04
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それから数週間もやっぱり、俺と彼女の関係はずるずると続いていた。
互いの都合が合うときに会っては、それぞれの大学でキャンパスをぶらついたり、学食でご飯を食べたりした。会う回数が減るとか口数が少なくなるとか、そういう目に見えて分かり易い変化が起こらない分、目に見えない部分を余計に意識させられた。
そしてやっぱり、俺と彼女の中心にあるのは「宇宙」だった。
キャンパスを歩いても、一緒にご飯を食べても、何だか彼女とは宇宙のことばかり話していたような気がする。たとえ他のことを話していても、喩えは悪いけどアリが蟻地獄に落ち込んでいくみたいに、結局話題が宇宙のことへと回帰していく。あの頃の俺たちは競って宇宙のことを話題に上げようとしていたみたいで、後から思うと滑稽ささえ感じるのだけれど。
そうして彼女が宇宙について語る度、俺がそれに大袈裟に相槌を打つ度、自分の中に罪悪の欠片が溜まっていくのを感じていた。
――実は俺、もう宇宙とか何も興味ないんだよね。だから別の話をしよう。
とか、そんな一言を言えればどれだけ楽だったことだろう。
でも言えなかった。それを言ってしまったら、何か大切なものが決定的に壊れてしまう気がしたから。
あるいはそんなものとっくに壊れていて、それをさも壊れていないかのように取り繕っていただけかも知れないが。
とにかく俺は、彼女の前では「高校生の頃の自分」を演じ続けていた。
宇宙を見上げる度、自分の奥底に熱いものを感じることの出来た、あの頃の自分を。
きっと今もその熱を保ち続けている彼女と、どこかで繋がっているために。
「でもなぁ……」
そうやって嘘をついて彼女を騙してから、自分の部屋で寝転がっているとどうしても意識してしまう。
彼女と俺の、時間の擦れ違いについて。
だだっ広い宇宙空間で、孤独な旅を続ける二つの隕石。
「別れ」ってやつを明確に意識し始めたのも、その頃だった。
「宇宙を見るぜー!」
と言って彼女が俺のアパートに乗り込んできたのは、六月の半ばのことだった。
この前彼女が話していた天体観測の実行日である。
ところでこの彼女、自分の身体ほどもある巨大な段ボール箱を抱えてやって来たのだが、やっぱりアレを抱えたまま地下鉄に乗ってきたのだろうか。不審人物と間違われていないか心配になった。
「うむ。雲一つなく天候良好で、本日は良き天体観測日和ですなぁ」
遠慮もなくガラス戸を開けベランダに出て、彼女が手でひさしを作って天を仰ぐ。宇宙のあちこちで星が輝いているのが、肉眼でもよく見えた。
「えー。ではわたしは望遠鏡をセットするから、きみは食糧を調達してくれたまえ」
「え、食糧?」
「そう食糧。今日はきみんちでご飯が食べられると思って、夕飯を抜いてきたのだよ」
「きみは他人の財布にたかりすぎだと思う」
「なにをぅ! 仮にも彼氏ってやつなら、惚れた女の食事の世話くらいしろってんだぃ!」
「そこ、開き直んなよ!」
などと言いながら、結局二人分のカップうどんを作ってしまうのだが。
食べ物を用意してベランダに持って行くと、既に望遠鏡が組み立てられていて、彼女がレンズを覗いていた。
月見うどんですよ、っと洒落を利かせて彼女の分のカップうどんを置き、自分もガラス戸の窓枠に腰掛ける。麺を啜りながら、望遠鏡を覗いている彼女に尋ねた。
「天文学者さん、何か見えましたか?」
「うん。宇宙の星屑どもが死ぬほど見えるよ。宇宙人は見つからないけど」
「まぁ、だろうねぇ。宇宙人ってのはそう簡単には見つからないものだし」
「そだね」彼女は素直に同意し、「そういえばわたしね、ちっちゃい頃、望遠鏡は宇宙人を探すためにあるもんだと勘違いしてた」
「勘違いの多い子供だったんだな、きみは」宇宙人といい、彗星の尾といい。
「想像力が豊かで、信じることが得意な子供だったんだよ」
まぁその分たくさん裏切られたけどさー、と彼女は続けて、望遠鏡を左右に動かした。
「ちっちゃい頃から色々なものを信じてみて、色々なものに裏切られて、でもまだ宇宙には裏切られてないから」
「それが、きみが宇宙を好きな理由?」
「そのとーり。だから、手が届いちゃったらつまんないよね。宇宙も、宇宙人も」
「物好きな性格をしてるんだなぁ」
「物好きじゃなきゃ天文学者なんて目指しませんて」
「それもそうだ」
一心に何かを信じて待ち続けられる、まるで子供みたいな連中の集まりなんだろうか、天文学者ってやつは。
俺は多分、そこまで子供になりきれなかった。
中途半端に大人で、だから中途半端な嘘をついて、中途半端に苦しんでいる。
バイトさんに話せば、「それって一番損な生き方だよ」と笑われそうだった。
「彗星はどこにあるんじゃー!」彼女が望遠鏡を覗き込んで怒鳴っている。「きみもうどん喰ってないで探さんかい!」首根っこを掴まれて、半ば無理やり望遠鏡の前に立たされる。
「どれどれ」
わざとらしい台詞を吐いてレンズを覗いた。たとえその彗星が見つかったところで、だからどうしたって気持ちがあることを、自分でも意識しているのに。
苛立ちと希望をごちゃ混ぜにしたような瞳で宇宙を見上げる彼女は、俺が嘘をついていると知ったとき、一体どんな顔をするのだろうか。
想像するのが怖くて、それでもいつかは言わなければならないとも自覚しているのだが。
「ウッチュージンはどこにいるのかなー?」
手でひさしを作って宇宙を仰ぐ彼女は、もう本来の目的から逸脱しているようだ。まだ手を付けられていないカップを持ち上げて、彼女に言った。
「これ、うどん。食べないなら俺が喰うけど」
「いや、食べる。お腹減ってるし」
望遠鏡を手放して、彼女が俺の隣にすとんと腰を下ろす。そこで彼女は自分の分の箸がないことに気付いたのか、「それ寄越しなさい」ひゅっ。横から手が伸びてきて、まだ食べ途中の俺から箸をかっさらっていった。
「まずいよ、これ」一口食べて、彼女が文句を垂れている。「麺が伸びてるし」
「それは自分のせいでしょうが」
俺は仕方ないので、カップに口をつけてスープごと麺を啜った。味が濃すぎて噎せた。
彼女の方は相当腹が減っていたらしく、あっという間にカップうどんを平らげてしまう。それから動く気力が失せたのか、望遠鏡から鏡筒を取り外して、それを手に部屋に寝転がった。
他人の部屋で大の字になって鏡筒で宇宙を覗くという、遠慮の欠片もない態度。
「うーぁー。ウチューが、見えーるー」
言葉まで怠惰に引き延ばして、彼女が呟いている。そのまま眠気に引き摺られてしまいそうな、曖昧な口調だ。
そうやってしばらく鏡筒を弄んでから、ふと彼女が言った。
「あの、さー」
「なに?」
「……………………」
ごろん、と怠そうに寝返りを打って、彼女は何かを言い淀む。神妙な表情でもぐもぐと唇を動かしてはいるものの、それが言葉の形となって出てこないようだ。
そういえば前にも同じようなことがあったな、とふと思い出した。
あのときも今も、彼女は一体何を俺に伝えたいのだろうか。
「……別に、何でもねぇよー」
そして結局、答えは先延ばしにされる。無理に聞き出すのも気が引けて、俺の方も「そうかよー」と彼女の雰囲気に流されてしまう。
そうやって誤魔化していられるうちは、それでもいいんだろうけど。
いい加減に限界が近いなということを、頭のどこかで感じていた。
「とぅりゃー」
気のない掛け声と同様に力のない球が、ぽーんと青空を跳ねる。落ちてくるボールをグラブでキャッチして、投げ返す。力が入りすぎていたのか、俺の投げたボールはバイトさんの頭を越えて空き地の隅まで飛んでいってしまった。
「加減しろよばかー!」と叫びながらひょこひょこ球を追いかけるバイトさんを見て、ふと疑問が浮かんだ。
だからその日、バイトさんとのキャッチボールに付き合ってから『宇宙屋』に寄り道して、そこで尋ねてみた。
「バイトさんって、どうしていつも一人で壁当てしてるんですか?」
『宇宙屋』の店の前には、どこで手に入れたのか不明なコカ・コーラのベンチ(もちろん薄汚れている)がある。そこにバイトさんと二人で座って麦茶を飲みながら、そう尋ねた。
いつも通り『宇宙屋』には客なんて誰もいなくて、照明の切れかかった店内は薄暗かった。
「それはきみ、わたしに友達がいないことを自虐しろと言っとるのかね」
「ぁいや、そうじゃなくて」てか、やっぱり友達いなかったのか、この人。「一人で壁当てとかしてて、面白いのかなぁと疑問に思ったから」
「いや、面白いわけねぇだろ」バイトさんの答えは簡潔だった。「でも、たまにきみみたいにバカなお人好しがやって来て、キャッチボールに付き合ってくれると、まぁそれなりに面白い」
「はぁ」
「いわば釣りだね、わたしのやってることは。糸垂らして、通りかかった奴を釣ってキャッチボールをする。大学卒業してから五年間、ずっとそんな生活だよ」
「五年もですか……。何と言うか、優雅な生活ですね」
「たりめーだろ。こんな客もろくに来ねぇような駄菓子屋で店番してるんだからさ」
ずずー、とバイトさんが麦茶を啜る。何だか貫禄があるように見えてしまったのだが、これは目の錯覚だろうか。
「でも、意外といたよ。きみみたいな奴」とバイトさん。「この五年間、わたしのキャッチボール道楽に付き合ってくれたお人好しは、結構多かったわけ」
「そうなんですか」
「あの空き地裏のアパートの住人ばかりだったけどね。きみと同じように、ほとんどが新入りの大学生。もっとも、別のアパートに引っ越したり大学卒業して実家戻ったりで、今はもう会いたくても誰とも会えないけど」
「一期一会のキャッチボールなんですね」
「そう。だから時々思うよ。連中がびゅんびゅん自分の人生をやってる中、わたしはずーっとこの場所に停滞しっぱなしでバカみたいだー、てね」
このお店とおんなじだよね、とバイトさんは付け加えた。
この人はよく「人生は隕石なのだー」とか言っているけど、それはもしかするとこの辺りに起因するのかも知れない。
自分に近づき、擦れ違い、過ぎ去っていく無数の人間をこの場所から見ていたから。
それはきっと、隕石のように。
「そういやさ、きみ、このお店がどうして『宇宙屋』って言うのか知ってる?」
「いや、知りませんけど」
「うむ。これはボケる前のバアちゃんが言ってたことだから、どこまで本当か分からないけど、たくさんの隕石が集う場所にしたかったんだってさ、ここを」
「たくさんの隕石?」
「そう。まぁ人間つってもいいけど、そっちの方が洒落てるじゃんか。だから『宇宙屋』なんだって。昔は近所の子供とかで、結構賑わってたらしいけどね」
「隕石の集う場所として?」
「うん。もっとも今じゃこの有様だけどね。お婆ちゃんの駄目だったところは、変われなかったとこだよ。十年前のオモチャ売ったって売れるわけないもん」
ずずー。またバイトさんが渋そうに麦茶を啜る。
振り返れば、『宇宙屋』のくすんだガラス窓、傾いだ看板、薄暗い店内。時間に置いてけぼりにされた駄菓子屋は、そこに存在しているだけで見る者に痛みを与える。
生きるためには変わらなきゃー、とか、そういうことを実感させられるからだ。
「ということで、ほれ、停滞しているきみにプレゼント」
バイトさんが何やらごそごそと取り出してくる。ので、受け取る。
「何ですかこれ?」
「三年前のうまい棒だよ」
「いらねぇよ!」
バイトさんに投げつけた。
時間に置いてけぼりにされたものは、いらない。
バイトさんに『宇宙屋』の由来を聞いたその日の夜、電気を消した自分の部屋で、ベッドに寝転んで考えた。
俺と彼女の関係について、そして俺が何を為すべきかについて。
高校の頃、俺と彼女は同じ「宇宙」を見つめていた。手の届かないものに憧れて、掴んでやろうと手を伸ばして。
しかし、そのオーバーラップは長いことは続かなかった。
俺と彼女は別々の大学に進学して、別々の生活を始めた。互いの知らない場所で、互いの知らない人間と関係を結んだ。
だから、それまで確かに重なっていた二人の部分がズレて、俺と彼女の時間は擦れ違いを始めた。
それに、宇宙だって。
この一年で俺の中にあるものは確実に変成した。宇宙ってやつを目指すことに、何の意義も見出せなくなってしまったのだ。彼女に誘われてプラネタリウムを見たとき、一緒に天体観測をしたとき、それを強く感じた。
そのことを彼女に悟られまいと、今日まで嘘をついてきた。
宇宙のことをたびたび話題に挙げる彼女に合わせて、さも自分も宇宙に興味があるかのように装ってきた。その度に、きらきら目を輝かせている彼女に対して後ろめたい部分を抱え込みながら。
いつか本当のことを話さなければならないと、自覚はしていたけれど。
話して関係が変化してしまうのが怖くて、結局ずるずると嘘つきを続けてきた。
「……分かってたけどさ」
本当はとっくに、俺と彼女の時間は擦れ違っていたんだってことを。
多分、俺がそんな嘘に縋らなければ関係を保つ自信がなくなった、その時点から。
きっと俺と彼女は、擦れ違った後の二つの隕石なのだ。
そしてもちろん、そんなことは誰の人生の、どんな過程でも当たり前のように起こっていることで。
強く閉じた瞼の裏に、時間に忘れ去られた『宇宙屋』の姿が浮かび上がった。
その惨めな光景に、ああなるわけにはいかないと強い拒絶が生まれる。時間に置いてけぼりを喰らうわけには、いかない。
だって、俺も彼女も生きているんだから。
「だから」
俺のすべきことは、一つだけだった。
その翌日、俺は彼女に電話を掛けて、話したいことがあるから会いたいという旨を伝えた。
しかし、そこで予想外のことが起こった。
「実はね、わたしにもあるんだよね。きみに、話しておかなきゃいけないことが」
その日の午後、彼女が俺の部屋にやって来た。
俺の部屋に入った彼女は、明らかにいつもより元気がなかった。挨拶も細く「こんちわー」程度で、それきり黙って俺のベッドに腰掛けている。
その時点で、彼女の話というのも吉報の類ではないということを察した。
彼女が黙ったままなので、俺はとりあえず冷蔵庫から麦茶を出してきて、彼女に出してみた。
「ありがとう」
お礼さえも普通すぎて、何だか気持ち悪い。というか彼女が俺に「ありがとう」なんて、普段は絶対に言わない。一気に飲み干して「あーそこのきみ、もう一杯出したまえ」とか言うのが彼女流なのだ。
しかしそれについて言及はせず、自分の分もグラスに注いで彼女の隣に腰掛けた。
ベッドに並んで、二人。正面の液晶テレビに、俯く彼女と困惑する俺のツーショットが映っている。
「で、話というのは」
放っておいたら永久に話し出さなそうなので、水を向けてみた。俺の方の話は、とりあえず後回し。
ちなみに俺は、とりあえず今まで嘘をついていたことを謝って、これからのことについて話し合おうと思っていたのだが。
「……うん」
そしてやはり、彼女は歯切れが悪い。そんな様子に、今まで何度か彼女が「あのさ、」と何かを言いかけて結局何も口にしなかったことを、思い出した。
「何か、あんまり良くない話?」
「まぁ、良くないよね。少なくとも、きみにとっては」
「どんな話でも、ちゃんと聞くつもりはあるけど」
これは嘘じゃない、はず。それだけの積み重ねが、俺と彼女にはある。
彼女が「じゃあ言うけど」と前置きして、それからもう一度口ごもる。
そして何を思ったのか、何の前触れもなくぐいっと、顔を俺の方に向けてきた。
「ねぇ、こっち見て」
「え?」
「いいから。目を見て」
そう言われて、俺も彼女に向き直る。ベッドの上で見つめ合う二人。かなりアレだが、冗談にして笑い飛ばす余裕はなかった。
至近距離で見つめた彼女の瞳には、真摯な色が灯っていた。
その黒目の中に、困惑した俺の間抜け面が浮かんでいる。
「あのね、」
そうして、彼女は言った。
今度は躊躇なく堂々と、真面目な顔色で、俺の脳髄をぶっ叩くのに充分すぎる一言を。
「わたし、留学することにした」
その瞬間、彼女の言っている言葉の意味を理解できなかった。
ワタシ、リュウガクスルコトニシタ。それがあまりに不意打ちで、俺が全く予想もしていなかった内容だからというのも、もちろんある。
それから彼女が、釈明のように話していた理由は、ろくに記憶していなかった。
ヤッパリワタシ、ホンキでテンモンガクシャにナリタイし。ソノタメには、セマいニホンなんかにトジコモッテちゃダメだなって。とにかくイチド、カイガイのフンイキってヤツをカンジテみたいから。ベツにキミのコトがドウコウってワケじゃない。ジブンがイマ、ドウシタイかをホンキでカンガエたら、こういうケツロンになったの。
だくだくだく、と彼女の唇から見えない言葉の洪水が流れ出す。その水に巻かれて、今にも窒息してしまいそうだった。
そういう可能性がないと、完全に信じ切っていたわけじゃない。
それでも彼女が留学って、留学って。
つまり、それは。
実質的に俺と会えなくなるってことと、別れるってことと同義じゃないか。
自分だってそんな話をしようと決意していたくせに、彼女の方からそれを切り出されたときの俺は、ただ惨めの一言に尽きた。
彼女の話に対して、まともな相槌を打てたかどうかさえ自信がない。
そんなことを言われて始めて、今さらのように、自分がどれほど彼女のことを好きで、一緒にいたいと願っていたのかを思い知らされた。
もう、遅すぎたけど。
その日、俺は自分がついていた嘘のことを打ち明けられないまま、彼女を部屋から見送った。
そして結局、俺の嘘を彼女に話す機会は、永遠に失われることになったのだ。
その日、彼女が留学すると打ち明けてから、俺たちはほとんど現実で会わなくなった。
数週間後、彼女が正式にイギリスへ留学することが決まり、その旨がメールで俺にも知らせられた。どう返信していいか分からず、結局『良かったね』の一言で済ませた。
その数日後、やるべきことをやっておこうと彼女から電話が来て、俺たちは正式に別れることになった。
最後は電話で声だけの、呆気ない終わり方だった。
結局それ以来、彼女とは連絡を取っておらず、顔を合わせてすらいない。いつ彼女がイギリスへ旅立ったのか俺は知らなかったし、イギリスでの連絡先も当然、知らなかった。
そして、彼女がいつか語っていた夢を実現して、天文学者になれたのかどうかも。
俺が人生で初めて愛した人との恋は、きっと互いに痛みだけを残して、静かに終わった。