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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
41/77

第40話 抽選

 塚元からオランダリーグ監督としてやってみてはと打診があった翌日、施設内で、一番広い多目的室に、立食形式のバイキングが用意されており、今回のU-17との試合のお疲れ様をかねて昼から食事会が開かれていた。

 各選手、育ち盛りでありアニメで見るような山盛りになった皿を片手に、盛りきれない状態になった時点で、縦長のテーブル席に着くと「その盛り方はないって」など自分達が持ってきた皿について話の華が咲いていた。

 その話の中で聞こえてくるのは彼我のゴールキーパーについて。

 荒川が彼我の隣に座ると、U-17の相良とのPKについて質問する。

 

 「しかし、よくあのPK止められたよな?シュートも早かったし、コースもやばかったはずなんだけどな」

 「あぁ~あれか。昔さ、相良からシュート練習につき合わされてさ。あいつ目で自分が思っている逆のコースをちら見する癖があったんだよ。しかし子供の時の癖ってなかなかなおらないもんだな」

 「へ~。なんにせよ、強制帰国しなくてすんでよかったぜ。こんなうめ~もんを食えるんだからな」

 

 ミートスパゲッティを頬張りながら満足そうに頷き、勢いよく食べ過ぎたせいでのどに詰まらせる。

 

 「一気に食べるからだ。馬鹿。ほら飲み物」

 「うごうご」

 

 のどに詰まらせながら感謝を口にした所で、何を言っているのかわからず、彼我から受け取ったコップを一気にあおる。

 

 「ぶーーーーー!!なんだこのくそまずい飲み物は!?」

 「ああ、漢方でよくあるどくだみ茶だ」

 「にげーーーーよ!よくこれ飲んでたな?」

 「飲みなれるとなかなかイケるんだけどな」

 

 彼我の周りにだんだんと人が集まってくる。

 

 「何面白い事やってんだよ?なんだ荒川に髪を切られた仕返しか?」

 

 ニヤついた顔で、荒川と同じく山盛りの食材が積まれた皿を置きながら川上が彼我の前の席に座る。

 

 「人聞きの悪い事いうな。ボサボサだったから結構これはこれで気に入ってる」

 

 彼我が短髪になったせいで、ジョリジョリする頭を触りながら川上の意見を否定する。

 

 「じゃあ次回も荒理容室をご利用されますぅ?」

 「それはないな」

 

 川上が手で作ったマイクを向けられながらのインタビューにすぐに切り返す。

 その否定に荒川が口を尖らせる。

 

 「俺の高級はさみの出番がなくなるじゃねーか!」

 「何で俺がお前の客確定なんだよ?!その辺にも獲物がいるじゃねーか?」

 「わかってないな~。わかってない。レギュラー獲られたこの想い」

 「そこは、水に流す所じゃねーのか?!」

 「後8回の散髪利用権で許すわ」

 「毎年坊主はいやだ!」

 「大丈夫。そのうち腕も上がってくるって」

 「そんな事より、サッカーうまくなろうぜ!な?!」

 

 彼我の必死な返しに周辺で笑いが起きる。

 この輪に入れない、二つの視線を感じながらもどうする事もできない彼我は、困っていた。

 

 (ベニートの奴が、この輪に入ってこれないのは判るが、なんで中町が恨めしそうにこっちを見てるんだ?)

 

 ベニートからどす黒いオーラが出ており、あまり見ないようにしていた彼我だが、アビラがうれしそうに生ハムにチーズをまき、口にいれようとした瞬間、奪い取るとそのまま口に入れ、なみだ目のアビラを見てご愁傷様と心でつぶやき、中町は別の選手達の輪の中でちょっと離れた位置から、口を尖らせてこちらをずっと見ている。

 そんな状況の中、選手達の胃袋がようやく落ち着き始めた頃、上座に用意された壇上にレギュラーチーム監督の小田が立つ。

 

 「手を進めながらでいいから聞いてくれ。重大な発表がある」

 

 手を進めながらで、聞く重大発表なんてあるのか?と選手全員の手が一旦止まる。


 「何点かあってだな。まずはクラブチーム名が決まった」

 

 小田の後ろの壁に大きなクス玉が用意され、紐がぶら下げてある。

 もちろん引くことで、玉が割れる仕組みなのだが、小田はなかなか引こうとしない。

 

 「俺のキャラじゃねーな。武田お前が引け」

 「俺っすか?」

 

 自分の顔にひとさし指を指しながら、いやそうに壇上に上がりクス球の紐を引っ張る。

 パァーンという音と共に、紙ふぶきが落ちてきて、垂れ幕も一緒に落ちてくる。

 そこに書かれたクラブチーム名であろう文字は。

 ”FC レグルス”

 選手達からおぉ~とどよめきが流れる。

 

 「今日からこのクラブチームはFCレグルスとして、心機一転よりいっそうみんなに励んでほしい」

 「ちょ、俺紐引っ張っただけ?」

 

 小田が今のくだりを締めくくると、微妙な顔をしてこの後どうするのよと顔で訴える武田を無視して進行を進める。

 

 「次に今まで3チームあったが、すべて解体。2チームに再編成する。これからイタリアリーグで戦っていく中で、U-17がやっていた選手スタメン総入れ替えを採用し、経験不足と怪我などによる離脱、体力不足などをカバーしていく」

 「ちょっと!それ聞いてないんだけど!小田さん!」

 

 武田が大声を上げながら抗議する。

 上杉も同じく、そんな話を聞いていないと壇上に上がる。

 

 「う~ん言っていなかったからな。たまにこういうこともある」

 「大事なことでしょ!」

 「ちなみに俺がレグルスの総監督として、お前達二人には各チームの監督としてがんばってもらいたい」

 「どういうことですか?」

 

 上杉が、小田の話を掴みかねて質問する。

 

 「イタリアリーグの試合での監督は俺がやるんだが、チーム練習は2チームに分けて別々で行い、レグルス内部の練習試合などの監督はお前達が行う事になった」

 「なるほど。それでイタリアリーグでのスタメンは毎回チーム交代するんですか?」

 「いや、選手の状態をみて俺が判断する」

 「わかりました」

 

 上杉は納得すると、壇上から立ち去り、武田も下がろうとした時、小田に呼び止められる。

 

 「お前はここにいろ」

 「なんで!?」

 

 しぶしぶ、武田はその場に残り、小田は話を続ける。

 

 「この後、抽選会を行いチーム分けを行う」

 「「抽選会?!」」

 

 会場にどよめきが走る。

 チーム決めは普通、上層部で話しあって決めていくものじゃないのかと小声が聞こえる。

 

 「前回3チームに分けた時、お前達の力量から判断してチーム分けを行ったわけだが、ここ数試合見ていく中で、”一部”を除き、一定基準を満たした選手ばかりだと判断した。そこで”公平的”に分けても問題はないと判断したわけだ」

 

 小田が説明すると、どす黒いオーラをまとった”一部”のオーラが和らぐ。

 

 「レグルスとしては1つだが、チームは2つに分ける。チーム1、チーム2としてもいいが、面白みにかける。武田お前がチーム名を決めろ」

 「いいですかい?」

 

 袖の下を渡す越後屋のようなあくどい顔をしながら、武田はあごに手を当て考える。

 3軍のメンバーから、もしかして・・という空気が流れる。

 

 「思いつきました。では発表します。”俺達野郎Aチーム”、”カレーが大好きBチーム”とします!」

 

 上杉が頭を抱える。

 3軍の選手達からはやっぱりと、周りの選手達からの視線を逃れるために下を向く。

 

 「うん。なかなかのネーミングセンスだ」

 「でしょ!」

 

 壇上の二人だけ、盛り上がっている。

 

 「では、あみだ形式で抽選を行う。この用紙に名前を書いて、一本だけ線を付け足すんだ」

 

 壇上に用意された大きな紙に縦線がひかれて、その下は紙が折り曲げられており、各選手一列に壇上前に並んで、縦線の上に名前を書いて一本適当に横に線を付け足す。

 全員が書き終え、紙が全員に見えるように壇上の壁に貼りだされる。

 小田はぱっと見た瞬間、頷き開票前に監督権限として一本だけ横線を追加する。

 

 「さあ、では開票だ」

 

 職員が折り曲げられた紙を元に戻し、”俺達野郎Aチーム”は赤の線で、”カレーが大好きBチーム”は青い線で、折り曲げられた部分から上になぞっていく。

 そして・・・。

 

 ”俺達野郎Aチーム”

 FW ベニート・ミロ 身長181cm 体重68kg

 FW 花形はながた 智明ともあき 身長173cm 体重62kg

 FW 倉見市くらみし 俊治しゅんじ 身長172cm 体重60kg

 MF シジネイ・ルシオ 身長175cm 体重58kg

 MF 川上かわかみ 雅士まさし 身長172cm 体重58kg

 MF カミロ・アビラ 身長168cm 体重48kg

 MF 水八みずはち 陽一よういち 身長174cm 体重59kg

 MF はやし 茉耶まつや身長173cm 体重63kg

 MF 倉石くらいし のぼる 身長173cm 体重60kg

 MF セルディア・バジョ 身長176cm 体重62kg

 MF マルニャ・アバスカル 身長176cm 体重63kg

 DF 下塚しもつか 騰児とうじ 身長170cm 体重58kg

 DF 片磐かたいわ 重道しげみち 身長170cm 体重53kg

 DF 下市しもいち 庄司しょうじ身長171cm 体重56kg

 GK 御津島みつじま 修三しゅうぞう身長180cm 体重65kg

 GK 重林しげばやし 大成たいせい身長177cm 体重68kg

 

 ”カレーが大好きBチーム”

 FW 中町なかまち 葉柄ようへい 身長171cm 体重55kg

 FW ベレンゲル・ニッセン 身長179cm 体重65kg

 FW アルバート・ロペス 身長180cm 体重65kg

 MF 大河たいが 智治ともはる 身長175cm 体重59kg

 MF 箕河みがわ 春樹はるき 身長175cm 体重62kg

 MF セサル・ノゲイラ 身長174cm 体重63kg

 MF 青木あおき 撤兵てっぺい 身長173cm 体重63kg

 MF 佐藤さとう まさ身長170cm 体重55kg

 MF アーロン・オルネラス 身長176cm 体重60kg

 MF 彼我ひが 大輔だいすけ 身長173cm 体重59kg

 DF 皆口みなぐち 雄介ゆうすけ 身長173cm 体重63kg

 DF 池華いけばな 益雄ますお 身長176cm 体重63kg

 DF アルビアル・ベルグラーノ 身長174cm 体重60kg

 DF 檀乃だんの 琴伴こととも 身長170cm 体重53kg

 DF 合田ごうだ 憲次けんじ 身長175cm 体重59kg

 DF ディオニシオ・モタ 身長185cm 体重75kg

 GK 荒川あわかわ 修司しゅうじ身長185cm 体重73kg

 

 ”俺達野郎Aチーム”は16名、”カレーが大好きBチーム”は17名と決まった。

 張り出されたチーム表を見て、一人異議を唱える。

 

 「異議あり!」

 「却下だ」

 

 ベニートの異議に対して、小田がすぐに却下する。

 

 「何かの陰謀だ!」

 「お前も公平なチーム分けだと見ていただろう?」

 「うぅ・・・」

 

 うなるベニートに誰もが、あの一本じゃね?と彼我ですら思ったのだがベニートが気がついていないので、誰もそこを指摘しない。

 一瞬の確認で、結果が折り曲げられている状態の中、一本横線を付け加えただけで、ベニートの思う結果に繋がらなかったのは、仕方のない事だと思う。

 何も言えず、ただ悲しそうにうつむくベニートに、はぁとため息を吐きながら小田がわかったと声を上げる。

 

 「そこまで落ち込む事はない。では毎年チーム編成をするようにしようではないか?」

 

 ベニートが顔をあげ、目が輝く。

 頷きながら、俺はお前の気持ちをわかっているという顔を小田は向ける。

 

 「という事でチームが決まった所で、最後に彼を紹介する。入ってきたまえ」

 

 会場の横の扉から入ってきたのは喜多島だった。

 何度目かのおぉ~が会場に響く。

 喜多島が壇上に上がり挨拶をする。

 

 「初めまして、喜多島 郷です。」

 「知ってる奴も多いと思うがいちを元日本代表だ」

 「なにか含みのある言い方ですよね?小田さん」

 「いや特には。でドイツリーグで活躍している我々と同じ主旨をもったチーム”FC ポルックス”との試合が、1ヶ月後に決まり、その間”カレーが大好きBチーム”の監督を喜多島に任せる事にした。その補佐に武田お前が付くんだ」

 「えー!マジっすか?!」

 「それと一週間後に、チーム内で練習試合を行う」

 

 武田の驚きの声と、選手達によろしくと頭を下げる喜多島に拍手が送られ、”FCレグルス”の新しい戦いが開始されようとしていた。

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