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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
38/77

第37話 ユースとの試合 レギュラーチーム その4

 -------実況解説 1-------

 ジュン:「ゴーーーーール!!!U-17とうとうゴールネットを揺らしました!」

 喜多島:「い、いや旗が上がってます。オフサイドです」

 ジュン:「非常に惜しい場面でした」

 喜多島:「うま~く、相良選手がパスを出したのですけどね~」

 ジュン:「ペナルティエリア付近の相良選手のパスに抜け出した前島選手のシュートがゴールに吸い込まれていったのですが、直前にディフェンスラインを上げられていたことに気がつかなかったようですね」

 喜多島:「GKの彼我選手はほとんど動けていなかったですからね、ビックチャンスでした」

 ジュン:「しかし、いまだ前半戦同様にU-17が主導権を握っていると考えてよさそうでしょうか?」

 喜多島:「そうですね。攻勢はかけてますね。今回のような動きはまだまだ期待できると思います」

 ジュン:「U-17の初ゴールに期待がかかります。では彼我選手からのリスタートです」

 -------実況解説 1終了----

 

 U-17は3人のメンバー交代を行い

 DMF(右) 広田 忠道 → 末浪 博正

 DMF(中) 坂田 一丸 → 原 勇次

 SB(右)長橋 時 → 紅林 秋矢

 この3人は前半同様にベニートのマークを引き継ぐ形で、ピッチに立ったのだが、元々、この3人は攻撃的な動きを得意とする選手達で、ディフェンス、マークはどちらかと言えば不得意といってよかった。

 それでも、交代前のメンバーの気持ちを引き継ぎ、ベニートに前半戦以上に動きを制限する事に成功していた。

 後半の立ち上がりからU-17が攻勢をかけ、サイドからの攻めで、カウンターを仕掛ける。

 レギュラーチームとしてもパターン化された攻撃に対応していたが、後半戦が始まって30分、急な中央を中心としたU-17の攻撃変化に、意表を衝かれた形となり、相良、前島と合わせられてシュートまで持っていかれたのだった。

 レギュラーチームも前半以上に運動量があがり、マークがきついベニートを使わず司令塔のシジネイ、CF(右)ベレンゲルからのシュートを何本か放つが、U-17GK清水のファインセーブにより、すべて止められている。

 ただ、清水はようやくボールに反応できている様子で、ボールをキャッチする事ができず、ボールを弾き返す形で、後詰の川上に弾かれたボールを奪われシュートを撃つところまで行かれた場面もあった。

 しかし、それでもゴールネットを揺らすことができず、お互い決定力不足で、時間が過ぎていく。

 

 (前半よりU-17の運動量が下がっているこのチャンスにベニートがうまく抜け出してくれる可能性がある。)

 

 司令塔のシジネイの思惑通り、徐々に運動量が下がり始めたU-17のメンバーたちの中で特に交代してスタミナが残っているはずのベニートをマークしていた選手たちに疲労が見られ、一瞬の隙をつき3人のマークをはずしたベニートを確認すると、シジネイはグランダーのスルーパスを出し、ベニートはボールを受け取ると鬼気としてゴールに向かっていく。

 

 (絶対抜かせねー!)

 

 ベニートの動きに合わせるようにCB(左)天津皮が一人でプレスをかけ、ベニートの前に立ちはだかる。

 ベニートは天津皮に背中を見せるとクイックターンから抜き去ろうとするが、ターン中に追いついてきた長橋に激しい当たりを受け、バランスを崩し流れが止まってしまう。

 この当たりで長橋はイエローカードをもらってしまうが、U-17の選手達からはよくやったと声をかけられる。

 

 「危なかった助かったぜ。長橋」

 「俺もすまん。抜かれたらいけない所でマークをはずされて」

 

 ゴール30m付近からフリーキックをベニートとシジネイが話をし、キッカーを決める。

 

 「ここから狙うのか?!」

 「ああ、そろそろ時間がない」

 

 時計をみれば39分から40分になろうという所。

 しかし、距離がある。

 ベニートが先ほどのラフプレイで、頭に血が上っているのかと、シジネイは顔を覗くが、無表情でただボールを眺めて、ゴールとの距離を測っているように見える。

 

 「ここは繋いで・・」

 「シジネイ、繋いでまた時間を食いつぶす気か?たぶんあいつらのスタミナは切れない。精神が肉体を超えて運動量を引き上げている。チャンスは最大限に生かすべきだ」

 「・・・わかった。任せる」

 

 ベニートの言葉に、シジネイが下がり、互いにボールから左右に分かれ助走を取る。

 30mという位置からフリーキックをあまり撃たないベニートの存在にU-17からは、まさかその位置から狙ってくるのか?と壁役は2枚しか用意していない。

 ゴール前で待つ後詰のベレンゲルと川上、アビラはああ、ベニートが蹴るんだろうなと直感でわかる。

 笛が吹かれ、ベニートがボールに走っていき、右足がボールを捉えるとそのまま擦るようにボールに回転を加える。

 30mの距離を弾道ミサイルのようにものすごい勢いで飛んでくるボールに、集中していた清水だが、それでも反応が少し遅れ手をいっぱいに広げて、重いインパクトを手に受けると、ボールが後ろに弾かれる。

 

 (やばい!決められる!?)

 

 弾かれたボールは、ゴール上部の枠に当たりゴールから弾かれてペナルティエリア内に落ちる。

 それを急いで拾ったU-17の押田は外へボールをクリアーし、一瞬の緊張感から開放される。


 (今のフリーキックは危なかった。まさかあの位置から狙って正確に自分のイメージする枠内に飛んでくるとは、しかもコントロール重視かと思ったが、ボールに重さを感じた)


 ベニートの今のフリーキックに驚愕するが、清水はそれでもゴールされていないと気持ちを切り替え、レギュラーチームからのスローインで再開される。

 ボールを受けたアビラがサイドを駆け上がり、コーナ付近からクロスボールを上げ、ゴールエリアで待っていたベレンゲルが頭で合わせようとするが、ここでも清水のセーブでボールがこぼれる。

 後半44分。

 こぼれたボールをSBの紅林が拾い、前を向き味方の選手の位置を確認すると、一気にサイドを駆け上がっていく。

 前で待っていた相良にボールを渡し、コーナ付近で相良がディオニシオのディフェンスに苦戦しながら、どうにか前を向くと、ゴールエリアにクロスを上げる。

 待っていた前島が頭で合わせるために飛ぼうとした時、後ろからボールに合わせるように飛んでいたディフェンスの合田と接触、前島が倒されてしまう。

 大きく笛が吹かれる。

 

 -------実況解説 2-------

 ジュン:「おおっと、PK、PKです!U-17、後半ロスタイムになろうかという時間でPKを獲得しました。」

 喜多島:「これはビックチャンスですね」

 ジュン:「さあ、ボールに3人の選手が集まってきます」

 喜多島:「前島選手、相良選手、石田選手ですね。3人とも強烈なシュートを持っていますから、特に前島選手はコントロールに定評がありますからね。誰が蹴っても楽しみです」

 ジュン:「話合いで決まったようですね。おお、相良選手が蹴るようですね」

 喜多島:「いい選択だと思いますよ。この試合一番気合が入った選手ですし、ここで決めれば、ほど試合が決まったようなものですから、はやる気持ちをどこまで抑えてシュートに集中するかですよね」

 -------実況解説 2終了-----

 

 相良はボールに集中していた。

 

 (確実にこのチャンスをものにしないと。この1週間長かったような短かったような。このままじゃあ最低な海外遠征だけど、これを決めて”最高”の海外遠征だったといえるようにしてやる!)

 

 ボールから距離をとり、シュートに備える。

 助走位置に着くと、審判の笛が鳴り、走りながらボールに距離を詰めていく。

 体を傾け右足でボールにインパクトを伝えていく。

 

 (最高の入りだ。ゴールはもらった!!)

 

 狙いは右隅。

 砲弾バレットシュートから低い弾道のグランダーを狙い、角度にも手ごたえを感じる。

 蹴り出されたボールは相良の狙い通り、ゴール右隅に飛んでいくが、少し浮いてしまい、グランダーと呼べる高さではなかった。

 それでも空気を巻き込みながら、ドリルのように回転してボールがゴールネットに吸い込まれるイメージは想像できていた。

 ドン!!

 彼我がボールを真正面で受け止めている。

 相良はスピード、威力共に蹴った瞬間、今までで最高のものだと確信している。

 どんな反応しても真正面で受け止めるなんてできるはずがない。

 しかし、目の前で確かに彼我はボールを受け止め、彼のおなかの位置で暴れるボールの回転を押さえ込んでいる。

 ボールの勢いが収まると、そのまま彼我はボールを右手で持ち、蹴る体勢に入る。

 

 (な、なにを・・)

 

 相良は彼我が蹴りだしたボールの軌道を、戦意がうせた顔でなぞるように顔を向ける。

 ボールの行く先ではベニートが待っていた。

 

 「ベ、ベニート!?」

 

 2人のディフェンスがベニートの前でバスケット選手のスクリーンアウトの構えで、行く手を阻む。

 

 「彼我、待っていたぞ。お前からのパスが来るのを!!」

 

 犬歯をむき出しにうれしそうに笑うベニートに、前にいるディフェンスの2人は見えないが、獰猛な獣が後ろから自分達を狙っているように感じる。

 一瞬、後ろから気配がなくなると2人の前にベニートが現れる。

 

 (うそだろ?!しっかりカバーしていたはずなんだ!)


 目の前に現れたベニートに驚きを隠せない2人は、逆にベニートがしっかり抑え込んでいるので動きが取れない。

 ベニートは空中からのボールを柔らかく胸でトラップすると、そのまま忍者のように姿を消し、すり抜けるスペースなんて開いていないはずの2人の間を駆け上がっていく。

 2人はド肝を抜かれ、ベニートを追いかける反応が遅れる。

 ベニートの前に立つのは最終ディフェンスの押田とGKの清水だけ。

 まるでスケートリンクをすべるようにセンターラインから駆け上がるベニート。

 あまりに早すぎて、抜かれた2人は追いつく事ができない。

 

 「頼む、押田ーーーー!」

 

 抜かれた末浪と原の叫び声がベニートの後ろから聞こえる。

 

 (判ってる。絶対止めてみせる)

 

 押田はファール覚悟で、ベニートと後数センチで当たる瞬間にスライディングタックルをするが、先ほどの2人と同じようにベニートは体が消えたように押田のタックルをすり抜ける。

 インパクトを想像して、腹に力を入れていた押田は体勢を大きく崩し、倒れながら駆け上がっていくベニートを眺めるしかなかった。

 1対1になり清水の顔に緊張が走る。

 

 (化け物か?!)

 

 押田のタックルをすり抜けたベニートを見て、清水は心の中で弱気になっていた。

 しかし、目の前で自分を応援するメンバーの顔が遠く離れているのによく見える。

 

 (あきらめるわけにはいかない!)

 

 前に出るか、それともシュートに備えるか悩んだが前に出る事を選び、ゴールエリアから、ペナルティエリアに走っていく。

 清水がペナルティエリアに入ったと同じくベニートもエリアに侵入し、清水は大きく両手を広げ、PK覚悟で突っ込んでいく。

 

 「うぉーーーーーー!!」

 

 叫びながらボールに飛びつくが、飛びついてくる清水を半歩ずらして、ベニートが交わし、ゴール中央、ど真ん中にシュートを決める。

 すべてのフラストレーションを開放したベニートの意地のシュートだった。

 大きく両手を上に突き出して喜びを表すベニートの姿に、崩れ落ちるU-17の選手たち。

 ゴールコールがグランドに響く。

 センターサークルにボールが置かれ、意気消沈したU-17のリスタートした瞬間に、試合終了の笛が鳴る。

文言がおかしな部分を修正しました。

試合内容には影響はありません。

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