第47話 練習試合 13対11 その2
-------実況解説1 -------
ジュン:「さあ、13対11と変則的な練習試合ではありますが実況はジュン・カビラエルと元日本代表監督の通訳をされておりました梯橋智明さんをお迎えしてお送りします。よろしくお願いします」
梯橋:「よろしくお願いします。」
ジュン:「さて両チーム再編後の第1戦となります。1週間という短い期間でどうチームを作り上げてきたのか、編成した事でどのように変化したのか注目なんですが、梯橋さん、注目されている選手などおられますでしょうか?」
梯橋:「すみません。少し資料を頂いたのですが、あまりに情報が少なくて、今ほぼ初めて選手達を見せていただくわけですが、その中でも元アルゼンチンユースのベニート・ミロ選手がいた事は驚きですね。現在、海外メディアでは彼は行方不明のような扱いを受けておりまして、動向が注目されていたんですが、まさかここにいるとは思っても見ませんでした」
ジュン:「確かにベニート選手は、これからクラブのユースチームから上がってトップチームでデビューと聞いていましたので、彼がFCレグルスに来るとは私も思っていませんでした」
梯橋:「それと、アルゼンチンユースメンバーが多く見られ、非常に興奮しています。これから彼らがどのような動きをしていくのか、本当にワクワクしますね」
ジュン:「日本人選手達のほうはどうでしょうか?」
梯橋:「正直こちらは完全に未知数ですね。話を聞く限り、高校からサッカーを始めて数ヶ月という選手が多いそうですし、そんな選手達がどこまでやれるのか、そういった意味で楽しみです」
ジュン:「そうですか、わかりました。ではスターティングメンバーを紹介していきましょう」
-------実況解説1 終了-------
日本人選手達の話題になった時、梯橋の少し馬鹿にしたような口調をさえぎるようにジュンはスターティングメンバーを発表していく。
”俺達野郎Aチーム”
CF(左) ベニート・ミロ 身長181cm 体重68kg
CF(右) 花形 智明 身長173cm 体重62kg
ST 倉見市 俊治 身長172cm 体重60kg
OMF シジネイ・ルシオ 身長175cm 体重58kg
CMF 川上 雅士 身長172cm 体重58kg
SMF(左) カミロ・アビラ 身長168cm 体重48kg
SMF(右) 水八 陽一 身長174cm 体重59kg
DMF(左) セルディア・バジョ 身長176cm 体重62kg
DMF(右) マルニャ・アバスカル 身長176cm 体重63kg
CB(左) 下塚 騰児 身長170cm 体重58kg
CB(中) 片磐 重道 身長170cm 体重53kg
CB(右) 下市 庄司身長171cm 体重56kg
GK 重林 大成身長177cm 体重68kg
ベンチ
MF 林 茉耶身長173cm 体重63kg
MF 倉石 登 身長173cm 体重60kg
GK 御津島 修三身長180cm 体重65kg
”カレーが大好きBチーム”
CF 中町 葉柄 身長171cm 体重55kg
ST アルバート・ロペス 身長180cm 体重65kg
OMF 大河 智治 身長175cm 体重59kg
CMF 彼我 大輔 身長173cm 体重59kg
SMF(左) 箕河 春樹 身長175cm 体重62kg
SMF(右) セサル・ノゲイラ 身長174cm 体重63kg
DMF アーロン・オルネラス 身長176cm 体重60kg
CB(左) アルビアル・ベルグラーノ 身長174cm 体重60kg
CB(中) 皆口 雄介 身長173cm 体重63kg
CB(右) ディオニシオ・モタ 身長185cm 体重75kg
GK 荒川 修司身長185cm 体重73kg
ベンチ
FW ベレンゲル・ニッセン 身長179cm 体重65kg
MF 青木 撤兵 身長173cm 体重63kg
MF 佐藤 雅身長170cm 体重55kg
DF 池華 益雄 身長176cm 体重63kg
DF 檀乃 琴伴 身長170cm 体重53kg
DF 合田 憲次 身長175cm 体重59kg
-------実況解説2 -------
ジュン:「Aチーム前半戦が13名ということで、通常のメンバーに2名加わったわけですが、Bチームがどういう動きで来ると思われますか?」
梯橋:「う~んそうですね。カウンターを狙って後列でボールを回してサイドを使ってくるのがセオリーでしょうか?Aチームのディフェンス選手陣が通常11人チームとほぼ同じような配置なので、うまく抜けれればゴールが期待できると思いますね」
ジュン:「そうですね。ではそろそろ試合開始の時間です」
-------実況解説2 終了-------
センターサークルには中町、アルバートがボールを挟んでホイッスルを待つ。コイントスによる先攻後攻はなく、数が不利なBチームからのキックオフで試合が開始される。
アルバートから中町にボールが渡され、一旦後ろにボールを流す。
すぐ後ろにいた大河ではなく、CMFの彼我にボールが渡り、周りを見ながらそのまま中央を上がっていく。
この間にチーム全体が前に出る。しかしAチームのスペースが開いておらず、なかなかパスを出すスペースを見つける事ができない。
(たった2人多いってだけで、これだけ隙がなくなるとは正直しんどいぜ)
それでも、彼我は一瞬開いたスペースに低い弾道のパスを左サイドに出すが、そのパスに誰も追い着く事はできない。少し下がり気味のAチーム右SMFの水八がボールを拾い、詰め掛けてきた大河がボールを取りに肩から体をぶつけるが、水八がその衝撃をいなしながら、自身の体を少しずらしバックパスと見せかけて、大河の意表をつくと、そのまま前に駆け出していく。
(いつの間にあんなテクニックを?!)
大河は相手のバランスをずらす程の当たりをしたつもりだったのだが、まるで柔らかいクッションに体を預けたような感覚に襲われ、次の水八の行動は今までと同じと体勢を崩した事で仕切りなおしとバックパスをすると予想して、”それにあわせた”動きをしてしまった。その事で体勢が前のめりになり、バランスを崩され追いかけるタイミングを一瞬はずされてしまう。
水八がドリブルで加速していくのにはその一瞬で十分だった。悔しさを感じながら、追いかける事を途中でやめる。
(Aチームの前半戦での交代選手が誰かわからない状況じゃあ、スタミナ配分が今回の試合の鍵だ。ここは悔しいがディフェンス陣に任せるしかね)
Aチームが後半から2人抜ける選手はわかっていない。その為、その2人はこの前半戦でスタミナを使い切るはずと、前半戦の序盤で、あまりボールを追いかけるとBチームの選手達はスタミナを削られる事になる。
たった2人多いという事は、作戦がいくつも張り巡らされているという難しさがある。Bチームはベニートをユース戦とは違って、そこまで警戒していない。
人数を掛けてマークできない事もあるが、ベニートと互角に渡り合えるだけの守備と足そしてスタミナに自信がある選手がいる。
水八が駆け上がりながら相手自陣の真中あたりで待っていたベニートにパスをする。山なりのボールを胸で柔らかくトラップして前を向くと、彼我が目の前にいた。
(やはり、そうきたか)
(当然だろ?お前をフリーするほど甘くはないさ)
彼らは目で会話すると、互いに上半身を揺らしながら、ボールの駆け引きを行う。
互いに軽く体を当て、それでもまったく体の軸がぶれない。鍛えられた下半身にそれでも、特にふとももの筋肉に乳酸が溜まり始めるが激しくボールを取りあう。
2人は時間が長く感じて動いている感覚があるが、実際は1分~2分も立っていない。
やり取りの間にベニートを呼ぶ声が聞こえる。彼我に気づかれるわけには行かないとベニートが顔を声の聞こえるほうに向けずに感覚だけでパスを要求する選手を見ずにボールを蹴る。
ボールはドンピシャの位置で待っていたアビラがボールを受けると、そのままサイドを駆け上がっていき、コーナー付近に張り付き、アビラのディフェンスにはディオニシオが着く。
(何を考えているんだ?)
アビラはいち早くコーナーに着いた時点でクロスボールを上げ、チャンスを演出できたはず。ディオニシオはボールを奪いに行くがキープするアビラに懸念が生まれる。
(そうか!ベニートを待っているのか?!)
判断が少し遅れたディオニシオの隙を突き、アビラが体を反転させながらクロスを上げる体制に入る。アビラがコーナー付近でボールをキープしていた頃、彼我を引き剥がしたベニートがオフサイドラインギリギリに入って来て、皆口とアルビアルがベニートに張り付く。
(相変わらずなんともいいづらい感覚してるぜ)
皆口はベニートに体を預けるように押し込み、その感覚に違和感を覚える。筋肉質で硬いはずなんだが、”変に柔らかい”感覚もある。
これだけ相手を体全部で押さえ込んでいるにも関わらず、押さえ込んでいる気がしない。
アビラのパスが蹴られる瞬間、皆口とアルビアルはベニートから体をわざとはずし、前に出る。
(チィッ!)
ベニートは心の中で”しまった”と悪態をつく。
アビラがボールを蹴った瞬間にはベニートはオフサイドトラップに引っかかっており、オフサイドとはわかっていたが、体がすでに反応しておりヘッドでボールを捉えボールはゴールに突き刺さる。
しかし、もちろゴールにはならず、やってくれたなという顔でベニートはゴールラインから下がる。
(今のはやばかったな、ベニートがあそこまで高くジャンプできるとは、彼我からオフサイドトラップを仕掛けるように忠告されててよかったぜ)
下手に競い合って、高さで勝負を仕掛けてゴールを決められるより、オフサイドトラップを仕掛けられる状況ならそっちを狙ったほうが、ベニートは油断するだろうと彼我の判断だった。
(しかし、今回は上手くいったが2度は通用しないだろうな。あいつのカンは野生的だしな)
皆口は冷静に状況を見極め、ディフェンス陣に指示を出していく。GKの荒川は今日は一言も指示を出していない。飛んでくるシュートに集中する為、すべて皆口に任せている。
序盤はAチームの優勢で進み、Bチームは奪ったボールを彼我に渡しそこから瞬時にできるスペースにパスを繰り返すが、いまだにボールは選手に渡る気配がない。Aチームは彼我からのパスを受けれない選手達のかわりに、ボールを奪い前線に運ぶ。前線で待っていたオフェンス選手がBチームのゴールに襲い掛かるが皆口、荒川のファインセーブなどの頑張りで凌ぎながら試合も中盤を迎えようとしていた。
-------実況解説3 -------
ジュン:「さあ、序盤はAチームの攻勢で試合を進めておりますが、Bチームはなかなか、パスが上手くいかないようですね」
梯橋:「彼我選手でしたっけ?もう彼を下げて試合の流れを変えるべきだと思いますけどね」
ジュン:「しかし、通れば面白いパスだとは思いますが?」
梯橋:「実際スペースを狙っているようですが、Aチームが2人が多い状況でなかなか隙もありませんし、彼のパスが速い、それと正確性が感じられませんね。ただ闇雲にスペースを見つけられないから仕方なく蹴っているような素人のような動きだと見えますね」
ジュン:「確かにそういう見方もできなくもないですが、守備ではベニート選手の動きにうまくあわせているとは思いますが?」
梯橋:「ベニート選手の動きにあわせて守備がうまくいっている事は非常に評価できますが、それでしたらディフェンスの選手として起用したほうがよかったのではと思いますね」
ジュン:「しかし相手チームが多い状況でBチームもよく攻めてはいるんですよ」
梯橋:「ほんとうに、ほかの選手がかわいそうですよね。彼我選手にボールを集めて何か狙ってはいるんでしょうけど、彼がそれを潰している」
ジュン:「こういった場面で監督としては、どのような作戦を考えるべきだと思いますか?」
梯橋:「フォーメーションの変更なんかも考えながら彼我選手を下げるか、ポジション変更して、チームの空気を変えてみてもいいと思いますね。もっとキープして一旦後ろに下げてカウンター狙いでもいいと思うんですよ。わざわざ中央からスペースを見つけて前にパスを出していくなんて、ジャパンリーグでも非常に難しいと思われますね」
-------実況解説3 終了-------
梯橋は、心で舌打ちをして、つい解説中に苛立ちを爆発させてしまった。
Aチームは非常に統率の取れた動きで、2人増えている事をうまく使って攻め込んでいる。それに大してBチームはとにかく彼我を使って突破口を開こうとしているが、まったく機能していない。
サッカー経験がない梯橋から見れば、草サッカーで何度も同じことを繰り返す事しかできない無能でなにもできないチームに見えてしまう。
そんな、無知なチームをBチームと称して、Aチームを引き立たせる為の存在にしているこのクラブチームなんなんだと思い始めていた。
梯橋の考えは間違っていた。何度も繰り返されるパスは毎回同じに見えて、微妙に変化をつけ彼我は試していた。
それが見え始めたのが前半30分だった。
コメンテーターが特定の選手に対して、過剰なコメントをすることはあまりないかと思いますが、いやなやつを際立たせるための演出と思ってください。