第20話 ブレイクタイム サバゲー1
「今日はサバゲーをやる」
目の前にBDUと呼ばれる(武田にそう呼ぶように言われた)軍装を着た3軍の監督、武田が立っていた。
俺、彼我大輔以下11名横一列に並んで、まるで映画に出てくる軍曹(武田のイメージ)を思わせる。
まるで悪役、いや悪役そのものだった。(眉間にシワがよっているので余計にそう見える)
俺達の後ろにテーブルが用意されており、BDUとブーツそして、長い銃が置かれており、本気で今日サバゲー(サバイバルゲーム)をするつもりらしい。
まず俺達からはなぜ”こうなった?”という空気が流れている。
ちなみに、U-17との試合後の次の日の事である。
試合後ではあったけれど疲れてはいなかった。
これからこのBDUを着て何か(サバゲーを理解していない)をさせられると思うし、武田監督がすごくうれしそうである、なぜかそっちのほうが疲れるような気がしていた。
多分この人の趣味なんだろうと思う、サバゲーが。
武田監督が着ているBDUは自前らしく、クタクタのボロボロだが、それが味になっており、男としては何年も戦ってきた戦士のようでかっこいいと思ってしまうが、見方を変えればただのオタクである。
オタクを否定しているわけではない。
趣味は人それぞれだし、その趣味を仲間と共感したいのはわかる。
しかし、俺達はサッカー選手であり、”共感”できるような嗜好は持ち合わせていない。
とこのときは思っていた。
「今から8時間耐久でサバゲーを行う。まず始めにサバゲーをやった事がある奴はいるのか?」
重林が手を上げる。
まじかやったことあるのか?!
「監督、エアーガンは18禁です。」
ああ、意見をする為に手をあげたのか。
俺も知らなかったがエアーガンは日本で規定があって、18歳以上は撃つ事、銃自体を買うことを禁じられている。
「重林、ここはどこか知っているか?」
「あ、イタリアです」
「そうだ。イタリアだ。わかるなぁ?」
まじか。
日本人の生活習慣(味噌汁にご飯など)をここでもできるせいで、今自分がどこの国にいてるのか忘れていた。
不気味に笑う武田監督に俺達の背筋から冷たい汗が流れる。
「と言う事は日本でサバゲーはできないからお前達は、始めてということになるわけだな。その始めてを俺が頂く事になるわけだ。くっくっく」
誰かここに変態ががががが・・・。
「さて、まずはチームを発表する。始めは俺が指定したチームメンバーでやってもらう。俺も優しくなった・・・。さらに始めに言っておく、この中で一番多く死んだ奴のうち5人はグランド20周決定だから。しかもサバゲー終わった後で」
グランド20周だと・・・。
しかも今は朝の8時。
終了時間が16時として、そこからグランド20周マジでありえない。
誰もが気が引き締まるのがわかる。
武田監督が今回のサバゲーのルールを説明する。
1:6対5のチームに分かれる。
2:1戦終了後、6人チームから一人、相手側の5人チームに移動する。
このとき誰でもいいから1人だけ移動。
3:特殊ペイント弾を使用しているので、撃たれたことがはっきりわかる。
ゾンビ行為は禁止。
4:撃たれたら速攻退場。(両手をあげてヒットと叫びながらフィールドから脱出。かなりの羞恥心を要する行為だな)
5:試合時間は10分。もし決着がつかない場合は、生きてる人数が多いほうが勝ち。
6:次の試合までのインターバルは15分。この時間に弾の補給などを行う。
7:直接殴ったりなどは禁止。キルを獲る場合は必ず銃撃による行為のみとする。 8:後は自由
まずこんなルール説明をされても始めての俺達からすれば意味がいまいちつかめていない。
実はU-17との試合前にサッカーの練習として”水球”をやったことがある。
まだ”水球”はスポーツなのでなじめたが、はっきり言って今回は、どうにも銃で仲間を撃つなんて気が引ける。
とりあえず、武田監督も何かの意図があってこのサバゲーをやると思うので、付き合う事にする。(強制参加だけどね)
チーム編成は以下の通りである。
俺達野郎Aチーム(武田監督のネーミングセンス)
重林 大成
片磐 重道
アルビアル・ベルグラーノ
池華 益雄
彼我 大輔
倉石 登
カレーが大好きBチーム(武田監督のネーミングセンス)
青木 撤兵
水八 陽一
大河 智治
倉見市 俊治
花形 智明
という感じでメンバーの編成があった。
始めはディフェンス陣と、フォワード、中盤チームという感じらしい。
試合開始は9時からに決まり、更衣室でBDUに着替える。
チームごとに更衣室兼作戦室が用意されており、そこでいい動きをしていたのが、アルビアルである。
基本無口な奴だが、着付けがわからないメンバーに駆け寄り手伝ってやる。
なんだかこいつ今日はすげー活き活きしているな。
体が大きい重林がこのBDUを着ると、マジで戦場で戦っている兵士のような貫禄がある。
アルビアルもBDUがよく似合っていた。
俺達が着ているBDUはオーソドックスな、緑色の迷彩柄。
使用する銃は、M4A1カービンと言われる長モノ(アサルトライフル)で、よくアメリカの映画で見るタイプの奴だ。
それとハンドガンを一丁腰につける。(ホルスターと呼ばれるハンドガンが落ちないように固定させる装置?が腰のベルトに通してありそこに収めている。しまうというよりなんかつけるって感じなんだよな)
M1911A1ガバメントと呼ばれるアメリカ製のハンドガンで、オートマチックと言われているタイプのものらしい。
なぜかこの当たりの解説を活き活きとアルビアルがし始め、ものすごくうれしそうである。
この軍で使うような装備品などをミリタリー(軍用)というカテゴリになっていると教えてくれた。
顔近いし、つばとばすな・・・。
後はBDUの上からマガジンポーチがついたベストを着る。
これで俺はアメリカの戦争映画で出てくる俳優の気分になった。
鏡に映る自分がかっこよく見え、この感覚は始めてだった。
テレや、高揚感からかニヤニヤが止まらない。
これがコスプレというものか。
ほかのメンバーも同じような状況なのだが、アルビアルだけは真剣な顔で、神に祈りをささげている。
え?そんな危ないの?サバゲーって?
どんなシュートでも体をはり、その強靭な精神力と全身筋肉質のアルビアルが神に祈りをささげているのである。
その祈る姿に結構びびるんですけど・・・。
更衣を終えたので、作戦会議に入る。
まずはチームリーダーを決める所からなのだが、アルビアルが当然のように手をあげる。
アルビアルで決まりかなと思った瞬間横から手が上がる。
倉石 登。
俺とサイドでDMFとしてよく動いてくれる奴である。
基本は俺とは違う仲間グループで倉見市とよく吊るんで、遊んだり、練習したりしている。
もちろん仲が悪いわけではないが、友達間の居心地の良さで、自分と合うグループに所属するだろ?
選手としてはプレイスタイルを良く知っているが、友達としては良く知らない倉石が積極的に俺にチームリーダーをやらせてくれと、話をする。
こいつってどこか学級委員長体質な所があると感じていたが、こんな所で発揮せんでもいいのに。
結局言い争いになった後、じゃんけんで決着がつきアルビアルがチームリーダーになった。
次に作戦の話に移り、アルビアルは腕を組み目をつぶってパイプ椅子の上にどっしり構えている。
特に作戦に発案があるわけではなく、俺達はアルビアルなしでわいわい会議を進めていく。
まあチームリーダーがどっしり構えているおかげで、俺達も気分が落ち着くってもんだ。
結局やったことがないので、とりあえずやってみようと話になり、今回の試合会場である廃墟の刑務所の中へ入っていく。
そこはすっかりサバゲー用に改装されており、1階はロビーで、休憩室もかねているが、2階から試合フィールドとなっている。
2階と3階の大きめのフロアーとなっており、イメージはゾンビ映画に出てくる刑務所をボロボロにした感じである。
まじでアレ的なモノが出てきそうで怖いんですけど。
フィールドに武田監督から音声アナウンスが流れる。
「カウントダウンいくぞーー1、ゴー!」
普通3カウントだろ!と突っ込みを入れたくなったが、始まったサバゲー。
すると開始直後心の叫びを口から出たような雄たけびが後ろから聞こえる。
敵襲かと思ったらアルビアルがウォーーーーー!!と低い声で叫んで次にギラっと目を光らせてゴーーーーー!!と叫ぶ。
チームメンバーがはぁ?となっている状態でアルビアルは走り出し、そして死んだ。
もう笑いがこらえきれなくて、結局訳もわからず、全員殺された。
勿論言うまでも無いが、トレードはチームリーダーのアルビアルだった。