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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
46/77

第45話 招待2

 長い空の旅を終え、地に足を着けると生きた心地を感じ一息つく。空港でクラブチーム関係者が待っているはずなんだが?

 周りを見渡しそれっぽい人物を探すが、目の前には入ってこないのでふぅっと息を吐き気を抜こうとした瞬間、後ろから声をかけられビクッ!と体を強張らせ拍子で動いた足に当たって、キャリーバックを倒してしまい、慌てて腰を落としてバックを立て直す。急に後ろから声をかけるなよと、非難の顔をして後ろを振り向き斜め上を見る。

 そこには黒のサングラスかけ、さらにスキンヘッドで黒いスーツを着た黒ずくめのいかにもどこかの組織で暗躍していそうな身長180cmにもなろうかという体格のいい男が立っていた。年齢などはサングラスのせいもあり、はっきり判らないが30代前後だと思う。

 当たり前だが、俺の顔がピクピクと引き攣った事は言うまでもない。

 声をかけられた時に流暢な日本語をしていたので日本人だと思うのだが、はっきり判らないので余計に不安が顔を引き攣らせる。

 通訳の仕事をしていたので、海外の人間に恐怖心はないのだが、イタリアという異国の土地でこの風貌の男と対面すると緊張感が生まれるのは仕方ない。俺が特に臆病だということもないだろう。

 

 「梯橋はしばし智明ともあき様ですね。クラブよりお迎えに上がりました広崎ひろさきと申します。」

 

 風貌とよく似合っている渋めの声で、名前を聞かれ少しびびりながら俺は余裕だぞという雰囲気を出しつつ、そうですと答え、彼の案内で迎えの車に移動し、大きめのワゴン車でゆったりとした空間の中、座りキャリーバックを後ろに置くが、身を守るモノがない事に、もしもの不安が募る。

 落ち着かない気持ちが貧乏ゆすりを起こし外を見て気分を紛らわす。車は安全運転で進んでいき、市街地を出て着いた場所はセスナが飛ぶ空港だった。

 

 「ここからセスナでサルデーニャ島に飛んでいただきます」

 「お、おぉ?」

 

 どう質問をしていいのかわからず、出てきた言葉は情けないものだった。

 クラブチームがある場所はどこか聞いてなかったし、資料にも書いてなかった。サルデーニャ島はイタリア本土とティレニア海を挟み、陸続きの本土とは違い回りは海に囲まれた島だ。

 ちょっとした観光気分でイタリア本土にも足を伸ばせるかなと思っていたのだが、まぁいいかサルデーニャ島もいい所だしと思う。しかしつい先日U-17が試合で行ったと聞いたが、ここからセスナで乗ってサルデーニャ島にいったのか?

 セスナはそこまで人を多く乗せて飛ぶイメージがないんだが。

 

 「以前U-17が試合に来たって聞いたんですけど、セスナで行ったの?」

 「いえジェット機で空の旅を楽しんで頂きました」

 

 すぐに返事をもらいそうなんだと相槌を打つ。

 

 (じゃあ俺もジェット機使ってよ!)

 

 と言いたくなったが怖くて口に出来ない。

 セスナでもう一度空の旅を味わい、綺麗な青色をした海を見てこれはこれでいいんじゃね?と思いつつ、空港に到着。

 そこから、またワゴン車が用意されており移動を開始。

 車を走らせる事5時間。途中気分が悪くなり何度か車を止めてもらった事で到着時間が遅れてしまった。

 

 (車って昔から長時間乗ると酔うからイヤなんだよな)

 

 気分が優れない青白い顔をしていた俺が窓から見たのは大きなコンクリートで作られた長い壁。

 コンクリートの壁が見え始めて結構走ったと思う。ぐったりしていて時間まではわからないがようやく大きな門が見えてくる。

 車が着くと自動で開くようになっているのか、ゆっくりと門が開き入って左手に監守がいる詰め所があり、さらに横の建物へ車がつけられる。

 

 「ようやく着いたか」

 

 ふらふらと体を揺らしながらキャリーバックを受け取り、車はロータリーを廻ってそのまま門を出て行く。

 見える景色は木とプレハブのような簡素な建物。

 前に見えるのは駐車場だろうか?大型バスが20台ほど置ける空き地があった。

 

 「では建物内で、お荷物の検査をさせていただきます」

 「あ、う、うん」

 

 マジで嫌な汗がわきの下と背中から噴出す。

 まさか荷物検査があるとは、ちょっと思っていたけどやばいような気がする。

 バックを開けられて念入りに荷物チェックなんかされたら、今回もってきたSDカードなど盗撮用の機器がばれてしまう。

 それでも、いちようはカモフラージュしてるし、ばれるような事はないと思う。

 平静を装い、大丈夫だと心に言い聞かせながら、広崎について行く。

 プレハブに入るとまずはX線検査があった。

 もちろん広崎も、X線検査を行い軽くボディチェックされ、その後に続きながら俺もキャリーバックをX線検査にかけて、自分の体もチェックされる。

 係員の動きを見てる限りでは、特に問題が見つかった様子もなく、バックを開けられずそのままプレハブを後にする。安堵の息を吐きたくなるが、心の中で我慢する。 プレハブを出るとすぐ目の前に池があり、給水塔も立っている。

 池は意外と綺麗に整備されていて、藻などは浮かんでいない。

 関心しながらプレハブからアスファルトで舗装された一本道を進み、森の中を歩いているような気分で次に現れたのは3階建てのビル。

 中に入ると男性の受付が座っており、ここからは彼が案内してくれると言うことで、広崎とは別れる。

 ようやくマッチョメンとの変な緊張感から開放され、2階にある6畳ほどの一室に案内される。

 案内人が部屋を退出したのを見計らって、胸ポケットにしまっていたスマホを操作するが圏外。予想していたことだが、他に方法があるさと気を持ち直す。

 20分ほど立った頃に、ここの責任者と名乗る40代ぐらいの男性が部屋に入ってくる。

 

 「始めまして、梯橋さん。ここのクラブ運営を任されております塚元つかもと春臣はるおみと申します。このたびは仕事を請けていただきましてありがとうございます」

 

 一見物腰は柔らかそうだが、鋭い眼光でこちらの顔色を伺って来る。しかしコメンテーターという仕事で、ここまでの眼光をぶつけられるものなのだろうか?確かに俺はそれだけの仕事をやりに来たわけではないが。それともX線検査で、もうひとつの仕事に繋がる何か掴まれているのだろうか?眼光の鋭さが俺の疑心暗鬼を生み、ドキドキと心臓が波打つ。

 どうにか返事をすると、彼の眼光が少し緩み資料を出してくる。

 

 「ではこちらを」

 

 20センチほどの分厚い契約書と、施設の案内書差し出され両方を確認した。

 施設案内は簡単に目を通せるほどだったが、契約書はそうはいかなかった。

 仕事内容、金額内容と続き、もし俺から情報が流出してしまった場合、起訴され、罰則金も法外な値段が発生する事も記載されていた。

 さっきから嫌な汗が流れているが、しかし施設案内を見たところかなりの敷地だ。職員も多くいるだろう。俺から情報が流出したと証拠さえ掴まれなければやりようはいくらでもある。

 契約書にサインと印を押し、最後に契約書をすべて読み上げられる。

 

 「この契約は撮影されており、契約内容について”誤解”は生まれる事はございませんので」

 「・・・わかりました」

 

 撮影される事も事前に言われていたし、契約書にも撮影許可について最初のほうで確認サインをさせられている。

 徹底しているなと、少しもう一つの仕事ができるのか不安を感じる。

 

 「これで契約は以上です」

 「あ、あの選手達の練習の様子など見る事は可能ですか?」

 「必要ありません」

 

 軽く一蹴される。早い返しに一瞬唖然としてしまうが、反骨心がわいてくる言い方をされ、ついむきになる。

 

 「よくあるじゃないですか?昔取っていた選手達の映像を有名になってから流したりするやつ。私もインタビュー形式で選手達の練習などを撮った映像を協会に送りたいと思っているんですが?」

 「それでしたらこちらで、映像をご用意させて頂き、後で声を吹き込んで頂きますが、う~ん。しかし声をあなたにはお願いする事はないと思いますので、やはり練習を見ていただく必要はありません」

 

 確かに契約書には試合中のコメントと、日本サッカー協会に対する報告だけとなっており、提出資料はクラブチーム側が用意する事になっている。

 常にクラブチーム側が出す情報を協会に流すだけの簡単な仕事という強調を塚元はしていた。

 クラブ側は選手のすべてが商品であり一般企業が不祥事以外で自社商品内容を提示する事はないと主張する。

 確かに彼の言うとおりだと思うが、人は秘密にされればされるほど、深く入り込み情報を公開したいものである。それに選手は人間でモノではない。ジャーナリストではないが、ジャーナリスト魂に火が着く。

 そしてなにより俺はこの塚元が気に入らない。

 彼の口調から馬鹿にされているような気分になる。

 必ず”俺が掴んだ”情報を協会に渡し、大金を手に日本に凱旋だ。

 そんなことを考える俺を横目に、目を閉じ小さくため息をつく塚元を知る由もなかった。

 

 「さて契約も済みましたので宿泊施設のご案内をさせていただきます」

 

 塚元が席から立ち上がり、部屋の扉を開けて退出を促される。俺が軽く会釈しながら部屋を出るとさっきの案内人が待っており、宿泊施設を案内してくれる。

 ビルを出てきた道とは違う一本道を歩き、旅館のような施設に向かう。

 

 「後はフロントで名前を言っていただければ、係りが案内しますので私はこれで」

 

 案内人の言う通りフロントで名前を言うと鍵を渡され、部屋の場所を説明される。

 エレベーターを使って3階に上がり廊下を歩くと一番奥の306号室に着きカードキーを差し込む。

 2LDKの部屋でベランダがついている。

 

 「いい部屋だな」

 

 ホテルというより高級マンション。

 少ない荷物を、備え付けのタンスに直し黒い化粧ポーチを取り出す。

 X線に引っかからないといわれている素材で出来たモノで、この中にデジカメと、SDカード、小型のペンカメラなどを取り出す。

 さすがにプライベートルームに監視カメラは仕掛けられていないだろうと思うが、いちようカメラを確認してからポーチを出しての機材確認作業だ。ここで見つかればすぐに係員が飛んでくるだろう。ドキドキしながら各機材が壊れていないかチェックする。

 

 「よし正常に動く」

 

 後はどうやって選手達と接触するかだ。

 正直、施設を撮っても微妙すぎる。やはり選手達のデータを入手して協会に送るほうが評価も上がるだろう。

 疲れた体をベットにもぐりこませて食事をする前に一旦寝ることにする。寝るまでの間、ぼーと考え事をする。とりあえず明後日練習試合があるという事だし、ここの連中が隠したがる選手達のサッカーをみさせてもらおうか。16歳のガキどもにそんな価値があるとは思えないが、どれほどのものかと馬鹿にした気持ちで期待してしまう。それすらもないものだったら笑って帰国してやるさ。

 

 

 

 

 トントン。優しくノックの音がしどうぞと返事をすると黒いスーツの男が執務室に入ってくる。

 

 「失礼します」

 

 広崎が深く一礼をし塚元に顔を向ける。

 

 「どうした?何か問題があったか?」

 「梯橋のX線検査で、映像関連の機材が持ち込まれているようですが」

 「報告は聞いている。初めにそういう物が持ち込まれてもそのままチェックは通すように言っておいた」

 「しかし、このままでは、万が一にも外部に情報が漏れる可能性があります」

 「どのような方法で外部に情報を漏らすのか楽しみじゃないか。うちの警備システムの穴を彼が見つけてくれれば、そこをふさげばいいだけだし、もし選手達の情報を入手しようと彼が動く事は無理だろう?」

 

 梯橋が行き来できるのはクラブ運営責任者がいる塚元の、事務ビルと職員用娯楽施設ビル、最後に宿泊施設の3つだけだ。

 選手達が住む通称選手村に行くには、まずは選手村と事務ビルを繋ぐ鋼鉄の門を通らなければならない。しかも門前には監守員が常時見張っている。

 門を通る以外で選手村に行く場合、高い塀を昇る必要があり、さらに超えたとしても森の中を歩いていく必要がある。隠れる場所はあるかもしれないが、遭難する可能性もある深い森。

 このクラブチームの敷地はかなり広い。

 彼に見せた施設案内はあくまでも、彼が移動できる範囲のもの。何も知らない素人が森を抜けて選手村にたどり着こうものなら、選手達の脱走計画に繋がる事案なので警備を見直さなければならないが、そうはならないだろうと思っている。

 選手村にたどりついても警備員が巡回しており、そうそう選手に近づく事は困難だ。そこまでの危険を冒して、情報を入手できれば賞賛に値する。その情報は外部に漏らしてもらってもかまわないと塚元は笑って答える。

 

 「彼の経歴から特殊訓練を受けた兵士ではないのだろ?」

 「ごく一般的なフリーのスポーツコメンテーターです」

 

 すでに梯橋の事は2ヶ月前から調べ上げている。

 協会が彼に提示した、協会独自の追加金額まで把握している。

 正直我々に捕まった場合の、罰則金と吊り合う金額ではないはずなんだがと思うが、彼が見せた悪戯な表情を見逃さなかった塚元は少し楽しみであった。

 

 「どこまで、我々の情報網の穴を見つけてくれるのか楽しみじゃないか。さっきも言ったがふさいでおかなければならない穴はあると思うし、その発見は外部からもたらされるものだと思っている。身内ではどうしても、頭でっかちな考えで、突拍子もない発想は出てこないものだ」

 「判りました。しかし泳がせておく必要はありませんよね?」

 「ああ、もちろんだ。しかしそうだな~少しは様子が見たい。証拠はしっかり掴んでもらって、後で突きつけてやればいい。今回の件は君たちの訓練も兼ねている。よろしく頼むよ」

 

 話を終え生真面目な顔をして広崎が一礼をして退出していく。

 広崎が完全に退出した所で、塚元は笑いがこみ上げてくる。

 

 (とある大国で外人特殊情報部隊所属だったあの広崎を前に、素人の君がどこまでやれるか楽しみにしているよ)

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