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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
28/77

第27話  ユースとの試合 2軍編 その4 

 「相良、前島。体は暖まっているか?」

 

 U-17の監督の多田川が後半戦で使う二人の選手に声をかける。

 二人は、これから試合をするには少し汗をかきすぎているようだが、目の輝きに蔭りはない。

 

 「もちろんです、監督。後半戦戦う為に、今までずっとアップしていたんですから」


 相良と前島以下、控え選手の一部は別グランドにて今まで体を暖めていた。

 もちろん、この施設の別グランドの使用許可は取っている。

 この事は相手チームには伝えていない。

 ベンチに座っているメンバーが控え選手だと思っている部分はあるかもしれないが、それも踏まえて施設の責任者に確認した所、面白い試みだと快く協力してくれた。 

 ここの施設責任者は、チームが逆境になればなるほど、どこかうれしそうである。 

 普通はU-17が不利な状況になるように仕向けるだろう。

 しかし、まったくの逆でU-17は高待遇を受け、3軍との試合で疲弊してしまった選手達に酸素カプセルを用意し、疲れの緩和を行ってくれた。

 そのおかげで、U-17の選手達は早く体調を回復し、今回の試合にベンチ選手として間に合う事ができた。

 今試合を行っているメンバーをセカンドチームと呼び、3軍と試合をしていたチームをファーストチームと呼ぶ。

 ファーストチームのほうがリザルトでは少し上の実力を持つ。

 常に刺激しあい能力向上を目指している。

 思想は「監獄のクラブチーム」と同じだが、U-17召集した時だけの一時的なチーム関係でしかない為、連携の錬度に差がある。

 良い選手を集めたからといって、すぐに連携できるほどサッカーは甘くない。

 U-17ですらまだまだ、連携が甘い所があるのに、ここの連中は日本人は基本高校生で構成されており、サッカー歴がない、もしくは非常に浅い連中ばかりである。 

 多田川は不思議でならなかった。

 どうすれば、ここまで短期間でレベルを引き上げる事ができるのであろうか?

 少し考え込むような顔をした多田川に、相良が自信ありげに声をかける。

 

 「何心配そうな顔してるんですか?4点差ちょうどいいハンデじゃないですか?」 

 「そうですよ、監督。俺らも”なじん”できましたし。ここからです」

 

 相良、前島の自信ある発言に、頷きながら多田川は笑みを浮かべる。

 

 「そうだな。試合は後半戦残っている。相手が油断している所で一気攻めるぞ!」


 多田川が選手達を見渡し、大きな声で激を飛ばす。

 その声に、一気にチーム内の熱が高まり、おおーーーー!!と声が部屋に響く。

 

 ----------実況解説-------

 ジュン:「さあ、喜多島。これから後半戦が始まるわけですが、その前に前半戦を振り返ってどうでしたでしょうか?」

 喜多島:「そうですね。2軍がU-17を圧倒している印象が強かったですよね。3軍試合同様、後半戦もこのままでは押されていく事になりそうですね。」

 ジュン:「ボールポゼッションを見ると3軍の時とは違って70対30と少しU-17の選手達もボールを持っている時間が長くなってきてはいるんですが?」

 喜多島:「ようやく、環境にもなれ体が動くようになったことがポゼッションを稼いでいる要因だとは思うのですが、しかし自陣でまわしている時間が長く、なかなか前にパスが出せない、もしくはパスコースを読まれて獲られてしまう事が多く、チャンスになるシーンがほぼなかったですね」

 ジュン:「U-17としてはかなり厳しい後半戦を強いられると思うのですが、もし喜多島さんが監督として、どのような突破口をお考えになりますでしょうか?」

 喜多島:「非常に難しい問題ですね。4点取られてしまった時点で、指揮がどこまで保てているのかで戦況が変わってくると思うんですよ。U-17に選ばれているわけですからね。選手達の技術が低いわけじゃないはずなんです。きっかけ、そうこの環境に慣れ、相手の出方を体で覚えれれば、まだまだ巻き返しの可能性は感じますね」

 ジュン:「そうですか。おっとここで選手交代の情報が入ってきました。U-17はフォワードの選手を2人入れ替えてきますね。それと2軍のほうも1人フォワードの選手交代があるみたいです」

 喜多島:「ほう、U-17のほうは反撃に向けて何か、新しい刺激をいれるための選手交代だと思うのですが、2軍の選手交代はどういった意図なんでしょうね?よく動けていたように思えるのですが」

 ジュン:「ええ~と情報ではどうやら、アクシデントがあったと報告がきております」

 喜多島:「そうですか~心配ですね。大事に至らなければいいんですけどね」

 ジュン:「そうですよね。さあ、両チームの選手交代がどう響いてくるのか注目です。それでは後半戦キックオフ」

 ----------実況解説 終了---- 

 

 後半戦はU-17からのキックオフで始まる。

 センターサークルには、CF 早川と交代したCF 前島とOMF 曾崎と交代したOMFの相良でセオリーどおり前島からボールを受けると相良が後ろにボールを回して展開していく。

 広くフィールドを使って、今回は前にボールを出していく。

 前半戦とは大きく違い、パスにキレが生まれ始めており2軍選手も簡単にパスカットできない。

 U-17の動きのレスポンスも前半とは比較にならないほど、よく相良を中心にパスを回していく。

 ムリをせず、切り込めないと判断すれば一旦後ろに戻し、カウンターを狙ったチーム全体の動きを展開。

 2軍の動きは、どっしりと構えた形をとり、プレスをかけて抜かれるというより距離をとって選手1人1人がフィールド全体の動きを把握しているような印象を受ける。

 その印象を受ける動きがすぐに開いたスペースのカバーに入るのである。

 相手の動きに合わせて、隙のない動きで、付かず離れずの位置をキープ。

 なかなかスペースの作れないU-17の選手達はドリブルで切り込んでいくが、ダブルボランチのアルゼンチン選手、マルニャとセルディアの息の合ったコンビディフェンスに阻まれ、チャンスエリア内に侵入することができない。

 ならばと左SMFの東がサイドを駆け上がり、チャンスエリア内にボールを入れようと切り込んでくるが、マルニャ一人で凌がれてしまい、サイド攻撃も不発に終わる。 

 カウンターを仕掛けられて、左SMFのセサルの高速ドリブルに、必死にU-17のディフェンス陣が食らい付く。

 左DMFの原と左CBの紅林の二人が詰め寄り、前を開けさせない。

 が、クイックターンで一気に引き剥がし、味方の援護は必要ないという雰囲気で前を向く。

 しかし、ここでフォワードの井ノ川と相良が下がって着ており、思わぬ伏兵にボールを奪われてしまう。

 こうした細かい一進一退の攻防が続き、後半30分。

 いまだ両チーム、ゴールの動きを見せない。

 明らかに後半戦から動きが違うU-17に2軍の選手達が戸惑っているかというと、そういう事はなく逆にどこかうれしそうである。

 U-17としてはようやく本来の力が出せてきたと、そのまま動きのギアを上げていく。

 カウンター攻撃を何度も少しずつ違う形でトライし続けて、右サイドからのクロスがようやく決まり、始めて2軍のチャンスエリア内にボールが流れこんでくる。

 エリア内にはU-17のフォワード3人が入っており、落ちてくるボールに体勢を合わせる。

 ボールに気を取られすぎており、U-17は一瞬のチャンスは消える。

 2軍ゴールキーパーの御津島がまるでダンクシュートをするかのようなジャンプ力でボールをセービングする。

 センターエリアまで弾かれたボールを2軍のOMFの箕河が拾うと、そのまま中央を駆け上がり、ディフェンスを交わしてゴールキーパーと1対1になる。

 チャンスエリア内でシュート体制に入る箕河とU-17のゴールキーパー清水が接触し、ボールがゴール正面に力なく転がる瞬間、走りこんでいた花形がゴールにぶち込み、後半戦初めて得点が生まれる。

 地面を強く叩きつける清水を横に花形が箕河と抱き合い喜び合う。

 センターサークルで再び相良はボールを受け、バックパスから試合を展開させていく。

 一旦最終ラインまで戻し、失点を自分達の中から落ち着けるように時間を使う。

 すでに時間は後半40分。

 5点を取り返すには、今までの動きから考えて時間は足りない。

 しかし、それでも、まるで自分達が勝って時間をゆったり使うようにボールをまわしていく。

 

 (何が目的だ多田川?)

 

 この動きに2軍監督上杉は疑問を持っていた。

 U-17の後半からの動きで、攻めてくれば何点か取れる可能性はある。

 実際潰しはしたが、チャンスエリア内にボールを入れられてしまったのだ。

 しかし、このような時間の使い方では逆転するチャンスは生まれない。

 敵のことでどうでもいいはずなのだが、なぜかイライラする。

 上杉の気持ちを反映したかのように2軍のフォワード陣はボールを取りにいくが、パスをまわされて、かわされてしまう。

 後半40分過ぎてここから後半終了まで、2軍のフォワード陣がプレスをかけ続けてもスタミナ切れをする心配は彼らの中にはない。

 カウンターに備えて、中盤選手のプレスは控えて中盤のスペースを消す動きをしていく中、どんどんCFの二人はプレスをかける。

 U-17の右CBの藤田が、一瞬開いた前線のスペースにボールを蹴りこむと、それをうまく相良が受け取る。

 このタイミングを待っていたといった感じで、前に向くとそのまま前線に切り込んでいく。

 2軍のディフェンス陣にカバーに入られ、走りこむコースを修正させられはするが、我慢して貯めを作ったおかげで、ゴールが狙える位置に着く。

 その距離25m。

 フリーキックなら落ち着いて狙える位置だが、ディフェンスがコースを塞いでくるし、この距離を普通に蹴るにはシュート体勢の溜めを作らないといけない。

 

 (もうここしかねーよな)

 

 相良は一度前を向きゴールの位置を脳内に焼き付ける。

 体を使えってフェイントを入れディフェンスを崩すと一瞬できた隙に興奮する。

 

 「よっしゃーーーーー!!」

 

 体を45度傾けるような体勢で、すばやくボールを蹴りこむ。

 砲弾バレット

 シュート体勢は違うが、前半アルバートが見せた弾丸シュートを相良が蹴りこんだのだ。

 時が一瞬止まったような感覚だった。

 

 (決まった!)

 

 相良は確信があった。

 そのまま、弾丸シュートはゴール右隅に突き刺さろうとするが、12人目のディフェンス、ゴールポストに阻まれる。

 ものすごい音をさせ、ボールは天高く舞い上がり、サイドへと流れていく。

 

 「うぉーーーーーーー!!」

 

 あまりの悔しさに両手を握りこみ相良は吼えた。

 千載一遇のチャンス。

 そのシュートをはずした事で、なんともいえない脱力感が相良を襲う。

 2軍のスローインから試合を再開、相良がシュートをはずした余韻がU-17にも伝わっており、いやな脱力感のせいが動きが悪くなる。

 そのまま、左サイドを攻められ、チャンスエリア内で待っていた花形にクロスボールが渡る。

 4人に囲まれ、身動きが取れない状態の花形だったが、蛇を連想させるような動きでその囲いをすり抜けようとした所、後ろからユニホームを引っ張られ、体勢を崩し、倒れる。

 審判の笛が鳴る。

 やってしまったという顔をするU-17のCBの深平に、花形はどんまいと声をかけ、何事もないように立ち去ろうとする。

 

 「そんなに平気なら俺が引っ張っただけでこけるなよ。わざとだろ」

 

 深平のボソッと口にした一言に、花形は睨みつけるが、舌打ちをしてPKに備える。

 倒された花形がPKのキッカーを勤める。

 アルバートが、花形を心配して声をかける。

 

 「何か言われたようだが、大丈夫か?」

 「ああ、まじでぶっ殺そうかと思ったけど、あの野郎のせいで独房入りは勘弁だわ」

 「あそこは行きたくないな」

 「アルバート、独房経験者か?」

 「そういう花形もか?」

 「「ふふふ」」

 

 二人の会話で、さっきまでの花形から出ていた殺気が抜け落ち綺麗にPKを決める。

 ここで笛がなり6対0で2軍が勝利を掴んだ。

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