多嘉恵さんの誕生日
ある週末、四人組の客がやって来た。
「ここよ。やっぱり素敵ね。『美しい自然の中に建つ、ヨーロッパの古城のようなオーベルジュ』って情報誌に掲載されてたけど、本当ね。」多嘉恵さんの声だった。
「しかし、やっぱり遠かったね。」
「あ~、腹減った!」
「圭助、場所をわきまえろよ。」
この会話でおわかりのとおり、四人組の客とはシェアハウス「キャベンディッシュ」の面々だった。今回は、多嘉恵さんの誕生日を祝うために皆で出かけて来たのだ。男三人で金を出し合うから、どこでも好きなとこを選んでいいよ、と言ったところ、「嬉しいわ!実は、前から行きたいとこがあったのよ。」と多嘉恵さんは、とある情報誌を出してきた。そして早速、ここが予約されたのであった。
オーナー兼シェフという綺麗な女性に案内されて、四人は館の門をくぐった。
門を入ると、館の玄関まで続く広い庭があって、平たい石を敷き詰めた道が車寄せのように丸くアーチを描き、アーチの真中が玄関前に接近していた。そして、その丸い道路に囲まれた芝生の真中には草花に囲まれた池があり、その中心には水瓶座をモチーフにした像が設置されていた。
「馬車で来たほうが、よかったね。」圭助が冗談を言った。
玄関を入ると、天井が二階まで吹き抜けになった広くて丸いロビーになっており、右手に壁に沿って広い階段が流線形に二階へとのびていた。階段にはぬくもりのある色合いの花柄のカーペットが敷かれていた。壁には、様々な空と水を中心に描いた美しいヨーロッパの風景画が、美術館のように並べて飾られていた。
そして、そこここの壁に取り付けられた、アンティークのランプのような照明が、薄橙色の柔らかい光を室内に投げかけていた。
「ロマンチックねえ…。」多嘉恵さんがうっとりとして言った。
その館の内装は、ヨーロッパ調のアンティーク家具に囲まれたお洒落で落ち付いた雰囲気で、どこを切り取っても、まるで歴史あるイギリスの貴族の館のようだった。
大きなシャンデリアが天井から釣り下がった広い食堂の中央に、ゆったりと置かれた一台の丸テーブルは、マホガニーでできており、縁にぐるっと彫刻がなされていた。テーブルの下は真中で一本の太い柱に支えられていて、柱の途中から三つ又に広がる三本の足は、猫足になっていた。テーブルの彫刻された縁から内に向かって三センチ程のところから、円形にガラスがはめ込まれ、ガラスの下からテーブルの木目がきれいに浮き出ていた。
テーブルの周りには、四脚のアンティークな肘掛け椅子が置かれていた。これらの椅子もマホガニー製で、猫足だった。座面と背もたれの布部分は、緑茶のようなグリーンに光った糸で縦縞に編まれていて、その縞模様が濃淡のコントラストになっていた。
そして、丸テーブルの真ん中には黄色や橙色、薄オレンジ色の薔薇が、それぞれ濃淡のコントラストも美しく飾られていた。
そんな素敵なダイニングテーブルと椅子のセットに案内され、四人は若干緊張して座った。
「お洒落過ぎて、緊張するよ。」神原が、襟を正した。
「もっといいスーツで来ればよかったよ。」芳田も背筋を伸ばした。
運ばれて来た料理も本格的で、料理には無頓着な男達にもわかるくらい、素晴らしいものだった。店のオーナーの薦めにより、料理にあわせて二種類のワインが選ばれたが、どちらも料理によく合って美味しかった。
そして最後に、シェフの手作りバースデーケーキが持って来られた。これには多嘉恵さんも大感激だった。
男三人は、非常に照れながら、下手くそな「ハッピーバースデイ・トゥ・ユー」を歌った…。
食後、二階のテラスに出て、コーヒー、紅茶などをそれぞれ飲みながら、夜空を眺めた。
「美しい星空…。」多嘉恵さんが、ウットリと言った。
今夜ばかりは圭助も、多嘉恵さんを茶化さなかった。
最終電車に間に合う時間ギリギリに、四人は「オーベルジュ・シェル・エトワール」を出てタクシーに乗り、電車に乗り継いで「楽しい我が家」へと帰っていった…。




