リセットボタン【hack to brain】-11
2014年2月5日10:02 -蔵人Side
私が此戸葉の脳にハックして、12時間が経過した。私は此戸葉が真実を聞いたら、きっと落ち込むと思っていたが、それは違った。
真実を話したのは、偽物の世界でも好きだった私だったからだ。私以外だった場合、きっと此戸葉は絶望の淵に陥っただろう。
此戸葉に現実の世界を話したら、此戸葉は少し嬉しそうな顔を浮かべては、本当の世界の記憶がない事に淋しさを感じ、時折泣いて、その度にキスをしてはの繰り返しで、それも私は現実の世界について沢山沢山話し聞かせた。此戸葉も同じくこの世界の事であった事を有りのままに話してくれた。
結局寝たのは朝の四時半。
ついさっき起きた時に日めくりカレンダーを見たら2014年だった。この2月5日は丁度、由紀さんがブレインハックマシンで私を送り出してくれた日でもある。
現実の世界では私たちは高校三年で同じ大学に合格して、初めてお互いの好きと言う気持ちを知った日だった。この世界では私は画家を目指してパリに留学するという事になっていたらしい。今の私には絵など描ける訳もないため、パリなど行く意味などない。当然ながら、この世界は偽物と判断しているため、進路など考える必要性はないという事だ。私はここではこの九年間はなかった事にされ、この日付を見て、この世界では現実の世界とリンクしている可能性もあると私は推測した。
『此戸葉の脳の中では擬似的に記憶を操作する事で、精神崩壊が起こり、時間の流れがおかしくなっている可能性も否定できない、最悪な事態は相葉君ごと時間のループに引き込まれる危険性もある。』
前に由紀さんが私に警告した言葉だ。それは案外当たってるかもしれない。現実世界の脳内時間は人それぞれと言うように誰にも計測出来ないように、ここの世界で時間のループが発生しようが、記憶は上書きされ、誰にも分かるはずはないだろう。人は時間と言う壁は現段階では破れない。此戸葉の未来視がボルケーノオーシャンのタイムマシンの鍵だと言う事は由紀さんに教えてもらった。だけど、タイムマシンはタイムマシンが作られた以前の時間にはタイムトラベルは出来ないと言う事らしい。どんなに科学が発展してる未来でさえ、祖父殺しのパラドックスが邪魔して現時点では事実上の不可能と言う見解を出している。だが、機関の奴らは私と同様に未来からブレインハックを行ってる
しかし、ブレインハックとタイムトラベルとは似ても似つかない、と由紀さんは言ってくれた。
ブレインハックは人の意識に入り込むことで、それは一般人にも通用するが、その意識は此戸葉のように完全にネットワークに繋がっていないため、ハックで侵入した場合、シーラス空間と呼ばれる白い筋状の雲がまばらに存在し、それに吸い込まれたら最後、記憶の死=リアルの脳死、と言う扱いにされるらしい。
つまり、ブレインハックが通用するのは脳が剥き出し状態で完全にネットワークに繫がっていない人のみ通用する事だ。
此戸葉の場合は記憶データが完全で存在する前代未聞の異例のケースらしい。ボルケーノオーシャンは世界中の何百人と言う人を意図的な事故死として実験体に使用してる事も由紀さんから聞いた。
その機関も此戸葉の脳または、他人の脳に世間体で非公式に時間の壁を越えたブレインハックを行ってるという事だ。
確認すべき事を思い出した。由紀さんのくれた携帯もどきが上着の内ポケットに入っていた。普通に見れば折り畳みの携帯だが、ボタンなく、まるでipodのような操作式の形をしていた。一応、どうやって使うかを調べなくてはならない。操作画面には、『受信、錬成、シールド、ワープ、ループ、リセットetc.』と言う項目がある。他にも意味が分からないのも幾つかある。その時、受信の画面に切り替わり、文字が表示された。
【君たちは学校に通っていないという設定にしておいた。私たちの研究所に向かえ。設備のある程度は復元しておいた。そこは、誰ひとり侵入出来ない魔術の防御壁でで出来ている。調べものをするなら、一番安全だ。それに、そこには私もいる。(折月由紀)】
(なんだ、由紀さん、魔術使えるじゃん…。それに由紀さんはどうやってここにハックしたのかな)
ほくそ微笑んで、それを読んでいたら、どうやら此戸葉が起きたようだ。
『うーん、今何時?太陽眩しい、目がぱちぱちするよぉ』
まぁ此戸葉は朝が苦手な体質だから、いつも寝坊する。まぁ寝たのが4時半だから仕方ないか。
『11時だよ。ちょっと遅い朝食をパスタ作ったから食べようか?まぁ昼食に近いけどね』
『11時!!学校遅刻だよ…』
『昨日も話したけど、ここは偽物で、学校に行く必要はないんだよ。本物の世界に戻れば、全てなかった事になるからね…』
此戸葉もその事を思い出したらしく、それでも困惑している。
『それよりも学校から電話掛かってこなかった?』
いまいち納得がいかない様子な此戸葉に、私はこの画面を見せた。
『何々、学校に行かないように設定しておいた…、えーっと研究所?えっコレ、お母さん!!!!』
『そうらしいね。これは、由紀さんが私にくれたものだけど、イマイチ使い方が分からなくて、この機械を調べてたら、いきなりこの文字が表示されたんだよ』
此戸葉は興味津々でこのよく分からない機械を見ていた。
『お母さんに使い方とか教えてもらえなかったの?あと研究所って福島県の山奥にあるって言うお母さんと相葉君がプログラムの解析とかハックマシンとか作ってた施設だよね』
『それが[困った時に役に立つ]だけ言って、使い方は教えてもらえなかった…、そうだよ。そこの研究所に由紀さんがいるらしいから、これを食べたら行ってみようか?』
『うんっ♪』
此戸葉は満面な笑顔で頷いた。