ」

 「ん?」

 

 ベニートから語られる単語がまったく頭に入ってこない。

 首をかしげた瞬間にキックオフの笛がなり、花形は今のは幻聴だったと気持ちを切り替える。

以前に書いたかと思いますが読み返していると、たた文言の間違いやストーリーの中身の食い違いを発見しており、近いうちに文言修正、ストーリーの修正、加筆を行った清書版を作る予定です。ただ、アップするかはわかりません。ご了承ください


イタリアリーグの構成について:

”カンピオナート・プリマヴェーラ”リーグは本来4部ではないのですが、話の都合上4部とさせて頂いております。

現実と異なるリーグ構成と、所属クラブで話が進んでいきますので、ご了承ください。

ちなみに今は、”カンピオナート・プリマヴェーラ”リーグと表現しておりますが、それも今後は変更する予定です。

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