リセットボタン【hack to brain】-15
2014年2月5日7:20 –蔵人Side
『つ…着いたぁぁぁぁ』
『長かったね、わたしはてっきりまさか夜になるとは思わなかったよ』
私たちは終着点の磐梯町駅まで着いた。たけど、そこからが体力的に疲れたと言っていいほどくたくたになるまで猫魔ヶ岳歩いた。何しろ車で20分の道を歩いたのだから。
研究所は猫魔ヶ岳の登山道入り口から少し歩いたところに池があり、一センチほどの指紋認証スイッチが草むらに隠されている。それを押せば、地下への扉が開き、階段を下りる。
正直、言うと、偽物世界に研究所があるとは由紀さんのメッセージが届くまで、私たちの研究所なんてあるなんて思いもしなかった。
草むらをかき分けスイッチを探す。そこにそれはあった。
『ここだな』
私は人差し指を指紋認証スイッチに触れる。
ガクンと目の前の地面が割れ、階段への扉が開かれる。
『なんか、組織の秘密基地みたいだね』
此戸葉は目を丸くして、興味津々の様子で早く入りたいような素振りを見せていた。
『ここは全部、此戸葉のお母さんが作ったんだよ』
『わたしのお母さんは天才科学者系?』
『まぁそんなとこだよ、じゃ行こうか』
私と此戸葉は階段を下りていく。私は現実世界で少し前までここにいた。けれども、私は多少の緊張感に襲われていた。由紀さんは脳がないため、ハックはできない。由紀さんは一体、どんな姿で迎えてくれるだろうか。
長い階段の末、辿り着いたのは、数時間前に現実世界にいた研究所が存在していた。
違う点と言えば、本棚に置いてあった資料がなかったのと、由紀さんのパソコンが数台消えていたこと、ブレインハックマシンの代わりに丸い台がある謎の機械が置かれていたこと。
『カッコいい…ここが相葉君が過ごしてきたところか!』
『それはともかく、由紀さんはどこにいるのかな』
此戸葉は謎の機械のやたらデカい赤いボタンを押した
『ポチっと、これは何かな?』
『此戸葉―、勝手に弄っちゃまず・・・』
言いかけた瞬間、その台からホログラムで由紀さんが現れた。
『久しぶり、相葉君、そして、ここの世界じゃ初めましてかな?、此戸葉』
『由紀さん…。』
『えっ…お母さんなの!?』
由紀さんはハック前の白衣の服装で此戸葉は初めて見るお母さんに驚いていた。
『そうよ、私は折月由紀。私は折月此戸葉のお母さん』
此戸葉はそのホログラムに手を伸ばすが、空気を切るようにその手はすり抜ける。
『お母さん…』
此戸葉は物凄く悲しそうな顔をしていた。初めてあったお母さんに触れられないなんて、どんなに辛いだろうか。
私はとっさに此戸葉を抱きしめた。
『此戸葉、大丈夫、ブレインハックを成功させれば必ず実体のお母さんに会えるから』
此戸葉は必至で涙を堪えて、泣くのを耐えていた。
『此戸葉、ごめんね、こんな姿でしか会えなくて…』
由紀さんも酷く哀しげな表情を浮かべていた。
この世界は偽物だ、完璧に作られているようで、完璧じゃない。
『由紀さん、私たちが戻ってきたら、成功祝いに盛大にパーティでも開きましょうよ』
『それは良いわね、相葉君と此戸葉の結婚パーティーをねぇ…』
由紀さんは苦笑いで恥ずかしいことを軽く言ってのけた。
『だから、違いますって、まぁ此戸葉とはそんな関係ですけども…』
『エッチな関係でしょ(笑)』
自分で言って、由紀さんは大笑いしていた。
『アレ、知ってたんですか!ごめんなさい』
『そうなの!適当言ったんだけど図星だったとはねぇ!』
『あ、あははははははははは、腹が痛いよぉ、腹筋がおかしく、なりそ…う…あははは』
私と由紀さんの会話がツボに入ったらしく数分間は此戸葉は大爆笑状態だった。
『それはそうと、二人とも疲れてるでしょ。何も食べてないなら、アノ、冷蔵庫に食料送るけど、何がいい?』
由紀さんは部屋の隅に置かれた緑の冷蔵庫に指を差す。
『『ピザ』』
此戸葉と私の言葉は丁度ハモった。
『あっ今二人ともハモったね!!』
どうやら偽物世界でも本物世界でも、好物は同じらしい。私はちょっと嬉しかった。
お互いピザを食べ終わり、私は由紀さんに今後の予定を尋ねた。
返ってきた答えはこうだった。
『まぁとりあえず詳しい話は明日しましょう。今日は早く寝たほうがいいわ。じゃ私も寝ることにするよ。』
と言ってホログラムは消える。
此戸葉は疲れ切っている様子でソファーでうたた寝をしている。
『此戸葉、寝ようか』
『うん』
けれども此戸葉は生返事だけして、今にもソファーで寝てしまいそうだ。
私は此戸葉を抱き上げた。
『えっ…わたしは今、相葉君に…』
此戸葉は私の腕でジタバタするが無理やりベッドに寝かす。
私も当然のようにそのベッドで寝ようとする。
『相葉君も一緒なの?』
『そうだけど、何か問題でも?』
私は疑問形を疑問形で返す。
『だって、私は相葉君と一緒に寝るなんて恥ずかしいよ』
『でも、現実世界では一緒に寝るなんて当たり前だよ』
と私はそれが当たり前のように言う。
『うん。分かった』
背中合わせで此戸葉は小声で頷いた。
1時間後
『相葉君…寝てる?』
『いや、起きてるよ』
私は久しぶりに此戸葉の背中合わせの温もりを感じて、なかなか寝付けないでいた。
『一ついい?私と相葉君はどんな関係までいってるの?よくABCとかあるじゃない?』
此戸葉は私たちの関係について直球で聞いてきた。
『それはヒ・ミ・ツ♪元の世界に戻れば分かるよ』
『相葉君のいじわる、もうキスしてあげない』
此戸葉はふてくしながら、私の背中に触れてきた。
数分後に此戸葉は私に話しかけてきた。
『キスがしたい』
やっぱり此戸葉はツンデレだけどデレデレの要素の方が多いかもしれない。
『良いよ』
私たちは軽い口づけを交わして、眠りに付いた。