魔法使いは素寒貧
魔法使い、それは呪文を唱え操る人間の総称。
使える魔法の数、練度、威力、秀でるものが多いほど優秀。
質のいい杖を媒介に自信に宿る魔力を操り、魔法を繰り出す。
魔法使いの基礎だ。
杖を振り、魔法を放ち、様々な魔法が交差する。
魔法を研究し、新たな魔法を作り出す。
魔法使いにとって研究は自身の成長だった。
というのははるか昔の話。
現在の魔法使いは杖を持たず、代わりにいくつもの水晶を携えて、研究ではなく採掘にいそしんでいた。
「──全ッ然、見つからない!」
ランプを片手に、もう片方の手にはつるはしを持ったとんがり帽をかぶった魔法使いの少女の声が、洞窟の中を反響する。
あたり一面はごつごつとした岩で、特徴の一つもない。
「なにが新しい洞窟よ……魔法の一つも見つからないじゃない」
手に持っていたつるはしを地面にたたきつけて地団駄を踏む。
なぜ少女がこんな装備で洞窟に潜っているのか。
それは現在の魔法使いが過去の魔法使いと大いに違いがあるからだ。
一番大きな違いは魔力を宿していないということ。
現在の魔法使い、というより人間には魔力がない。
昔のように、杖を持っても魔力がないので魔法が使えないのだ。
「魔法のストックも減ってきているし、一度引き返そうかな……」
代わりに今の魔法使いは、いくつも携えている水晶を使って魔法を操っている。
魔法が使える水晶、通称「魔水晶」という。
これは過去の魔法の記録、過去の魔法を封じ込められている水晶だ。
どういう原理なのかはいまだ研究中であるが、水晶ごとに様々な魔法が込められており、水晶を割ることで魔法を解き放つ。
昔の魔法使いが放った魔法を吸収したか、残滓を周囲の魔力ごと取り込むことで再現しているなどの説が有効である。
だから、魔法の記録と呼ばれている。
「いや、もう少し進もう」
そして、その水晶は普通の鉱石ように洞窟等の地層で見つかる。
おそらく、鉱石と同じようにして生まれるのだろう。
現在の魔法使いは水晶を探し、行使することで魔法使いと名乗っている。
この少女も例外ではなく、今まさに水晶を探すために洞窟に足を運んでいるのだ。
◇◆◇
「やっぱり引き返せばよかったかな、なんてもう遅いけど」
先ほどの選択に悔やむ少女は敵意をむき出したモンスターに囲まれていた。
おそらくこの洞窟を縄張りにしているのだろう。
その縄張りをつるはしで至るところを叩かれていればこうなってしまっても仕方がない。
これがつるはししか持っていない、ただの鉱夫だったのであればここで人生が終わりになっていたはずだ。
「ま、これぐらいなら問題ないか」
しかし、この少女は魔法使いである。
この程度のことは脅威でもない。
つるはしを地面に置き、携帯していた水晶の一つを叩き割った。
「氷槍」
水晶の中の魔法、それが解き放たれても自身で発動させたわけではない魔法を操作できるのか。
答えは、できる。
現在の魔法使いは魔力を宿していないだけで、魔力を操る術がないわけではない。
魔法とは魔力の塊、魔力操作を心得ていれば可能だ。
少女は氷で作られた槍をモンスターに狙いを定め一直線に発射する。
囲んでいたすべてのモンスターに当たったわけではないが、一体倒せば力を見せつけるには十分。
少女の力を見たモンスターはおびえて逃げて行った。
「はぁ、またストックが減っちゃった……」
水晶を壊すことが魔法を使う条件。
ということは、魔法は基本使い捨てである。
昔とは違い、水晶という形のあるものを携帯しないといけない。
しかし、携帯できる数には限りがある。
使い捨てなのに消費が激しい、魔法使いとはなんとも不便なものだ。
一度の採掘の成果と消費した魔法は採算が取れることは限らない。
むしろマイナスなことの方が多々ある。
「魔法が取れるかわからないのに、また囲まれでもしたら損でしかないし……帰ろう」
では、成果のない魔法使いは日に日に手持ちが少なくなるだけなのか。
といわれるとそうではない。
「またお店で補充しないと。お金が欲しいなぁ」
魔法使い以外には使い道のない水晶。
しかし、鉱石採掘の仕事をしていれば、水晶は見つかる。
この水晶が不要な鉱夫はそれを魔法使いに売るのだ。
手持ちの魔法が減ったら、買えば手に入る。
しかし、消耗の激しいものをそう何度も、いくつも買うというのは現実的ではない。
だから魔法使いは、自らの足で採掘をしているのだ。
過去の魔法使いも研究のための出費が激しかったとされているが、現在は魔法そのものを得るための出費が激しい。
魔法使いに金の亡者が多いのはそういう理由だろう
「一つも見つからないのはあんまりだよ……」
少女は、肩を落としため息をつきながら街の店へ目的地を変えて歩き出した。
魔法使いは今日も素寒貧である。
冷零です。
走り書きの短編です




