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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
25/77

第24話 ユースとの試合 2軍編 その1

 U-17との試合で、控えの選手を3軍から借りる事になった。

 

 「則道だたみち、お前が使ってみたい選手を誰でも貸してやるよ」

 

 なぜこいつは上から目線なんだ。

 武田岳伴たけだ たけとも

 オランダリーグ、孤高のサッカープレイヤー。

 年下で私と同じ非国民といわれ続け、日本に帰ることができないわけではないが、居心地は良くないので海外で指導者として活躍しているとは聞いていたが、このクラブチームでまさか同じ監督という立場になるとは。

 私が目立たないじゃないか!!

 うほん・・。

 つい本音が出てしまった。

 しかも、レギュラーチームの監督が、私の先輩である小田和久おだ かずひさ

 高校から一緒にプレイしていて、所属するクラブチームも一緒だった事から非常にやりにくい相手である。

 過去に創設された日本リーグ東京アザゼルで中心プレイヤーとして3連覇を達成し、周りから惜しまれて引退(このとき一緒に私もプレイしていたのだが小田先輩の方が目立っており、かなり悔しい思いをした)。

 監督の資格を取ると東京アザゼル指揮して3連覇を達成。

 ドイツクラブチームの監督に呼ばれ、そこから海外のクラブチームを転々としている。

 もちろん実績も申し分ない。

 弱小チームを率いた経験はないが、勝てるチームで当たり前に勝つ事ができる監督として、派手さに欠けるがフロント側としては金を呼び込める監督だろう。

 優勝争いに毎年食い込み、優勝する年もあれば2位という結果で終わるときもある。

 彼が指揮して6位以内からチーム順位が落ちたイメージがない。

 日本代表の監督の経験がないのが不思議なぐらいだ。

 話を戻して、控え選手か。

 3軍で使ってみたい選手といえば彼しかいないだろう。

 彼我大輔。

 しかし、彼を控えメンバーとして入れてしまえば、是が非でも使ってみたくなる。

 U-17と3軍との試合で、うちの選手が使われてはいない。

 彼我を入れてしまって、使うとなると彼だけ特別感が出てしまい、今後うちのチームが崩れてしまう可能性もある。

 それぐらいインパクトのある選手だ。

 それを知っているかのように目の前の武田は、ニヤケタ面でうれしそうだ。

 

 「判った。後で借りるメンバーは伝える」

 「おう。待ってるぜ」

 

 武田の後ろ姿に、コーヒーが入った紙コップを投げてやろうかと思ったが、大人としてそれはできない。

 結局、彼我を抜いたメンバーを武田に伝えると、残念そうな顔をして、そこから特に何も言うことなく選手を貸してくれた。

 今日の練習で、3軍の控えメンバーと合わせてみたが、思っていたよりいい動きをする。

 元うちのメンバーの二人も、武田流の動きを少し見せて、武田の指導が面白くマッチしているようだ。

 ちょっとみない間に変わってしまった彼らを見て、うれしくもあり、なんとも複雑な気分だった。

 練習を早めに切り上げて、ミーティングルームへと移動する。

 まだ誰も着ていないな。

 選手達がシャワーを浴びて、こっちに来るまで時間があるか。

 自販機までちょっと離れているが、のどを潤す為に自販機まで移動する。

 ここの施設広すぎなんだよ。

 歩いて20分も離れている場所に自販機とか。

 選手以外の職員だけが使える無料の自販機(選手達はこの自販機の場所は教えていない)の前で、何を飲むか考えていると、バン!とボタンを押す音が聞こえる。

 小田先輩だった。

 

 「おう。上杉練習時間ではなかったのか?」

 「そうですが、明日に差し支えてはいけないので、早めに切り上げさせたんです」

 「選手を大切にする事はいいことだ。そういった心がけは必要だぞ」

 

 この人も上から目線だな。

 なぜ私の周りにはこんな人たちばっかり集まってくるんだ。

 自販機から小田先輩は缶を取り出すと、私に差し出してきた。

 

 「これは?」

 「お前が悩んでいたんで、選んでやったんだ」

 「あ・り・が・と・うございます」

 

 奥歯をかみ締めながら、いらぬお節介に巻き込まれたとその場を早く離れたかったが、まだ小田先輩の話は続くようで、それから20分も話を聞き続けた。

 彼の話の中心は、主にベニート。

 よくダイヤの原石と選手達を称する事があるが、彼の場合はすでにダイヤそのものだ。

 そのままでも十分売れる素材。

 後は仕立て屋がうまくカットしてその価値を上げるしかない。

 ダイヤはダイヤでしか磨くことができない。

 小田先輩に、あのダイヤを磨けるだけの技量があるのか。

 それにこのクラブチームの主旨とは彼はあまり関係ない。

 彼だけに手をかけるのは本末転倒だろう。

 小田先輩もわかっていると思うが、それでも彼が小田先輩を盲目的にさせてしまうぐらい、輝いているのだろうか。

 手渡されたおしるこの缶を持って、ミーティングルームへ向かう。

 選手達と、戦術の確認を積極的に行い、明日に向けていい気合を注入できた。

 試合前日にどれだけやる気を持たせるかが、私の基本方針だ。

 人間やる気があれば、前日に脳内シュミレーションを繰り返し、不測の事態に気持ちを備える事があると私は思っている。

 何も考えない選手はそこから伸びることはない。

 うちの選手達には、動きを見ている限り、そういった何も考えない人間はいないので成長を感じ取れる。

 試合当日に、感覚だけで動けるようになるまでには、まだ時間がかかる。

 自己シュミレーションの大切さを感じ取ってもらって、自主的にそれができるようになれば、試合の中で新しい動きにも繋がってくると私は思っている。

 前準備こそが試合に勝つための大切なプロセスなのだ。

 バックボーンが、小さいと少しの事で気持ちが壊れてしまう。

 もちろん試合の中で成長する事もあるが、積み重ねた経験が下地になければ、うまく生かす事ができない。

 早く試合だけがやりたいという選手も中にはいるが、最後には早い段階で引退、もしくは埋もれて消えていく。

 私が育てた選手にはそうはなってほしくないし、長期でサッカーを楽しんでもらいたい。

 これほどエキサイティングで最高のスポーツは他にない。

 観客が熱狂する中、最高のプレイに沸き、酔いしれて、踊り、歌う。

 優勝争いともなれば、祭り騒ぎだ。

 私の選手達にはぜひ、ワールドカップでそれを体験してもらいたい。

 そのためには2軍選手全員をレギュラーチームに引き上げ、そしてその指揮を私が行う。

 小田先輩では荷が重い。

 私こそがこのクラブチームのレギュラーチーム監督として率いるに相応しいのだ。

 ミーティングを終えて、冷めたおしるこを口にする。

 

 「あ、これおいしいな」

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