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監獄のクラブチーム  作者: 八尺瓊
1年目
13/77

第12話 ベニートの部屋

 レギュラーチームとの試合がさっき終わり、彼我はとりあえずスタジアムにあるシャワールームで体を洗っていた。

 チームメイトも何人か一緒にシャワーをしており、隣で体を洗っている皆口が彼我にたずねてきた。

 

 「おい!彼我」

 

 シャワーの音で聞き取れにくいが、何とか返事をする。

 

 「どうした?あんまり声が聞き取れないんだが?」

 

 結構大きな声でやりとりをしているので回りの選手達も聞き耳を立てているが、またしてもシャワーのせいでそんな気配を感じない彼我は特に気にした様子もなくやり取りを続ける。

 

 「さっきさ、ベニートに何を言われたんだ?気になって仕方ねーんだが?」

 「ベニート?ああ部屋に来いって言われた」

 「「「部屋に来い!?」」」

 

 周りの選手からも驚きの声が上がったがシャワールームなので、皆口の声が反響したんだと思い、彼我は気にした様子はなかったが、初めは軽く話を聞いていた選手達がかなり聞き耳を立てて静かに話しを聞いていた。

 その理由は、ベニートが今まで誰かを部屋に誘うなんて事をした覚えがなかったからだった。

 これは珍事だと、興味津々になってしまった。

 皆口はギャラリーの事は気がついており、さらに質問を続ける。

 

 「何時ごろの話なんだそれ?」

 「確か19時に夕飯を一緒に食べようって話になってさ」

 「「「夕飯を一緒に!!?」」」

 

 ここにきてさらに珍事が続く。

 ベニートは夕飯すらチームメイトおよび、誰かと一緒に食べようとしたことがない。

 食堂で定食を頼むと、そのまま定食を自室に運び食べるので、相席をすることができない。

 そのベニートが食堂で一緒にご飯を食べるという珍事はもう、選手達にとってネタでしかない。

 (これは見に行かねば)

 

 チームメイトたちは”見に行かねば”を合言葉にそのままシャワールームを出てこのことを一斉に言いふらし、ベニートと彼我はそのことに気がつくことなく19時を迎えようとしたのだが、すごい形相で食堂で彼我を待っていたアビラに捕まる。

 

 「俺も一緒にご飯食べるから」

 「ん?別にいいけどよ、ベニートにも断りをいれろよ」

 

 アビラが待っていたと言う事は誰かこの話をしたのだろう。

 ベニートは一人食堂の席で待っていたが、彼我はその周りを見て、いやな予感がした。

 いつもより人が多い。

 

 「よぉ。遅れたか?」

 「いやさっき着たばかりだが、なぜかさきほどから視線を感じるのだが?」

 

 彼我もそれを感じているのだが、気のせいだと思い話を続ける。

 なぜか彼我の後ろに隠れてもぞもぞするアビラに、仕方ねー奴だなとフォローを入れる。

 

 「それより、アビラが一緒に飯を食いたいだとよ」

 「そうか。べつにかまわないが、とりあえず座れ」

 「アニキ~~!」

 

 すごいうれしそうなアビラと、ベニートその前に彼我が座る。

 机は食堂でよく見かける白の長机に、丸のパイプ椅子の上に座り、テーブルに備えてあるメニュー表を見ながら、今日の試合について話合う。

 ベニートのサッカー論が熱が入り始めた頃、右から左に聞き流していた彼我はメニューを決め終わり、アビラにメニューを渡す。

 アビラは目がギラギラしており、ベニートのサッカー論にうんうんと頷いている。 日本人以外にもイエスマンがいたんだなと思いながら、注文の為、席を立つとベニートに断りを入れ、俺もいくとベニートもついてくる。

 もちろん、犬のように尻尾でも振っているかのように見えるアビラもお供しますとにこやかについてくる。

 何がそんなにうれしいのかわからない彼我に視線が集まってくる。

 うほん!と咳払いすると、注目していた視線が散漫になる。

 

 (やっぱりこいつら、俺らをネタにするつもりで集まったな)

 

 さっきは気のせいだと心の中で思ったが、さすがにここまで視線が集まると気にしないほうが難しい。

 ベニートが人付き合いが”得意ではない”のは知っているが、そこまでの事なのか?と疑問に思う。

 しかし、周りからすれば”そこまでの事”なのである。

 孤高。

 ベニートを一言で表すとこの言葉が良く似合う。

 それぐらい、一人でいることが多く、練習はみなと同じように行い、コミュニケーションも必要以上にはとろうとしないが、必要だった場合は必ずアプローチしてくる。

 サッカー選手として一線は守っているようだが、どうしても近づきがたい物を感じている。

 彼我だけが彼に選ばれている理由がいまいち周りからはわからないのである。

 アビラに関してはアビラ自身がベニートにくっついていっているので、少しニュアンスが違う。

 そこで浮かぶ下世話な噂。

 ”ベニートは彼我が好きなんじゃないだろうか”と。

 この事は本人達は知らないが結構有力説として、流れ始めている。

 それを確かめるべく、今日食堂にかなりの人数が集まったと言うわけだ。

 食事を受け取ると、彼我達は自分達の席に戻り、ご飯を食べならが会話を弾ませる。

 その中ですごく印象に残るのが、ベニートの笑顔である。

 普段眉間に縦ジワをつけている印象があり、人相が悪い印象を与えてしまう。

 別に怒っているわけではないのだが、どうしても近づきづらくなってしまって、その事も彼に友達がいない要因の一つとなっている。

 しかし、彼我と、アビラの話にすごく楽しそうに答えている。

 ギャラリーから俺達もベニートと話したいんだが?的な雰囲気が生まれており、このままノリでいけるんじゃね~?と動こうとするが、それでもなかなか腰が引けてしまって動けない。

 そうこうしているうちに、彼我達はご飯を食べ終わり、食器をセルフの流しに持っていくと、そのまま食堂を出る。

 

 「すげー終始ニコヤカだったよな」

 「ベニートってそこまで怖いやつじゃね~のか?」

 「まだ様子見だ」

 

 などとギャラリーからはあ~でもないこ~でもないと会話が弾む。

 食堂を後にした3人は1軍が住む寮に行くと、3軍とは大違いな待遇で彼我は驚かされた。

 

 「なにこれ?」

 

 牢獄を改修して作られた造りは同じなのだが、中身はまったくの別物。

 ホテルのスィートルームを思わせる間取りで、2LKDの10畳、12畳。

 ベットもパイプベットではなく、ふかふかな豪華な造り。

 ベニートは10畳の部屋は寝室にしており、もう一つの12畳の部屋は完全に趣味の部屋となっていた。

 本棚にはぎっしりと日本のアニメコミックスが綺麗に整理されており、ショーケースには美少女フィギアとロボット系プラモデルが組み立てられて飾っており、そのできばえは、ぱっと見た感じ素人が作ったようには思えない。

 後、大きなテレビが壁につけられており、色々なゲーム機がおいてある。

 

 「まじかー!」

 「レギュラーチームに編成されて、ここを使わせてもらうことになった。元々はお前が今使っている部屋だったんだ」

 「じゃあ2軍の奴らも・・・」

 「そうじゃないかな?2軍になった事がないのでわからないが」

 

 嫌味ではなく普通に言われたのだが、まるで嫌味のように聞こえ、少し落ち込む彼我。

 それを見てアビラが、細笑む。

 

 「さて今日お前に来てもらったのは、他でもない。俺と対戦するためだ」

 「対戦?」

 

 ベニートが最新のゲーム機に電源を入れると、ソフトはもう入っているのだろう。 起動画面が立ち上がり、そのままゲームセレクト画面まで立ち上がる。

 そこに、映し出されていたのは、サッカーゲームだった。

 

 「ゲームでもサッカーかよ!」

 「もちろんだ。これで試合感をもっとより深くつかんでいく練習をするんだ」

 「ま、いいけどさ。手加減しないぜ」

 「望むところだ」

 

 2人の世界に入ろうとしたところでアビラが俺もやるーー!と声を上げる。

 2対1でベニートと、アビラコンビで彼我が一人でプレイ。

 パスワークを一人で出来る彼我が始め押していたが、コンビプレイを見せ始め、じょじょに押され始める。

 結果10対8で負けてしまい、今日は散々な日だと彼我は思う。

 今度は3人でマッチングプレイを初め、気がつくと息がぴったりあったように、どんどん点数を重ねていく。

 あまりにも楽しくて何時間もプレイしていた彼我が時間を見ると、すでに夜の1時を回っている。

 

 「やべ。そろそろ帰らないとまずいな。明日の練習に響くわ」

 「なんなら泊まっていけばいい」

 「いいのか?」

 「別にかまわんが?」

 「アニキ俺もいいっすか?」

 「お前は隣の部屋だろう?」

 「アニキ~~~」

 「わかった。泊まっていけばいいだろう」

 

 などとやり取りがあり、ベニートの部屋にホームステイさせてもらった。

 娯楽がそろっているので、久々にハッスルしてしまった彼我はそのまま3時まで楽しんでしまい、寝室を案内されると2つのダブルサイズベットがあった。

 一つ借りることになり、アビラはソファを借りて寝ることになった。

 となりのベットで寝るベニートが話かけてくる。

 

 「また遊びにこい」

 「おう。また近いうちに来るわ」

 

 彼我は一人大きなあくびをさせて、7時にベニートの部屋を出て食堂に朝食を食べにいくと、皆口が声をかけてきた。

 

 「おはよう、どうだった昨日」

 「いや~まじすげーハッスルしてしまってさ」

 「お、おう」

 

 テンション高めな彼我に押されながら話を聞いているとベニートの部屋に泊まってさ~の部分で皆口がギョっとした顔をするがまったく気にした様子もなく、会話を続ける。

 

 「つぎいつ行くか楽しみだわ」

 「そ、そうか」

 

 この後、彼我は自分の知らない所で、あらぬ疑いを持たれていく。

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