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プロローグ
六月某日。
頭から光を反射させた教授が熱弁を振るっている。
ウェットに富んだ素晴らしい御託を並べ、さもこの世の理であるかのように唾を飛ばしている姿が大変涙ぐましい。
この広い教室には勤勉に学ぶ者、携帯ゲームに勤しむ者、夢の中に旅立つ者など、思い思いの行動を取る者で溢れている。
俺は教室内の最前列に腰掛け、このように辺りを観察しながら眠気を堪えていた。大学生になってまで出席率を気にする羽目になるとは全く馬鹿馬鹿しい。
「詭弁について正しく理解できましたか? そこの君、簡潔に例を述べてみてください」
俺に焦点を当て答えを待ち望む教授に向け、ノートの走り書きを読み上げてみる。
「未来はわからない、ならばわからない事とは未来である」
「正解です。未来はわからない物ですが、未来以外にもわからない事は沢山あります。わからない物が全て未来の事であるとは言い切れないわけですね」
俺はノートに書き込まれた走り書きに取り消し線を引き、新しく文言を書き込んだ。
『未来だけわかれば十分である』と。