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リセットボタン【hack to brain】-3

朝の九時半だろうか。微睡から目が覚めた時のこと。

トントン。ドアを叩く音がした。

『葵さん、お見舞いに来たのですが、入っていいですか?』

 私の友人だろうか。医者曰く記憶喪失なので、妹以外誰も知ってる人はいない。

『はい。どうぞ』

入ってきたのはスーツ姿の男だった。親戚の人だろうか。

『初めまして、わたくしはとある会社の黒崎咲人と言う者で、先日、貴方は赤いボタンを押しましたよね?』

わたしにとってはこの世界ではない世界を知ってる事に度胆を抜かれた気分で声を出そうとしても出なかった。しかも、ボタンの件についても知っているこれは一体何事だろうか、ひょっとしてまだ夢の中なのだろうか。

『これは失敬、これをどうぞ』

 渡されたのは一枚の名刺だった。

【時空オルタネートスイッチ会社(株) 社長 黒崎咲人】

『…………』

ますます分からない。時空オルタネートスイッチって何ぞコレ。もしかしてコレが白昼夢ってやつ。

『幾つか質問していいですか?』

『どうぞお構いなく』

わたしは一番気になるボタンを押す前の世界について聞いてみる事にした。

『あのボタンは何?あの底に書いてある【リセットボタン】は何ですか? そもそもここはわたしの夢の中ですか?ここはどこ?どうしてアパートの部屋から出られなかったの?それにわたしの名前は葵じゃなかったような』

『最初の疑問からお答えしましょう。貴方の押したボタンはわたくし共、時空オルタネートスイッチ会社が開発した『人生やり直しボタン』と呼ばれるもので、商品名でリセットボタンと言うモノです。次にアノ世界もコノ世界も本物です。アノ世界で貴方は孤児院育ちで無意識に家族が欲しいと思ったから、貴方に家族のいる世界に導いたのです。つまり、貴方はわたくし共の実験対象者になったのです。貴方は貴方の時空系列で言うと昨日の夜0時に貴方の部屋は【閉鎖空間】になったのです。わたくし共では12時間、人を閉鎖空間に閉じ込めるだけで、ボタンを押すか押さないかは個人の権限にお任せすることしかできません。もしボタンを押さなかった場合、12時間後に部屋から出られたでしょう。しかし、12時間と言っても、体外時計ではなく、貴方の体内時計だけが経過するので、押さなかったら、閉鎖空間に閉じ込められた、と言う事が夢であったと言う結論になるでしょう。最後の質問についてはお答え出来ません。何故なら、貴方はボタンを押してしまったので、ボタンを押す前の貴方ではありません。一つの身体に二つの名前は必要ない。ね、望月葵さん』

咲人と言う社長の言う事は理不尽だけれど正論な言い回しだった。だけど、勝手に人を実験モルモットのように扱わないで欲しい。まぁ家族がいる世界も悪くないかもしれない。と思いつつ、咲人の話を聞いていた。

『結論ですが、少しばかり『リセットボタン』実験にミスがありました。本来ならボタンを押す前の前世の記憶は消えていて、葵さんの記憶だけが残っていなければいけません。私がやってきたのは前世の記憶を消すことです。』

『あの…ちょっといいですか?その肝心の記憶の消し方と言うのは、またボタンを押せ、とかじゃないですよね?』

咲人は持ってきた鞄から一つのモノを取り出した。それは注射器のようだが、針がない。

『いや、そのまさかですよ。このボタンを押せば三日で葵さんの記憶に変わり、今の人格や記憶は消えますよ』

言われるままに、咲人が取り出した黄色いボタンを躊躇いなく押した。

『ほら。これで大丈夫。記憶は三日で貴方の記憶は完全に葵さんの記憶に変化しますよ。けれど、貴方の人格や性格は消えないので、ご安心を。まぁそれまでは前世の記憶に関する記憶はたとえ家族であろうと口外しないでくださいね。言い方によってはこの世界の物理法則を歪めてしまう危険性があるのでね、では、さようなら』

と言って部屋から出ようとした。

こっちから言わせれば、あんたら時空オルタなんとかが物理法則を歪めてるんじゃないか、と思ったが、無粋な質問になりそうなので止めておいた。

『あの…最後にどーでもいい質問ですが、その、時空オルタなんとかって会社の目的は何ですか?』

『企業秘密♪』

バタン、と勢いよく扉を閉めてどっかに行ってしまった。


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