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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
19/77

第18話 ユースとの試合 3軍編 その5

 ----------実況解説-------

 ジュン:「さて、喜多島さん。U-17と3軍の試合についてお願いします」

 喜多島:「まぁそうですね。試合全体を通して、3軍にとってはU-17には失礼だと思いますけど終始練習試合という感じがしましたね」

 ジュン:「確かに、3軍チームは流している感じを受けましたよね」

 喜多島:「前半の立ち上がりから、U-17から気迫を感じられ攻めてはいたんですけど、3軍チームの選手達にパスコースなど先読みされて、甘くトラップした場面などボールを取られる瞬間が多かったんじゃないかと思いますね。3軍チーム前半戦の印象は不満というか何か抑えている感じを受けて、前半35分間で20本のシュートを放つという脅威的な数字が出ていましたね」

 ジュン:「しかもすべて、同じ位置の枠に当たるという神業的な状況に私も驚きました」

 喜多島:「まるでアニメのサッカーを見ているような光景で、今までの2軍、レギュラーチームとの試合の鬱憤うっぷんを晴らしているような見方もできました」

 ジュン:「そして点が動いたのが前半ロスタイム」

 喜多島:「彼我選手のすばらしいシュートで1点を取ったわけですが、試合内容から見て、この1点だけとは”悪運”ではなく”故意”だったんだと思います」

 ジュン:「故意ですか?」

 喜多島:「ええ。チャンスが何度もあり生かせなかったという印象に感じる人も中にはいるのですが、そんな試合運びではありませんでしたし、チャンスエリアに入れる場面がありながら、前半はチャンスエリア外のミドルレンジからのシュートに徹底していたので、後半戦のゴールはきっちりチャンスエリア内から生まれていることを考えると、故意で試合をコントロールしていたんだと思いますね」

 ジュン:「それはどうしてでしょうか?」

 喜多島:「監督の指示なのでしょうけど、どういった意図でそのような指示を出していたのかは想像できませんね。サッカーは何があるかわからないスポーツです。止めをさせるなら初めから刺しておくべきだと私は思うのですけどね」

 ジュン:「では前半戦ボールポゼッションとシュート数を見ていきましょう。ボールポゼッションのほうですが83:17と3軍チーム優勢でシュート数に至っては30:5と数字だけを見ればもう圧倒的ですよね」

 喜多島:「これだけの差を見せ付けられて最後のロスタイムにゴールを簡単に決められてしまうとなると精神的に厳しいと思います」

 ジュン:「その中でもU-17は踏ん張って後半戦に挑んだわけですが」

 喜多島:「U-17のマーク、当たりが非常に強くなりましたよね。相手の出方が少し見えたと思ったんですけど、3軍チームにそこもうまくかわされていましたね」

 ジュン:「1対多数でなんどかプレスを仕掛けていましたけど、うまく抜けられてパスもしくは突破される場面がありました」

 喜多島:「人数がかかる分開いたスペースがあるんですが、あまりそこは気にした様子もなく3軍チームの動きは、ゆったりと自分達のペースで後半戦を動いていたように思いますね」

 ジュン:「後半30分にゴールが生まれるまでは、喜多島さんのおっしゃる通り、ゆったりとした動きで、U-17の攻めに対して急に動きを早めて、ボールを取りにいき、相手の攻めを潰していましたね」

 喜多島:「後半30分のゴールはまさに、ゆったりとした流れになった中で速攻をかけられ対応できないU-17の選手達が必死でボールを取りにいくのですが、青木選手のサイドからの駆け上がりに誰も対応できず、クロスを上げられてしまい、今回の入れ替え戦で加入した花形選手の高さのあるヘッドに合わせられてしまいましたね」

 ジュン:「それからゴールが決まった後から急にU-17の選手達の動きが悪くなりましたよね」

 喜多島:「情報によると酸素不足で気分を悪くした選手が出てしまったみたいで、心配ですね」

 ジュン:「それでも、選手たちは走り続けて後半ロスタイムまでがんばったのですが、もう1点追加でされて試合終了となってしまいました」

 喜多島:「確かに試合だけを見るとU-17は3軍選手たちに研究されていたような動きを見せていますが、そうじゃないような所も多々あったんですよね」

 ジュン:「例えばどういった点でしょうか?」

 喜多島:「U-17で優秀なキーになる選手をまったくマークしていないんですよ」

 ジュン:「確かに、マークがまったくされていなかったですよね。先読みして動いていたシーンが何度もあったのですが、あれは?」

 喜多島:「選手達の勘もしくは、U-17の選手達にくせのようなモノがあったんではないんでしょうか?それを早くに見つけて、3軍選手たちは、U-17の動きに合わせる事ができたような気がしますね」

 ジュン:「そうですか。では後半戦のボールポゼッションとシュート数を見ていきましょう。ボールポゼッションは69:31と前半戦と比べてかなり差がありますね。」

 喜多島:「3軍チームが作り出したゆったりとした試合運びがポゼッションの影響になっていると思います。ただU-17がボールをキープしてパスを回しているラインが相手の前線ではなかったので、3軍チームとしてはそれほど脅威とは感じなかったと思いますね」

 ジュン:「シュート数ですが、12:2とこれも前半戦とは対象的ですね」

 喜多島:「3軍チームも疲れたわけではないと思いますけど、どういった試合運びをしていくのか、自分達の試合全体のビジョンを決めて動いていたんではないんでしょうか」

 ジュン:「色々試していける時期と言うことなんでしょうか」

 喜多島:「なるほど、そういう何かにトライしている姿が練習試合だったと感じる要因だったのかもしれません」

 ジュン:「試合は3対0で3軍チームの勝利となりました。解説はジュン・カビラエルと元日本代表 喜多島きたしま ごうさんをお迎えしてお送りしました。喜多島さんありがとうございました」

 喜多島:「ありがとうございました」

 ----------実況解説 終了----

 

 3軍監督武田に集められた選手達は、不思議そうな顔をしていた。

 いつもなら、試合終了後、ねぎらいの言葉と、さっさと解散してくれる監督なのだが、今日は試合終了後ミーティングルームに集められていた。

 

 「今日の試合30点だ」

 

 急に告げられる武田の話に30点?と不満げに首をかしげる選手達。

 倉見市が手を上げて、意味の説明を求める。

 

 「どういうことですか?俺達は”もちろん”勝ちましたし、監督の指示通りの動きもしたはずです」

 「俺の指示通り、やる事はやったので30点だ」

 

 意味がいまだつかめず、まつげをしかめる倉見市と選手達を見て、もう少し詳しい説明を武田が言う。

 

 「ハーフタイムに指示を言わなきゃ良かったなと後悔したが、後半戦にお前らの”必死さ”がなかった」

 「必死にやる必要はなかったはずですが?」

 「確かにこの試合ではな。ちょっと昔話をしてやる。俺がいたオランダリーグで始めてピッチに立った時、後半途中出場で、日本から来たオレを誰も知らずブーイングの嵐だった。中盤のMFプレイヤーとして出場し、4点取ってやったんだよ。俺が」

 

 誰もが自慢話かよと思ったが、そうじゃないことを後の話で気がつかされる。

 

 「俺が所属するチームは弱小で試合で使用しているグランドもボロボロ。当然警備員の数も少なくてな。極東の島国から来たわけのわからん後半途中出場の選手に対戦相手の有名チームが4点も取られた。どうなるか想像がつくか?」

 

 誰もが黙った。

 

 「試合終了間際、突然スタンドから発炎筒が火を噴き、よく見ると相手チームのサポーターと、うちのチームのサポータが喧嘩を始めてな。後から聞いてみると俺が八百長をやっている、ドーピングをしている可能性があるなど、サポータ同士で言い争って結局暴動の一歩手前で警察が駆け込んできて鎮圧したんだよ」

 

 苦い顔で頭をかきながら、語る武田の話に耳を傾けて、真剣に聞いていた。

 

 「ちなみに何度かこんな事があって、俺の知名度が上がっていくうちに段々収まっていったけど、俺もあの頃、血の気が多くて、点取ってなんぼだろ!と思っていた。そのたびチームに迷惑をかけている事も知らず、気にもせず、ひたすら前だけを向いていた。結果、俺のチームスタッフが町で買い物をしていると敵チームのサポーターから暴行にあった。お前のところのドーピング野郎に警笛を鳴らすためにと。たかがサッカーで・・・。試合に勝った、点を多く獲っただけじゃないか。プロとして当たり前の事をしたはずなのに。チームメイトからもっと強いチームにいけよと言われた」

 

 一旦武田が、口を湿らす為に、黙ってつばでのどを潤す。

 

 「アルゼンチン出身のアルビアルはハーフタイム俺が言っていた言葉に気がついていたようだが、異国の地では英雄になるのに時間がかかる。勝ちすぎると傷つけてはいけない人まで巻き込む可能性がある。ここは日本じゃない。サッカーは戦争だ。それが俺が学んだサッカー人生だったんだよ。オランダが悪いわけじゃない。サポーターが悪いわけじゃない。ヨーロッパって世界は”熱狂”してしまうほどにサッカーが好きすぎるんだよ。俺もそんな人間の一人だ」

 

 GKでキャプテンの重林が席を立ち、武田に近寄ると、頭を下げる。

 

 「すみませんでした。俺は点を多く獲る事がいいように思えていました。なので監督に対して不満しかありませんでした」

 「それは間違いじゃない。俺がお前らに教えたい事は、”サッカー役者”になれと言うことだ」

 

 にやりと笑いながら武田の口からよくわからない言葉が出る。

 

 「八百長をしろって言っているんじゃない。”必死”を演じながら、勝てばいいと言っている」

 「どういうことですか?」

 

 顔を上げた重林が聞くと武田は悪そうな顔をして、さらに続ける。

 

 「世の中、軽くさらっと何でもできる奴が涼しい顔をしながら結果を出すと、どうも反感を買う。しかし逆に”必死”になってがんばっている奴には好感がついてくるってこった。これは国は関係ない」

 「だから今回の試合で、”必死さ”を演出できなかった俺達が30点なわけですか」

 「そぉ、実際U-17の奴らから結構反感買ってるぞ。お前ら」

 「それはもともとのような気がしますけどね」

 

 ここでようやく重い話が終わったと、緊張感の開放からか笑いが起こる。

 

 「次はドイツの例のあれと試合ですよね。演出なんてできそうにないんですけど」


 大河がタイミングを見計らって話題を変える。

 武田は苦笑しながら、答える。

 

 「お前ら、あいつらと試合して演出なんかできるはずないだろ。U-17の2軍とレギュラーチームの試合を見てる暇なんてないからな」

 

 このとき、いつもの練習より厳しくなることを予感して、3軍チームのメンバーが顔をゆがませた。

 

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