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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
24/77

第23話 中町物語 1

 今日、本当は試合がある日だったんだけど、相手の都合で予定が変更になった。

 だから今日は2軍の練習と明日に向けたミーティングをやる予定になってる。

 僕と皆口が3軍から2軍へ上がり、数日たったけど溶け込めていない気がする。

 うまくいえないんだけど、様子見って所で遠い場所から見られているような感じだ。

 2軍の上杉監督は、フレームが丸い眼鏡をかけていて、いつも練習だろうが、試合だろうがスーツを着てキリっとしていて、肌が白く昔サッカー選手だったと言われるより、どこかのやり手ビジネスマンと言われたほうがしっくり来る。

 身長も高く、女性にモテるだろうと思うけど噂では独身で、ちょっとびっくりだ。

 監督がスーツを脱ぐときは、練習に混じるときなんだけど、少女漫画のように体から薔薇が撒き散らされるようなキラキラした雰囲気があり、少し笑ってしまう。

 本人も口にしているが、俺様ナルシストらしい。

 自分がいかにかっこよく見えるか、自分は他人からいかに賞賛されるかを考えているみたいだ。

 ポーズも常に研究していてベンチに座っているときはあーでもないこーでもないと何かに悩んでいる。

 ちょっと変わった監督だけど、練習に加わると、どこのポジションでも的確にアドバイスをくれる。

 指示通りの練習を行うと、さっきまでうまくいかなかった事がうそのように綺麗に決まる。

 指導者としては抜群のセンスをもっている。

 ただチームメイトとの交流に関しては口に出してくる事はない。

 あくまでもそこはプロとして、コミュニケーション能力は身に着ける機会だと思っているようだ。

 まあ、他人が入ってきたところで改善できる問題かもわからないし、逆にこじれてしまってはせっかく気を使ってもらった人が迷惑になってしまう。

 あくまでも僕自身の問題として、解決できるように努力しているんだけど、なかなかうまくいかない。

 

 「彼我って、こういう場面ですーっと入ってくるいい奴だったんだね」

 

 彼我大輔。

 3軍のDMFで、チームの要だと思う。

 本人の自己評価は低いけど、僕から見れば才能の塊のような人だ。

 ポジションを選ばない器用で素直。

 たまに熱い目で僕の事を見てくるけど、まあ、今までそんな人が僕の周りに何人かいたので気にしない。

 昔から、肌の色が白く髪の色も黒と言うより少し茶色に近い(もちろん地毛)僕は何かと年上の男性から声をかけられたり、かわいがられたりして、微妙な気分だった。

 襲われはしないだろうけど、もしもって時のために武道を少しやっていた事がある。

 それと習い事で、日舞をやっていて精神とか、体の動き、リズム感を養った事が今のサッカーにうまく生かせている。

 僕は彼我の事は嫌いじゃないし、変な目で見られても彼ならいやな気分にはならない。

 何言ってるんだろ。

 僕は女性のほうが好きだ。

 彼我は友人として、好きなんだ。

 そう、そうに違いない。

 この間、ちゃんとそれは確認できている。

 2軍に入って、ネットショップの新しいカテゴリが表示されていて、僕はそれを注文した。

 その話はまた今度にして、今日の練習は、セットプレイからの動きの確認について。

 一流プレイヤーはどんなボールでもヘディングの位置にボールが来たときは流し込めるようにと、頭で合わせる練習を行う。

 何度か試合の中頭で合わせたことがあるが、足に比べるとまだまだ下手だと思う。 とにかく繰り返し練習して、体に叩き込まないと。

 

 「中町、頭切れているぞ」

 

 皆口から指摘されて、右手でおでこを触ると、血が出ていた。

 監督に断りを入れて、保健室にいくと噂の美人な先生がいた。

 あれ、けどこの施設、女性職員はいてなかったはずなんだけど?

 

 「あら、初めてな顔ね」

 「初めまして中町っていいます」

 「ちょ~かわいいんですけど~」

 

 先生は僕の顔にほお擦りをしてくる。

 いいにおいがする。

 しかも、なんかやわらかいし。

 どうなっているんだろう?

 

 「あ、あの?」

 

 聞いていいのかわからないけど、質問が口から出そうになったときに、先生が僕から離れて、あ、治療しないとと両手を叩いて、消毒とバンソウコを用意してくれた。 最後にニコっと笑って保健室を追い出され、僕は両腕を組んで廊下を歩きながらアレって、やっぱり質問しちゃいけなかったのかな?と考える。

 うまく空気を読んで交された気がする。

 練習に戻ると、自習練習をしながらみんなクールダウンに入っていた。

 僕も少し冷えた体を暖めるために、グランドを周回する。

 最後に柔軟体操を行って、シャワーを浴びに行く。

 皆口が声をかけてきた。

 

 「中町大丈夫か?」

 「うん。大丈夫だよ」

 

 心配してくれた皆口に笑顔で返事をすると、彼の顔が赤くなる。

 

 「お、おう。それならいいんだ」

 「ありがとう、雄介」

 「ぶほ!」

 

 ちょっとからかうように下の名前を呼んでみたら、ものすごい吹き込んで皆口が口を手で押さえて走っていく。

 少しやりすぎてしまった。

 けど彼我ならどんな反応するんだろう?

 今度試してみたいな。

 気がついたら、また彼我の事を考えてる。

 2軍にあがってから、少し辛いことがあるとすぐに彼の事を思い出す。

 僕は誰かに依存してしまうらしい。

 今までそんな事無かったのに。

 シャワーを浴びながら、精神を統一するように少し水を多くだして、頭から打たれる。

 こんなことじゃだめだ。

 2軍には僕しかいないし、誰かを頼っていちゃいけないんだ。

 明日の試合は、チームメイトに僕を認めさせるいい機会なんだ。

 シャワールームから出て、「祭」とプリントされた白いTシャツに着替える。

 この施設に来た当初は、Tシャツ1枚で過ごせるとは思っていなかった。

 12月の今でTシャツ1枚。

 空調が効いているけど、体が周囲の環境になじんできたみたいで、寒くないんだよね。

 2軍ミーティングルームに行くと、もう何人か集まっていた。

 皆口はまだ来ていない。

 先に来ているみんなもチームメイトなので気を使う事はないと思うけど、3軍から一緒にあがってきた皆口がいると心強い。

 なんて話かければいいのかわからず、うまく会話をすることができず少し後ろの席に座って、みんなから離れた位置に着く。

 こういう消極的な部分が僕のコンプレックスなんだ。

 サッカーでは積極的に前に出てゴールを狙えるのに、フィールドから出た途端にあれこれ考えちゃって、僕とフィーリングがあう相手じゃないとうまく話しが出来ない。

 だんだん、みんな集まってきて、僕の隣に同じCFのアルバート・ロペスが座る。

 彼とは練習中、一緒にいることが多いから話す機会も多くて、ちょっとほっとする。

 上杉監督から、明日の試合戦術と、試合内容に対する目標を確認される。

 あと3軍からベンチ要員が発表されて、少し意外感を覚える。

 彼我が入っていないのだ。

 水八、倉石、アルビアル、大河、花形の5人。

 花形とアルビアルは元2軍選手なので、なんとなく判る。

 他の3人も、文句のつけようがない選手だ。

 けど、なぜかパンチにかけるような気がする。

 理由があるのかな?

 みんな、少なからず同じ事を思っている顔をしているが、上杉監督から説明がなくベンチメンバーとの交代は考えていないと言われる。

 僕達だって3軍の選手にがんばってもらうつもりはない。

 集中力が増していくと周りの雑音も消えていき、明日の試合だけに意識を持っていくことができた。

 僕は負けるわけにはいかない。

 僕の居場所を作るために。

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