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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
34/77

第33話 チームメンバー

 監督が告げたスタメン(スターティングメンバー)ポジション、ゴールキーパーの名前に席を立ち上がり、異議を唱える少年がいた。

 

 「どういうことですか!?」

 

 レギュラーチーム、ゴールキーパーでありキャプテンでもある荒川修司である。

 身長185cmと長身であり、体つきも筋肉質で、サッカー選手というより総合格闘技をやっていそうである。

 しかし、無骨というより清潔感のある顔立ちで、チームメイトからは人気がある。

 基本温厚な彼だが、自分のポジション、GKゴールキーパーにかける意気込みは非常に高く、そのポジションを3軍の今回だけのポッと出の彼我に獲られる自体は想定していなかった。

 怒っているようにも焦っているようにも見える彼の口調に、両手で手振りし落ち着けと小田が荒川を制す。

 

 「まあ、落ち着け。彼我をGKにしたのは、俺なりの考え合っての判断だ。キャプテンである荒川が抜ける事はチームとしても辛い部分はあるが、それはこれからどんどん起こりえる自体だと思う。その練習だと思ってくれたらいいんだがな」

 

 40過ぎた小田だが、見た目は30代前半でまだまだ現役選手を思わせる雰囲気を持っている。

 身長は170cmと少し小さめだが、無駄のない肉付き肩幅が広く体が同じ体格の人間と比べると大きく見える。

 もみあげからあごまで短めだが髭を生やしており、(鼻下は剃っている)興奮している荒川を睨みつけるだけで、息を詰まらせるだけのインパクトがあった。

 荒川は一旦席に着くが、チーム内の雰囲気が、小田に対する反感心で漂っていた。


 「お前らの顔から流れて出ている、俺に対する不満で殺されそうだな」

 

 小田はそういいつつ、どこかうれしそうに笑みを浮かべる。

 少し目を閉じ、何かを考えるように腕を組む。

 

 「う~ん。荒川どうすればいい?」

 「監督の言葉を撤回していただければ」

 「それだと、俺はどうしても上から彼我をスタメンに起用してくれと頼まれていてな。どこかのポジション選手と交代になってしまうのだが?」

 「そ、それは・・・」

 

 代案を口にし、逆に小田からいやな返され方をする。

 周りの選手から、今後は荒川に対して少し間の悪い空気が流れる。

 

 「俺の考えは、彼我が得意とする中盤後列のポジションに置くことで、チーム内に流れる、彼に対する不満を最小限に抑えておきたいという気持ちから、一番影響のないポジションと思えるGKに据える事で、この問題を解決しようと思ったのだがな」

 

 黙りこみ下を向く荒川に周りから、同情の注目が集まる。

 彼我は当事者として何か言いたかったが、この現状では何か言った所で解決を見出せるような案がなく、チーム内で渦巻いている感情的な爆発を自分が黙っている事で抑えるしかなかった。

 

 (しかし、何でGKなんだ?俺をDMFディフェンスミッドフィルダーに最初から指名していれば、この状況は抑えられたんじゃないのか?なんでわざわざこの状況を作る必要がある?)

 

 彼我は小田に対する不信感を感じていた。

 なぜ自分をここまで追い込まれなければならないのか?

 ただ、自分は呼ばれてここにきてチャンスを与えられるだけではなかったのか?

 小田の考えている事が読めず、苦虫をかみ締めるような顔になる。

 確かに小田が口にした自分の得意ポジションで、試合をしてチームの不満はあっただろうが、ここまでチームの雰囲気がひどくなる事もなかったはず。

 もう一つ懸念点がある。

 ベニートがこの件に関して沈黙している事。

 黙って腕を組み何も言わない。

 いつもと同じように顔をしかめているので、彼の考える事が読み取れない。

 小田が発した言葉を理解は出来るが、納得がいかないチームの雰囲気に小田が代案を提示する。

 

 「わかった。お前らと俺の中で、わだかまりは残したくない。彼我と荒川にはPK対決でスタメンを決めてもらおうじゃないか?」

 

 チーム内で”ん?”という声が所々上がる。

 

 「ルールは、このチーム内でキッカーを5人用意し、ゴールキーパーを二人に交互にやってもらう。それと、この話とは別件なのだが、明日の試合に1点でも入れられたら、レギュラーチームは解散。チーム全員母国に帰国してもらう」

 「「はいぃぃぃぃ?!そんな話今まで聞いてませんけど!?」」

 

 何人か重なるように声を上げる。

 

 「もちろん、彼我、ベンチ選手も含めてだ。だって上から1点も入れられるなって言われてるし、3軍、2軍に出来てお前らに出来ない事はないよな」

 「うぐぅ」

 

 意地の悪い顔で笑みを浮かべ、重大発表を口にする小田に誰もが顔をしかめる。

 

 「じゃあ、今からグランドに戻ってPK戦を行う。蹴る順番だが、ベレンゲル、シジネイ、アーロン、カミロ(アビラ)、ベニートの順番で蹴ってもらう。お前らに明日の試合のGKを決めてもらう」

 「質問です。サドンデスに入った場合はどうするんですか?」

 

 荒川から質問が飛ぶ。

 

 「その場合は、また一巡目から戻って蹴ってもらう。今回日本人メンバーには蹴ってもらう事はない」

 「わかりました」

 

 全員席を立ち、グランドに移動する。

 彼我はベニートが何か言ってくるかと思っていたが何も言わず、体からは闘気だけが立ち上っていた。

 彼我は一人別室で、キーパー用の服に着替える。

 初めて着けるキーパーグローブ。

 なじまない皮手袋の感触に、不安を覚える。

 

 (やるしかない。ここで自分の得意ポジションじゃないと逃げた所で、チャンスは来ない。やってみるしか道は開けない)

 

 自分に何度も、言い聞かせ部屋を出る。

 グランドではすでにゴールに向かって何度もボールを蹴りこみ、準備をするアルゼンチン選手達が待っていた。

 

 「お待たせしました」

 

 彼我の到着にあわせ、全員で軽くアップを済ませると、小田に集合をかけられる。

 

 「コイントスで先攻、後攻を決めるが?」

 「いえ、彼我さえよければ俺が先攻でお願いします」

 

 荒川が一歩前に出て提案する。

 彼我としてはどちらでもよかったので、首を縦にフリ承諾する。

 

 「では荒川が先攻だ。ベレンゲル準備しろ。後、蹴り手は手加減をしたらお前らスタメンからはずすから」

 「当然です」

 

 ベレンゲルが何を当たり前な事とゴール前にボールをセットする。

 

 「では一本目!」

 

 小田の笛の合図で、ベレンゲルが一度荒川を見て動きだす。

 すごい勢いで体を入れた蹴りがボールに入る。

 それに反応した荒川は右に飛ぶが、ボールは放物線を描き、勢いのあるシュートと言うよりは軌道を重視した柔らかいシュート、ループシュートで真中に決まる。

 まさに意表をついたシュートだった。

 見ていたチームメイトからは口々に、あんなのありかよとか、そうきたかなどが漏れる。

 

 「では彼我交代だ」

 

 胸を張り場所を交代する荒川には焦りはなく、彼我はそれに気がつかないほど集中していた。

 

 「では彼我一本目!」

 

 小田の笛が吹かれ、ベレンゲルが今度も荒川の時と同様に、すごい勢いでボールに蹴りを入れる。

 スパーーーーン!と左上隅にボールが吸い込まれ、ゴールが宣言される。

 

 (くそ、一歩も動けなかった)

 

 悔しがる彼我は荒川と交代する。

 シュートを決めたベレンゲルは大きく息を吐く。

 

 (彼我と対峙した時、あいつの目から俺の目が離せなかった。まるで獰猛な生き物を前に恐怖で目を離すと襲ってきそうな、そんな恐怖感があった。あれでゴールキーパーが初めてだと・・・)

 

 続く2本目、3本目も両者シュートを決められる。

 4番手、アビラの番だった。

 

 「アビラ準備を」

 「了解っす」

 

 まずは荒川ゴールキーパーを相手にアビラがシュートを蹴り込む。

 低く蹴ったグランダーのシュートが右隅に決まり、特に喜ぶこともなく次のボールをセットする。

 

 (彼我、悪けどここはおいらの威信にかけて決めさせてもらうっす。ベニートの兄貴はなんていうんだろうな。兄貴はどうしたら喜んでくれるのだろう)

 

 一瞬雑念が頭をよぎるが、セットしたボールを見た瞬間、アビラの集中力が一気に高まる。

 彼我が両手を大きく広げ、アビラというより目の前のボールだけに集中力を高める。

 彼我の反応に周りの選手からは素人だなと、小声でささやかれるが、その雑音すら耳に届いていない。

 

 (止める。止める。止める。止める。止める)

 

 小田の笛が吹かれ、アビラの鋭い蹴りがボールに伝わる。

 瞬間、この3回まったく動けなかった彼我が飛ぶ。

 右に大きく跳び、左手を握り締め、ボールの衝撃に備える。

 パン!シュルルルル!という音が二つ同時に起こる。

 握り締めた左手の親指だけにボールの威力で痛めた感触だけが残り、振り向くとボールはゴール内のネットに絡まっていた。

 

 「くそ!!」

 

 誰もが、息を呑んだ。

 このPK戦で初めて、ボールに触れたのが彼我だった。

 

 (おいおい、まじか!)

 

 誰もがこのフレーズを口の中で、口ずさむ。

 次に蹴るベニートだけは集中状態で、アビラと、彼我の対決を見ていない。

 荒川はポーカーフェイスを保って彼我と交代するが、よかったと安堵の息が漏れる。

 

 (くそ、素人に俺が負けるかよ!)

 

 自分の顔を叩き気合を入れなおす。

 

 (次はベニートか・・・)

 

 荒川の前にボールをセットし、助走をとるベニート。

 その顔を見た荒川は恐怖で、額から汗が流れる。

 

 (なんて顔してやがる。鬼、いや風神、雷神をイメージさせる、鬼神だ)

 

 お互い準備が整うと小田の笛の合図で、ベニートがボールを蹴り込む。

 ドン!

 という人がボールを蹴ってそんな音がするものなのか?!という轟音と共に、荒川は腹を押さえてうずくまっている。

 ボールは荒川のすぐ右後ろに転がっており、ゴール内で止まっている。

 

 「な、何が起こったんだ?荒川大丈夫か!?」

 

 うずくまって苦しそうにしている荒川にチームメイトが集まり、肩を貸して一旦ゴールから場所を空ける。

 少し離れた所に寝かされ、診断するためにシャツをまくり上げると、そこにはボールの型がくっきり描かれており、右に引きずった跡が残されている。

 

 「えぐ!?」

 

 CMFの川上が見たままの感想を口にし、周りもそれに同調する。

 痛みが治まってきた荒川は、少し目を開け、まじありえないわと咳き込みながら、とりあえず無事である事を伝える。

 

 「や、やべ。腹がちぎれたかと思った。ベニートが蹴ったと思った瞬間、ドンって着て、え?と思った瞬間痛みが、ハンパなかった」

 

 自分に何が起こったかを解説してる間にベニートが再びボールをセットする。

 彼我もすでにゴール前に立ちボールだけを睨みつけている。

 

 (あれを見て、ビビラないのかよ!?)

 (どういう神経してるんだ?!)

 

 選手達が二人の対決を注目する。

 今まで、彼我を軽視しているチームメイト達だったが、あのシュート止めれるわけがないという気持ちより、あのシュートを受けるのかかわいそうに、気持ちが置き換わっていた。

 

 「では、1順目これが最後だ。5本目始め!」

 

 小田の笛の合図で、ベニートがゆっくり移動する。

 いや、これは目の錯覚で、時間がゆっくり流れているように思える。

 ベニートの蹴り込む体勢速度、ボールに伝わる蹴りの威力、全部わかる。

 彼我はまっすぐ飛んでくる巨大な砲丸を前に全身に力を入れた。

 来る衝撃に備えて、腹の前でボールを包み込むように両手を構える。

 ドン!

 という音と共に、腹に来る衝撃。

 頭をシェイクされたような急な体のゆれ。

 意識を持っていかれそうになるが、それでも意識を保ち腹の中で暴れるボールを押さえ込む。

 腹にきたインパクトは、鉄の丸い固まりをものすごい勢いでぶつけられた衝撃があった気がしたが、今は暴れ狂うボールを必死で押さえ、摩擦で腕の皮が剥けていくのが判る。

 

 (いでぇぇぇ!!あ・・・)

 

 ボールの勢いが収まり、彼我の腹からボールが前に転がる。

 

 「と、止めた?止めたのか?」

 

 荒川から、何の感情も感じさせない、言葉が流れる。

 小田の笛が吹かれ勝者が告げられる。

 

 「このPK戦勝者、彼我大輔!」

 

 全員がポカーンとした顔で、その宣言を受け入れる。

 ベニートが彼我に駆け寄り、肩に手をかける。

 

 「彼我、勝ったんだぞ」

 

 自分のシュートが止められてどこか不満そうな顔をしたベニートが声をかける。

 が、彼我はそのままベニートに持たれこみ、意識を失っている。

 

 「ひ、彼我!大丈夫か?!」

 

 その様子にあわてるベニートにチームメンバーがかけより、彼我をゆっくり寝かせる。

 パンパンパンパン!

 

 「痛いわボケ!!」

 

 ベニートに顔を往復ビンタされた彼我は、急に立ち上がり抗議する。

 

 「おお、よかった」

 

 安心したベニートを見て、ん?と何が起こったのかまだはっきりしない彼我は、周りを見る。

 まだグランドにいて、空は星が輝き、グランドのスポットライトが勝者の彼我を照らしているようだった。

 

 「お前が勝ったんだ」

 

 荒川から告げられて、ああ、俺PK戦やっていたんだなと思い出す。

 

 「認めるよ。彼我お前の事。ただし即席ゴールキーパーとしてだがな!」

 

 あさっての方向を向きながら、頬をかき荒川が彼我を認める発言すると、周りのチームメイトからも俺もという声が上がる。

 その様子を見て小田はグランドを後にするが、グランドを出た所で、後ろから声をかけられる。

 

 「小田監督」

 「ベニートか」

 「なぜこんな事を?」

 「お前には言ってあるはずだ。俺を信じろと」

 「しかし!なぜ、あいつを苦境に立たせるようなまねをするんですか?」

 「それも前に言ったはずだ”必要”だからと」

 

 小田はそれ以上は口にせず、その場を後にする。

 

 「あなたの信念には期待しているが、あまり彼我を傷つけてほしくない」

 

 小田の後ろ姿を見ながらベニートが小声で言った言葉は、風の音で彼には届いていないだろう。

 PK戦が終わり、ひと段落がついたと思った彼我だったが、そこから荒川によるPKの講義が始まろうとしていた。

 とりあえず、飯を食った後だ!ということで、レギュラーチームのメンバーと食堂に向かい、痛めた腹の事もあって、疲れているのにがっつり食べられない。

 それでも、会話をし大分チームメンバーとも打ち解けてきた時、負のオーラでこっちを見る人物を彼我はちらっと確認する。

 

 (ったく、ベニートの奴。となりくればいいじゃねーか)

 

 恨めしそうにちょっと離れた席で、アビラとご飯を食べているベニートに、心で愚痴をもらしながら、気がつかないフリをして、周りとの会話を続ける。

 

 「ぎゃーーー!兄貴それ俺のメインディッシュっす」

 

 涙目になりながら、抗議するアビラを気にした様子もなく黙々とご飯を食べ続けるベニート。

 

 (そろそろ、声をかけておかないとダメだな)

 

 彼我が席を立ち上がり右手を振ってベニートを呼ぶ。

 

 「ベニート、こっちに来いよ」

 「ふん」

 

 ベニートは食べ終わった食器を持って、返し口に置くと、まだ食べているアビラの首根っこを引っ張って食堂を後にする。

 

 「はぁ。後が面倒だな」

 

 この後ベニートの機嫌を獲りに行くかと、思っていると本題だとベニートと同じ大きさの部屋を持つ荒川の自室にメンバー何人かで行くことになり、そこでサッカーゲームを交えながらキーパーとしての動きを指導される。

 

 

 

*************************番外篇**************************              彼我の断髪式

 

 朝の3時ようやく、サッカーゲームから開放され、夢うつつになっている彼我だったが、急にテンションMAXの荒川に髪型を指摘される。

 

 「ゴールキーパーとして、その髪型はうっとうしいだろ。切ろう!」

 「へぇ?」

 

 眠気でふらふらな彼我は荒川の発言に頭の回転が追いついておらず、情けない声をあげる。

 机の引き出しから、床屋で使うような専門的なはさみを取り出し、さらに腰には皮で作られた本格的な、はさみフォルダーを巻き、パイプ椅子を用意し、周りに髪が散らばっていいようにゴミ袋を広げる。

 彼我はその様子をぼーとした頭で見ながら、ああ~誰か髪を切るんだ。と自分の事でないように受け入れる。

 

 「よし、準備できた。彼我ここに座れ」

 「あぁあぁ~~」

 

 口から、地獄から響いてきそうな声をあげながら、節々が痛く腰を上げるのがおっくうな彼我はどうにか腰をあげ、パイプ椅子に座る。

 パイプ椅子から伝わる冷たい感触に意識が回復し始め、根本的な事を質問する。

 

 「荒川、お前誰かの髪を切ったことがあるのか?」

 「いや、ないが?」

 「おうそうか・・・。ん~」

 

 髪を切ったことがないんだったらしょうがないよね。

 そっか~ってちょっと待て!と意識が急に覚醒する。

 

 「ちょっと待て、それで人の髪をきっちゃまずいだろ!?」

 「大丈夫だって、俺ん家、美容室だし」

 「それお前にかんけーねーじゃねーか!」

 「野郎ども確保だ!」

 

 さっきまで寝ていたチームメイトに手足をつかまれ、どこからもってきたかわからないロープで縛られる。

 

 「ちょっと待て、マジでごめん謝るから」

 「何に謝っているかわからんが、もう遅い。俺一回でいいから人の髪切ってみたくてさ~本物志向のはさみ買っちゃったんだ~結構高いんだぜこれ」

 

 はさみをいとおしく見つめる荒川に、冷や汗を流しながら懇願する彼我だったが、ジョキっともみ上げにはさみが入り髪を切っていく。

 

 (ああ、神様、荒川の腕が親譲りでありますように・・・)

 

 人生そんな甘くはなかった。

 出来上がった自分を見て、彼我は落胆した。

 

 「こんなことになるなんて・・・」

 

 涙で自分の顔が見れない。

 

 「もうお婿にいけない」

 「俺がもらってやるから・・・」

 「お前のせいだろ!責任とれよ!」

 「だからもらってやると」

 「違う!ここからどうにかしてくれ。頼む」

 「仕方ない」

 

 荒川は持っているはさみをフォルダーにしまい、机の引き出しをあさる。

 手にしたのはバリカンだった。

 

 「この手だけは使いたくなかったんだがな」

 「もう、それでいいです・・・」

 

 ちゅんちゅん。

 朝6時ベニートは目を覚ます。

 昨日、彼我の事でむかついて、あまり寝れていない。

 

 (俺というものがありながら)

 「あにき~~~」

 

 隣のベットで寝ていた、すごい幸せそうなアビラに八つ当たりをする。

 布団を引き剥がしいつまで寝ているのだ!とたたき起こす。

 

 「うう~あにき~」

 

 わけもわからず、八つ当たりされたアビラが凹んだ顔でごめんよ~となぜか謝っている。

 その様子にちょっと、やってしまったなとアビラの頭をなでる。

 うれしそうになついてくるアビラを蹴っ飛ばしていたら、コンコンと部屋の扉からノックの音が聞こえる。

 扉を開けると、そこに立っていたのは坊主だった。

 

 「宗教は間に合っている」

 「そういうな」

 「どうした?その頭は?・・・そうか自分の行いを反省してそうなったんだな。いい心がけだ」

 「はぁ~、飯を食いにいかないか?」

 

 生気が抜け落ちたため息と共にいい提案だとベニートが機嫌よく受け、抱き枕を持ったアビラを引きづりながら3人は食堂へ向かった。

 

 おしまい

 

 *************************番外篇*****************************

今回、話を少し長めに、番外編もつけてます。

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