第21話 ブレイクタイム サバゲー2
現在2戦目が終了。
アルビアル以外は全員一回ずつ死亡。
アルビアルは2回・・・。
Bチームからのトレードで元チームリーダーのアルビアルが帰ってきた。
ものすごい悲しそうな瞳で俺を見つめてくる。
そんな瞳で俺を見つめてくるんじゃね。
ま、そりゃ戦力外通告を2度も受ける事になったのだ。
かなり心の傷を負ったに違いないとは思うけど、はっきり言ってそこまで俺でも面倒は見切れない。
ていうか何で俺を見る。
2戦目、はじめのゲーム同様に開始早々アルビアルが奇声を発して、Bチームの居場所がバレテしまい、俺達の総攻撃により、Bチームは沈黙した。
Aチームの作戦室の中にはなんともいえない空気が漂う。
(彼我、頼む何とかしてくれ)
(馬鹿野郎、俺にどうしろっていうんだ?!)
(ベニートを初め、あのアビラまでなついているお前ならどうにかできそうだ)
(アビラはベニートにくっついているだけで俺についてるわけじゃねーよ、てかどうにもできねーよ)
アルビアルの変わりにチームリーダになった倉石が小声で話しかけてくるが、まじお前リーダなら何とかしろよと言いたくなった。
俺はため息とともに、みんなの期待した眼差しを背中に受け、仕方なくアルビアルに話かける。
「アルビアル大丈夫か?」
体全体から生気が抜け落ちて、真っ白くなりかけてるアルビアルは俺の声に反応して泣きながら、ものすごい勢いでタックル(抱きつく勢い強すぎるんだよ!)をかましてくれる。
そのまま、おしりをぶつけた俺が涙目になりながら、いてーーー!!と叫ぶがアルビアルの勢いは止まらない。
ぎゅっと抱きしめられた状態になり、胸を圧迫されて呼吸困難に陥る。
「ぐ、ぐるじい・・・・」
何とか出せた声に、ようやく他の連中が俺とアルビアルを剥がして、新鮮な空気を大きく吸い込む。
引き剥がされたアルビアルは、そのまま地面に座り込むと顔を大きな手で包み込み泣き続ける。
(おい。どうするよ?)
(任せる)
俺は倉石に助けを求めたが、完全拒否られてコロシテやろうかと思ってしまったが、我慢して、今度は少し離れて再度アルビアルに声をかける。
「アルビアル。とりあえず落ち着け。なぁ?」
少し待つとアルビアルが落ち着いたようで、顔を上げる。
ぐちゃぐちゃになった顔があまりにもひどかったので、思わず噴出してしまった。
「わははははは。なんて顔してるんだよ。DFで一番頼れるお前がそんな顔されたら笑ってしまうじゃねーか」
いつも眉間に皺を寄せて、練習に取り組んでいるこいつが、こんな顔を見せるなんてギャップがありすぎて、面白すぎるだろ。
俺だけが笑っており、周りのみんなはドン引きだった。
確かに後でよくよく考えたら、気落ちしている奴の顔で笑ってしまうなんて最低だなとは思うが、面白いものは面白い。
どうやらその状況が、アルビアルの中で、心に整理ができたらしくいつもの大魔神みたいな顔に戻る。
てかこれってマジで怒ってね?
「彼我、お前笑いすぎ」
「すみません」
アルビアルのちょっと怒っている口調に、素直に謝る。
「で、結局さ、なんなんだよ。あの奇声は?」
落ち着いたようなので、次の試合時間までの作戦時間もないわけだし、早速本題を切り出す。
アルビアルは俺の質問に、大魔神に少し泣き面を足したような顔をして下を向く。
少し待つと、アルビアルがボソボソと何かを言い始める。
「どうした?よく聞こえないんだが?」
「・・いんだ」
「ん?」
「怖いといっている!」
おおー大魔神復活。
顔を勢いよく上げて俺に詰め寄る。
両手でアルビアルの勢いを押さえながら、ドウドウと馬をなだめるように声をかけ鼻息の荒くなった大魔神アルビアルに何が怖いかを聞く。
正直俺は今のお前が怖いよ。
「怖いって何が?」
「サバゲーが」
「そうか?」
「そうだ、すごくドキドキして魂から来る心の叫びを発しないと気がどうにかなりそうだ」
あ、なるほど。
あれはこいつなりのストレス発散方法だったわけか。
ま、確かにスタート位置でスタートの合図を待つ間、薄暗いギャンブル映画で、一銭もなくなった人が、薄暗い地下の牢屋に入れられるようなシーンがあるが、あんな感じの暗さだからな。
見えてるんだけど、視界が極端に狭いし、短い。
ホラー映画が嫌いな奴がいたらこの環境はかなりやばいかもしれないな。
そういう怖さなのだろうか?
「暗いとかがいやなのか?」
「そうじゃない。戦場のようなあの緊張感がいやなのだ」
「けど、撃たれて思ったけど、我慢できない痛みじゃないし」
「撃たれて痛いという感情ではない。撃たれるかも知れないというスリル感がたまらなく怖いのだ」
「ふむ、それは慣れるしかないんじゃないか?誰かを盾にしたところで撃たれるときは撃たれるしな」
「心細いんだ」
「しかし、判らんな。アルビアルってさDFやっててあんだけシュートを体で止めるじゃないか、それは怖くないのか?」
「相手が”撃つ”と判れば怖くない」
「そんなもんかね?」
今の会話を聞いていたチームメイトたちも真剣に話を聞いている。
どうにかしてやりたいが、こればっかりはな。
俺も絶叫マシーンが嫌いだが、それと似ているのか?
「それは違う」
倉石が俺の顔から何を感じ取ったらしい。
「俺何もいってねーし」
「お前が考えている恐怖感とアルビアルが感じてる恐怖感は違うものだといっている」
「お前俺の心読めるのかよ」
「皆口からお前はすぐに顔に出ると聞いている」
皆口あいつ今度あったら・・・。
ま、それはさておき、このままアルビアルばかりやられる所を見るのは忍びないし、俺達自身もスタート位置がばれるのはやばい。
どうしたものか?
そしてなぜか急に閃いた。
「閃いた。これきたんじゃねー?」
一同が俺に注目し作戦会議に入る。
軍師・彼我と呼んでくれ。
これで勝てる!
俺の作戦にみんな頷いて、それで行ってみようということになった。
3回戦のスタート位置に移動する。
ちなみに、スタート位置は毎回変わっており、俺達Aチームの部屋からいけるスタート位置は3箇所。
これで全部回った事になる。
Bチームも同じで3箇所のどこかの位置からスタートする。
室内アナウンスが流れる。
「おめーら用意はいいか?じゃあいくぞ、ごー!」
またか。
武田監督は5カウントと言うものを知らないのか?
後ろからアルビアルの奇声が上がる。
30秒後に銃撃音がいたるところで開始される。
今回誰も笑っている奴もいないし、俺の作戦がうまくいけば、かなりの敵が死んだのではないだろうか?
俺も結構深く敵陣に踏み込んでいるが、いまだに相手と遭遇していない。
その瞬間カチャ!と銃を構える音がする。
緊張が走った瞬間、倉石だった。
倉石がマスクごしにボソボソと話をしてくる。
「やべ、フレンドリーファイヤー(味方殺し)する所だった」
「まじでしゃれにならんから」
フレンドリーファイヤーも死亡扱いになるので慎重に行動しないといけない。
撃たれたら特殊ペイントが付き、作戦室に戻ってからウェットティッシュで、軽く拭けば簡単に落ちる。
結構広範囲にべったり着いているのでふき取るのが結構面倒なのだが、このペイントのおかげで、死亡した人間が即座にわかる。
蛍光発光するので、薄暗くてもでも良くわかる。
さて試合だが、アルビアルが奇声を発した瞬間俺達は2つのグループに分かれて左右に展開。
アルビアルは叫びながらそのまま中央へ。
アルビアルを殺しにきた敵を左右のポジションから撃つ作戦に出たのだが、これが結構いい感じにはまり、この時点で相手は3人が死亡。
今2人を追い掛け回している状況になっているのだが、なかなか見つからない。
誰が死んだのか、暗くてよくわからなかった。
顔面保護のためにマスクをしているし、誰が残っているかわからんが、俺達はアルビアルを囮に息を潜めながら少しずつ進行していく。
パパパパパパッ!!という音が聞こえて、音が鳴り終わると歓声が上がる。
そしてブザーが鳴る。
あ、俺まだ一回も敵を倒してねーや。
殺された数と、殺した数を計算して、その差も今回の結果に繋がると、さっき告知があった。
積極的に殺しに行かないと、やられた分取り返さないとな。
作戦室に帰ると、池華が真っ赤に染まっていた。
一瞬ホラーかよと思ってドキッとしたが、マスクをかぶっていたおかげで俺のビビリ顔を晒さなくてセーフ。
マスクを脱ぐと、顔が汗でぼとぼとだった。
しかし、これはサッカーの体力作りの練習になるな。
「やったな彼我。結構うまくはまってたんじゃないか?アルビアル囮作戦」
「まあ、今回はうまくいったけど、次がな」
「で、トレード次誰がいくよ?」
アルビアルの活躍で今回は勝てたんだ。
またトレードするには忍びないな。
はぁ。とため息を付きながら手を上げる。
「俺が行くわ。お前らコロシテやるよ」
ニヤニヤした顔でキル宣言する。
「返り討ちにしてやんぜ」
倉石がうれしそうに握手を求めてくる。
俺も応じながら、Bチームへと移動した。
それから昼間で何回試合したのか覚えてないが、結構キルが取れたり、殺されたりして、俺の今の成績は差額として0。
マイナスじゃなくてよかった。
他の連中はマイナスになったりプラスになっている奴もいる。
昼食をアルビアルと倉石たちと一緒にとり、色々話をしてこういう会話って今までなかったような気がする事に気がついた。
午後からまたがんばろうぜ!って話になったが、一旦別室で、AチームもBチームも集められる。
「おう。午前はお疲れ様。ま~現在の状況だが、あんま差が開いてない状態だ。」
武田監督が不満そうにいう。
今日始めたばっかりの連中で飛びぬけてうまくなる奴なんていねーだろと、思ったが口に出さない。
「お前達の馴れ合いをみてるのにも正直飽きたわ。午後からは俺のチーム”ざ・ショクイン”の6名対お前達全員だ」