第14話 ユースとの試合 3軍編 その1
「まじで寒いんですけど~」
「なんでこんな山奥」
「あそこに建物あるな。え?刑務所?」
非公式の試合で日本U-17のメンバーがイタリアに旅行(試合)に来て、空港からさらに別の飛行機に乗り換えて、さらに4時間後、ようやく着いたと思われた場所は山奥で観光スポットもなく、目の前にどう見ても刑務所と思われる建物があった。
「はぁ?監督俺ら試合に着たんですよね?」
「俺も詳しく聞いていないが、場所はここで間違いないはず」
U-17の監督である多田川 政木は金髪の選手から質問され、自分の中にある答えを口にしていたが、その中には不安が混じっていた。
(こんな所で試合をするだと?)
多田川はまず選手の体調管理を心配していた。
現在は12月。
かなり山奥で高地にあるため冷え込みが尋常ではない。
しかも空気が薄い。
雪もかなり降っており、U-17を乗せたバスが何度が安全走行の為、徐行運転を行い、予定よりかなり遅れての施設到着となった。
U-17のメンバー自体は23人。
監督を含め周りスタッフを合わせて35人。
費用はすべて相手持ちというVIP待遇でホテルも豪華なんだろうと思っていたが、こんな山奥に豪華ホテルなんてあるはずもない。
選手達も、予定されている試合後市街に出て、ある程度羽目をはずせると聞いて着ていた。
バスが施設前に着くと、大きな門が開きバスが中に入って停留所に止まると、選手達が長旅から疲れたと言葉を次々と発していく。
「ようこそ、さぁこちらです」
どうやら施設の係員の男が案内してくれるらしい。
通された施設は、思っていたよりかなり豪華で、日本の高級老舗旅館を思わせる和風テイストな造りになっている。
選手たちからお~~とかすげ~とか声が聞こえてくる。
一旦大部屋に通され、そこは宴会でもできるような場所で、和の豪華食事が用意されていた。
予定より遅れてきた選手達は腹が減っており、この気配りはかなりうれしかった。 選手達が席に着くと監督と係りの人が話しをし、今後のスケジュールを確認した後、監督の音頭でまずは食事となった。
「うめ~。こんな山奥で和食を食うことになるとは思ってなかった」
「そうだよな」
箸を進めていく選手達に区切りのいいところで監督が今後のスケジュールを伝える。
「まずはおつかれさん。今日はこの後風呂が用意されているらしいからそこで疲れを癒してくれ。明日は早速で悪いが体をならす為に練習を行う」
「ここの連中と一緒に練習するんですか?」
代表してさっき監督に質問していた金髪の少年が質問する。
「いや、どうやら私達に割り当てあられた暖房施設があるグランドで練習できるそうだ」
「試合はその次の日という事でいいんですかね?」
「着て早々だがそういうことになる。何せ3試合をする事になっているのでな」
「もちろん手加減なんてしなくていいんですよね~」
会場に笑いが起こる。
U-17の自分達がこんな山奥の得体も知れない選手達に遅れを取るはずがない。
世間から離れた古臭いサッカーをすると勝手に思い込んでいた。
イタリアのサッカーを感じれるとU-17の選手達はやる気になっていたが、この施設を見て、豪華なのだが、どこか古臭さを感じていた。
しかも外から見れば、まるで刑務所。
よくわからない状況に油断していた。
なんとかなるし、そうできる実力は持っている。
最終日のイタリア市街に出て観光して気分よく帰る事しか未来が見えていなかった。
いちよう話としては、試合をやるのはアルゼンチンの選手が混じっているが基本的に日本人選手がほとんどで、しかも無名選手、よくわからないが噂では高校生が集められたチームらしい。
自分達の中にも高校生が何人かいるが、主にクラブチームのユースメンバーがほとんどだ。
レベルが違うっつーのと思っている選手が何人もいた。
食事を終えた選手達は先に風呂に入った。
露天風呂で大浴場。
環境としては最高だった。
疲れを癒した選手達は、割り当てられた部屋に行き6人部屋で大きなベットに喜んで寝転がってスマホなどをいじってみたが、どうしてもネットに繋がらず、はぁ?と口々に不満を漏らした。
スマホでローカルで動く携帯ゲームで楽しんでいたが、ほかにやることもなくなったのでとりあえず寝て、明日の練習に備えた。
練習に割り当てられたグランドは練習するのに支障がないように配慮された環境だった。
まず暖かい。
ドームになっており外は今日雪が降っておらず晴天なので日の光だけでグランドの温度が暖かい。
軽く、整理運動を行い、調整程度の練習を行う。
「しっかしここ空気が薄いせいでスタミナが早く切れるわ。まじでだりー」
「こんなところでまともに試合ができるのかよ?」
「海外試合の経験としてまあいい機会じゃないか」
など軽めの調整で愚痴が選手達からもれる。
練習を終え昨日食事を取った大部屋で作戦会議を行った。
スターティングメンバーが発表され、戦術が言い渡される。
フォーメーションは4-2-3-1。
1トップでトップ下と連携を取りながら、サイドから攻める。
現在A代表が行っているフォーメーションを取り入れた戦術で、パス、運動量を生かして攻める形を作る。
格下相手で十分な戦術だった。
今回試合するのはここの3軍。
なんで3軍から試合しないといけないんだと不満が選手達からもれるが、今回試合を依頼されたクライアントの立っての希望ということで、そういう話になったらしい。
自分達に身になる話ではないなと、あざ笑う。
ミーティングが終わり、選手達から施設を歩いてみたいと話が出て、係りの人に監督が話しをすると30分だけならと、この施設の選手達の練習を見せてもらえる事になった。
しかし、3軍のメンバーの練習だけという条件だった。
こんな山奥にいるサルどもの選手達がどんな練習をしているのが馬鹿にしてやろうと子供じみた考えを持っていた選手達は何人かいたみたいだが、その練習風景を見て愕然とする。
明日試合があるというのに全力なのである。
走りこんでいる選手、3対3で激しい当たりを平然とこなしている選手達。
ひたすらフリーキックの練習を行っている。
どう見ても明日試合がある選手達の練習メニューではない。
今日練習した自分達より確実に運動量が多い。
「つぶれるぞ」
「原始的なサッカーじゃないかと思っていたけどここまでとは」
「明日試合になるのかよ」
選手達から懐疑的な言葉がどんどん出てくる。
練習する選手の中で変な奴がいた。
ラグビーボールをずっとリフティングしているのである。
まるで踊るように、軽やかなステップを踏みながら、自分でムリな蹴りこみをして、取れないだろうと思うボールを簡単に拾うのである。
もちろん地面についていない。
15分見ているがまだ彼は地面にボールを落としていない。
ただのパフォーマンスだな。
と誰かがいった。
しかし金髪の少年は、どこかひっかかりを覚えていた。
(なんだ?こいつ?ボールを蹴るとき自分からムリな動きはしているが、動きは最小の動きで最大の動きをしている?俺なんか変なことを言っているな。)
ほかの選手達も、自分達と同じような練習をしているが、なんだか違和感がある。
全力で練習をしているが、手を抜いている?
メリハリがあるというのとはまた違う。
U-17のほかの選手達にはその違いが判らないようで、ただひたすら無理をして練習しているように見えた。
U-17がグランドを後にすると、3軍メンバーは、あいつら練習しなくていいのか?と首をかしげていた。
3軍メンバーが練習を終えたのは22時ごろ。
U-17が離れて8時間後である。
1時間食事休憩と、風呂に入って練習を再開し、22時に明日試合があると解散した。
彼我は、ベニートに呼び出しを受けており、彼の部屋を訪れる。
「よう。きたぜ。」
「まあ入れ。アビラそこにいるんだろ?お前も来い」
「アニキ~~!!」
壁に隠れていたアビラが見つかった事に喜ぶようにベニートの部屋に入る。
「それより、どうしたんだ?妹さんにまた何か心配されたか?」
「そうじゃない。最近あいつが送ってくる手紙はまるで恋人のような心配文で困る」
「ま、俺には妹いねーし。わかんねーけど兄貴を心配するいい妹さんじゃねーか」
「そろそろ兄離れをしてほしいがな。それより彼我、明日の試合わかっているんだろうな?」
「80%だったっけ?」
「そうだ。それだけで十分勝てる。それよりも次の試合のほうが問題だ」
クラブチームに対外試合の発表があった。
まずはU-17との試合。
その後、ドイツの自分達とほぼ同じ状況のクラブチームとの試合。
これが問題だった。
情報によればすでにドイツのユースチームとして公式試合をしているらしい。
来年にはドイツリーグの進出もありえるとの話だった。
選手は全員日本人。
入ってきている情報では選手達の体格が非常にでかい。
しかし、俊敏な選手が多く、まさにワールドクラスを目指して育成された選手達だった。
選手の年齢は自分達と同じ。
かなり厳しい試合になると予想される。
それを想定して本日は練習を行っていた。
しかも、6割ぐらいの力で。
「最近パワーアンクルの肌との設置面が痒くてさ」
「我慢しろ」
ドイツチームとの試合が決まった後からクラブチームの方針として肉体強化をさらに進める方針で、全員パワーアンクルの着用が義務付けられ、さらにシューズ着用も以前と同じ裸足による練習に戻った。
今日は久々にシューズ着用解禁日だったので全員シューズだったが。
クラブチームとしてはU-17との試合は本当の意味で練習試合でしかない。
勝って当たり前。
その当たりはU-17の選手達と同じ思いだが、結果は試合次第。
ベニートとサッカー論であーでもないこーでもないと話合い、アビラには俺も混ぜろとぶつかりながら夜が明けていく。