不思議な事件
それから一年と二カ月近くが経った。
昼食時、いつものように「キャベンディッシュ」の住人達はテレビの情報番組をつけていた。
「滝川エイジ、まだ見つからないのかな。」神原が言った。
「まだ見つかったってニュース、聞かないよね。」
「東雲あさりと坂出みずきも、相次いで行方不明なんでしょう?絶対、何かあるわよね。」
「駈落ちとか?」
「三人だから、それは無いだろう。」
「じゃあ、三角関係のもつれで、密かに誰か死んでるとか…。」
「おいおい、ミステリー小説じゃないんだから…。」
四人は、無責任な会話をかわしながら、多嘉恵さん特製の「広島風お好み焼き」を食べていた。
すると、びっくりするようなニュースが、いきなり飛び込んできた。
「ひと月前からずっと行方不明になっていた、俳優の滝川エイジさんが、女性によって監禁されていた事が判明した模様です。」
「え~っ!」多嘉恵さんと圭助が、同時に叫んだ。
「○○県警によりますと、容疑者のこの女性は吉原尚美という、『オーベルジュ・シェル・エトワール』のオーナーで、三十六歳、独身という事です。」
「え~っ!」今度は神原と芳田も加わって、四人で叫んだ。
テレビカメラは、まさに彼等が一年と二ケ月程前に行ったあのお洒落なレストランの入り口を映していた。入り口の門は閉じられており、「準備中」の札が下がったままだった。
一面に雪が積もり、門の柵の向うに見える庭も、今は真白だった。
パトカーが三台、建物の前の道路に停まっており、警察官が数人、門の前に立っていた。
他には、テレビのレポーターやカメラマン、雑誌記者などが大勢いた。
警官の一人が、門に設置されているインターホンで中にいる人物と話していた。
突如、門が開いた。
一人の警官が落ち付いた態度で門を入っていき、玄関の扉を開けて中に入った。
しばらくして、警官は、一人の背の高い男性を抱えるようにしながら出て来た。
「滝川エイジさんが、たった今保護され、警官に支えられながら出てきました!」レポーターが興奮気味に伝えていた。
「ねえ、神原さん。この事件、調べてみない?」多嘉恵さんが神原の顔を覗き込んだ。
「そうだよ。調べてよ、神原さん。」圭助もテレビ画面から目を移して、神原の顔を見た。
「私も興味があるよ。なんたって四人で出かけた、まさにあの場所で起こった事件なんだからね。」芳田もジッと見てきた。
「まあ、確かに興味はあるがね…。しかし、一円にもならない調査をやってる余裕は俺にはないからねえ。」
「ケチくさい事いうなよ、神原。」
「そうよ。あんなに素敵な思い出の場所が、こんな事になってしまって…、本当に残念でしょうがないんだから。私も協力するわ。だから、調べましょう。」
「僕だって、協力するよ。」
三人が口々に言った。
「やれやれ。まったく、君たちは俺の仕事を何だと思ってるんだよ。」神原がため息をついた。




