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エトワール  作者: 都望偲
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二人だけの夜

それから暫くして、エイジがダイニングルームへやって来た。

今度は、髪を整えスーツに着替えていた。その姿は、まるで有名デザイナーのファッションショーに出演し、ランウェイを歩くモデルのようであった。

尚美は、思わず無言で見惚れてしまった。

「さっきは、すみません。」エイジがちょっと首をかしげて会釈した。

「いえ…。気を使われる必要は、ありません。ここはオーベルジュです。野呂様はお客様なのですから、どうぞお気軽に自由にお寛ぎください。」どぎまぎしながら、尚美が応えた。

「ありがとう。」エイジはニコッと笑った。尚美は、その笑顔を見て、これだけでも今日という日が意味あるものになったと感じた。


ディナーは、エイジに気に入ってもらえた様だった。

デザートも、二種類ともペロッと平らげたエイジは、「本当に美味しかったです。ごちそうさま。」と言った。

「ご満足いただけましたでしょうか。」尚美は微笑んで言った。

「いやあ、こんなに美味しい食事は、初めてです。僕、あんまり堅苦しい食事は苦手で、普段フレンチのコースとかって、食べる事がないんですけど。でも、今日は気を使わずに、ゆっくり味わう事ができました。」エイジは、美味しい食事に満足して、少し饒舌になっていた。

「まあ、それは良かったですわ。」

「前にも、こちらから招待状をいただいたことがあるんです。多分あちこちに送っておられるだろうから、僕の事は覚えておられないかもしれませんが。」

いいえ、覚えていないなんてこと、絶対にありえないわ…。尚美は心の中で呟いた。

「それでね、マネ…。あっ!いや、兄に相談して、友人二人と兄と僕との四人で来ようって事になったんです。で、兄に予約の電話をしてもらったら、すでに予約はいっぱいで、その時は駄目でした…。」

「まあ、それは申し訳ございませんでした。」

「あ、いや、それは全然。こんなに素敵なお店なんですから、すぐ予約しなかった僕達のせいです。こちらこそ気を遣わせてごめんなさい。」

「まあ、恐縮です。」

「そしたら、先日また招待状が届いたんです。僕、今度こそぜひ来たいと思ったんです。あいにく四人とも忙しくて日が合わせられなくて、一人で来る事になったけど…。」

「お一人様でも、大歓迎ですよ。」

「嬉しいなあ…。」

エイジは、椅子の上で伸びをして、天井を見上げた。

「長時間の運転で、お疲れになりましたか?今夜は、多分綺麗な流星群が見られると思うんですが…。」

「ああ、もちろん、それが楽しみで来たってのもありますから。一晩位寝なくったって、全然平気です!」

「あらまあ、お元気でいらっしゃるんですね。」

「へへっ…。」エイジが笑った。

尚美は、心底幸福に感じた。


尚美は二階のテラスにお茶と焼き菓子と、ちょっとしたサンドイッチのようなものを用意した。

テラスにはテーブルと椅子、そして天体望遠鏡も設置されていた。

軽いダウンジャケットを羽織ったエイジがやって来た。

「多分、これから深夜にかけてピークになり、明け方まで見られると思いますが、まあ、いい加減なところで切り上げてお休みくださいね。」

「ありがとう、吉原さん。…お茶まで用意してくれたんだ。すごいや!」

「どうぞ、ごゆっくり。」尚美は会釈して、立ち去ろうとした。

「えっ?行っちゃうんですか?」エイジが聞いた。

尚美は、嬉しい予感で緊張した。

「ええ。お邪魔しちゃ悪いですから。」

「とんでもない!一人じゃつまらないですよ。もし、迷惑じゃなければ、一緒に星を見ませんか。」

「まあ…。実は私も星を見るのが大好きなんです。じゃあ、お言葉に甘えて、ご一緒させていただこうかしら。」

「やったあ!今夜は楽しい夜になりそうだ。」エイジが嬉しそうに言った。

尚美は、感極まり、密かに涙ぐんだ。


二人はその夜、二階のテラスで一緒に星を眺めて過ごした。

尚美は、この日の為に天文について学んでいたので、エイジにいろいろと説明した。

エイジは、素直に感心し、聞き入った。

明け方、二人ともそろそろ頭がぼんやりしてきた頃、エイジが言った。

「吉原さん、本当にありがとう。あなた、本当は僕が何者か知っていますよね。でも、何も言わず、そっとしておいてくれた。そして、最高の癒しをくれた。おかげで、心が救われました。今日からまた、前向きに頑張ろうって気になりましたよ。」

「そうですか…。よかった…。」

尚美は、ぼんやりと言った。

…不意に、エイジが尚美の頬にキスをした。

尚美は、一気に目が覚めた。びっくりして真顔でエイジを眺めた。

「あっ!ごめんなさい。」エイジが慌てて謝った。

「いっ、いえ、いいんです。ただ、ちょっとびっくりして…。」尚美は、自分の反応が、ムードをぶち壊したと思い、後悔した。

「僕、あんまり嬉しくて、つい…。本当にごめんなさい。怒らないでくださいね。」

「いえ、全然、大丈夫です。」尚美は笑顔を作った。

もう、本当に私、なんて馬鹿な反応をしたのかしら…。尚美は心の中で自分を責めた。


それから二人は、それぞれの部屋に戻って、遅い睡眠をとった。

エイジが起き出してきたのは、午前十一時をまわった頃だった。

「おはようございます。あれからゆっくり眠れましたか?朝食はどうなさいます。ブランチか、昼食にされますか。」尚美が挨拶した。

「おはようございます。吉原さんこそ、ゆっくり寝ました?昨夜は、僕に付き合ってくれて、ありがとうございました。」エイジが返事した。

「いいえ、私の方こそ、楽しい夜でしたわ。ありがとうございました。」

エイジはブランチをとって、帰り支度をした。


「お世話になりました。楽しかったです。」車のドアを開けて、乗り込む前にエイジが挨拶した。

「またのお越しをお待ちしてます。本当に、よく来て下さいました。ありがとうございました。」

涙が出そうなのを必死で隠しながら、尚美が言った。

「…吉原さん。僕、本当に、また来たいです。絶対一人で、また来ます。」

尚美は嬉しさで心がはちきれそうになった。

「ええ。いつでもどうぞ。待っていますわ。」

尚美は、エイジの車が山道を下り、見えなくなるまで見送った。

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