山の神様
小さな村が山の麓にあった。
その山からの自然の恵みによって村人は生きてきた。
毎日、山の神様に感謝をしながら生きてきた。
その村の一軒家に1人の女の子と老夫婦が住んでいた。
『さぁ、アズミちゃん、そろそろ寝ましょうか』
『はぁい。ねぇ、おばあちゃん、何かお話して』
女の子の名はアズミ。
アズミは寝る前に聞くおばあちゃんの話が大好きな子供だった。
『そうだねぇ、今日は山の神様のお話にしようか』
アズミは好奇心いっぱいの目をして布団の中に入りおばあちゃんの話を聞いた。
むかし むかし
あるところに豊作が続いて豊かな生活を送っている村がありました。
その村では食べ物がいっぱいあるからキライなものは食べ残し、
食べきらないほどいっぱいのご馳走を作っても捨てていました。
それを見ていた山の神様は、村に山から水が流れないようにしてしまいました。
すると、今まで続いていた豊作が嘘のように作物は枯れ果ててしまいました。
いよいよ食べる物がなくなってきた村人たちは山の神様にお願いに行きました。
『山の神様、どうか水を分けていただけませんか。
このままだと私たちは食べる物がなくなって皆死んでしまいます』
村人たちは泣きながら山の神様にうったえました。
『お前たちは今までたくさんの食べ物を捨ててきたではないか!』
山の神様は怒っていました。
『今までのことは反省しています。これからはもうしませんのでどうか』
村人たちは必死にお願いしました。
すると山の神様は少し考えてからこう言いました。
『お前たちの中で一番器量の良い娘を差し出せ。
一晩時間をやる。明日の晩にまたここに来るがよい』
そう言って山の神様は木の葉とともに消えました。
村に帰った村人たちは話し合いました。
『一体どうしたらいいんだ・・・』
『もうあきらめるしか・・・』
『酷い神様もいたもんだなぁ・・・』
出てくる言葉は絶望に満ちていました。
その時、
『お父さん、わたしが行くよ』
そう言ったのは村長の娘のアズサでした。
『わたしが山の神様のとこ行って皆を助けるから』
『だけどアズサ・・・』
『ううん。お父さん、もうこれはわたしが決めたことだから』
次の日の晩にアズサは山の神様のところに向かいました。
本当は怖くて怖くて行きたくなかった。
泣くのを我慢して歩いた。
今まで楽しかった思い出がいっぱい頭に溢れてきた。
また泣きそうになった。
我慢して歩いた。
お父さんとお母さんの顔を思い浮かべた。
我慢していたハズの涙がこぼれた。
歯を食いしばって歩いた。
空を見上げたら、夜空いっぱいに星が光っていた。
アズサの顔に涙と穏やかな微笑みがこぼれた。
『おぅ、来たか』
山の神様がアズサの前に現れました。
『それでそれで、アズサはどうなったの?おばあちゃん』
アズミは寝るどころかすっかり目が覚めてしまったようだ。
『まだ眠れないの?仕方ないねぇ、もう少しお話しましょうか』
おばあちゃんはゆっくりと続きを話はじめた。
『おぅ、来たか』
山の神様がアズサの前に現れた。
アズサは怖くて立ったまま何も出来ませんでした。
山の神様はアズサに近づいて
『そう恐がるな。取って食べたりせんよ』
そう言いながらアズサの頭を優しく撫でたのでした。
山の神様の優しい気持ちがアズサの心の中に入っていきました。
そして山の神様とアズサは山の奥へと消えていきました。
村には水が戻り、また元気な作物が育っていきました。
村人たちはアズサに感謝をしながら生きていきました。
『山の神様の嫁様』
それからの村人たちは食べ物を粗末にしないようにしました。
めでたし めでたし
『めでたし めでたし』
おばあちゃんは優しく言葉を締めた。
そして
おばあちゃんは優しく言葉を発した。
『で、終わらないの!』
言い終わった瞬間におばあちゃんの目がギョッと見開く。
アズミは驚いて布団の中に潜る。
少ししてアズミが布団から顔を出した。
『おばあちゃん、終わらないの?どうなるの?』
おばあちゃんの顔は優しい顔に戻っていた。
『この続きはね・・・』
それから10年の月日が経ちました。
村人たちは毎年の豊作に浮かれていました。
10年前のことなどすっかり忘れて楽しい生活を送っていました。
『見ろアズサ。これが人間だ』
山の神様の持っていた筒を覗くと村人は10年前のように、
食べ物を残し、腐らせ、持て余し、捨てていた。
山の神様と一緒に暮らして自然の大切さを知ったアズサは悲しくなりました。
『これが人間・・・これが以前のわたし・・・』
アズサはガクリと膝を折り涙を流しました。
涙を流しながらアズサはしっかりとした口調で言いました。
『山の神様、潰しましょう。この腐ったゴミどもを・・・』
『だが、お前の父母も子供もいるぞ』
『そんなの関係ありません。ゴミに同情などいりませぬ』
山の神様はその言葉を聞くと口の端を上げて笑いました。
下品に響くその笑いは狂喜に満ちていました。
『うぬの望み賜った!』
声高々、山に響き渡りました。
山の神様は10年前と同じように村に水が流れないようにしました。
今度も村人たちは山の神様のところにお願いに行きました。
しかし、そこにいたのはアズサでした。
『アズサか、アズサ元気か?』
アズサの父が話かけました。
アズサは何も答えませんでした。
『お前からも山の神様に言ってくれないか』
『お父さん、わたしは悲しいです』
『山の神様がまたワシたちを苦しめる』
『そうじゃない!身勝手な人間を・・・わたしたちを正しい道に導いてくれてるのよ!』
そう言うとアズサは涙を流した。
すると木の葉と一緒に山の神様が現れた。
『さぁ、今度は何を差し出すのだ』
怒りに満ちた語気だった。
その強さに村人たちは後退りした。
アズサの父は怯え、目を瞑りながら言いました。
『また1人・・・献上させていただきます』
『また同じこと繰り返すの!
ねぇ、そろそろ目を覚ましてよ!こんなの意味ない!』
アズサは父に向かって叫びました。
だけどその言葉は届きませんでした。
『これ以外・・・ワシらは知らないんじゃ・・・』
『はっはっは!それもよかろう!
それではまた明日の晩ここに来い。行くぞ、アズサ』
山の神様とアズサは木の葉と一緒に消えました。
アズサの父は、うつむきながら呟きました。
『これしかないんじゃ・・・すまん・・・』
こうしてまた悲劇が繰り返されました。
何度も何度も人間は悲劇を繰り返していきます。
この後、山の神様とアズサと、もう1人の女の子がどうなったのか誰も知りません。
『・・・誰も知りません。おわり』
おばあちゃんが話終わる頃にはアズミは寝ていた。
おばあちゃんはアズミの頭を撫でた。
どこまでアズミが聞いていたかは分からない。
だけど夢と現実の間でアズミがそっと聞いたのは、
『アズミ・・・明日は山の神様に会いに行くよ・・・
さぁ・・・おやすみ・・・』
The end
初投稿になります。
未熟者ですがよろしくお願い申し上げます。
~作品について~
4時間程度で書き上げた作品です。
本当は「食べ物の大切」を訴えたい童話風の物語にしたかったのですが
「どうしてもオチを作らないと気が済まない性格」らしくこんな作品に仕上がりました。
前半の力不足が目立つのでもっと頑張らないと。