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エトワール  作者: 都望偲
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ある俳優のスキャンダル

新作といっても、8年前に書いた作品で、今回修正を加えてアップすることになりました。まあ、よろしくお願いします。

リビングのテレビでは、昼間の情報バラエティ番組がやっていた。

昼食を取りながら、番組内のニュースについて、あれこれ言い合うのは、シェアハウス「キャベンディッシュ」の住人達の日常であった。

「そう言えば、最近、滝川エイジって聞かないよね。」何気なく芳田が言った。

「そうね。去年はご近所でも奥様達の間で、『庄吉』、『庄吉』って、結構煩かったのにね。」多嘉恵さんが、すぐ喰いついた。

「なんで『庄吉』って呼ぶんだい?」神原が聞いた。

「神原さん、相変わらず芸能界に疎いわね。『庄吉』ってのは滝川エイジの本名なのよ。」

「ほう~。」さして興味も無さそうに神原がコーヒーを一口飲んだ。


滝川エイジの本名は、「野呂庄吉」といった。エイジ本人は、このレトロすぎる本名がある意味コンプレックスであった。小学生の頃、「おっさん」というあだ名を付けられ、からかわれたトラウマがあったからだ。しかし芸能界に入り、本名が明かされると、「カッコいい」「渋い」と女性達の間で話題となり、最近では「滝川エイジ」よりも「野呂庄吉」という名前の方がファンの間では通っている程だった。ファン達は、エイジを「庄吉」とか「庄ちゃん」と呼んだ。


そんな滝川エイジだが、今年に入ってめっきりCM出演も減り、ドラマやバラエティでも姿を見る事が少なくなった。

一昨年前には、あれほどの人気を博していたというのに…。

それというのも、昨年に二つのスキャンダルが相次いで発覚したせいだった。


一つは、十九歳の若手女優との火遊びによる妊娠中絶騒動で、もう一つは、四十二歳の女芸人との熱愛騒動であった。

若手女優である坂出みずきは、同じ事務所の後輩だった。

まだ滝川エイジの人気も出始めだった二年半ほど前、二人は兄妹のように仲が良かったのだが、それがいつの間にか、恋愛に発展した。

その結果、このような事態になってしまったのである。

…うかつだった…エイジは反省した。

もっとも、二人の関係をマスコミにリークしたのは、ほかならぬ坂出みずき本人であった。

みずきは、滝川エイジだけがどんどん人気者になり、手の届かないスターになっていくのが不安だった。二人の関係をマスコミにリークしたのも、ただ、滝川エイジに疑似恋愛する世の女性達に、「彼は、私のものよ」とアピールしたかっただけだった。だが、実際には妊娠中絶騒動までが発覚し、「自爆」したのである。

滝川エイジも多少のダメージは免れなかったが、坂出みずきほどには大きなダメージを受けなかった。何としてもエイジを売り出したかった事務所側が、持てる力を最大限に発揮して揉み消しを図ったのだ。みずき自身は、それまで若手の清純派女優で売ってきたのであったが、すっかりイメージが変わってしまい、アバズレと言われるようになってしまった。最早事務所としては、彼女をどのように売っていけばいいのかわからなくなり、みずきはすっかり事務所のお荷物的存在となってしまったのだった。


もう一つのスキャンダルの相手である年上の芸人、東雲あさりは、某バラエティ番組のレギュラーで、エイジがその番組にゲスト出演した時に知り合った。あさりは、若手俳優喰いとして業界内では有名だった。普通は俳優側が事務所から釘を刺され、用心するものだったが、エイジの、良く言えば博愛主義、悪く言えば八方美人な性格が、あさりを上手く遠ざける事を邪魔したのだった。

マネージャーの勝田が、何度も釘を刺していた。「エイジは、愛想が良すぎるのがネックなんだよ。もっとクールにならなきゃ。」

だが、いくら言っても、その性格を変える事は難しかった。

もともとエイジ自身は、あさりに対して特に関心はなかった。あさりは、芸人の中では美人なほうだったが、エイジの相手となるには不相応だった。だが芸能生活が長い分、芸能界ではベテランとして周囲におだてられ、ちやほやされて、いつの間にか大スター気取りになっていたのだった。

エイジは、「芸能界で生き残るためには、いろんな人との繋がりを大切にしなくては…。」との思いから、誘われるままに、あさりを含む番組スタッフとの食事会などに参加した。ただそれだけのつもりだったが、たった一度、酔った勢いで二人はホテルで一夜を共にしてしまったのであった。

それ以降の東雲あさりのブログ、ツイッター、インスタなどでは、一応名前を伏せた形でのエイジ関連の記事や写真が多発した。「うちのS吉」とか、「私のSちゃん」とか、アルファベットのSを使った表示ではあったが、あからさまにエイジの存在を世間に知らせた。そして、食事会などの写真も頻繁にアップした。そこには大勢が映っていたが、必ずエイジにもたれかかってVサインをしている、あさりの満足そうな顔が映っていた。

エイジのファンのほとんども最初のうちは、「エイジが東雲あさりなんかと付き合ってるわけない」と思っていたが、あまりにも度重なるあさりの「熱愛アピール」に嫌悪感を抱くとともに、エイジに対しても次第に不満が湧き出してきたのであった。


そんな訳で、立て続けの二つのスキャンダルの発覚以降、滝川エイジの人気は陰りを見せはじめ、事務所内でも今後を不安視する声が出始めていた。


そんな滝川エイジの状況を、本人以上に気にしている女性がいた。

吉原尚美という、その女性は三十六歳になる独身の見習いシェフであった。尚美は若い頃からミーハーで面食いで、シンデレラのような恋と、それに続く美しいハリウッド映画のような結末を夢見ていて、その理想が高すぎて未だ独身のままなのであった。

尚美にとって、滝川エイジは理想の男性だった。二四歳のエイジは自分よりひと回り年下だが、東雲あさりと付き合ったくらいだから、私でもストライクゾーンに入るはずだ、と尚美は考えた。私は背が高いから、相手の男性は絶対に自分より身長の高い人でなくちゃ嫌だ。その点、エイジは一八二センチの長身である。

エイジは、インタビューの受け答えにそつがなく、意外と賢い。だが、決してインテリぶった所が無く、嫌味が無い。そんなところも、まさに自分好みだった。


尚美はなんとか、人気に陰りの見え始めたエイジの力になりたい、と思った。何かの縁でエイジと知り合い、エイジを助け、支えたい。…そして、そんな日々の中で、二人は次第に愛を育んでいく…という妄想に、日々明け暮れた。あれこれ思い描いて、脳内で多くの妄想が膨らんでは消えた。

ちょっとストーカーチックな作品ですが、優しい目で見守っていただけると嬉しいです。

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